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伝説のコンサル「国の支援を待っている場合じゃない」

プレジデントオンライン / 2020年5月15日 9時15分

新型コロナウイルス感染拡大で、国民への一律10万円現金給付が柱の緊急経済対策を盛り込んだ2020年度補正予算が成立し記者団の取材に応じる安倍晋三首相=2020年4月30日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

5000社を超える企業を指導し、「社長の教祖」とも呼ばれた伝説のコンサルタント・一倉定氏。一倉氏は1999年に亡くなっているが、もし現在のコロナ禍に遭遇したら企業にどうアドバイスしただろうか。愛弟子の作間真司氏が一倉氏の言葉を紹介する——。

※本稿は、作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「有事の経営で必要なのは瞬時の決断」

新型コロナウイルス騒動の最中、もし一倉定先生がご存命ならば、緊急セミナーを開催し、資金繰りに窮する社長たちを前に、溢れ出るパワーと圧倒する口調で檄(げき)していたはずだ。

壇上でマイクを握りながら、社長たちを勇気づける怒りを顕(あら)わに、断定的な言い方を繰り返していたはずである。白髪で痩身な姿で、怒号を飛ばし、黒板を一倉理論で塗りつぶしていただろう。緊張感のない表情で講義を聞く社長には、時にはチョークが飛んでいたに違いない。

その一倉定先生が、かつてこんなことをおっしゃっていた。

「社長業には、平時の経営と有事の経営の2つがある。有事の経営にとってとても重要なことは、瞬時、瞬時の決断である。中小企業のオーナー社長であれば、長い人であれば50年。その多くは20年、30年もの間、社長を務める。会社のピンチ、好景気と長引く不況を幾度となく体験し、その折々で決断を下してきたのである」

会社が生き抜くためには、社長の決断こそ大切なのである。その一例を紹介する。

■社長にとって一番大事な精神的余裕

コロナ騒動でざわめきだした3月頃のことである。ある社長から、「どうしよう」という電話がかかってきた。私は「社長のところは、現状では実質、無借金ですよね」と言うと、その社長は「そうそう。これくらい、お金、浮いているよ」と話された。

私が「すぐ借りられる?」というと、「某都市銀行と某地銀筆頭行、両方OKが出るよ」とおどけて話された。私は「社長のところの年間総額人件費って、これぐらいだよね」と言うと、「うん」と即答された。ここで大事なことは、社長が一年間の自社の総額人件費を頭に入れていることである。

そこで、私が「どのくらい借りるのですか? 10ですか?」と聞くと、その社長は「バカヤロウ、10も借りてどうする」と笑いながら答える。もう20年近くのつき合いだから互いに言いたい放題である。社長にとっては、この精神的余裕が最も大切なのである。

■250万円の利子は「きわめて安い」

私は「じゃ、5だね」と言った。つまり、5億円。「利子は0.5%までいかないじゃないかな」と社長。5億の0.5%で、250万円。1年間、短期で引っ張ってきて、250万円。250万円の利子が高いか安いかは、その社長次第である。

5億円の融資を受けることで、社長が枕を高くして安眠できるコストとして考えると、250万円の利子は安いし細かいことを言えば250万円は経費になるので40%は税金が面倒を見てくれる。

社長が安心するためのコストと考えれば、きわめて安いのである。

さて、先ほどの人件費5億円だが、ざっくりとした計算は簡単である。1人、年間500万円で、社員数100人で5億円である。この会社では、手元の資金で賄えるだけのものを持っているから、銀行も貸そうと判断するわけである。二つ返事でイエスと出るわけだ。

この会社はグループ全社の財務もしっかりしていて、なおかつ比較的年商の大きな会社だった。それだけではなく、毎年の事業発展計画の発表会にお取引金融機関の幹部を招き、社長はマメに銀行の支店長に定時報告をされていて、銀行からの信用も抜群だった。最終的に金利は0.5よりもう少し下の数字で決着がついたのである。

■国の支援を待っている場合じゃない

安倍総理が記者会見で官僚の書いた原稿を読み上げた「無利子・無担保融資」を待っている場合ではないのである。あの政策が本当に即実行されるかどうかどうかはわからない。政府発表ということでニュースにはなったが、現場の銀行員からすると「聞いてないよ」という話になるからだ。そこで、タイムアップになったら、誰が責任をとるのか。

30万円支給と10万円支給でさえ二転三転し、支給時期も曖昧で5月末~6月の支給になったら、どこが緊急対策だと言いたくなる。

現に4月に入って中小企業支援の融資を受けようと四国の小企業が申し込んだところ、保証協会の利息は国の負担、銀行金利は自治体負担になると隣の市では決まったが、まだウチの市では方針を検討中だから待ってくれと、追い返されてしまった。

その会社も当面困るわけではないし、安心のために依頼したのであるから、私との電話でも悲壮感は全くなく政府と金融機関の悪口を言って終わったのである。その時に、いくら必要かという話になったが、そのメドはコロナ騒動の終息がいつかと関わる。それは私にもわからない。これは神様の領域である。

■最低6カ月分の人件費があれば安心だ

一つ言えることは、最低でも6カ月分の人件費が手元にあると、社長にとっては安心だと思う。もちろん売掛金は入ってくるが、買掛金は払わないといけない。売掛金と買掛金のバランスは、売掛金がちょっと多いのが普通の状態である。緊急時には土地、不動産は資金化に時間がかかるし足元を見られるのであまりあてにならない。

生産が止まったり来客が途絶えても、手元から一番出ていくのは人件費である。次に地代家賃であり銀行返済である。人件費は待ったなしで出ていくため、できたら最低6カ月分は手元にあると社長の時間が確保できる。この余裕があると、何よりも社長が全社員の前で、「大丈夫。手元にお金があるから大丈夫。安心して仕事をしてくれ」と言えることだ。この社長からの一言がとても大切である。

■鬼のコンサルタントを生んだ倒産経験

こうした社長の姿こそ、一倉先生が言うところの本来の社長の姿である。一倉先生はかつて私にくどいくらいに次のような話をした。それは、「会社を守るのは社長一人である。お金の問題はどんなことがあっても人任せにしない。自分の手元に入るまで、自分でやらなくてはいけない」。

これが鉄則だと繰り返し話されていた。

ところが、後継社長に多いのだが、資金繰りを議題に経営幹部会議を開いている中小企業があった。「うちは民主主義的経営なので」と、その後継社長は語った。

「民主主義的経営」という言葉を、非常に毛嫌いしたのが一倉先生である。言葉はスマートだが、「要は社長が経営判断をする勇気なく、ただ避けているだけだ」と一刀両断だった。

一倉先生が社長たちにかくも厳しく当たるのには、理由があった。それは、一倉先生の自分史に関わっていた。1918年4月群馬県前橋市に生まれた一倉先生は、前橋中学校卒業後に、中島飛行機株式会社の生産技術係長、富士機械製造の資材課長を経て、日本能率協会のプロジェクトマネージャーをなど経験して、経営コンサルタントとして独立した。

先生が幹部社員時代に在籍した会社は、いずれも倒産という苦い経験を味わった。そこで、生産部門がどんなにがんばっても、結局は商品の魅力がなければ会社は倒産することを知った。売り上げが短期間で半減し、給料が減り、資金繰りに窮して潰れるのである。

自分が社員として味わった辛(つら)い経験を社員、社長に経験してほしくない。その思いが、一倉先生を鬼にしたのである。

厳しい現状に一番危機感を持っているのは社長なのだが、判断もせず、幹部たちとはぐちゃぐちゃ言うのは時間の無駄だと社長を叱っていた。資金繰りの話は、社長が本気になって、必死になって取り組むべきものなのである。

■資金繰りに悩む社長を待ち受ける「闇」

資金がひっ迫しはじめ、本当に悩み始めた社長の経験を幾度となく聞いたが、皆共通している。とくに後継社長で、資金に本当に悩んだことがない方など、初めての体験だと悩みはさらに深い。

資金繰りに忙殺された社長はどうなるか。

1、絶対がつくほど、夜、眠れなくなる。
2、何をするにも資金のことが頭をよぎり、他の仕事が手につかず、冷静な判断ができなくなる。
3、誰かに愚痴を言わないと、一人ではこなしきれなくなり、潰れてしまう。
4、無意識に、楽になる行動をとりたくなる

と深い闇が待っている。

そんな社長と毎日、毎晩、電話で話を聞き続けたことがある。もう、毒ガスを吐くようなもので、聞いている私のほうも憂鬱な気分になった。ただし、その話を聞かずに電話を切ってしまうと、電車が止まるかもしれない、と思い、ネガティブな話を何カ月も聞いた。

私は何を言いたいのかというと、社長が資金対策に奔走しなくて済む状態をまずつくらないと、あとが続かないということである。そのための体制をつくり、難局に当たる必要がある。必ず、どんなことがあっても、資金を第一に考える。幹部社員がいろいろ言うかもしれないが、そんなくだらないことは「うるさい!」と怒鳴ってよいのである。

いざとなったら、「命」はカネである。資金は時間であり、命であると考えて一刻も早く行動することだ。

■この1年間、資金対策に追われない状態をつくる

景気下降局面の際に、やらなくてはならないことはいっぱいあるが社長がバタバタ焦ったり迷ったりすることが一番のリスクになる。

だからこそ、この1年間、資金対策のことを社長の頭の中から外せる状態にしておくことが、一番大事なのである。資金繰り対策に追われ、渦中に巻き込まれると冷静な判断、決断を下せなくなるからだ。

作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)
作間信司『一倉定の社長学』(プレジデント社)

資金に、一発逆転ホームランは絶対ない。「有事には、売上規模でもなく、利益でもない。事業の継続を支える『資金の確保』」の1点に目標を絞り、全体を挙げて取り組むことが社長の使命である」と、一倉先生も語っていた。会社の継続が全てに優先するのである。

いまからでも遅くはない。やってないことがあればトライしてみてほしい。金融機関に出さなくてはならないのは、今後の売上利益計画、バランスシートの計画、経営計画の基本中の基本を添付して出すことである。

できたら、多少作文にはなってしまうが、コロナ後の景気回復時の業績見通しと銀行への返済計画を、ドリームプランでなく手堅く立ててシュミレーションした中期計画があれば心強い。

まずは、今、手元に現預金がいくらあるのか、1年間の固定費はいくらか、すぐ確認して安心できる状態を整えることから始めよう。まずは、安心を買うことである。

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作間 信司(さくま・しんじ)
日本経営合理化協会専務理事
1959年生まれ。山口県出身。1981年、明治大学経営学部卒業後、大手インテリア会社にて販売戦略など実務経験を積んだ後、1983年、日本経営合理化協会入協。事業の企画・立案を担当するかたわら、会長牟田學の薫陶を受け、全国の中堅・中小企業の経営相談に携わる。協会主催の社長塾「地球の会」「事業発展計画書作成合宿セミナー」などの講師を歴任し、現在「佐藤塾~長期計画~」副塾長、「JMCA幹部塾」塾長を務める。「作間信司TV」【一倉定の経営心得】

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(日本経営合理化協会専務理事 作間 信司)

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