東京オリンピック強行が「2040年の日本終了」をさらに早める理由
プレジデントオンライン / 2020年5月16日 6時15分
※本稿は『ジム・ロジャーズ大予測』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
■20年後の「日本終了」が現実を帯びてきた
1968年に世界第2位の経済大国となった日本は、50年以上の長きにわたって繁栄してきた。先の大戦、いやその前から大変な問題を何度も乗り越えてきた。
しかし、現在、直面している重大な問題に対して、目を背けすぎだ。日本の借金は日々膨れ上がっている一方で、人口は減り続けている。出生数も大きく減少していて、数年先はともかく20~30年後には大変な状況になる。
日本の国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年の日本の出生数は70万人前後にまで落ち込む見通しだ。2040年に70歳になる1970年生まれの出生数は200万人もいる。社会保障のサービス水準が変わらないとすると、数少ない若者に重税を課さない限り借金は増え続ける。これは私の意見や感想ではなく、データが示す事実なのだ。
すぐに消滅することはないが、外資に買われまくるといったかたちで、実質的に国家が維持できなくなる可能性もゼロとは言えないだろう。
■「少子化対策」と「移民政策」が、日本の未来の鍵を握る
日本の将来を考えたとき、ものすごい勢いで子供を増やすか、移民を受け入れるか、とんでもないスピードで借金を減らすかしない限り、日本が長期停滞から脱する見通しは絶望的だ。
私がもし、日本の政治家だったら、一番に優先して取り組むのは少子化対策だ。どうすれば、女性が子供を産みたいようになるかを考える。そして、このことに大きな予算を使うべきだと主張する。
そして、同時に、日本の財政の立て直しに取り組むだろう。日本の予算における歳出は、歳入をはるかに上回る状態が続いている。赤字国債の発行が常態化しており、財政赤字は毎年増え続けている。何度も言っているが、こんなことがいつまでも続けられるはずがない。
財政は破綻しなくても経済は破綻する。財政を健全化させなければ、いつの日か国債の金利は跳ね上がり、日本の円は暴落してしまう。そうなれば、国民はこれまでのような豊かな暮らしを続けることは難しい。だから、無駄な歳出を思い切ってカットする。
次に、移民政策に取り組む。私は移民政策が不可欠だと思っている。
シンガポールのように、スキルの高い外国人に移住してもらうにはどうすればよいかを考える。優秀な外国人の人材を日本に呼び込むことで、高齢化がもたらすショックを緩和させることもできる。また、素晴らしいアイデアを持った外国人が日本に来てくれることで「変化」を起こし、イノベーションが起こりやすい社会に変えることができるかもしれないと思っている。
私がもし日本で政治を行うなら、少子化対策と移民政策、この2つの問題にエネルギーを傾けたいと思う。
■海外に目を向けなければ、日本は縮小していくだけ
日本人は気が付いていないかもしれないが、世界の多くの人は喜んで日本で働きたいと思っている。とりわけ高度人材は日本で働きたいと思っている。なぜなら、多くの人は日本に来れば稼げると思っているからだ。さらには、治安も良いし、清潔ですべてが効率的で、食事も何もかも素晴らしい。日本が国を開けば、優秀な人材が日本に押し寄せてくるだろう。
働く人だけではない。学生もどんどん受け入れるべきだ。日本で学びたいという外国人学生はたくさんいる。韓国や中国の子供たちと話をすると、大学の数が少なく競争が激しいため、大学に入りたくても入れないと言う。私は彼らに「日本に行きなさい。日本は大学の数が余っているから」とアドバイスしている。日本では定員に満たない大学が数多くあると聞く。そのような大学は積極的に外国人学生を受け入れるべきだ。
移民として海外に出ていく人の多くは、勇気がありチャレンジ精神にあふれた人だ。家族や友人と離れ、住み慣れた母国を後にして海外へと移住する。そのような活力にあふれた人たちを受け入れることで、その国はますます発展するようになる。
シンガポールも成功した国だ。50年前、シンガポールの国民は5万人しかいなかった。しかし、当時の首相リー・クアンユーは、高学歴で高度なスキルをもった外国人を積極的に受け入れる政策を推し進めた。彼の政策は、本当に大盤振る舞いで、シンガポールに来てくれたら、土地も家も何でもあげるからというくらいの姿勢だった。そして、いまのシンガポールがある。
移民で繁栄する国がある一方で、外国人を受け入れずに衰退してしまう国もある。1960年頃、ビルマはアジアでもっとも裕福な国の一つだった。しかし、政権交代を受け、外国人の多くが追放されると、一気に転落して、名前がミャンマーに変わったその国は、アジアでも最も貧しい国の一つになってしまった。
閉鎖的、排他的な国はやがて低迷を余儀なくされることを歴史は明確に示している。
経済が好調で、国が上昇基調にあるときは、外国人のことなど気にしなくてもよい。特別な関心を示さなくても、向こうから来たいと言ってくれるからだ。しかし、衰退した国に、外国人は来ようとは思わない。ましてや、日本が停滞している一方で、中国や韓国が成長し外国人にとっても魅力的な国になっている。だから、日本にとってそう多くの時間があるわけではないのだ。
■東京オリンピック中止より、日本人が心配し行動すべきこと
オリンピックが経済的に国民のためになったことはない。オリンピックを誘致し開催することで、政治家は票を得ることができる。また、スポンサー企業や建設業など関連ビジネスは多くの収益を上げるかもしれない。しかし、過去にオリンピックで救われた国など、まったく存在しない。これは疑いようのない事実だ。
なぜなら、オリンピックというものは、債務を増やすものであって、いずれどこかで国民がツケを払うことになるからだ。政治家は、「オリンピックは日本にとって素晴らしい機会だ」と言い続けるだろうが、日本を救う機会になることはない。日本のみなさんは、オリンピックが開催されるかどうかが心配だろうが、それよりも、その後の債務のことをもっと心配すべきだと言いたい。
日本に身を置いている人は、できるだけ早いうちに海外に身を置くことを経験すべきだと思う。シンガポールでもたくさんの日本人が働いているし、中国でも多くの日本人が働いている。大切なことは、日本の外の世界から日本という国を見て、客観的に自分たちの姿を知ることだ。
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投資家
名門イエール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街へ。ジョージ・ソロスと共にクォンタム・ファンドを設立、10年で4200パーセントという驚異のリターンを叩き出し、伝説に。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論の教授を一時期務め、またテレビやラジオのコメンテーターとして世界中で活躍していた。2007年、来るアジアの世紀を見越して家族でシンガポールに移住。『ジム・ロジャーズ大予測』(東洋経済新報社)、『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』など著書多数。
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(投資家 ジム・ロジャーズ 撮影=原 隆夫(takao hara))
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