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「緊急事態宣言延長」は国民のせいなのか。安倍晋三は1カ月何をやってきたのか

プレジデントオンライン / 2020年5月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fiers

■安倍晋三が何もやってこなかったこの1カ月間

経済活動再開に向けて、日本政府がほとんど何もしてこなかった1カ月間。それが4月7日~5月6日までの安倍政権の緊急事態宣言期間だったと言って良いだろう。

5月4日に行われた安倍首相による緊急事態宣言延長の記者会見の内容は驚くべきものだった。一体何に驚かされたかというと、緊急事態宣言の解除後に国民が日常に復帰していくための諸施策が5月中に作られるというものだったからだ。

たとえば、安倍晋三首相は5月4日から2週間を目途として各種業態ごとに専門家と協力して事業活動を再開するための詳細な感染予防ガイドラインを策定する旨を発表した。

そもそもこのようなガイドラインは、緊急事態宣言を発出した段階ですでに策定開始していて当然のものだろう。仮に5月6日で緊急事態宣言を解除したとしても、事業者は新型コロナウイルス蔓延事例が自己の責任が及ぶ範囲内で発生した場合の風評被害・訴訟リスクを懸念し、その事業活動を安心して再開することは困難だろう。まして、これだけ政府が自粛を煽った後であるから一層リスクが高まっていることも間違いない。そのため、政府が一定の責任を引き受ける形になるガイドラインの存在は極めて有用である。

■自粛圧力に耐えている民間事業者を馬鹿にするのもいい加減にしろ

したがって、緊急事態宣言延長後にガイドラインを作ることは論外なことは明らかだ。緊急事態宣言期間中に策定が完了することは最低限のことであり、可能であれば先月の同宣言公表以前の段階で作られていることが望ましいのは当然だ。むしろ、事業活動再開のためのガイドラインが緊急事態宣言解除判断日に揃っていないということは、政府は最初から1カ月で緊急事態宣言を解除するつもりが無かったと言っているに等しい。苦しい思いで自粛圧力に耐えている民間事業者を馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。

安倍首相は「わが国の雇用の7割を支える中小・小規模事業者の皆さんが、現在、休業などによって売上げがゼロになるような、これまでになく厳しい経営環境に置かれている。その苦しみは痛いほど分かっています」と述べている。その中で5月1日からの持続化給付金、すでに対応が行われている中小企業への融資や雇用調整助成金の措置について触れている。

■安倍晋三の国民生活への無理解が明らかになった

だが、すでに実施されている施策についても制度の複雑さや対応速度等の使い勝手の悪さによって中小企業の怨嗟の声が渦巻く状態となっている。雇用調整助成金を受給するための基準には、行政用語に慣れていない中小企業側にとってはチンプンカンプンな文言が並んでおり、結局は社労士に頼まない限りは申請すらままならない。

諸々の対応策の実施が遅れた理由として補正予算の成立が遅れたこともある。その理由は安倍政権が作成した限られた人しか受け取ることができない30万円給付金にあった。その理不尽さが国民の怒りを買って連立与党の公明党が動いたことで、補正予算閣議決定後に一律10万円給付金に予算の組み直しを行う羽目になったのだ。つまり、国民の現場の声に耳を貸さず、安易に表面上の額面だけを増やした給付金が却下されたのだ。公明党の対応は生活者の声に敏感だったと思うが、逆に安倍政権の国民生活への無理解が明らかになった出来事だった。

■人間社会の現場を全く理解していない専門家集団が経済を壊す

その無理解の極みが専門家会議による「新しい生活様式」の発表だ。この「新しい生活様式」の内容に従った場合、多くの中小企業(飲食店等)は廃業に追い込まれるだろう。提言内容には、食事は「対面ではなく横並びで座ろう」「大皿は避けて料理は個々に」「屋外空間で気持ち良く」と御託が並べられているが、これではほとんどの飲食店にとって回転率が悪すぎて商売が成り立たないことは自明だ。娯楽・スポーツについても「筋トレやヨガは自宅で動画を活用」「予約制を利用してゆったりと」「歌や応援は十分な距離かオンライン」とされているが、多くのレクリエーションはそれでは当然に成り立たない。人間社会の現場を全く理解していない専門家集団による提言とは、斯様に専門家への信頼自体を揺るがすものになるのかと実感する良い見本だ。

安倍政権は、民間事業を潰す提言内容を「新しい生活様式」として持ち上げている暇があるなら、この1カ月の間に上述の経済再開のためのガイドラインや緊急事態宣言停止のための基準を作成しておくべきだった。

■米国の猿真似を何でもするが、肝心なことだけは真似しない日本

実際、専門家会議の副座長である尾身氏からも「我々のような公衆衛生、感染症のプロと経済のプロの両方が政府に提言し、政府は両方を見た上で最終的な判断をしてほしい」と要請されたほどに、経済面に関しての意識が低かったように思われる。政府の回答は「分かった。何とかしよう」というものだったらしいが、感染症の専門家に経済政策の心配をされるとは政府は恥を知るべきだろう。

海の向こうでは、米ドナルド・トランプ大統領は経済人会議を創設して経済活動再開のためのガイドライン作成に以前から着手しており、すでにそのためのガイドラインは公表されている。米国の場合、ロックダウン解除権限を持つ民主党系州知事が頑なに解除に反対しており、トランプ大統領は経済活動再開に向けて国民の世論を形成するために連日のようにメッセージを発している状況だ。米国の猿真似を何でもしているわが国政府は、このような肝心なことだけはあせて真似しないとはどうしたことか。効果の有無すら不確かな緊急事態宣言の紛い物を発し、経済活動再開に向けてはボケっとしているようでは、現政権は得意の物真似芸すらまともに務まらないと言えるだろう。

■世襲政治家や試験秀才の官僚の国民生活への無関心さが露呈した

国民がひたすら理不尽に耐えてきたこの1カ月間、政府がやったことは、同調圧力による私刑を背景とした自粛を国民に強制し、多大な経済被害を与えながら、経済・雇用の命運がかかった経済活動再開についてほぼ何も準備せず、むしろ自粛で困窮する人々への補償を出し渋っていただけだ。

安倍政権の担当者たちは会議室の中で毎日のように新規感染者数の発表を確認することにさぞ忙しかったことだろう。政権の有様から察するに、市井で失業者、倒産者、融資申請件数がどれだけ増えたかは彼らの目には何も入っていないのだろう。国民生活が何によって支えられているかを理解しておらず、世襲政治家や試験秀才の官僚が人々の生活について無関心な有様が露呈している。

ちなみに、筆者の手元に、官邸肝いりのアベノマスクが届いたのは5月頭。うちの町内会はとっくの昔にマスクを早く配布してくれたし、虫入り・カビだらけの可能性があるマスクを貰うよりも、地域コミュニティからの贈り物のほうがよほど役に立つ上に安心だ。

■真面目に働いたと思われる国内事例を一つ紹介する

最後にこの一カ月の間に経済活動再開に対し、その賛否はあるものの、真面目に働いていたと思われる国内事例を一つ紹介しよう。

大阪府は緊急事態宣言延長の翌日5日に、休業及び外出自粛要請の段階的な解除基準を定めている。その基準は重症病床率、検査対象者の陽性者率、感染経路不明新規感染者数などであり、クラスターが発生していない業種などを解除対象とすると言う。その上で、国の対応について「具体的な基準を示さず、延長することは無責任」と断じている。大阪の吉村洋文知事の政治姿勢は、政府が緊急事態宣言解除の基準すら示さず、自らの判断を専門家会議の判断に丸投げしている姿とは大違いだ。ちなみに、西村康稔経済再生担当大臣が吉村知事の発言にメディア上で噛みつき、吉村知事が大人の対応として陳謝することになったが、誰が仕事をして誰が仕事をしてないかは、衆目の目には明らかだっただろう。

政治家が責任を持って基準を公表することは、その政治生命に対するリスクを自ら背負う行為だ。しかし、それはあくまでも政治生命でしかなく、国民の生命・財産と比べられるようなものではない。内閣総理大臣の政治生命は、失業・倒産がもたらす経済苦で命を落とす国民の命に比べれば何の価値もないものだ。

■一体誰のための政治か、国民はわが国の民主主義を問い直すべき

しかし、残念なことに今の永田町の空気からは、このような筆者の言葉に冷笑を浴びせかけるような雰囲気すら感じる。政治責任をできるだけ回避しようと奔走する政権の有様を見ると、この国の政治家は国民との関係において根本的な部分を履き違えてしまっているように見える。一体誰のための政治か、国民はもう一度我が国の民主主義の在り方を問い直すべきだろう。

今回の自粛延長は政府が目標に掲げた「接触8割削減」などを国民が守り切れなかったからではない。安倍首相が国のリーダーとしてあまりに無能すぎるからだ。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。米国共和党保守派やトランプ政権と深い関係を有する。

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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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