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地元スーパーを悪質クレーマーから守るための「カスハラ対応4カ条」

プレジデントオンライン / 2020年5月20日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tdub303

店員などに悪質なクレームをつける「カスハラ」が深刻化している。弁護士の島田直行氏は「私たちが普段通りの生活を送れるのも、地元のスーパーのおかげだ。従業員のみなさんを守るため、クレーマー対応の4カ条をお伝えしたい」という——。

■店を守るため「不当な要求」を野放しにしてはいけない

店員などに理不尽な悪質クレームや迷惑行為をするカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻化している。食品スーパーの主要3団体は4月14日、来店客に対して「適切な来店マナー」を呼びかける声明を出した。

感染リスクにさらされながら、クレーム対応で疲弊した従業員からの退職相談が相次ぎ、事業継続すら脅かされる事態になっている。

スーパーの従業員は、新型コロナウイルス感染とクレーマー対応というふたつの恐怖に挟まれながら仕事をしている。私たちは従業員のみなさんのおかげで、新型コロナウイルスの広がりのなかでも何とか普段の暮らしを維持することができる。

誰であっても感謝することが筋であろう。それでもなかには自分の価値観だけで行動し他人を責めることをいとわない者もいる。こういった者による不当な要求を野放しにしていると、一生懸命に勤務している従業員に過大な精神的負担を与えることになる。耐え切れずに退職を申し出てくるかもしれない。

そのことを認識してもらったうえで、今回は私が弁護士として長年クレーム対応をしてきた経験から、「カスハラ対応の4カ条」をご紹介したい。

■クレーマーとは議論せず、受け流すに尽きる

客が「なんで欠品なんだ」と感情的になって手を付けられない場面を考えてほしい。まさにモンスター客が出現した状況だ。

① 議論を避け、まずは受け流す

前回記事でも指摘した通り、「冷静になってください」「落ち着いてください」となだめすかせるのは意味がない。意味がないどころか「なんで従業員が上から目線で客にものを言うのか」とさらなる反発を受け、事態をさらに悪化させる恐れがある。カスハラの加害者は基本的に「お客である自分は偉い」という前提に立ち、それを否定されるのを許せないからだ。

こういうケースのときには、欠品になっている具体的な理由を冷静に説明しても、おそらく相手としては話が終わることはない。クレーマーにとっては自分の欲しいものがすぐに手に入らないことにいら立っているわけで説明を聞きたいわけではない。

この場合の対応としては、議論せずに受け流すに尽きる。クレーマーと議論をしても問題の解決にはならない。むしろ「お客に対して反論した」とヒートアップすることになる。しなやかに受け流すことこそ理想だ。

② 「ご存じのように」でクレーマーを鈍らせる

具体的な対処方法としては、「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ご存じのように新型コロナウイルスの関係でみなさまにはご迷惑をおかけしています。お客様もご理解していただけるとは思いますが、ご協力のほどお願いします」と回答してみるといい。一見すればたわいない表現ではあるが、クレーマー対応としてのコツが含まれている。

■クレーマー対応のコツは、相手の自尊心をくすぐること

まず一般的な謝罪の文言から入る。これは別に特定の行動に対する謝罪を意図したものではない。挨拶のようなものではあるが謝罪から入ることで「あなたの話を聞く姿勢です」ということをクレーマーに示すことになる。

これでクレーマーのトーンが落ち着くことがある。次に「ご存じのように」という言葉で新型コロナウイルスについて触れていく。新型コロナウイルスの影響で流通に影響がでているのは誰しも理解していることだ。

クレーマーにしても新型コロナウイルスで影響がでていることを否定することはできない。あえて反論できないトピックスを示すことで、話し合いの流れを変えていくことができる。さらに「負担はみんなが共有している」ということを示していく。

クレーマーに対して「まさか誰しも負担を強いられているなかで自分だけが利益を得ようとしているわけではないですよね」と言外にプレッシャーをかける意味がある。クレーマーといえども明確に「自分だけ利益を与えろ」と言うことはできない。反論の言葉に困ることになる。

そのうえで最後に「お客様もご理解いただけるとは思いますが」と誘導的な言葉を持ってくる。この言葉には、「聡明なあなたがまさか不当な要求をするわけないですよね」という牽制的な意味がある。クレーマー対応のコツは、相手の自尊心をくすぐることにある。

クレーマー対応に慣れていない人ほど理路整然と対応し相手の顔をつぶしてしまう。これではさらなるクレームになってしまう。

■強気に要求してくるのは、名前と住所を隠しているから

もちろんこういった対応で終わればいいのだが、解決しない場合もある。

そういうときには「ご納得されておられないことは承知しました。お客様からの大事な御意見ですから上司と相談のうえ改めて書面にて回答させていただきます。御名前と御住所をお伝えください」と回答してみるといい。

③ 名前と住所を尋ね、クレーマー個人を特定する

スーパーでのやりとりは突発的なものばかりだ。従業員としても「その場でお客様に納得してもらわないといけない」と誤解して焦って対応しがちである。お客様から何か意見を受けたからといっても即座に回答できるものばかりではない。

クレーマーからの言いがかりであればなおさらである。責任感のある人に限って「自分でなんとかしないといけない」と考えて泥沼にはまるのがクレーマー対応だ。「自分ではもう無理」と割り切る姿勢も大事だ。経営者としても従業員が無理をしないように注意をしておかなければならない。

スーパーでのクレーマーの特徴のひとつは、氏名や住所といった自分の情報を明らかにしないことだ。あえて自分を不特定多数の客のひとりとすることで強気に要求をしてくる。いわば責任をともなわないからこそなんでも言えるというところがある。

■名前と住所は「後日書面で回答するため」

そうであれば発言に責任をもってもらうために氏名と住所を明らかにしてもらうべきだ。氏名などを求めると「もういい」と言って終わるケースも少なくない。「自分」を特定されると困るのであろう。

仮に弁護士に相談するにしても相手の氏名と住所がわからないと書面のひとつも送付できないので迅速な対応ができない。クレーマー対応においては、個人を特定するということが重要になってくる。

さりとて「名前と住所を教えてください」と言っても簡単に教えてくれるものではない。そこで「会社としてきちんと対応するため書面にて回答させていただきます」という姿勢で臨むわけだ。

こうすれば相手としても「なぜ氏名などを教えないといけないのか」と反論しにくくなり諦める。それでもさらに続くようであれば警察や弁護士の協力を求めることも選択肢として持っておくべきだ。

■事前の対策こそが最大の防御になる

こういったカスハラ被害については、事前の防止策も用意しておくべきだ。カスハラ被害については事前の対策こそ最大の防御にもなる。防止策のひとつとして考えていただきたいのが、カスハラ被害の情報開示である。

④ カスハラ被害の情報開示し、協力を呼び掛ける

「新型コロナウイルスで大変な状況のなかで従業員がカスハラ被害に遭っている。みなさんも支援してほしい」ということをあえて明らかにするということだ。もちろん関係者の個人が特定されるような表現はしてはならない。あくまで被害の概要をあげることで十分である。

こういった開示は、なによりカスハラ被害の抑止力になる。しかも一般のお客様から見れば「従業員も大変だ」という共感をうみだすこともできる。なかなか周囲からはカスハラの実態というのは伝わらないものだ。お客様からの共感というのは、従業員にとって大きな支えにもなる。

現場の人々を守るのは、もはやひとつの企業だけでの問題ではない。この受難の時期を超えていくためにも協力して現場の人々を支えていこう。

■クレーム対応は従業員を守り、店を守り、地域住民の生活を守る

クレーム対応に耐えきれず退職を申し出る従業員が続出すれば、店の運営が立ち行かない。このご時世に新たに店舗に立ってくれる人を確保することは容易なことではない。

従業員が安心することができるからこそ、お客様にもしかるべき安心・安全なサービスを提供することができる。従業員を守ることは、間接的にお客様を守ることにもつながる。経営者や店の責任者はそのことを自覚してほしい。

現在のスーパーの労働環境は、過酷のひとことに尽きる。外出自粛の要請により自宅で食事をとる機会が増えた。そうなると普段よりもスーパーでの買い物の機会が増えてくる。従業員の方は、増加したお客に対応するため十分な休憩もとれずに働き詰めという話も耳にする。

しかも「感染防止のために家族での入店はご遠慮を」と掲示しても「スーパーくらい大丈夫だろう」と安易に考えて家族総出でカートを押している姿を見ることもある。人は、どこかで「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信を持つことがある。

普段はソーシャルディスタンスと言いつつも「スーパーはいつもの買い物と同じ」ということはないだろうか。そういった心の緩みが従業員の方を感染のリスクと隣り合わせにさせていることを自覚しないといけない。

■クレーマー対応のポイントは消費者側も共有するべきだ

従業員の方は、こういった肉体的な疲弊のうえにクレーマーからの言いがかりで精神的にも疲弊することになる。

島田直行『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(プレジデント社)
島田直行『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(プレジデント社)

「なぜ欠品なんだ。すぐにどうにかしろ」「お前はきちんと消毒しているのか」「早くしろ。感染したら責任とれるのか」といった心ない言葉を受けているそうだ。

こうなると誰しも「もう辞めたい」という気持ちにもなってしまう。それは私たちが「スーパーで買う」ということができなくなることにもつながってしまう。

私たちは、従業員の方をクレーマーから守らなければならない。こういった緊急状態だからこそ普段の暮らしのなかでの「連帯」という意識が必要だ。そのためにはクレーマー対応のポイントを店舗のみならず消費者も共有しておくべきであろう。

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島田 直行(しまだ・なおゆき)
島田法律事務所代表弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(いずれもプレジデント社)(プレジデント社)がある。

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(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行)

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