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安倍首相は他国の女性リーダーと比べてなぜこんなにも頼りないのか

プレジデントオンライン / 2020年5月14日 11時15分

新型コロナウイルス感染症対策本部で、緊急事態宣言を5月31日まで延長することを表明する安倍晋三首相(右)=2020年5月4日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

世界中が新型コロナウイルスの対応に追われる中、日本をはじめ各国の男性リーダーの姿勢に批判が集まっている。彼らに足りないものは一体何か。法政大学ビジネススクールの高田朝子教授は「リーダーが備えるべきものを身に付けていない。それは、賞賛されている女性リーダーたちの行動を分析すると見えてくる」と指摘する――。

■右往左往し、迷走する男性リーダーたち

「もっと早く判断しておけば良かった。責任は私にある」と安倍晋三首相は後手後手のコロナ災禍への意思決定を振り返った。依然として首都を含む大都市の多くは緊急事態宣言が継続され、空港や新幹線駅の人影は驚くほどまばらで都市機能が停止していることを実感する。

政府の迷走の中で失われた時間や人や仕事やモノは決して戻ってこない。わが国のコロナ対応には歯がゆさ以外ない。

ブラジル大統領のように「ちょっとした風邪」と言い切ってコロナ対応より円滑な経済の振興を最優先させるとか、「消毒剤を注射させることで対応できないか」とわりと真剣に言ったアメリカ大統領とか、ファンタジーレベルの発言を繰り返しているわけではないけれども、右往左往しているうちに真綿で首を絞められるように実体経済は悪化している。

最前線で火の粉を被っている市井の私たちは、ほぼ何も政府に期待しなくなってしまっている。心理的な自己防衛機能が働いているのである。期待をすると裏切られたときの絶望が深く、立ち直るのに時間を要する。よって期待しない。この状態を心理学では学習性無力感と呼ぶが、文字通りこれを学習してしまった。

彼らには一体何が足りていないのだろうか。それは、いま世界中で賞賛されている女性リーダーたちの行動を分析すれば見えてくる。

■女性リーダーたちが賞賛されるのは「女性だから」ではない

コロナ災禍にうまく対応している国のトップは女性が多い。「女性リーダーがコロナを抑え込む」「女性は危機対応能力が高い」といった種類の記事が世界中で特集され、各国の女性リーダーたちの手腕を絶賛している。

多くの記事は、迅速に決断し、対応し、発信した彼女たちのずば抜けた有能さを賛美した上で、ダイバーシティの大切さを訴え、より多くの女性を社会の意思決定プロセスに取り入れるべきだとの文言で締めくくられる。

女性リーダーたちの大活躍をメディアで見る度に同性として誇らしく、うれしく、深く尊敬の念を持つ。一方で、これらの記事を読む度に2つの感情が入り交じってなんとも言えない気持ちになる。

まず、女性リーダーは危機対応能力が高いという雑なくくり方への違和感である。次に、感情移入ができないもどかしさである。女性をトップに選べるほどリベラルな国、別世界の話と、心の中で切り取って考えてしまうのだ。わが国の現実を顧みると余りのギャップに押しつぶされそうになるために、ここでも自己防衛機能が作動してしまうのかもしれない。

彼女たちは、女性だから危機管理能力が高いのではもちろんない。これまでの男性中心社会で選ばれた男性リーダーたちとは明らかに違う「素質」を持っているにすぎない。

■彼女たちの振る舞いにある3つの共通点

一連のコロナ対応で女性リーダーたちが賞賛されている振る舞いは、以下の3つに大別される。

①命を守ることを何よりも優先する
②自分の言葉で的確に迅速に伝える
③人々に対する慈愛の態度

これらは女性リーダーの特性ではない。一般にリーダーシップに必要とされる要素である。女性リーダーだからこれらの振る舞いができたのではなく、優秀なリーダーだから危機対応能力が高かったのである。性別は関係ない。

要素に分解してみよう。①は先を見通して優先順位を決定する能力である。多くの男性リーダーたちが事態を甘く見て経済を優先させたがゆえに感染を拡大させ、医療崩壊と経済停滞をもたらした。②はリーダーシップの必須アイテムである言語化能力のことである。①と②は危機対応の両輪である。先を見通し優先順位をつける能力があるからこそ、的確に言語化することができる。

特に、自分の言葉を使ったメッセージで支持を得たのはニュージーランドのアーダーン首相やドイツのメルケル首相だろう。アーダーン首相は、テレビを通じて何をしなくてはいけないかを具体的に示し、シンプルな言葉で語りかけ、必ず自分たちはこの戦いに勝つと繰り返す。そして最後に締めくくる“Be kind. Stay at home. Save lives.”の言葉は移民も含めて老若男女全ての心に響いた。

物理学博士の経歴を持つメルケル首相も、具体的な数字を交えながら国民に政策を分かりやすく伝える姿勢が評価されている。

③の慈愛の態度は、本人の特性に根ざしたものなので、行動とは分けて考える必要がある。

■リーダーやスポーツ選手が大事にする「効力感」

彼女たちの振る舞いの根底にあるのは、強いリーダーシップを持つ人間特有の「効力感」である。効力感はアルバート・バンデューラ(1977)が発表した概念で、内発的動機付けの代表的なものである。具体的には「できると思う気持ち」を持った状態を指す。

最も分かりやすい例がスポーツだろう。多くのスポーツ選手が試合前に「負ける気がしない」と口にする。この状態が効力感を持った状態である。未来に対して自信感を持っているのである。行動をする際に「きっとできる」「乗りこえることができる」等の感情を持っていると、これらの感情がない状態よりも圧倒的に成功確率が高いとされる。つまり、危機の最中に人々がこの効力感を持つと、自らの行動を変えることができるのだ。

効力感は4つの理由から発生する。成功体験を得ること、他人の成功をみること(代理体験)、「君はできる」などと説得されること(言語的説得)、生理的状態が良いことである。

危機対応のリーダーがやるべきことは、部下や仲間など働きかけたい人々に小さな成功体験を多く積ませることである(※)。成功体験を得るには、とった行動のフィードバックを受けることが必要である。具体的な目標を提示し、それを達成して初めて成功体験は生まれる。危機の最中では生き残るために情報共有のスピードが上がり、小さな成功体験を頻繁に感じる機会が増える。やり方によっては通常よりも効力感のサイクルが早く発生する環境にある。

※高田朝子『危機対応のエフィカシーマネジメント-チーム効力感がカギを握る』(慶應義塾大学出版会)参照

■やるべきコトの指示が具体的な台湾の例

効力感という視座から女性リーダーたちの対応を考えると、彼女たちが抜群にうまく国民の間に効力感を発生させる対応をしていたことが分かる。全ての国民に効力感を持たせることは現実的でない。しかし、マジョリティーに訴えかけ、行動変容を促すことには成功しているように見える。

優先順位を決め、素早く意思決定と実行をし、その結果を頻繁にフィードバックする。これは成功体験のサイクルを細かく設定し循環させることと同じである。台湾の蔡英文総統は、公衆衛生のプロである陳建仁副総統に毎日の定例記者会見を任せた。彼は記者たちのどんな小さな質問にも答え、同時に台湾政府の対応において現状で達成したことと、足りないことをプロの視点から具体的な数値を出して丁寧に説明した。

やるべきコトの指示が具体的であり、そこに違う解釈が入る余地を作らなかった。国民は、自分たちの小さな我慢や行動で感染者数が減少するという事実を毎日示され、日々の成功体験を積むことになった。

危機の際に不安を持たない人はいない。よって有事には頻繁に具体的な情報を示し、朝の来ない夜はないことを訴えかけることこそがリーダーの責務である。これがリーダーに不可欠な「言語的説得」である。いち早く鎖国状態を決め、コロナの封じ込め政策をとったニュージーランドのアーダーン首相も、自らの言葉で言語的説得を行い、国民のコロナを乗りこえるための効力感を培うことに成功しているのは述べた通りだ。

■なぜ、彼女たちはここまでできるのか

なぜ、女性リーダーたちは国民の効力感をうまく育てることができたのか。強いて言えば、彼女たちには研ぎ澄まさざるを得なかった鑑識眼があったことだろう。

依然として全体の中の少数派である女性リーダーにとっては、正しい情報源、真のプロや専門家を見つけて味方にすることが、圧倒的多数派の男性と互角にやり合い生き残るために不可欠だ。

先を見通し優先順位を決めるためには、多くの情報を集めることが必要である。権力者の周りには有象無象に私利私欲、もしくは純粋な厚意で人が大勢群がる。その中で誰が正しい情報を持ち、誰がどの分野において本物のプロなのかを見つけだす鑑識眼を持ち、迅速に選択し対応することがキャリアの明暗を分ける。

女性リーダーは鑑識眼を磨かなければ生き残れない環境を生き抜いてきた。その経験が今回のコロナ対応で適切なプロを選び、対応を任せ、自らも先頭に立って国民に働きかけ、結果的にはうまくコロナの感染拡大を押さえ込むことにつながった。

■指示が曖昧で、クレームが出ると「誤解だ」と逃げる日本

一方で、わが国の現状を分析すると、国民の効力感の発生を意図的に抑え込んでいる気さえする。国民に対し、どうすれば戦いに勝てるのかの具体的な絵図を示し、一つ一つ数値でブレークダウンして何をやるべきかを示し、達成の協力を求めるべきが、根拠を明示しないまま「つらいお気持ちは分かります」「~をお願いしたい」といった情緒的な言語的説得にのみ終始している。

具体的な指示を出したつもりが、曖昧でクレームが噴出すると「誤解だ」といって逃げる。これでは国民に効力感なぞ発生しない。

未知のウイルスとの戦いであるので、その対応については試行錯誤をすること、朝令暮改になることは避けられないし、恐れてはいけない。一方で、人々が目に見えないコロナへ対峙する際の成功体験を得るには、目に見える数値の達成が不可欠である。毎日の小さな成功体験を繰り返すことで長い我慢のロードを歩くことができる。我慢のロードには金銭的な保障が必須であることは明白だが。

もちろん、言葉による説得は必要である。しかし、口先だけでは最初は効力感に作用するかもしれないが、国民にそう長くは効かない。成功体験がないと「どうせ口だけなんだろう」ということを学習し、予測してしまうからである。言語的説得は、成功体験とセットになった時に最も効力感が醸成される。

■コロナ時代のリーダーがやるべき2つのこと

未知の恐怖と戦うリスクと共存しながら、新たな社会の形、新たな経済活動の形を作り出すことが求められているリーダーたちに必要な努力は2つである。ひとつは、きめ細かくやっていることを可視化すること。疑心暗鬼の人々を相手にするのが前提であるから、信頼を得るためには透明性を担保しなくてはいけない。ふたつ、国民に何らかの行動を要請したら必ず結果をフィードバックすること。これは国民が成功体験を得るために不可欠である。成功体験は心を軽くする。

この2つを普段よりも短いサイクルで積極的に行う。これは、効力感のマネジメントと同義だ。実行することで少なくとも「現状よりもマシ」な状態がやってくるだろう。同時に社会も危機対応時の試行錯誤を許す寛容性を持つことが必要であることは言うまでもない。

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高田 朝子(たかだ・あさこ)
法政大学ビジネススクール 教授
モルガン・スタンレー証券会社を経て、サンダーバード国際経営大学院にて国際経営学修士、慶応義塾大学大学院経営管理研究科にて、経営学修士。同博士課程修了、経営学博士。専門は組織行動。著書に『女性マネージャー育成講座』(生産性出版)、『人脈のできる人 人は誰のために「一肌脱ぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、新刊『女性マネージャーの働き方改革2.0 ―「成長」と「育成」のための処方箋—』などがある。

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(法政大学ビジネススクール 教授 高田 朝子)

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