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竹中平蔵「このままいけばコロナ後、日本が世界の先端に立てるかもしれない」

プレジデントオンライン / 2020年5月21日 11時15分

コロナショックで日本、そして世界は大変なことになっている。いつか終わりの日が来る大恐慌。そのアフターコロナに向けて。

■日本の経済対策、批判があって当然

今回のコロナショックで多くの事業者が経済活動の休止を余儀なくされている状況から見ると、今後の経済は相当に厳しくなることを覚悟しなければなりません。アメリカ議会の予算局は、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になっている2020年4月から6月までのGDP(国内総生産)の成長率が、年率換算でマイナス28%以上という予測を出しました。これは1930年前後の世界恐慌のときよりも深刻です。

日本も人ごとではなく、日本経済研究センターがエコノミストに聞き取り調査をした結果、20年5月に発表される20年1~3月期のGDPはマイナス4%、20年4~6月期はマイナス11%になるという見通しが出ています。これから本格化する不況に向けて、相当の手当てが必要でしょう。ちなみに国際通貨基金(IMF)はコロナ禍を受け、2020年の世界のGDPをマイナス3%、アメリカはマイナス5.9%、日本はマイナス5.2%としています。

20年4月7日、日本政府は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策として過去最大となる約108兆円の予算を組みました。緊急経済対策の予算が決まる直前の20年3月27日に決定した20年度一般会計予算が約102兆円なので、それを少し上回る数字を見せたかったのでしょうか。ところが、この金額にはほとんど意味はないのです。

これには19年12月に成立した補正予算の未使用分9.8兆円も含まれています。さらに、今回の緊急経済対策には法人税や社会保険料の支払いを猶予するという項目に約26兆円が計上されていますが、これらは将来的には納めなくてはいけないものですからGDPの押し上げは期待できません。約108兆円の中で政府が実際に支出する、いわゆる「真水」は19兆円程度と思われます。GDPを10%押し上げるのに50兆円ほど必要だといわれているので、とても足りない数字なのです。

急落した街角景気(現状判断DI)

諸外国では、政府が国民に現金を給付するという、通常では考えられない対応を迅速に実施しました。アメリカでは、大人1人(年収約808万円以下)に現金約13万円、子供1人に現金約5万5000円を支給することをすでに20年3月下旬に決めました。ドイツは自営業者に3カ月で最大約108万円、フランスは最大約18万円、イタリアやスイスでも一定額を支給する方針が打ち出されています。カナダは、新型コロナの影響を受けた人全員に月約15万円を給付するほか、学生ローンの返済も3カ月猶予するとしています。

経済学者 竹中平蔵氏
経済学者 竹中平蔵氏

一方、日本が全国民に一律10万円の現金給付を決めたのは事態がすでに深刻化した20年4月16日夜と、大幅に出遅れました。諸外国に比べて規模が小さいうえに対応が遅いと国民からは批判が上がりましたが、批判は正しいのです。

このままだと経済の悪化がとまらずさらなる失業者が出ますから、追加の対策を行う必要があるでしょう。都内の某タクシー会社が業績悪化で、約600人の運転手などを解雇する方針を示すという事態もすでに起きています。

政府が所得制限などは設けず、とにかく国民全員に対し10万ないし30万円を一刻も早く配る方法を考えるべきでした。例えば布マスク2枚と一緒に小切手で配ればよかったのです。そして、後からマイナンバーを使って確定申告してもらい、新型コロナの影響を受けていない層や富裕層からは返納してもらう。「とにかく配って、後から返す」という迅速な対応を、マイナンバーを使って行うべきでした。また、今後、さらなる経済対策が必要となる場合はマイナンバーの所持を条件に一律給付をすればいいでしょう。

■マイナンバーの普及をこれを機に進める

そうすれば、マイナンバーが普及してデジタルシフトが進むというメリットもあります。新型コロナが長引けば、これからいろいろなことをデジタルで行わなくてはならない未来がやってきます。究極的にはインターネットで投票などもできるようにしなくてはいけません。一カ所に人が集まり、同じ鉛筆で投票することほど危ないことはないでしょう。ネットでの投票を実現させるためには、個人認証制度が必要です。日本では、そのためにマイナンバーを作ったのです。ちなみにネット投票が実現すれば若い世代の投票率が上がり、政治の中身も変わるでしょう。

インドでは個人認証制度が進んでいて、総人口約13億人のうち12億人が指紋と虹彩だけで認証ができます。デジタル社会においては、個人認証システムこそがとても重要で、それが日本の場合はマイナンバーなのです。

■危機意識のない国民は不要不急の外出を続けている

いま、新型コロナを機に世界各国でデジタルシフトの波が起こっているにもかかわらず、日本はコロナそのものの対策にとらわれて、チャンスを逃しています。例えば、国を挙げて公立学校にオンライン授業を取り入れることもできたでしょう。しかし日本にはこの期に及んで、はんこを押すために出社させるような会社がまだあるのです。このままだと、このコロナ不況が終わってからも、日本は各国と経済力で差をつけられてしまいます。

政府対応経過

国民の側にも責任があります。20年4月に緊急事態宣言が出されて、外出自粛要請が法律に基づくものになりました。しかしながら、この法律には罰則がないため、効力としてはいまひとつと言わざるをえません。危機意識のない国民は不要不急の外出を続けています。

多くの国では罰則を伴った不要不急の外出禁止命令が出されています。イギリスでは公共の場に3人以上で集まることなどを禁止し、違反すれば警官から人と距離をとるよう命令されたり、最低30ポンド(約4000円)の罰金が科せられたりする措置がとられています。フランスでは、生活必需品の買い出しなどの一部の例外を除き、違反すれば135ユーロ(約1万6000円)の罰金が科されます。

また、多くの国では戦争を想定して法律が作られているので、今回のコロナ禍でも戦争のときの態勢を取っています。例えば、アメリカは朝鮮戦争中の1950年に成立した国防生産法を引っ張り出して、ゼネラルモーターズに対して人工呼吸器を生産するように命令を出しています。国防生産法とは、戦争継続のために必要な兵器・物資の増産や調達先の拡大、それにかかわる企業の賃金、そして広く一般消費財への物価統制まで、幅広い権限を大統領に認める法律です。アメリカは戦争や自然災害が起こるたびに、この法律を使って危機を乗り越えてきました。

そして、フランスのマクロン大統領は、20年3月16日という早い段階に、「これはウイルスとの戦争である」と明言して外出禁止を訴えました。世論調査によると、外出禁止や商店閉鎖などのフランス政府の感染対策に対する支持率は95%と高く、ほとんどのフランス国民が、いまの状況は戦時中と同じくらいの非常事態だと認識しています。

しかし日本では新型インフルエンザ等対策特別措置法に「緊急事態宣言」を盛り込むことに関して「首相にそれほどの強い権限を持たせるのは良くない」と声を上げた方々がとても多かった。20年3月7日付の朝日新聞朝刊の社説でも「新型コロナウイルスを対象に加える新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が成立すれば、人権の制限を伴う措置が可能となる緊急事態宣言を首相ができるようになる。しかし、合理的な根拠と透明性に著しく欠ける意思決定を重ねる首相に、その判断を委ねるのは危うい」と非常に否定的な意見が述べられています。

各国首脳発言

■日本人が今回反省すべきこと

私は、日本に「非常時に備える」という風潮がないことを反省するいい機会だと思います。この先も今回のような非常事態は起こりうるわけで、そのときにきちんと強い統制をしないと国民全員が困ることになります。AIの台頭も何年も前から言われていることですが、一体どれくらいの国民が危機意識を持って備えているでしょうか。

東京五輪延期
時事通信フォト=写真

いま、国民一人一人ができることは、まず第一に感染を拡大させないために不要な外出を控えること。そして、この騒動をきっかけに、遠隔で物事を行うためのデジタル技術を徹底的に活用することです。いままでそういったものを使ったことがない人も、相対的に時間があるいまの時期に習得していくことが大事だと思います。

いまは暗いニュースが続いていますが、アフターコロナのことを見据えてきちんとデジタルシフトしておけば、世界の先端に立てる可能性はあります。

幸い、日本は諸外国と比べて、新型コロナによる死者数を少なく抑え込めています。20年4月22日の時点での各国の人口1億人あたりの死者数は、中国332人、韓国460人、アメリカ1万3824人、イタリア4万834人であるのに対して日本は222人にとどまっています。一人一人が元気で働くことが経済の源ですから、このまま死者数を抑え続けることができれば、日本の経済は比較的明るいといえるでしょう。場合によっては日本が世界の先端に立つことになるかもしれません。

14世紀にイタリアで黒死病が流行したときは、国民の4分の1が亡くなりましたが、今回もイタリアの死者数は深刻な数字です。人口比で見ると日本の200倍ぐらいの方が亡くなっているわけですから、経済的ダメージも相当なものになると思われます。

過去に危機的状況をチャンスに変えた国として、韓国があります。97年に起こったアジア通貨危機で大きな経済的ダメージを負った韓国は、クレジットカードの使用者に補助金を出すことでキャッシュレス化を推進しました。それがきっかけで、キャッシュレス化が最も早い国の1つになったわけです。それと同時に教育の重要性を痛感して、グローバル教育を徹底して行った結果、韓国の教育意識はとても高まりました。非常事態を変革のチャンスと捉えて変わることができたいい例です。

日本では今後、都市の在り方も変わっていくでしょう。現在は企業も人も都市部に集中していますが、テレワークでどこでも働けるように整備が進めば、都市部を拠点にしてネットで全国につながる社会が実現します。

働き方に関して、「ワーケーション」という言葉があります。ワーク(働く)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語で、リゾートなどで休暇を兼ねてテレワークを行うことを意味しています。まだ導入企業は多くありませんが、今後テレワーク体制が整っていけば浸透するのではないでしょうか。新型コロナ騒動でホテルや旅館などの宿泊業界は厳しい状況が続いていますが、在宅勤務の需要拡大を受けて、ワーケーションの宿泊プランを展開する動きも出ています。この動きは地方創生の有力な材料にもなり得ます。

19年の改正労働基準法施行で、高度プロフェッショナル制度が導入されました。高度な専門知識と一定水準以上の年収がある労働者について、労働時間や休日などの概念を外す制度です。この制度の導入の際に非常に多くの反対意見が寄せられたため、厳しい制約がついてしまいました。日本はなかなか成果主義には移行しづらいのです。しかし、いまは多くの企業が在宅勤務の体制をとっていますし、今後ワーケーションのような多様な働き方を実現するために、労働を時間ではなく成果で管理するようなシステムに変えなくてはならない局面に来ています。アフターコロナに勝ち残れるのは、そのような変化ができる企業でしょう。

そして、コロナ禍に関係なくどんな状況でも必要とされるのは、クリエイティブな仕事ができる人材です。ビッグデータやAIに仕事が置き換えられていく中で、それでもなお必要とされる人材が生き残るのは当然です。

■アフターコロナに向けて、いま何をするべきなのか~竹中平蔵の提言~

▼日本政府へ
●国民への一律給付金等の対策を継続的に

直接給付は普通では考えられないことだが、コロナショックを乗り越えるにはそれが必要。例えばマスクを国民に配るのだから、それに小切手を同封できたはず。日本は極端にデジタルシフトへの腰が重い。まず10万円給付金を渡したら、その後はマイナンバーの所持を条件に追加の給付も検討していく。それにより、マイナンバーカードの普及率が上がり、業務の効率化がはかれる。
▼企業へ
●どこでも仕事ができる体制を

今後は都市の在り方に変化があるかもしれない。将来勝ち残る企業は、都市部に拠点を持ちつつも、社員がどこでも仕事ができる体制にし、ワーケーションの導入も積極的に進めるべき。
▼国民へ
●まずは家にいること

経済を回すには元気な人が必要。まずはしっかり家にいて、健康を維持することが日本の未来のためには大切。そして、いま家でやるべきことはデジタルツールの活用と習熟。コロナ後、AIに負けない人材になること。
このままだと日本には暗い未来しか待ち受けない。しかし、しっかり対策をたてれば、日本が再び世界の先端に立つ可能性がある!
(発言は2020年4月時点)

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竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)
経済学者
東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授。1951年、和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒。博士(経済学)。

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(経済学者 竹中 平蔵 構成=万亀すぱえ 撮影=村上庄吾 写真=時事通信フォト 図版作成=大橋昭一)

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