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橋下徹「なぜ芸能人も意見表明するべきなのか」

プレジデントオンライン / 2020年5月20日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/takasuu

検事総長以外の検察官の定年を63歳から65歳に引き上げること、検事総長以外の検察官は特例を除き63歳を迎えたら役職定年を迎えること――を柱とした検察庁法改正案が今国会に提出されたが、芸能人を含む数多くの著名人がSNS上で「反対」を表明、法案成立は見送られることになった。反対派の主張には誤解に基づくものも多かったが、それでも多数の国民が声を上げたことは素晴らしいことだと橋下徹氏は総括する。それはなぜか。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(5月19日配信)から抜粋記事をお届けします。

(略)

■芸能人を含む国民の直感的判断は学者の判断よりも絶対に「まし」

今回の問題では、芸能人・著名人が、特にツイッター上で抗議の声を上げた。「#検察庁法改正案に抗議します」が、大氾濫したね。

この点に関して、自称プロ政治評論家の側から、「検察庁法改正案」をしっかり勉強してから声を上げるべきだ、という旨の批判の声も上がった。

しかしそれは違う。

国民は日々自分の仕事で忙しい。政治で議論されていることを、事細かに調べる時間などない。そういう国民の労働によって税金が納められて国家が運営されている。きちんと勉強してから政治に声を上げろ! というのはプロの政治評論家側からの横暴極まりない論だ。

(略)

ただし同じ国民でも、公共の電波やメディアで発言する者や、政治評論を生業としている者、学者などすなわちプロの政治評論家側は、当然しっかり勉強してから意見を発してもらわなければ困る。ここはプロである以上、それは当然のことだし、お互い勉強しあった者どうしが意見をぶつけ合うからこそ、ベターな解が見つかるというものだ。

だから僕は、こういう「プロ」の政治評論家を相手にする際には、「もっと勉強してこい!」のフレーズを多用する(笑)

(略)

そもそも政治に対する評価として、大多数の国民の直感というものは概ね間違ってはいない。この点について何か科学的な根拠があるのかと言われればそれを示すことはできないが、僕が8年間政治をやってきた経験に基づく感覚だ。

様々な人生経験と価値観を持っている国民。その国民が数千万人集まって、ある政治的な事柄について直感的に判断する。

この判断と、特定の学者や政治評論家が、部屋に閉じこもって本を読みこんで得た知識を基に、頭の中でこねくり回した判断。

どちらの方が、より「まし」か。

僕は前者だと確信するね。

もちろん、国民の判断だって間違うことはある。しかし学者や政治評論家でも間違うことはある。

絶対的に正解しか言わない者などこの世に存在しない。だから政治の評価を下すには、僕は国民大多数の直感的判断の方が、一人のお勉強家の判断よりも「まし」だと感じる。そして仮に国民大多数の直感的判断が間違っていれば、後に修正すればいい。

今回の検察庁法改正問題に関しても、政治評論を生業にしていない者は、たとえ検察庁法改正案を詳しく勉強していなかったとしても自分の意見を堂々と言い続ければいいと思う。当然、反対意見の者から批判されるだろうし、ちょっと知識を持っている者からは、「もっと勉強してこい!」 と言われるかもしれない。

しかしそれに負けずに、自分の意見を述べ続ける。そして色々な人たちから指摘を受けて「自分が間違っているな」と感じれば修正する。その繰り返しによって国民による政治判断の力がレベルアップし、その結果日本の政治もよくなると思う。

(略)

■吉村知事の活躍と大阪の民主主義のレベルは連動している

僕は、このような有権者同士が激しく政治的見解をぶつけ合う必要性を政治家時代ずっと言い続けてきた。

今、新型コロナウイルス感染症対応に関して、吉村洋文大阪府知事が全国的に大変な高評価を得ている。

もちろん、それは彼の実力がいかんなく発揮されていることによる。

(略)

ただし、彼もこの点は十分にわかっていると思うが、このような吉村知事が誕生し、彼がこのような政治家になったのも、大阪府民の民主主義がレベルアップしたことに連動している。

(略)

吉村さんの今回の活躍によって、大阪の周辺府県に住んでいる人たちから、いや全国から、「大阪はええな」という声をよく聞く。

住民は、得体の知れないウイルスに恐怖し、先行き不透明な将来について相当な不安を感じているのだと思う。

そんな状況に最も必要なのは、リーダーが照らす「ヘッドライト」だ。

今の大阪には吉村さんが照らす強力な「ヘッドライト」がある。我々の先にある道は、確かに確実、明確なものではない。それでもライトがあるのとないのでは大違いだ。

住民は、小難しい政治論ではなく、吉村さんがヘッドライトを灯してくれていることに安心感を得、それを評価している。そしてそれは大阪府民にとどまらない。まあ僕を含めてのプロ政治評論家は、グダグダと言っているけど。

この大阪の政治の状況は、まさに政治と有権者が相互反応して民主主義がレベルアップしてきた結果だ。

(略)

■「都構想」の住民投票によって大阪の民主主義はレベルアップした

では、なぜ大阪の民主主義がレベルアップしたのか。

それは、大阪の有権者が、政治課題について考え、意見を発し、他人の意見を見聞きする機会が爆発的に増えるようになったからだ。

そして、やはり2015年の5月17日の大阪都構想の住民投票の影響は大きかったと思う。

(略)

大阪の有権者は、みんな必死に考えてくれた。メディアからの情報や役所から配布された資料を基にしたり、大阪市役所や大阪維新の会が開いた住民説明会に足を運んでくれたりして、大阪の未来のために、この小難しい大阪都構想について悩んでくれた。

SNS上には、この話題が溢れた。皆、賛否を述べあっている。ときには事実誤認や虚偽の情報に基づく意見もあったが、一般の有権者はそこまで正確にこの難解な大阪都構想を完全理解できるわけがない。僕や大阪維新の会のメンバーが、SNS上で一生懸命反論した。

(略)

このようなプロセスをたどることで大阪の民主主義が確実にレベルアップしたと思う。今、大阪内の選挙においては「明るい未来を作ります!」系の抽象的な公約では選挙にならない。その地域の課題をしっかりと把握し、それについての解決策をきちんと公約にしなければ有権者に見向きもされない。これが大阪の政治状況だ。

(略)

■これは「国民の分断」ではなく「民主主義のレベルアップのための試練」だ

民主国家において政治をよくしようと思えば、当たり前の話だが有権者のレベルが上がらなければならない。政治家は有権者にとっての鏡である。政治家がだらしない、いい加減だと思うなら、それは有権者と同レベルなんだと思わなければならない。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

そして有権者の民主主義のレベルを上げるためには、大阪のようにとにかく各有権者が自分で意見を述べ、他人の意見を聴き、お互いに意見をぶつけ合って自分の政治を見る目をブラッシュアップする以外に方法はない。

マスメディアから流される、解説委員や論説委員、僕を含めたコメンテーターたちの特定個人の意見を「聴くだけ」ではダメなのである。自分の意見を多くの他人にさらして、そこでぶつかり合わなければならない。これはしんどい作業だろうが、それを避けていては民主主義のレベルは上がらない。

今回の検察庁法改正問題については、SNS上で賛否が激しくぶつかり合った。これまでも特定秘密保護法や共謀罪、平和安全法制などのいくつかの政治的テーマにおいて賛否が激しくぶつかり合うことは何度もあったが、1回のぶつかり合いで民主主義のレベルが上がるものではない。何度も何度もぶつかり合いをしなければならない。

このようなことを「国民の分断」と呼ぶか、「民主主義のレベルアップのための試練」と呼ぶか。僕は後者だ。ただもちろん一定のルールがある。いくら激しく意見をぶつけ合うにしても政治批評を生業にしていない一般の人を誹謗中傷してはならない。

今は、マスメディア抜きで有権者どうしが気軽に意見をぶつけ合えるSNSというツールがある。これを使わない手はない。SNSを最大限に有効活用して有権者は、激しく意見をぶつけ合うべきだ。そのことが確実に日本の民主主義のレベルを上げる。日々の暮らしに忙しい人たちは、特定の政治テーマについて詳しく勉強する暇などないのだから、詳しく勉強していないことに何ら臆することはない。

(略)

(ここまでリード文を除き約3100字、メールマガジン全文は約1万5700字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.200(5月19日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【検察庁法改正問題】芸能人・著名人も入り乱れて「反対」の嵐! 大騒動を冷静に読み解く》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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