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人気の「百合子マスク」vs国民が怒り狂う「アベノマスク」

プレジデントオンライン / 2020年5月13日 11時15分

記者会見を終えて退出する東京都の小池百合子知事=2020年5月1日、東京都庁 - 写真=時事通信フォト

■明暗分かれたアベノマスクと百合子マスク

新型コロナウイルスとの厳しい戦いのなかにある今、2人の政治家の布マスクが注目を集めている。一方は安倍晋三内閣総理大臣の「アベノマスク」、もう一方は小池百合子東京都知事の「百合子マスク」だ。安倍首相が身につけ全世帯に配布しようとしている「アベノマスク」が批判と揶揄の的となっている一方で、小池都知事が会見などの際に着用している「百合子マスク」は好意的に受け入れられ、注目を集めているようだ。

新型コロナウイルスの感染者数が増えるにつれ、予防のためのマスクは生活必需品になってきた。しかし需要の急増に供給が追いつかず、使い捨てマスクはなかなか手に入らない状況が続いているのが実情だ。

すでにマスクの品薄が問題となっていた2月12日の会見では菅義偉官房長官が「来週以降、毎週1億枚以上、供給できる見通し」と発言。3月15日にはマスクの高値転売が禁止され、3月17日には菅官房長官は「月6億枚超が確保される」とコメントした。しかし、いまだ流通の正常化には程遠く、まずは医療物資としての供給が急がれる事態のなかでサージカルマスクを業務上必要としない一般人には、使い捨てではない布製のマスクを使うことも求められている。

いわばその先陣を切るようにして使い回しのできる布マスクを使っている政治的リーダーが安倍首相と小池都知事だといえるが、なぜ「アベノマスク」が揶揄される一方で、「百合子マスク」は人気を集めているのか。

■アベノマスクの機能性は

安倍首相が布マスクをつけて公の場に初めて現れたのは3月31日のことだった。「マスクの正しい付け方」として鼻にフィットさせ顎まで覆うことが示されているなか、鼻梁に添わず顎が大きく露出する、昔ながらの「給食当番」を思わせるガーゼ製のマスクだ。

しかしその翌日、安倍総理はさらに国民を驚かせる発表をすることになる。

安倍総理
写真=AFP/時事通信フォト

4月1日、総理官邸で行われた新型コロナウイルス感染症対策本部の会議を踏まえ、安倍首相は「緊急経済対策に、この布マスクの買上げを盛り込むこととし、全国で5000万余りの世帯すべてを対象に、日本郵政の全住所配布のシステムを活用し、一住所あたり2枚ずつ配布する」と発表したのだ。

この“対策”は発表されたのが4月1日であったことから「エイプリルフール?」などと反響を呼び多くの非難を集めた。誰が名付けたのか、アベノミクスになぞらえて「アベノマスク」などと揶揄されている。

■466億円の予算でほかに何ができたか

4月初めというのは諸外国では感染拡大防止のためのロックダウンとそれに伴う経済対策が次々に行われていた頃だった。日本でも緊急事態宣言を出すのか、その際には減収世帯や自粛によって売り上げの落ち込んでいる企業・個人事業主への補償、経済対策はどうなるのかと政府の対策に注目が集まっていた。

だが新型コロナウイルスの国内感染者が発見されてから2カ月余り、現金の給付を求める声もあったなかで配られることが決定したのは一世帯につき2枚の布マスクだった。

4月3日、菅官房長官はこの施策について迅速さを重視するため、まずすべての住所に2枚ずつ送り、その後状況に応じて必要な分を追加するものであると説明していた。しかし4月29日の時点で配られたマスクは約440万枚。1億3000万枚の配布を予定して配布開始から2週間弱が経過しても、全体の約3.4%しか配られていない。カビの付着などの不良品が見つかり配布が遅れているのだ。

5月初めの今、国民に配布されて広く使われているはずだった布マスクをつけているのは国会を見渡しても安倍首相くらいで、菅官房長官も使い捨てのマスクを使用している。

しかも「アベノマスク」配布には、466億円もの予算が割かれている。これはスカイツリーの400億円、札幌ドームの422億円という建設費をも上回る金額だ。

■なぜ百合子マスクは批判されないのか

一方、同じ布製マスクでも、小池百合子東京都知事が着用している通称「百合子マスク」は好意的に受け止められ、会見のたびにSNSで話題となっている。ツイッターでは「#百合子マスク」というタグもでき、小池都知事のマスクについての感想や自作のマスクが多数投稿されている。都知事のマスクに注目している人だけでなく、影響を受けて自身でも手作りしようという人も多いようだ。

都知事が初めて布製のマスクを身につけて公の場に姿を現したのは4月7日、安倍首相の緊急事態宣言を受けて開かれた会見だった。白地にパステルカラーのフラッグ(旗)柄があしらわれたもので、柄が逆さまになっているのが手作りらしさを醸し出していた。

都知事はマスクが使い捨てのものではないことを指摘され、「今日の私のマスクは手作りで近所の方からお届けいただいたもの」と答えている。

以来小池都知事の布マスクはトレードマークのようになり、いつしか「百合子マスク」などと呼ばれるようになった。デザインのバリエーションも豊かで、波模様やハート模様、5月1日の定例会見では初夏を意識してか外側にレース生地があしらわれたものを身につけていた。

■百合子マスクが担った「啓発」の効果

都知事のマスクを見て「自分も作ってみよう」と決意した人も少なくないのかもしれない。マスク不足が続くなか、手作りマスクを作る人も増えている。それに伴ってマスクの材料となる生地やゴム、ミシンの需要も大きく拡大しているという。

改めてアベノマスクと百合子マスクを比較してみると、同じ布マスクでもその違いは歴然としている。

まず大きな違いはその機能性だ。アベノマスクが昔ながらの布マスクでフィット感やサイズに不安があるのに対して、小池都知事が身につけているのは手作りながら立体的な縫製で、一般的な使い捨てマスクのように顔にフィットする作りになっている。

厚生労働省が示す正しいマスクの付け方のとおり、鼻の形に合わせ隙間をふさいだ上でマスクを下まで伸ばし顔にフィットさせているのがポイントだ。小池都知事が身につけているマスクは顔の半分近くをすっぽりと覆っている。

柄や生地といった趣向も見逃せない。もちろんマスクの柄は感染予防の機能とは関係がないが、気が滅入ることばかりの日々でマスクという新たなお洒落アイテムが少しばかり気を晴らしてくれることもあるかもしれない。

また、都知事のマスクを見て自分もマスクを手作りしようという人が増えているのならば、少なくとも「啓発」としての効果はアベノマスクより遥かに大きかったと言える。

■WHOはアベノマスクを「推奨しない」

百合子マスクがここまで好意的に受け止められたのには、そこに政策や政治的意図が透けて見えるということがなかった点もあるかもしれない。「近所の方」や支援者から届けられたものを身につけていると明かすことで、都知事も「マスクが足りない」という都民の生活と同じ立場に立っていると受け止められたのだろう。

そもそも世界保健機関(WHO)は布製マスクを「推奨しない」としている。折り目が粗い布製マスクでは、粒子の小さなウイルスを防ぐ効果は残念ながら期待できない。

当然のことながら感染予防に効果があると科学的に証明されているマスクが可能なかぎり迅速に広く行き渡ることが理想的だ。

だが、使い捨てマスクがドラッグストアやスーパーマーケットで当たり前に購入できる未来はまだ遠そうだ。使い捨てマスクの供給が追いつかないなか藁にもすがる思いで布製マスクを利用する人は増えているが、発表から1カ月あまり、ほとんどの人の手に届いていないアベノマスクはその「藁」の役割さえ果たせていないということかもしれない。

(フリーランスライター 梁 観児)

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