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なぜ賢い人ほどアダルトサイト「ゼロクリック詐欺」に騙されるか

プレジデントオンライン / 2020年5月26日 11時15分

■なぜ賢い人も、詐欺師の言いなりになってしまうのか?

アダルトサイトの中には、動画視聴ボタンを押した直後に高額な料金を請求する、いわゆる「ワンクリック詐欺」と呼ばれる詐欺サイトがあります。

これ自体は比較的古くからある、“古典的な手口”だといえますが、近年ではクッションとなるページを経由せず、いきなり請求ページが表示される「ゼロクリック詐欺」という手口も新しく登場しており、いまだに注意が必要な詐欺の手口です。

普段は冷静沈着で賢い人でも、時にはこんな詐欺の被害者となってしまうことがあります。なぜこうした事態が起こるのでしょうか?

大きな要素としては「デバイスへの信頼性」が挙げられます。皆さんはスマホを使って買い物や友人とのコミュニケーション、記事の閲覧などをすると思いますが、これらの行動はすべて「自分の望んだ結果」だといえます。自分の意思に反してスマホが勝手にものを購入したり、全く知らない人とのコミュニケーションを始めたことはないと思います。

つまり、「スマホの中で起こることは、すべて自分がやったことである」という信頼性が私たちの中にあるのです。そのため、不当な請求があっても「自分がやったのかも」と思い込んでしまう傾向があります。

また、クリック後に「有料会員登録」「30万円」「IPアドレス」「ID番号」などという、いつもと違った情報が矢継ぎ早に飛び込んでくることで、被害者は一種のパニック状態に陥ります。こういった状況では、被害者はパニックを収束させることを優先するのですが、サイト側が状況を収束させるために提示しているのは「サイト運営者(詐欺師)との電話」です。もちろん、電話をかけても無料で事態が収束することはありません。詐欺師は被害者の不安につけこみ、何かと理由をつけて金銭を振り込ませようとします。

心理学者 富田 隆氏
心理学者 富田 隆氏

つまり、状況を収束させようとするあまり、自分から詐欺師の懐に飛び込んでしまうような事態が起こるのです。

もちろん、ワンクリック詐欺の最もよい対処法は「無視すること」であって、直接電話をすることは悪い結果しか招かないのですが、パニック状態の中で人が合理的な行動をとれないことは心理学的な多くの研究が証明している通りです。

また、こうした詐欺はアダルトサイトに関連づけることで、被害者の「孤立化」を狙います。人間は仲間と協力して力を発揮する社会的動物ですが、性的なプライバシーにつけこみ、仲間に相談しにくい状況をつくり出すことで、被害者をパニックの中に孤立させます。仮に、ワンクリック詐欺に使われるサイトが「仏像の紹介動画」のような、誰に見せても恥ずかしくない内容のものであれば、多数の被害者が出る状況には至っていないはずです。

こうした心理的トラップが多く仕掛けられている現状では「詐欺に遭うのはおろかな人だけ」とは言い切れないのです。自らを過信することは、かえって危険なのです。

■このプラン、結局いくらなんだよ!

携帯電話(スマホ)の料金プランといえば、多くの方が「難解でわかりづらいもの」という印象を持っているのではないでしょうか。携帯ショップで店員さんにいろいろと説明を受けても、「結局いくらかかるのか」がよくわからなかった、という経験をしたことがある人も少なくないはずです。

このように、携帯電話会社が発表する情報から「結局いくらかかるのか」を推測することに苦手意識を持っている人が多いように感じます。ですが、IT系メディアや雑誌などでは、比較的情報が整理され、プランのメリットやデメリット、料金面などがわかりやすく解説されていることも多いです。

同じ料金プランについて語っているにもかかわらず、携帯電話会社側の発表したプランを「わかりづらいもの」として認識してしまう理由のひとつに、携帯電話会社側の「見せ方」が関係していると私は思います。

ソフトバンクの「メリハリプラン」を紹介するDMを例に考えてみます。まず目に入るのは、赤字で最も大きく書かれた「使い放題」という文言です。その下には「3480円/月」と大きな赤字で書かれています。これらが最初に目に入ってくることで、私たちの中に「使い放題で月3480円」という印象が形成されます。

なぜ、スマホ料金はわかりづらいのか?

■携帯の料金プランがわかりづらいのは、ある意味で必然

心理学に「ゲシュタルトの法則」というものがあります。これは「人間はまず大まかな全体の印象を認識し、部分や細部はその印象に合うように解釈する」というものです。

これは、まさに今回のDMにもあてはまります。いったん「使い放題で月3480円の良心的なプランである」という全体的な印象が形成されると、DM下部にびっしり並んでいる細部の情報も全体的な印象に合わせて都合よく解釈してしまうおそれがあります。

次に、赤字から目を離して下部を見てみると、細かい字で大量の注意書きが記載されています。しかし、ここでは「できるだけ面倒なことを避ける」という「思考の経済化」法則が働くので、これらの注意書きはザッと読み飛ばしてしまう人も多いのです。

よくよくこの注意書きを読み解くと、DMに記載された「3480円」という料金は、自宅のインターネットをソフトバンク系列にしたとき適用される「おうち割光セット」、家族4人で契約した場合には2000円が割引される「みんな家族割+」、契約から半年間だけ適用される「半年おトク割」の3つの割引を適用させたときの料金です。

DMにて提示されたシミュレーション/各種割引がなしの場合……

実際には契約状況によって料金は変化し、最大で月7480円の料金を払う必要があるのですが、最初に「使い放題で月3480円」という印象を形成しているため、「もっと高くなりそうだ」という新たな認識が、「認知的不協和」と呼ばれる混乱を生み出します。認知的不協和は強い不快感やストレスを発生させるため、この矛盾した認識を抑圧するため「心理的防衛機制」が働き、「3480円以上かかりそうだ」という事実を否定するのです。

心理学的に見ると、こういった仕組みが張り巡らされた携帯の料金プランがわかりづらいのは、ある意味で必然だといえるのです。賢い消費者になるためには、四則演算的な賢さだけでなく、こうした心理学的トラップに負けない賢さも必要になるでしょう。

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富田 隆 心理学者
元駒沢女子大学教授。認知心理学が専門だが、専門領域だけにとどまらず「恋愛」「夢」「文化現象」など、多様な問題に心理学的なアプローチから分析を行う。『詐欺の心理学』など、著書多数。

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(心理学者 富田 隆 構成=プレジデント編集部)

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