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「検察庁法改正案」の裏で、安倍首相が「9月入学」をぶち上げた事情

プレジデントオンライン / 2020年5月11日 18時15分

参院予算委員会で答弁する安倍晋三首相=2020年4月29日、国会内 - 写真=時事通信フォト

■何年も議論が必要な重要案件が、なぜ急浮上しているのか

新型コロナウイルスの伝染拡大は、最悪の事態は回避して「出口」を見いだそうという局面に入ってきたが、依然として予断を許さない。だが、その推移を見定める前に、秋から新学年を始める「9月入学」に向けて安倍政権が大きくハンドルを切り始めた。

これまでも浮上しては消えてきたこの問題。本来ならば何年も議論が必要な重要案件が、なぜ急浮上しているのか。安倍政権はコロナ問題で後手後手の対応が続いている。さらに検察官の定年を引き上げる法案をめぐり国民の批判が高まっている。このため、「9月入学」をぶち上げることで国民の関心をそらそうという思惑が透けてみえる。

■口火を切ったのは高校生の署名運動だった

5月8日、首相官邸に陣取る杉田和博官房副長官のもとには、各省庁の次官クラスが次々と入った。目的は「9月入学」についての論点整理。コロナの感染拡大で全国の小中高校で休校が続く中、4月に急浮上した「9月入学」問題は、杉田氏のもとで6月をめどに論点を整理することになっているのだ。

警察官僚出身で、内閣危機管理監などを歴任した杉田氏は危機管理のプロ。未曾有の危機となっているコロナ対応が続いている今、「9月入学」の司令塔になるのは少々奇異な印象も受けるが、安倍政権がこの問題に前のめりになっている証左ともいえる。

今回「9月入学」の盛り上がりは、複雑な経緯をたどった。最初は高校生がインターネットを通じて署名運動を展開。休校がずるずる続き、学校、地域によって教育格差が広がることが避けられない状況の中、平等に9月からリスタートしたいという若者の叫びだった。

学生たちの訴えに小池百合子都知事、吉村洋文大阪府知事ら、発信力のある知事らが共鳴。その後で、安倍政権が食いついた。安倍晋三首相は4月29日の衆院予算委員会で「これくらい大きな変化がある中では、前広にさまざまな選択肢を検討したい」と答弁。その後、「9月入学」に積極的な議員たちと積極的に会いながら、検討を続けるように求めている。最後で乗っかったような形の安倍氏だが、今や推進派の最右翼のようになってきた。

■来年9月を念頭に、今年9月から「予行演習」する

今、政府内で前提となっているスケジュールは以下の通りだ。

「9月入学」を導入する時期は来年、2021年の9月だ。4月に「9月入学」論が浮上した頃は、今年9月から一気に導入しようという意見もあった。しかし、それではあまりにも性急だし、コロナ禍による混乱に便乗した「火事場泥棒」との批判も受けかねない。そこで目標は「来年9月」と定まった。

杉田氏のもとで進む論点整理を6月ごろ受けた後、文部科学省を中心とした関係各省で協議して法案を作成。秋の臨時国会に法案を提出して成立を図る。

一方、学校教育の現場はコロナの感染拡大が沈静化するのを待ち、それぞれの地域事情をにらみながら学校教育を開始する。遅くとも9月までには再開するだろう。ことしは制度上は「4月入学」のままなので9月はあくまで「2学期」だ。しかし、今後「9月入学」となるのを念頭に、現場で浮上した問題点を整理し、翌年に備えることになりそうだ。来年9月を念頭に、今年9月から「予行演習」するということだ。

■「9月入学」は2006年の第1次政権の時からの悲願

安倍氏は、もともと「9月入学」論者だ。2006年、初めて首相になった時、自身の肝いりで政府内に教育再生会議をつくり「大学の9月入学」を打ち出した。

この時の「9月入学」は大学のみを念頭に置いていた。国際基準の「9月入学」にあわせることで留学生や教員の国際交流を可能にするとともに、高校生は3月に卒業してから大学入学までの半年間にボランティア活動などをさせて若者の規範意識を高めようという発想があった。

今回の「9月入学」は大学だけでなく小中高も一斉に行うことを前提にしているので、高卒生がボランティア活動を行う時間はないが、欧米諸国の国際基準にあわせることはできる。安倍氏の方向性と合致する。14年越しの悲願といってもいい。

今回「9月入学」が走り始めているのは、このような政策的な理由だけではない。自民党ベテラン議員の1人は、こうつぶやく。

「簡単に言えば、国民の目をコロナからそらすということだよ」

■「火事場泥棒」の検察庁法改正案の批判をそらすため

今、コロナ対応で、安倍政権は守勢に立たされている。国民1人ごとに10万円配布する「特別定額給付金」が行われることになった経緯は二転三転して後手に回り、野党だけでなく与党内からも批判の声が上がった。

PCR検査数が、諸外国と比べて圧倒的に少ないことも日々指摘され続けている。

評判の悪い「アベノマスク」は、東京都などの一部を除いてまだ配布されておらず、その間にディスカウントストアの店頭にはマスクが山積みされるようになってしまっている。

今は、まだ感染拡大に関心が集まっているだけに批判は一定レベルにとどまっているが、ピークアウトした後は、安倍政権の対応への批判が集中するのは避けられない。

さらに安倍政権には新たな火種が浮上している。

今、国会で審議中の検察庁法改正案だ。この法案は、国家公務員の定年を引き上げる国家公務員法改正案と1体の「束ね法案」として審議されている。しかし、政府が先に黒川弘務東京高検検事長の定年延長を決めたことを裏打ちする法案として野党側は批判を強めている。

しかも、今は政府をあげてコロナ対応に全力を尽くさなければならない時。どさくさに紛れて成立を急ぐ政府の姿勢に国民の反発が高まっており、SNSでは「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ付きの書き込みがあふれ、10日夜の段階で書き込みは500万件近くに及んだ。

■コロナ前のスキャンダルは「過去のもの」になる

国民は、検察官の人事を政権の意のままに操ることへの怒りとともに、コロナ禍のまっただ中に「火事場泥棒」のような形で法改正してせいまおうという政権の姑息さに怒っているのだ。

コロナ対応への不満。そして検察庁法改正案への怒り。コロナ禍が沈静化した後、安倍政権は大逆風にさらされる。その矛先をそらすために、「9月入学」をぶち上げようという発想だというのだ。

確かに入学時期を4月から9月に変えるというのは、子供はもちろん、子を持つ親、教育業界、そして新卒学生を採用する企業など、利害関係者が多く、大論争となるのは必至。コロナ禍後の空気を変えるテーマだ。

秋の臨時国会では、野党側はコロナ対応での政府の不手際を批判しようと手ぐすね引く。森友、加計、「桜を見る会」などの問題も仕切り直しして攻めてくるだろう。

しかし「9月入学」の関連法案が提出されれば国民の関心はそちらに向かう。森友、加計、桜などの、コロナ前のスキャンダルは「過去のもの」にすることができる。と、なれば、政権側の作戦勝ちだ。

■「9月入学」実現→安倍4選のシナリオは…

2021年夏には1年遅れで東京五輪・パラリンピックが予定されている。7月23日に五輪が始まり、パラリンピックが9月5日に終わる。来年「9月入学」が実現すれば、五輪直後。国家的イベントの直後に教育の大改革が行われるということになる。

そして「2021年9月」といえば忘れてはいけない政治イベントがある。安倍氏の自民党総裁任期切れに伴う党総裁選だ。安倍氏は、公の席では4選を目指さない考えを繰り返し表明しているが、二階俊博党幹事長らは安倍4選待望論を唱えている。安倍氏自身も、心の中では4選という選択肢は残している。

ただ、その選択肢は憲法改正とセットで考えていた。改憲を実現して、その勢いで4選を実現する……というシナリオだった。しかし、改憲論議は安倍氏の思うようには進まなかった。本来なら、ことし2020年に憲法改正を実現し、新憲法を施行させるシナリオを描いていたが、それは断念せざるを得ない。その経緯は5日に配信した「コロナ対策そっちのけで『憲法改正』を訴える安倍首相のうさんくささ」を参照いただきたい。

改憲の道は険しくなったが、「9月入学」という教育の大改革を実現して4選を迎える。

そんなシナリオが安倍氏の頭の中にないはずはない。「9月入学」問題が実現するかどうかは、与野党、そして自民党内の権力闘争に大きく左右されることになるだろう。

(永田町コンフィデンシャル)

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