コロナ時代の仕事は「早く効率的」だけでは成果にならない
プレジデントオンライン / 2020年5月19日 11時15分
※本稿は、高砂哲男『フューチャーワーク 新時代で成果を2倍にする思考とスキル』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
■コロナ前から、時代は変わっていた
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、私たちは働き方の大きな変化を強いられています。在宅ワークが業務の大半を占めるようになり、職場のメンバーや顧客とのコミュニケーションも以前のやり方は通用しません。
先が読めない、不安定な状況がこれからも続くことは確実で、企業収益は落ち込み、私たちの雇用にも深刻な影響を及ぼしていくでしょう。
しかしコロナ危機が訪れるずっと前から、私たちはすでに先が読めない世界に突入し、急速な変化を求められていたことをご存じでしょうか。
近年は「VUCA」の時代と言われます。
VUCAとは、「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の4つの言葉の頭文字をつなげた言葉です。
安定して先が読める時代から、不安定・不確実で先の読めない時代になっていることを、VUCAは表しています。
こうした環境下では、自らが好むと好まざるにかかわらず、私たちは働き方を抜本的に変革しなければならないのです。
■すばやい行動をするための「思考」を鍛える
VUCAを生き抜く上で、ビジネスの世界では「アジャイル」がキーワードとなっています。アジャイルとは、「すばやい、俊敏な」という意味の言葉で、もともとはソフトウェア開発における新たな開発手法を表す言葉でした。現在は通常のビジネスでも盛んに使われるようになっています。
「答えのない世の中を生き抜くためには、時間をかけて考えてそれから行動するやり方では間に合わず、まずすばやく思考し、動きながら軌道修正していくことが重要である」
これが、アジャイルの意味するところです。私たちの働き方も、アジャイルがキーワードとなっており、表層的に考えてまず行動することが求められる場面も増えてきました。
「どうせ先が見通せないのであれば、考えることに時間をかけるより、まず行動することで活路が開ける」という論には、一定の納得感があります。
では、今の時代において、考えることよりもまず行動することのほうが本当に重要なのでしょうか。
私たちが目指す未来の働き方は、すばやく成果を生み出すことにあります。
それであれば、複雑で不透明な場面に出くわした際、ただやみくもに「すばやく行動する」よりも、「すばやく行動できる思考を鍛える」ことのほうがもっと重要になるはずです。
なぜなら、すばやく行動できる思考を鍛え身につければ、結果の出ないことに向けて無駄に動き回る必要もありませんし、いざというときにはすばやく行動し、成果につなげることができるからです。
■深く考える人は、危機に強い
それでは、答えのない複雑な時代の中で「すばやく行動できる思考を身につける」ためには、何が必要になってくるでしょうか。
それは「表層的」ではなく、「深層的」に物事を考える力を身につけることです。
日頃から常に物事に対して深く考えていれば、さまざまな不確実なことに対する備えに時間をかけることができます。シミュレーションを通して、今回のコロナ危機のように知らないことに出くわしても、成果に向けて短時間で答えを導くことができるからです。
では、常に深く考えるとは具体的にどういうことでしょうか。
深く考えるとは、なかなか難しい言葉です。私も昔、上司から「もっと深く考えろ!」と言われて戸惑った経験があります。「深く考えろ」と言われても、自分としては深く考えているつもりだったからです。それは上司の主観であり、なぜ深く考えていないと断言できるのだろうと思いました。
それ以降、深く考えることをわかりやすく一般化できないかと考えました。その結果、辿り着いたのは、「全体像とフレームワーク」というものです。
■いい仕事をするには、地図が必要だ
私は深く考えることの基本は、「フレームワークを活用しながら物事の全体像をつかみ、その全体像を基に考えること」だと考えています。なぜなら、全体像を意識した思考と仕事の進め方の訓練を行うことで、複雑な事柄にも自然と考えが及ぶようになり、すばやく答えや成果を導くことができるからです。
例えば、普段の生活の中で、目的地にすばやく辿り着こうと考えたとき、私たちはまず何をするでしょうか。きっと、多くの人が地図を頼りにするはずです。
仕事における目的地が成果とすれば、地図は全体像にあたります。そして、その地図の書き方やまとめ方がフレームワークなのです。
普段の私たちの仕事の進め方では、地図を持たずに迷路をさまよっているようなことが多々みられます。これでは、成果を出すまでに時間がかかってしまったり、ときに迷走してしまうのも無理もありません。
未来の働き方は、やみくもに行動したり頭を悩ませたりすることではなく、枠組みに沿って全体像を捉え、深く考えながら成果に辿り着くことなのです。
■成果とは、「社員が会社に対して生み出す価値」
仕事や業務の全体像をつかむための第一歩は、自らの仕事の成果・ゴールを明らかにすることです。
その際、考えなければならないのは、そもそも「成果とは何か」ということです。
「会社の売り上げアップ、利益向上に貢献すること!」
「昇進や昇給につながる仕事をすること!」
たしかに、これらも立派な成果だといえますが、私は成果とは、「社員が会社に対し生みだす価値」だと考えています。
会社は社員に成果を求め、社員は会社に貢献し、価値を提供することが求められています。しかもこれからは「短期間で」という前提がつきます。
社員が良い成果・価値を出すことを、「パフォーマンスを発揮する」、「高いパフォーマンスを出す」などと言います。会社ではそれぞれの社員が期待される成果を上げ、パフォーマンスを発揮することを期待されているのです。
それでは、社員が成果として会社に提供する価値とは具体的に何でしょうか。これは、私たちが働く上での基本的なことですが、普段は意外と意識していないものです。
社員が会社に対し生み出す成果は、以下4つの成果の組み合わせによって成り立っています。
1 定められたことを、より早く効率的に行う
2 定められたこと以上の価値を生み出す
3 会社や職場が抱える課題や問題を解決する
4 新しいことを生み出す
■「早く効率的」だけでは不十分
短期間で成果を上げるためには、「1」の定められたことを早く効率的に行うことが重要だと感じるでしょう。確かに、これまで会社や上司から、仕事を早く効率的に行うことを常に求められてきました。
しかし、未来の働き方では、早く効率的に仕事を行うだけでは不十分です。なぜなら、効率的に仕事を行うだけではアウトプット、すなわち成果自体は大きくならないからです。
これからの働き方では、成果・価値の「絶対値」を増やしていくことが必要です。すなわち、成果や価値をこれまでより大きくする「2」や、新たな価値を生み出す「3」「4」の重要性が、ますます増していくのです。
2 定められたこと以上の価値を生み出す
3 会社や職場が抱える課題や問題を解決する
4 新しいことを生み出す
仕事を始める際は、これら残り3つの成果を改めて眺め、どの成果を会社から求められているのか、どの成果を自分として目指すのかを最初に考えてください。そして、それを自らに宣言することが大切です。
成果の全体像を強く意識することが、未来の働き方のスタートとなるのです。
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デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 パートナー
慶應義塾大学法学部卒。大手エレクトロニクス企業、外資系コンサルティングファーム戦略部門パートナーを経て、現職。18年にわたり企業変革、事業変革、人材変革、M&A等のコンサルティングに従事する他、大手事業会社に二度出向し、ハンズオンで企業変革を支援した経験も有する。現在はデロイト トーマツ コンサルティングにて、オペレーショントランスフォーメーションの日本リーダーを務める。
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(デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 パートナー 高砂 哲男)
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