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元男の娘AV女優「セクハラする男は、なぜセクハラするのか」

プレジデントオンライン / 2020年5月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■セクハラの境界線はどこに

職場でのセクハラ・パワハラ問題が後を絶たない昨今。2019年の日本労働組合総連合会の調査によると、労働者全体のおよそ38%が「職場でハラスメントを受けたことがある」と回答。そのうち「セクハラの被害に遭ったことがある」と回答した女性は4割近くに上っている。男性にとっては「ちょっとした冗談」「部下とのコミュニケーション」のつもりが、相手を傷つけてしまうケースも多い。

平成の終わりに#MeToo運動が盛り上がりを迎え、時代は少しずつ変化しつつある。その一方で、職場の男性同士の会話では「女性との接し方をどう変えたらいいのかわからない」という嘆きもよく耳にする。

筆者自身、会議や打ち合わせでちょっと場を和ませようとして発した一言が同僚女性からの反感を買ってしまったり、思わぬ誤解を招いてしまったりした苦い経験も、1度や2度ではない。そのたびに「うかつな発言はやめよう」と反省。思い返すたびに冷や汗が出る。

男性・女性間のコミュニケーションのすれ違いをなくすこと、特に男性側が女性の気持ちを汲み取ろうとすることは、職場でのセクハラ・パワハラを防止し、円滑なコミュニケーションをとっていくうえでも欠かせない。

そんな悩みを抱えた男性に向けてメッセージを発信し続けているのが、男性でありながら女性として生活し、元“男の娘(こ)”AV女優という異色の経歴を持つ大島薫さんだ。著書『モテたいと思っている男ってなんであんなに気持ち悪いんだろう』(竹書房)や自身のTwitterで、男女の些細な心理の違いを発信してきた。

見た目を男性から女性に変え、男女の繊細な心理の差異を肌で感じてきた大島さんだからこそわかる、職場でのコミュニケーションのポイントとは。

「すべての女性は性被害に遭った経験がある」と大島さんは指摘する。女性の立場を慮ることの重要性を説く、その理由はこうだ。

「僕自身が女性の見た目になったときに、それまで男性として生活していたころには感じたことのなかった恐怖を感じました。たとえば電車に乗っているだけで一日に2回も痴漢の被害に遭ったり、街でしつこくナンパされたり、キャッチに無理やり腕をつかまれたり……。女性が生きている世界って、そういう恐怖と隣り合わせの世界なんです。

僕は途中から女性の見た目になってようやくわかりましたけど、女性は子供のときからそういう被害を大小問わずたくさん経験している。だから男性側が『すべての女性は性被害に遭った経験がある』と少しでも想像すれば、セクハラにつながる発言も防げるはずなんです」

■女として生活する僕だからわかること

女性の立場になって想像すること。基本的なことかもしれないが、自分がハラスメントの加害者にならないためにはこうした意識が欠かせない。「すべての女性が性被害に遭ったことがある」という前提で考えてみると、目の前の女性がどんなときに恐怖を感じるのか、どんなときに不快な気持ちを抱くのかが少しイメージしやすくなるはずだ。

「こういうことをTwitterで発信すると、『世の中の男性が全員、性加害者だっていうのか』っていう見当違いなリプライが来たりするんです。もちろんそんなわけではないし、『すべての女性は性被害に遭った経験がある、だからといってすべての男性が性加害者というわけではない』なんて書かなくてもわかるでしょ、とは思うんですけど」

もちろん「相手を傷つけてやろう」と思って女性と接している人はそう多くはない(と信じたい)。しかし、男性と女性では普段から見えている世界が大きく違うことは常に頭の片隅に置いておくべきだろう。たとえば、男性で比較的体も大きい筆者は、繁華街でキャッチに声をかけられても簡単に断ることができるし、万が一痴漢の被害に遭ってもすぐに犯人を取り押さえることができるだろう。しかし、女性の立場だとそれが難しいことは容易に想像がつく。だから些細な冗談のつもりで発した一言でも、男性と女性では受け取り方が大きく変わってくるのだ。

■あなたの下ネタ、不要不急です

男性同士がカジュアルに話している「下ネタ」も、ひとたび女性に向けると凶器になることがある。

大島さんは周囲に女性のいる場での「下ネタ」についてもこう語っている。

「男性からすると1回目の下ネタ発言でも、女性からすると、これまでに100万回言われてきた下ネタだったりするんです。そしたらやっぱりうんざりしますよね。男同士の飲み会で言い合っているような下ネタを職場で言うと、『この人、女性のいる場でもそういうことを言うんだ』って呆れられてしまうんです」

男性同士のコミュニティでは「下ネタ」がひとつのコミュニケーションツールになっているケースもある。「男性同士で盛り上がるだけならいいじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、男性のなかにも下ネタが苦手だという人は意外に多い。

少なくとも職場でのコミュニケーションにおいて「下ネタ」がどうしても必要な場面は存在しない。徹底的に避けておくのが無難だろう。「下ネタ」以外で場を和ませたり、相手との距離を縮めたりできる話題をチェックしておくことが必要だ。

「下ネタに限らず、会話の際にはものごとを多角的に考え、受け手の立場を想像することが大切です。男性でも女性でも、人によってそれぞれ育った環境や価値観は違うので、さまざまな角度からものを考えて発言すれば、コミュニケーションのすれ違いも減らせるはずです」

また、特に管理職などの立場の強い男性が失敗しがちなのが、相手の話に対して否定から入ってしまうこと。たとえ相手がひと回り以上も年下の部下でも、ひとこと目から「いや、でも~」「それは違うんじゃないかな」と返してしまうと、信頼関係を築くのが難しくなってしまう。話の伝え方が大事なのはもちろん、話の「聞き方」も重要だ。

「否定しがちな男性って、たぶん否定から入る会話のパターンに慣れちゃっているんだと思います。僕も飲み屋のカウンターで隣に座った50代の男性と世間話をしていたら、全部『いや、それは違うね』って返されてうんざりしたこともあります。否定されると誰だってイラッとくるし、納得させたくなってくるから反論するじゃないですか。そうやって一応は会話が続いていくので、どこかで『こうすれば会話が弾むんだ』って勘違いしちゃうんだと思います」

「最初に肯定してしまうと話が回らなくなってしまう」という不安がある人ほど、相手の話をよく聞かずに否定してしまいがちだ。かくいう私もつい、部下や後輩の話をさえぎって「それは違うよ」と返してしまうことがある。しかし、「否定→反論」の会話に慣れてしまうと、一歩間違えればパワハラの火種にもなりかねない。

最初に「それは違うんじゃないか」と思っても、まずはぐっと自分の意見をのみ込んで、相手の話に耳を傾けることが大切だ。よくよく話を聞いてみると相手の意見にも共感できるポイントがあったり、自分の勘違いや思い込みにハッと気づけることもある。

大島さんがオススメする会話のポイントは、「肯定から入って会話を続けるクセをつけること」。相手の意見を頭ごなしに否定せず、肯定しながら話を進めるスキルを身につけることが必要なのだという。

「相手の話に対して否定から入る、というのは簡単な会話法ですが、それが本当の意味でのコミュニケーションといえるかどうかは疑問です。『うん、確かにそうだよね』と肯定すると、今度は自分から会話を広げていく工夫が必要になる。最初は難しいかもしれませんが、肯定ベースでの会話を身につけると相手からの信頼を得ることができます」

■片手にピストル心に花束

職場でのコミュニケーションにおいて注意するべきポイントは、発言の内容だけではない。自分と相手の力関係や立場の違いを客観的に見つめることも重要だ。

心に花束
PIXTA=写真

たとえば無茶な仕事の依頼でも、コワモテな担当者が相手だから断りづらい……という経験がある人も多いはず。優しい口調で「書類にサインしてくださいよ」と言われても、強要されているように感じてしまうこともあるはずだ。

このようなケースは、男女の間や上司と部下の間でも起こりうること。「なにかを要求した側は、無理やり強制したつもりがなくとも、相手は強要されたと感じる」というパターンの性被害も、過去にいくつも生まれている。「彼女はにこやかに接してくれていた」というお決まりの言い訳も、加害者となった男性にとっては本当にそう感じていたケースも少なくない。だからこそしっかりと意思疎通を図り、合意形成をしていく必要がある。

大島さんは「われわれ男性は、女性に対して常にナイフ片手に話しかけているという意識を持つべきなんです」と語る。

「男性は女性よりも体格が大きく、力も強い。だから男性同士と同じようなコミュニケーションをしていると、女性にとっては恐怖に感じてしまうこともあります。『女性を特別扱いしなくちゃいけない』と言っているわけじゃなくて、少しの心遣いで立場の差異を埋めていくことが大事だと思うんです。

実際に自分がナイフを持っていると思ったら、刃先を自分に向けて持ったり、さやに収めたりして、細心の注意を払うじゃないですか。少し過剰に思えても、ナイフを持っている人がやらなきゃいけないことだと思うんです」

■断っても気にしないから、もし来られたら来てくださいね

たとえば部下を励ますために飲みに誘っているつもりでも、そこには少なからず力関係が発生する。特に女性の部下の場合、本当はイヤだと思っていても断れないケースも多い。やりすぎのように思えても、「断っても気にしないから、もし来られたら来てくださいね」とひとこと添えるだけで、ずいぶんと印象は違うはずだ。

男女平等とは、男性にも女性にも同じようなコミュニケーションを求めることではない。些細な心遣いによって、相手との立場や体格の差を埋めていくことで、本当の意味での男女平等が実現できるといえるだろう。

大島さんは終始「男性を一方的に断罪するのではなく『男性も女性もお互いに自分の振る舞いを正してほしい』という平和的な解決策を模索しているんです」と語っていた。

男性と女性がお互いの粗探しをするのではなく、配慮が足りていないことがあればそれぞれで話し合って、姿勢を見直していく。そうした心がけが、男性と女性がともに力を合わせて働く「職場」という空間においてもっとも大切なことではないだろうか。

この記事を読んで、もしかすると「自分が非難されている」と感じた男性もいるかもしれない。

大島さんへのインタビュー中、筆者自身も過去の苦い経験を思い出して後ろめたさや罪悪感を感じる瞬間があった。しかし、その後ろめたさを受け入れ、自分の意識を少しずつアップデートしていかなければならない。聞こえのいいフレーズと共に喧伝される「男女が共に働きやすい職場」は、そうした反省と心遣いがあってようやく実現するのだと感じた。

(山本 大樹 写真=PIXTA)

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