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なぜ安倍政権は経済活動をもとに戻す「ロードマップ」を示さないのか

プレジデントオンライン / 2020年5月7日 18時15分

新型コロナウイルス感染症に関する政府専門家会議=2020年5月4日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■いつになったらもとの日常に戻ることができるのか

政府は5月4日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ、緊急事態宣言を延長することを正式に決定した。決定後の記者会見で、安倍晋三首相は「コロナの時代の新たな日常を一日も早く作り上げなければならない。緊急事態のその先にある出口に向かって一歩一歩前進していきたい」と述べ、「新しい生活様式」を提言した。自粛疲れや経済へのダメージを緩和しながら、感染拡大を抑え込みたいようだ。

しかし、安倍首相は感染者数がどの程度減れば宣言が解除できるかなど、具体的な目安を明らかにしていない。国民に宣言解除に向けたしっかりしたロードマップを示してほしい。このままでは不安にさいなまれるだけだ。果たして私たちはいつになったらもとの日常に戻ることができるのか。

感染症対策の基本原則は、人の移動の制限と患者・感染者の隔離である。

この原則に基づいて緊急事態宣言が4月7日に発令されて以来、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、不要不急の外出の自粛が強く求められ、3密(密閉・密接・密集)が生じるイベントやスポーツ大会などの中止や延期が次々と決まった。学校や一部の店舗も閉鎖された。

一方、世界では日本が緊急事態宣言を発令する以前から外出を厳しく禁止し、市民に長い自宅待機を課した。中国では1月23日、世界で最初に感染が始まった湖北省の武漢(ウーハン)市をロックダウン(封鎖)した。イギリスでは国民に対して「家にいなくてはならない」と要求した。感染者が急激に増加して死者の数が増えたイタリアでは期間を決めて外出を禁止した。フランスでも外出が厳しく制限された。アメリカでは多くの州が在宅勤務の義務化に踏み切った。

ところが、ここに来て世界に緩和の動きが出ている。中国や欧米はこれ以上、人の移動を制限すると、社会や経済が持たないと判断したのである。

■いま注目の報告書「再開へのロードマップ」とは

たとえばドイツ。5月4日には公園の閉鎖が解かれ、博物館も開いた。この緩和に先立ち、4月20日には飲食店や雑貨店などが営業を再開していた。ただし、買い物の際や交通機関での移動時には、マスクの着用が義務化された。

ドイツでは3月中旬に出された外出制限に対し、国民の不満が高まり、抗議デモが続いていた。首都ベルリンでは5月1日、外出制限に対する抗議のデモに1000人以上が参加したほか、ベルリン以外の都市でも抗議デモが起きた。

中国・武漢市のロックダウンも4月8日に2カ月半ぶりに解除され、大勢の市民が商店街や公園に集まる様子が日本のニュース番組でも取り上げられている。

欧米では規制解除に向けた具体的提言が出されている。いま注目されているのが、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)が発表した報告書「再開へのロードマップ」である。取りまとめたのは米食品医薬品局(FDA)元長官のスコット・ゴットリーブ氏だ。

■規制解除に向けた道のりを「4つの時期」に整理

ここでは規制解除に向けた道のりを、以下の4つの時期に分けている。

①感染の拡大を遅らせる時期
②地域ごとに経済を再開させる時期
③多くの人が自然に抵抗力を持ったり、ワクチンによって免疫を獲得したりして集団免疫が成立して規制を撤廃できる時期
④次の未知のウイルスによるパンデミック(世界的流行)に備える時期

日本は①の時期にあり、アメリカと一部のヨーロッパの国々、そして中国はすでに②の段階に入っている。

ここで遅れているからと、日本は焦ることはない。ワクチンはともかく、幸いなことに既存の抗ウイルス薬のうち新型コロナウイルスに有効でかつ安全性が確認された複数の治療薬が、近く臨床の現場で使えるようになる。治療薬を重症の患者に投与して救命活動を続け、防疫を着実に進めたい。

政府の専門家会議は、外出や営業の自粛など徹底した行動制限の継続を求める一方で、学校を再開する考え方も示している。全国の新規の感染者数が減少傾向にあることを評価しているからだ。

■実効再生産数が「1」を下回り、感染は収束に向かっている

専門家会議で示されたデータによると、1人の感染者が他人を感染させる平均人数を示す実効再生産数は、全国では3月25日に2.04、4月10日には0.71に下がった。東京都でも3月14日に2.64人、4月10日には0.53人と落ちた。実効再生産数が1以下の状況が続けば、感染は収束に向かう。その意味でこれまでの日本の対策はうまくいっていると判断できる。

しかし対策を緩和すると、どうしても感染拡大が再燃する危険はある。ここで求められるのが前述のロードマップである。まずは感染者数がどの程度減れば宣言が解除できるかの目安となる数値がほしい。具体的な数値が国民の前に示されれば、国民はその数値を目標にできる。

さらに解除時点では治療薬が必要不可欠である。有効性と安全性が確認された治療薬が使えることで、国民の不安が減り、結果的に防疫に役立つ。

■なぜ安倍政権は「ロードマップ」を示さないのか

5月5日付の朝日新聞の社説は「緊急事態延長 長丁場想定し戦略描け」との見出しを掲げ、冒頭部分でこう訴える。

「『遅すぎ、少なすぎる』との批判が絶えないこれまでの施策を練り直し、人々の命とくらしを守り通す責務が、政府にはある。あわせて、社会経済活動をどうやって元の状態に戻してゆくか、有効な戦略を立て、具体的なデータを示して国民に説明し、認識を共有するよう努めなければならない」

政府には私たち国民の生活を守る責任と義務がある。それにもかかわらず、安倍政権は社会経済活動をもとに戻すためのロードマップを具体的に示していない。5月14日を目途に専門家が感染の状況を分析して一部の地域で宣言を解除していくというが、それまでにはしっかりしたロードマップを提示してほしい。

朝日社説は指摘する。

「ウイルスの厄介な性質を改めて感じさせるのが、専門家会議が提唱した『新しい生活様式』だ。新規感染者が限定的になった地域向けのものだというが、多くの人が『今は緊急事態だから』と受け入れている制約や留意事項がそのまま盛り込まれた。政権が掲げる『V字回復』の難しさを物語る内容だ」

沙鴎一歩もこの新しい生活様式には疑問を感じる。感染拡大の防止で実施されているこれまでの対策を暮らしに取り入れることを求めているからだ。

■「新しい生活様式」を一体いつまで続ければいいのか

専門家会議の「新しい生活様式」は、日常生活については以下の6つを挙げる。

①まめに手洗い、手指消毒
②せきエチケットの徹底
③こまめな換気
④身体的距離の確保
⑤「3密」の回避
⑥毎朝の体温測定による健康チェック

①~③までは常識的な事項だから許せるが、④~⑥を暮らしの中で習慣にするには無理があると思う。大勢が集まるパーティーや飲み会などは、できなくなり、すべてオンラインによる間接的なものになってしまう。結婚式や葬式などはどうすればいいのか。オンラインで行えというのか。緊急事態宣言が発令された“戒厳令下”ならまだしも、「平時の日常でも遵守したい」というのはいかがなものだろうか。

また、会食に関してもこんな注文を出している。箸からウイルスが広まる危険があるため、料理は大皿を避けて1人ずつ分ける。飛沫(唾液などのしぶき)が飛ぶ会話は控えめにする。対面でなく、横並びに座る。

人間は社会的動物である。人と人が直接会話したり、触れ合ったりすることで人間社会が成り立ってきた。これでは「もとの暮らしに戻った」とはいえない。一体、これをいつまで続ければいいのか。

さらに朝日社説は書く。

「感染の拡大と縮小、行動制限の強化と緩和が、当分の間繰り返されそうなことが、はっきりしてきている。現在の宣言を解除できる状態にもっていくだけでなく、『その後』も見すえ、長期的視点に立った構想を準備することが欠かせない」

その通りだ。安倍政権は宣言を解除した後を十分に検討しておく必要がある。

■このまま規制を続ければ、日本社会は疲弊する一方だ

読売新聞の社説(5月5日付)は、「緊急事態延長 医療態勢整え長期化に備えよ」との見出しで、今回の延長に対し、「医療現場の逼迫した状況を考えれば、一定期間の延長は妥当と言えよう」と評価している。安倍政権に対するこうした評価からして朝日社説とはそのスタンスが明らかに違うことが分かる。

読売社説はこう解説する。

「政府は、感染防止の具体策を明記した基本的対処方針を改定し、累計の感染者数が多い『特定警戒都道府県』の13都道府県には、従来の行動制限を求めた」
「一方、感染者の少ない地域では、外出自粛を緩和するほか、少人数のイベントの開催を事実上、認める。長期にわたり経済が冷え込むことを懸念したのだろう」

このまま防疫のための規制を続ければ、日本の社会が疲弊することは目に見えている。感染拡大を防止することと、社会経済活動と国民の生活をもとに戻すことをどう両立させていくか。そのために確かなロードマップが必要だ。先を見通した計画を国民の前に具体的に示さなければ、日本の社会は不安という闇で覆われてしまう。

■「追加の財政支出」の財源はどこに求めるのか

さらに読売社説は「大切なのは、医療態勢を着実に強化することだ」と指摘したうえで、こう主張する。

「地域によっては、病床に余裕がなくなりつつある。政府は自治体と協力して、医療機関の役割分担を図るとともに、軽症者向けの施設を確保するべきだ」

診療所と病院がその役割を分担し、症状の軽い患者や症状のない不顕性の感染者に対する隔離施設を十分に確保することは急ぐ必要がある。

読売社説は雇用の問題についても書く。

「休業要請が長引けば、多くの事業者が苦境に陥り、雇用を維持できなくなる可能性がある」
「政府は、従業員を休ませた企業に支給する雇用調整助成金について、上限額を引き上げる方向で検討している。中小企業の資金繰り支援も充実させたい」
「アルバイト先の休業で収入が途絶えた大学生は多い。学費や生活費の補助は急務だ」
「政府は、必要ならば追加の財政支出を検討すべきである」

財政支出は結構な話だが、財源はどこに求めるのか。赤字国債(特例国債)の発行ではどうしようもない。読売社説にはそこまで掘り下げて論じてほしかった。残念である。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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