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政治家たちは「経済自粛のツケ」をどれだけ国民に回す気なのか

プレジデントオンライン / 2020年5月13日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ffikretow

ホテル、運輸、外食、自動車など、多くの業界で企業の赤字決算が報告されている。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「どの企業も青息吐息で年間倒産件数は1万件を超えるおそれがある。政治家は自粛を指示するだけでなく、経済再開の基準も一緒に示すべきだ」という——。

■目も当てられない……コロナ禍で落ち込む日本経済、企業業績

新型コロナウイルスが日本経済に与える影響が深刻化しています。ホテル、運輸、外食、自動車産業をはじめ、多くの業種に影響を及ぼしています。

東京商工リサーチによると、5月8日までで、コロナ関連の倒産は128件。そのうち、宿泊業が29件で最多です。一部の食品メーカーのように業績が以前より良いところもありますが、多くは業績の低下に直面しています。

SMBC日興証券が「3月期決算」の企業の一部(199社)を調査したところ、2020年1~3月期の純利益は前年同期比67.3%減(非製造業、76.7%減、製造業59.3%減)とのことです。

図表1は、運輸業界の状況です。JAL、ANA、JR東日本、JR東海、JR西日本の各社の2019年3月期と2020年3月期の営業利益を比較しています。

運輸業界の状況

■JR各社、JAL、ANA、運輸業界も赤字決算

各社とも営業利益が悪化していますが、ほとんどが第4四半期(今年1~3月)の影響です。たとえば、JR東日本は、2019年1~3月期は443億円の黒字でしたが、2020年の同期では、463億円の赤字で、差額は900億円を超えています。

この図表1から、いくつかのことが読み取れます。

ひとつは、各社ともに業績を悪化させている中、減益率を見ると、JR各社よりも航空業界のほうが影響は大きいということです。とくにANAの落ち込みが大きいことが分かります。

こういう時に、企業存続のために必要なことは、資金繰りの確保ですが、ANA、JALともに、当面の資金は確保しています。たとえば、ANAは9500億円規模の資金調達計画を持っています。また、JAL、ANAともに、人件費をはじめとして、1000億円単位での経費削減や、配当を抑えることにより、資金流出を防ごうとしています。

比較的規模の大きな上場企業に関しては、銀行などが資金繰りの手助けをすると考えられますが、業績は厳しくならざるを得ません。

■「少し大きめの中小企業」や「中堅企業」の倒産リスクが高い

一方、ホテル業界では、それまで過大投資を続けてきた会社の倒産が続いていますが、今後は、他の業界でも、資金繰りがつかず、倒産、あるいは、将来の見通しが立たないことから廃業も相次ぐものと考えられます。

ポイントとなるのは、零細企業は政府の支援で何とか息をつぎ、大企業は銀行などからの融資も受けやすい面がある半面、その狭間にいる、「少し大きめの中小企業」や「中堅企業」の中には資金繰りに厳しいところが多く出てくると考えられることです。

そのため、現状年間8000件程度の倒産件数が、1万件を超えることも懸念されています。また、中小零細企業の中では、倒産でなく、廃業が増えることが懸念されます。

そして、先ほども説明したように、営業利益の悪化は1~3月より緊急事態宣言の影響が出る4~6月はさらに悪化しているものと考えられます。

■コロナウイルス第2波第3波襲来を前提にした経済活動の枠組みが必要

小売業界も大きな影響を受けています。「巣ごもり消費」などで一時期は良かったものの、全体での消費は落ち込んでいます。図表2を見ていただくと、百貨店の売り上げの落ち込みが大きいのが分かるでしょう。3月で前年比33.4%の減少です。4月以降は自粛がされに強化されているので、さらに悪化しているものと思われます。

小売業界の影響

また、旅行取扱件数も昨年からの日韓問題による韓国からの旅行客の減少に続き、年初あたりからのコロナウイルスによる中国からの訪日客の減少、さらに自粛による国内客の減少が続いています。表の旅行取扱状況の数字は2月までの分ですが、その後のほうの影響が大きいのは明らかです。また、小売業や旅行業はインバウンドに頼っていた面が大きいですが、ウイルスを考えれば、今後半年ほどはインバウンドの回復は見込みにくいでしょう。場合によってはそれ以降も影響が続く懸念があります。

自動車産業に目を向ければ、国内での4月の新車販売台数は27万台と、消費税増税の反動減だった昨年10月の31万5000台をも割り込む数字となっています。自動車メーカーや部品メーカーの業績も低調です。自動車産業はすそ野が広いですから、日本全体への影響も大きいものとなります。

ウイルスは、第2波、第3波がやってくると言われています。長期化にも備えなければなりません。そのためにも、ウイルス対策とある程度の折り合いをつけながらも、経済活動をある程度軌道に乗せることが必要なのです。ルール作りが必要です。

繰り返しますが、ワクチンが開発されるまでは、新型コロナウイルスは沈静化と拡大を繰り返す可能性があり、それを前提とした経済活動の枠組みが必要なのです。

■ドイツでは新規感染者がいても経済活動再開をする

5月7日までの緊急事態宣言は、現在のところ5月末まで延長されました。5月14日、21日に見直しが行われるとのことですが、どのように新型コロナウイルスを収束させ、経済を再開するのでしょうか。多くの方が疑問をお持ちだと思います。

米国でも、ドイツでも一部の地域で経済の再開が行われています。PCR検査数の差はあるものの、感染者の数は日本と比べ物にならないくらい両国は多いのです。

5月12日現在、ドイツでは、17万人強が感染し、約7700人が亡くなっていますが、経済活動の再開を進めています。日本では、感染者数は1万6000人弱、死者数は700人弱です。

ドイツでは、ピーク時に1日の感染者が7000人を超えていたのが1000人程度まで下がったことなどが経済活動再開の要因ですが、再度の感染拡大を防ぐための「緊急メカニズム」も用意しています。それは、各地域で「人口10万人当たり、週に50人を超える新規感染者が出た」場合に発令されるとしています。

この「緊急メカニズム」の発令条件を日本に当てはめてみました。「10万人当たり週に50人」ということは、1日当たり7人強です。東京都の人口は約1300万人=10万人の130倍です。ということは、1日に900人超(7×130)の新規感染者で「緊急メカニズム」が発動となります(※日本全体で見れば、1260倍して考えれば、1日当たり8500人強ということになります)

東京都では、新規感染者のピークは200人程度でした。最近では50人を切る日も少なくありません。その数字では、ドイツでは「緊急メカニズム」の発令には至りません。

■政治家たちは「経済自粛のツケ」をどれだけ国民に回す気なのか

もちろん、私は感染爆発していいと言っているのではありません。

日本は、米国やドイツと比べて、今のところはある程度感染を抑え込めていることは間違いありません。そのことは評価すべきです。しかし、感染が下火になっている状況で、いつまでも経済活動を「自粛」させていては、経済がおかしくなることは明らかです。先に見たように、すでに青息吐息の企業が多く、それを放置すると国を誤ることにもなりかねません。

緊急事態宣言を発動し、自粛要請や指示などを行えば、政治家、とくに、普段マスコミからあまり注目されていな都道府県知事はテレビなどでの露出が増えていいかもしれません。

しかし、あまりにも経済を締め付けることは、結果的に自身の支持基盤をなくすということを認識すべきではないでしょうか。東京都の場合には、財政が豊かですから、緊急事態を長引かせて、バラマキをすることもできるでしょうが、その他の地域はそうではありません。いずれにしても地元経済を殺したら元も子もないことを強く認識してほしいものです。

最後に図表3に米国の厳しい現状を示しておきます。米国の感染者数は130万人を超え、死者も約8万人に上っています。

長い間景気指標の分析をしてきましたが、米国のこれほど厳しい数字を見たことがありません。とくに非農業部門の雇用者数の減少に注目してください。前回も、3月の数字の減少(マイナス88万人)をとりあげましたが、その比ではありません。マイナス2053万人です。数字の間違いではありません。4月ひと月でそれだけの雇用が失われたのです。失業率も一気に10%以上悪化しました。GDPの7割を支える個人消費も大幅マイナスです。

米国の景気指標

そういう状況ですので、大統領選挙まで半年を切った米国では経済再開へ踏み込まざるをえないということもあると思います。一方、財政支援も日本の比ではないほど行っています。

日本が経済再開に慎重なことは理解できることではありますが、財政に余裕がなく、経済的な底力も米国やドイツよりも格段に低い日本では、経済にもう少し配慮が必要だと考えます。軸足を「経済再開」とするためにも、新規感染者数などの基準や再開のためのルールを早急に整備してほしいものです。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮 一慶)

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