リストラ連鎖はすでに始まっている…弁護士「解雇されずに済む方法はこれだ」
プレジデントオンライン / 2020年5月14日 11時15分
■コロナショックですでに3000人が解雇・雇止め
世界的な新型コロナウイルス流行の収束の目処が立たないなか、かねてささやかれていた「リーマン・ショック級の不況の到来」が現実味を帯びてきた。4月23日、政府は月例経済報告書のなかで「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある」という判断を示したのだ。政府の景気判断に「悪化」という言葉が使われたのは、リーマン・ショックの影響が残る2009年5月以来、10年11カ月ぶりのことだ。また報告書では、先行きについても「感染症の影響による極めて厳しい状況が続くと見込まれる」としている。
2008年のリーマン・ショックでは解雇や派遣切りが社会問題と化したが、このコロナ禍でもすでに「コロナ解雇」が表面化しはじめている。厚生労働省によると、2月からの約2カ月で企業の業績悪化や経営破綻で全国で少なくとも3000人が解雇や雇い止めにあっているといい、今後、リーマン・ショックレベルの雇用不安が生まれるのではないかと懸念されている。
■リーマン・ショックでは何が起きたのか
まずはリーマン・ショックが日本の雇用にどんな影響を与えたのかを振り返ってみたい。リーマン・ショックとは2008年9月、アメリカの大手投資銀行「リーマン・ブラザーズ」の破綻に端を発し、連鎖的に広がった世界的な金融危機のことだ。日本経済も打撃を受け、雇用情勢は急速に悪化。雇用を維持できなくなった企業による正社員のリストラや派遣切りが相次ぎ、2009年7月に日本の完全失業率は5.7%(総務省発表・季節調整値)となった。これは過去最悪の水準だという。
リーマン・ショックは金融破綻が契機であったものの、実際に雇用面で大きな影響が出たのは、製造業やサービス業だ。特に社会問題化したのは自動車産業など製造業における大規模な派遣切りである。2008年年末~年明けにかけて、リーマン・ショックの影響で職と住居を失った労働者のために設けられた「年越し派遣村」は大きく注目され、深刻な雇用不安を浮彫りにした。
その後、景気は緩やかに回復し、完全失業率は2013年6月に3.9%に改善。リーマン・ショックの影響が出始める2008年10月の水準となった。2017年3月には2.8%と低い水準になり、新型コロナウイルス流行前の2019年11月には2.2%まで改善されている。
また有効求人倍率は2008年が0.88倍だったのに対し、リーマン・ショック後の2009年に0.47倍と悪化したが、2013年11月に1倍に回復し、2017年にはバブル期のピークだった1.46倍を超え、2019年には1.60倍となっている。
いまだに雇用のミスマッチなどの課題は残っているものの、「100年に一度」と言われたリーマン・ショックの影響による完全失業率と有効求人倍率の悪化は、数字上の回復までにおおよそ5年かかったことになる。
ではコロナ・ショックではどんな影響が出るのだろうか。今回は、リーマン・ショック時に大きな影響を受けた製造業やサービス業に加え宿泊業や建設業などすでに幅広い業界が影響を受けている。総務省によると2020年3月の完全失業率は2.5%で、前月より0.1ポイント悪化。そして厚生労働省が発表した3月の有効求人倍率は1.39倍と前月比0.06ポイント下落。この下げ幅は、バブル崩壊時やリーマン・ショック時と同等の大きなもので、加藤勝信厚生労働大臣が会見で「かなりその(コロナの)影響を受けているのではないかというふうに思われる」と述べるに至った。
■スペインでは完全解雇を禁止
コロナ・ショックによる雇用不安は日本だけの話ではない。外国の対策を見てみると、たとえばスペインでは緊急事態宣言下での完全解雇を禁止。そして、経営状況が厳しくなった企業に対しては、従業員の「一時解雇(ERTE/レイオフ)」が認められている。この制度では、一時解雇された従業員は雇用主と雇用関係を維持したまま失業保険を受け取ることができるのだ。そして雇用主には再雇用が義務付けられているという。また、トルコでも4月17日に経済対策のひとつとして3カ月間の解雇禁止が発令された。
さてコロナ禍における日本の雇用対策は、雇用調整助成金の拡充という形で行われている。これは、経済上の理由により、事業の縮小を余儀なくされた事業者に対し、雇用の維持を目的として休業手当の一部を国が助成する制度だ。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月1日~6月末の期間限定で要件の緩和や助成率の引き上げなど特例措置が取られており、4月25日には、さらに休業要請に応じた中小企業で1人も解雇していないなど一定の条件を満たした場合は休業手当の助成率を10割に引き上げるという拡充方針が発表された。
だが雇用調整助成金は手続きが煩雑で、受給できるまでに時間がかかるという課題もある。また、制度を使ったとしても企業に負担が発生するため、「利用しない」または「受給までに体力が持たない企業もあるのではないか」という報道を目にした読者もいらっしゃるだろう。従業員には雇い止めの恐怖がついて回ることになるが、ここで従業員側がコロナ解雇を防ぐために何かできることはないのだろうか? 弁護士に聞いた。
■雇い止めに遭わないためには?
では、雇い止めに遭わないためにはどうすればいいか。また、従業員の立場からコロナ解雇を防ぐ方法はあるのか。弁護士法人サリュの藪之内寛弁護士に話を聞いた。
「コロナ不況を理由に会社が従業員を解雇するというのは、整理解雇に当たると思います。残念ながら事前に解雇を防ぐというのは難しく、実際に解雇されてしまった場合に裁判で解雇を争っていくのが基本です。整理解雇の要件は、判例の集積で以下の4つが必要であるとされています。
2.配転、出向、希望退職の募集等労働者への打撃が少ない手段を採る努力を行っていること
3.人員選定の合理性があること
4.会社が整理解雇の必要性を説明し、誠意をもって労働者と十分な協議をするなど、手続きの相当性があること
仮に会社が存続しうる前提で解雇を防ぐとしたら、次のようなことが挙げられます。まずは、普段から真面目に頑張って仕事をすること。労働者がその会社にとって必要不可欠な存在となれば、整理解雇の要件3の人員選定の合理性が低くなり、解雇が恣意的なものとなっている可能性が高まります。仕事で成果を出せば解雇されない可能性も高まりますし、不況下でも会社が存続し続けることにもつながります。今の会社に居続けたいのであれば、貢献し続けることが一番大事です。
次に、解雇の可能性がちらつかせられたときに、「整理解雇の要件を充たしていないですよね、解雇したら裁判で争いますよ」などと戦う姿勢を見せること。なぜなら、会社としても揉め事は避けたいからです。労働組合やユニオンに加入して、会社と交渉していくのも一つの策だとは思います」
世界的な不況が予測されるなか、今後、雇用の問題に直面する人は少なくないだろう。
(フリーライター 澤 静)
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