安倍晋三に絶望…自然発生的「吉村総理」待望論、強まる
プレジデントオンライン / 2020年5月11日 9時15分
■最近ネットで湧きあがる、「吉村総理待望論」に迫る
新型コロナウイルスの脅威を前に頼りにならない政府や国会議員に比べて、力強いリーダーシップや発信力で国民の心をつかんでいるのが「現場」を預かる知事たちだ。欠陥だらけの新型コロナウイルス対策特別措置法や後手に回る国の後始末に追われる首長は、増加する感染者と医療現場への対応、自粛や休業を余儀なくされている国民への支援策に苦闘する日々を送る。いまだ精神論を振りかざし「出口戦略」を見いだせない安倍晋三政権への失望感が広がる一方で、「有事に強いリーダー」として注目を浴びている東京都の小池百合子知事と大阪府の吉村洋文知事の2人は、今や国のトップが誰かということを忘れさせるほどの存在感を見せている。最近、ネット上で沸きあがる「吉村総理待望論」を追った。
非常事態下にもかかわらず、国からの指示を待ってから行動する受け身型の「良い子ちゃん知事」が多い中で、小池氏と吉村氏は異彩を放っている。記者会見やSNSなどを通じた情報公開や発信、休むことなく国の先を常に行くコロナ対策への高評価は、わが国のリーダーの中でも突出している。
■当初の政府方針は、国民感情からほど遠く
5月6日付毎日新聞は社説で「前例のない事態に、自治体は比較的柔軟に対応している」と評価した上で、事業者に休業を要請しても「補償は無理」と繰り返す政府とは対照的に、小池知事が事業者への「感染防止対策協力金」制度を考案して多くの道府県に広がったことや、軽症者のホテルでの療養原則化に大阪府が早くから取り組んだことを指摘。「政府は地方の役割を尊重し、意思疎通を心がける姿勢を忘れてはならない」と注文をつけた。
4月7日に緊急事態宣言を発令しても、外出自粛による効果を2週間見極めた上でより強い措置を講じるべきだとする当初の政府方針は国民感情とはほど遠く、小池知事は「都民の命がかかっている状況で悠長なことは言っていられない」と早期の休業要請開始を求めた。「お上」の方針に従わない小池氏に政府側は反発し、それに呼応する形で神奈川県の黒岩祐治知事は「都の案は(国の方針を)全く無視している」と批判した。その結果、一時は「小池悪者論」も噴出したが、5月6日までの宣言期限内に収束せず、5月末まで延長された事実を見れば「2週間の様子見」をする政府方針が誤っていたのは明らかだろう。
■有事でもマニュアル対応、「口は出すが、金は出さない」
有事でもマニュアル通りの対応を好み、「口は出すが、金は出さない」「後出しジャンケン」という国の姿勢への国民の不信感は日増しに強まっている。今や多くのメディアで「優秀なリーダー」と礼賛されている吉村知事も国の姿勢に不満を抱く1人だ。吉村知事は5月5日、緊急事態措置を段階的に解除する際の独自基準として「PCR検査陽性率7%未満」など3つの項目を設定した「大阪モデル」を公表し、外出自粛や休業要請などの解除基準を示さない国を批判した。出口戦略を提示しない安倍政権にケンカを売った形で、これには西村康稔コロナ対策担当相が「仕組みを勘違いされているのではないか」と反論し、安倍政権に近い政治評論家の田崎史郎氏も「すでに達成していることを目標として掲げている」(5月6日のTBS「ひるおび!」)などと違和感を示した。
だが、「出口」が示されないまま自粛生活を強いられている国民の不満は強い。「1世帯に布マスク2枚配布」で批判を浴びてから世論に敏感となった安倍総理は慌てて解除基準を公表する事態に追い込まれたが、大阪府の松井一郎市長は「あまり吉村知事にやきもちをやくとかではなく、冷静に対応してもらいたい」と冷ややかに見ている。
■西村氏には「丸投げ大臣」などと酷評するコメント目立つ
ネット上には吉村氏に拍手を送る意見が相次ぐ一方で、西村氏には「丸投げ大臣」などと酷評するコメントも目立つ。こうした惨劇に自民党ベテラン議員の1人は「西村大臣はいいように吉村氏に振り回されている。維新に食われて自民党の政党支持率が下落する要因にもなっており、その責任の重さを感じるべきだ」と不快感を示す。
毎日新聞と社会調査研究センターが5月6日に実施した全国世論調査によれば、コロナ対応で「最も評価している政治家」は吉村知事がトップで、「吉村バブル」の到来を感じさせる。2位は小池知事で、国のトップである安倍総理は3位とさえない。これまでは安倍内閣の支持率が急落する中でも自民党の政党支持率は低下しない傾向もあったが、直近の調査結果では自民党支持率の下落も見られ、吉村氏が副代表を務める日本維新の会の支持率は立憲民主党を抜いて野党トップに立っている。
■「吉村バブル」の背景には何がある
野党担当の全国紙政治部記者は「維新支持者は保守層という観点から言えば、安倍内閣を支持する層と一定程度重なってきた。だが、安倍政権の対応が失敗し、吉村氏が目立つと、もう維新に政権を任せた方が良いという人々も出てきた。それが『吉村バブル』の背景にあるのではないか」と解説する。
維新は、大阪でスタートした地域政党にすぎなかったが、国政政党に発展する中で自民党や民主党などの国会議員を参画させ、その後、東京都知事を務めた石原慎太郎氏ら「大物」も加わった。党運営や政策をめぐる亀裂はたえず「分裂」も続いたが、一定の発信力を維持してきた過程を見ると、特徴的なのは「小が大を食う」ことだ。松井代表が「御大」と持ち上げた石原氏や、野党時代の安倍氏へのアプローチはまさに「大」と位置付けることができるだろう。
■石原慎太郎を追い出した、維新の荒々しさ
思い出すのは、2014年3月のことだ。当時、日本維新の会の共同代表だった石原氏は自ら会長を務める党エネルギー調査会で、原発輸出を可能にする原子力協定への党の反対方針に従わない姿勢を明言し、「高校の生徒会のやり方だ」と批判した。これに「大阪系」の浦野靖人衆院議員が「反対なら党から出ていったらよろしい」とかみつき、他の大阪系議員も「出ていけ」と非難したことがある。「都知事まで務めた年長者を口汚く罵(ののし)るのは失礼だ」との声も漏れたが、石原氏ら「スター選手」から学べるところは学ぶ一方で、政策的に譲れない一線では相手が誰であろうと徹底的に戦う分かりやすさが熱狂的な「維新信者」と呼ばれる人々を生んでいる。
かつては創業者の橋下徹氏と松井代表の「二枚看板」に加え、元宮崎県知事の東国原英夫氏ら著名人の参加もあって人気を保ってきた維新だが、橋下氏や東国原氏はコメンテーターとしてエールを送る側に進み、今は「吉村氏の世代」(松井氏)。コロナ危機下で現れた「吉村バブル」の到来に、維新支持者の大阪市で飲食店を経営する40代男性は「もう安倍総理もあかんわ、いてまえ」と鼻息は荒い。
■安倍政権も自民党も維新に食われる
「吉村総理待望論」が沸きあがっても国のトップへの道がないと見る向きは、「政界は、一寸先は闇」であることを忘れているのかもしれない。09年夏、支持率が低下していた自民党の麻生太郎政権は現職知事の東国原氏に次期衆院選への出馬を要請したことがある。この際、東国原氏は自らを自民党総裁候補とする条件を突きつけ、実現とはいかなかったが、社会党とも連立政権を組んだ自民党が「与党」の座に固執すれば「知事から宰相」の可能性も捨てない執念を物語る。当時、党選対副委員長だった菅義偉氏が現在の官房長官で、維新との「パイプ役」という構図も今以上に政権支持率が低下し、「吉村バブル」が膨れ上がれば憶測を呼ぶ一因ともなりそうだ。
ある民放テレビ記者は、コロナ危機後の政界をこう予想する。「自民党支持者は、立憲民主党や共産党などを叩くことに専心し、維新には期待を寄せてきた。しかし、これからは維新を警戒しなければ安倍政権も自民党も食われる。『自民対維新』のガチンコ対決が始まるだろう」
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政経ジャーナリスト
1987年岩手県生まれ。早稲田大学卒業後、週刊誌記者を経てフリーランスとして独立。プレジデントオンライン(プレジデント社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。
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(政経ジャーナリスト 麹町 文子)
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