「女性が天皇に即位するのは伝統に反する」は本当か?
プレジデントオンライン / 2020年5月17日 11時15分
危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
「人はみな恐怖に包まれると、判断力が鈍る」、これがロスリングのいう恐怖本能だ。人は興味によって情報を取捨選択しており、ドラマチックで恐ろしいものにばかり意識を奪われる。テロによる死者よりも下痢による死者のほうがずっと多いが、人々はそれを知らず滅多に起こらないことに恐怖している。「恐怖」と「危険」は違う。その危険はどれほどのものなのか、どれくらいの頻度で起こりうるのか、「リスク」を考える必要があるのだ。
■女性天皇を容認するべきかどうか
女性天皇を容認するべきかどうか、議論が交わされています。現在、女性は天皇に即位できません。なぜなら、皇室典範の第一条に「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定められているからです。
現在の皇室典範のもととなる明治時代の皇室典範の原案には、「男系絶ゆるときは女系を以て継承する事」の文言もありました。しかし、当時は男尊女卑的傾向が強く、伊藤博文はじめ政府高官のなかには、女性の政治的・社会的役割や婿入り婚を低く評価する意識がありました。また当時、天皇は軍隊を指揮する大元帥でもあり、軍人になれなかった女性が大元帥になるのは都合が悪かったのでしょう。こうした理由から、男系男子のみの即位が成文化されたのです。今も反対意見があるのは、日本がまだ男性優位社会で、女性を国家の象徴として仰ぐことに不安や抵抗があるからではないでしょうか。
■推古天皇も持統天皇も女性
「女性が即位するのは伝統に反する」と考えている人もいるようですが、それは誤りです。天皇家の系図を確定した「皇統譜」によれば、女性天皇は8名おり、そのうち2名が重祚(ちょうそ)(退位後再び天皇となること)しています。
「女性天皇は、天皇としてふさわしい男子が存在するまでの『繋ぎ』でしかなかった」という主張もあります。そうした女性天皇もいたようですが、すべてがそうではありませんでした。たとえば、推古天皇は中国が隋から唐に代わる時代の内政と外交を担い、元明天皇は平城京遷都を成し遂げました。上表のように、他の女性天皇も活躍しています。これらの業績が天皇ひとりの力ではないにせよ、激動の時代を女性天皇が担った意味は重要で、単なる「繋ぎ」とは言えないものがあります。
今後、男系男子の継承が今後も安定して続くのなら、特に女性天皇や女系天皇を支持する必要はないと思います。しかし、現在の皇室を鑑みるに、男系男子継承は困難であると予測される状況です。男系を重視して、旧宮家復帰や江戸時代の東山天皇に繋がる男系男子の継承も提唱されていました。しかし、天皇家との血縁関係も隔たり、平素の生活も一般市民と同じになっているなどの理由から、支持者は減っています。こうした困難性を回避するには、皇室典範にある「男系男子」を「天皇の子女」と改正するのがよいと私は考えます。それにより、安定した皇位継承が期待されるからです。
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1952年、東京都生まれ。立教大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。専門は日本近現代史。『皇族』(中央公論新社)など著書多数。
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(静岡福祉大学名誉教授 小田部 雄次 構成=鈴木 工)
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