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残虐な加害の実態…韓国政府をベトナム民間人虐殺で被害女性が提訴

プレジデントオンライン / 2020年5月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLMX

■対日スローガンを掲げ韓国総選挙で圧勝

4月15日に行われた韓国の国会議員選挙(総選挙)は、文在寅大統領が率いる与党「共に民主党」と「共に市民党」が過半数を獲得して圧勝するという結果に終わった。与党が掲げた「親日賞賛禁止法」や「100年親日清算」などの反日政策・スローガンが国民に受け入れられたことに加え、新型コロナウイルスの抑え込みが功を奏した形だ。文政権にとっては幸先の良い2期目に突入するかと思われたが、早速「ベトナム戦争での民間人大虐殺に対する戦後補償」という難題が突きつけられている。

■ベトナム戦争での民間人大虐殺で初の国家賠償請求

総選挙から6日後の4月21日、べトナム人女性のグエン・ティ・タンさん(60)が、ベトナム戦争に派遣された韓国軍による民間人虐殺に関して、加害責任があると約3000万ウォン(約262万円)の損害賠償を求めて韓国政府を提訴した。ベトナムの民間人虐殺に関連して韓国政府が訴えられた初のケースとなる。

タンさんは1968年2月、8歳のときにベトナム中部クアンナム省のフォンニ村で韓国軍から銃撃を受けて左脇腹に重傷を負い、病院に入院。村では母や姉など家族5人を含めた70人以上の命が奪われ、タンさん自身も後遺症が残っているとして損害賠償請求訴訟をソウル中央地裁に起こしたのだ。

これまで韓国政府はベトナム政府に対し、「国防部保有資料には韓国軍による民間人虐殺に関する内容が確認されていない」という理由で公式謝罪を行っていない。

一方で、過去3人の大統領はベトナムとの首脳会談で謝罪の意は表明してきた。2001年、金大中(キム・デジュン)大統領(当時、以下同)は「本意ではなくベトナム国民に苦痛を与え申し訳なく思い、慰労の意を表する」、2004年には盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が「我が国民は(ベトナムに対し)心に借りがある」と語った。そして2018年には文現大統領が「不幸な歴史に対し遺憾の意を表する」とそれぞれコメントをしている。

■韓国からベトナムへの公式謝罪が行われない理由

謝罪のコメントは出すものの、これまで公式謝罪がなされなかった理由の一つに挙げられるのが、ベトナム政府による謝罪受け入れの拒否だ。これまで韓国国内メディアの取材に対しても、政府関係者の弁として「ベトナム側がそのたびに受け入れなかった」としている。

ベトナム政府は韓国と国交樹立した1992年当時から、「ベトナムは戦勝国であり韓国からの謝罪を受ける必要がない」という立場を堅持してきた。その背景には、加害国である韓国の謝罪を受け入れることで、旧北ベトナム側の地域感情がぶり返し、再びベトナム国内で分断が生じるという見方があるためだ。

■ベトナムに留学していた韓国人留学生が実態を調査

韓国が「被害国」として従軍慰安婦や徴用工問題などの戦後補償を日本に求めている姿とは対照的に映る。同じ虐殺行為でも直接の植民地支配下と、参戦国として参加したベトナム戦争は同列に語れないという意見もあるが、韓国国内では「私たちは日本にされたことと同じことをベトナムでしていた。訴えられても文句は言えない」「必ず謝罪して和解しよう。今解決しなければ、後でもっと大変なことになる」「ベトナムに謝罪し、日本から謝罪を受けよう」など、韓国政府に公式謝罪を促す声が寄せられているという。

ベトナム戦争における民間人大量虐殺に関しては、1999年ベトナムに留学中だった活動家の具秀姃(ク・スジョン)氏が週刊誌『ハンギョレ21』ではじめて実態調査の結果を発表したことによって明るみに出た。それを皮切りに、多くの調査団体が発足されて継続的に調査活動が行われてきた。2016年には韓国政府の公式謝罪の実現とベトナムとの民間交流を目的とする「韓・ベトナム平和財団」が創設されている。

■韓国人がベトナムに行くと何が起こるか

近年の報道では20年2月の、事件現場であるフォンニィ村、フォンニャット村、ハミ村、ビンフォア村、クィニョン村を訪問した韓国JTBC李秀真(イ・スジン)記者のルポが圧巻であった。

現地で住民に憎悪を向けられることを恐れていた李記者だったが、その予想とは裏腹に、とある住民女性は取材陣を歓迎し餅を差し出した。李記者が「私たちが憎くないのですか?」と聞くと「あなたたちが生まれる前のことじゃないか。それなのに知ろうとして、ずっとここに来ては謝るのだから。むしろえらいよ」と言い、次に会ったら酒を飲もうと誘われたというのだ。

李記者はこの対応に驚きつつ、韓国人有志らが現地訪問して行ってきた慰霊祭などによる謝罪と反省の態度が好意的な感情をもたらしたものではないかと述べ、ベトナムから韓国政府のある青瓦台まで抗議に来る被害者たちはこれ以上憎みたいわけではなく政府の正式な説明を求めており、政府がすべてを明らかにして謝罪さえすれば許す手前まで来ていると見解を示した。

だが、一方で韓国政府による公式謝罪について慎重論もある。釜山外国語大学教授の李光洙(イ・グァンス)氏は「韓国が加害者である」ことを前提としつつ、国際関係の原則論にのっとり、公式謝罪に懐疑的な見解を示している。

一つは、韓国がアメリカの協力国に過ぎず、ベトナム戦争での影響力が小さかったとする点。実際、ハノイの戦争博物館には韓国軍関連の資料が1点しかないというものだ。もう一つは戦後のベトナムがドイモイ(刷新)政策を進め、経済の立て直しとともに国際協力への参加を掲げているため、ベトナムが国家として謝罪を受け入れない以上は、韓国政府に謝罪を求める動きは国際ルール上は間違いであると指摘した。

■近年でもネット上で起こる韓国vsベトナム

政治ジャーナリストの趙甲濟(チョ・カプチェ)氏はさらに強硬だ。「歴代大統領が謝罪したのになぜさらに謝る必要があるのか」と主張し、韓国のベトナム派兵の正当性があったとして「60、70年代に国家建設に励んだ世代の思い出を奪う可能性がある」と謝罪の態度を示す文大統領の姿勢を批判している。

一方で、近年はベトナム・韓国両国のネット民による小競り合いは起きており、新たな火種になると懸念する向きもある。

韓国「亜州経済」が報じたところによると、新型コロナウイルス禍に際し韓国のニュース番組で「大邱発の韓国人20名がダナンで隔離され監禁」、「ビザ免除中断」と報じられると、ベトナム国内のSNS上では「20人の韓国人は謝罪しろ」「テレビ局も謝れ」といった話題が多くあがった。これには韓国のネット民も「やってみろや後進国が」「誰のおかげで食えてんだ」「ベトナムのサムソンを撤収させよう」などと応酬。それらが再びベトナム語に翻訳され、ベトナムのSNSに拡散されるに至った。これを受けて韓国外交部は「隔離は了解のうえだった」と表明とし、ダナン市長も20人の韓国人の帰国の際に、手紙を出して謝罪するまでに至っている。

■文在寅政権は「被害国」という立場を強調するが…

文在寅政権は「被害国」という立場を強調して日本への従軍慰安婦、徴用工の問題を前面に押し出して選挙に勝った一方で、「加害国」としてベトナムからの補償を求められるという新しい課題が浮上している。第2次文政権がこの難局をどう乗り切るのか注目したい。

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安 宿緑(やす・やどろく)
ライター・編集・翻訳者
韓国心理学会正会員。朝鮮半島問題や心理分析、カウンセリングに取り組む。著書に『北の三叉路』(双葉社)

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(ライター・編集・翻訳者 安 宿緑)

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