毎度、「犯人は外国人だ」と叫ぶ"保守"の人たちに根拠はあるのか
プレジデントオンライン / 2020年5月15日 15時15分
■世界に関する勘違いを暴く
世界200万部、そのうち4分の1が日本で売れている(2019年12月時点)。2019年のビジネス翻訳書としては国内第1位の売れ行きだ。『ファクトフルネス』は、私たちの世界に関する「勘違い」をデータとともに暴き正してくれる。
例えば世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は過去20年でどう変わったか。例えば世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供は何割いるか。あなたは答えられるか。答えはそれぞれ、「半分になった」「80%」だ。『ファクトフルネス』では3択で全13問が提示されているが、正答率は前者の質問で平均7%、後者の質問で13%に留まる。
過半数の人は、世界が「どんどん悪くなっている」と考えているのだ。
だがこれは大きな勘違いだ。著者のハンス・ロスリングらは人々が「ドラマチックすぎる世界の見方」をしており、実は世界は年々「良くなっている」のだと指摘している。本書はわれわれの勘違いを「10の本能」に分類している。本稿ではそれぞれの本能を実際のニュースに絡めて、10回に分けて解説していく。第1回は「犯人捜し本能」だ。
「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
悪い出来事が起きたとき、「単純明快な理由を見つけたくなる」のが犯人捜し本能だ。個人が社会を動かしていると考えることができれば、世界は得体の知れない怖いものではなくなる。そのために、人は政治指導者やCEOといった個人や、集団の影響力を実際より大きいと思い込もうとするのだ。だが物事がうまくいかないのは誰かひとりのせいではない。見つけるべきは犯人ではなく原因で、人ではなくシステムを見直すべきなのだ。
■文化の違う外国人が日本の秩序を乱す?
犯罪やトラブルが起きたとき、よく耳にするのが「犯人は外国人だ」という言説です。そこには「外国人は言葉が通じず、文化も違う理解できない存在だ。だから、われわれの秩序を乱してもおかしくない」という考えが見受けられます。同様に、移民受け入れ反対論者に代表的なのが、「移民が増えると犯罪が増えて、治安が悪化する」という主張です。本当なのでしょうか。
日本の在留外国人は、リーマンショック後に減少したのを除いて、この10年あまり、増加を続けています。また訪日外国人も2011年の約620万人からどんどん増え、18年は3000万人を超えました。外国人の数が伸長するのに伴い、犯罪も増えているのかといえば、その逆です。来日外国人の刑法犯の検挙数は05年がピークで、以降、減少傾向になり、近年ではピークの約3分の1になりました。
平成25年度版犯罪白書では「来日し、在留する外国人による犯罪情勢の悪化は招いていないと認められる」と総括しています。外国人が集住すれば、周囲と摩擦が起きることはありますが、それが犯罪の巣窟や温床になると考えるのは、短絡的すぎると言えるでしょう。
たとえば外国人住民の割合が約12%を占める新宿区は、歌舞伎町を擁することもあり、治安の悪い都市というイメージが根付いています。しかし、区の調査によれば、近所に外国人が住む日本人が感じる問題は、「犯罪」「ドラッグ」ではなく、「ゴミの出し方のルール」や「騒音」などです。一方で、区内に定住する外国人からは、「犯罪に関わるような外国人を受け入れてほしくない」との声もあがっています。外国人は日本に住めば日本人と同じように、「内側の人間」としてよりよい治安を求めるようになるのです。
20年代には日本の人口減少は550万人に達すると政府機関は想定しています。農林水産業、介護などの分野では慢性的な人手不足が継続し、新型コロナウイルス騒動後には各分野で労働者不足が一挙に表面化するでしょう。企業は労働力不足を埋めようとし、不法に働く外国人が急増することが想定されますが、なし崩し的な外国人の定住化が進むことこそ、治安悪化のリスクが上がります。そこで定住を前提にして、優秀な外国人の定着を目指す移民制度が整えば、悪事と関わることなく、まっとうに働こうとする外国人がますます増えるはずです。
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日本国際交流センター執行理事
1954年、徳島県生まれ。88年から日本国際交流センターに勤務し、2012年から現職。近著に『限界国家』(朝日新書)。
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(フリーランスライター 梁 観児、日本国際交流センター執行理事 毛受 敏浩 構成=鈴木 工 撮影=石橋素幸)
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