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いち早く日常が戻った中国で膨れ上がる「アメリカ憎し」の禍根

プレジデントオンライン / 2020年5月19日 9時15分

34度に達した5月3日、夏服で街を歩く上海市民や観光客ら - 写真=Imaginechina/時事通信フォト

■「政府の対応が誇り」と投稿したら集中砲火を浴びた

「新型コロナがだいぶ収まってきて、自由に出かけられるようになってきたというのに、気持ちは晴れません。なんだかむなしさを感じたり、鬱々としてしまうんです」

上海に住む友人は電話の先でこうため息をつく。上海ではかなりレストランが再開してきているし、スポーツジムなどなじみの施設に再び通い始めた知り合いもいる。それなのに、なぜむなしさを感じてしまうのか。友人はその理由をこう語る。

「コロナで引きこもり生活だったとき、SNSに『(コロナにほぼ打ち勝った)中国政府の対応を誇りに思う』と書き込んだところ、同僚や友人から集中砲火を浴びてしまって……それで落ち込んでしまいました」

友人が受けた集中砲火というのは「政府は情報を隠蔽して感染を拡大させたのだから、誇りに思うとは何事だ!」という、同じ中国人からの意見だ。その友人は中国共産党の党員でもないし、ごく普通の会社員だ。ただ、新型コロナに関して、ちょっと自分の意見をSNSに書き込んだにすぎない。それなのに、SNS上に反論の書き込みが投稿され、ビックリしたというのだ。

■経済は元に戻り始めたのに何だかギクシャク

この友人とは逆のケースもある。別の知り合いは、SNSのグループチャットで「政府による都市封鎖はあまりにも厳しすぎた。友人の家族はお葬式もできなかった」と書いたところ、グループチャットの友人から「何をいうのか。皆ががんばったから封じ込めできたんだ」と批判され、ついにグループを退会したという。

せっかく経済活動が元に戻り始め、街は明るい雰囲気になってきたが、国内のSNS上では、こうした政府肯定派と政府批判派の議論が数多く繰り広げられている。その結果、精神的に苦しくなったり、友人とギクシャクしてしまう人も少なくない。

しかし、国内問題についてはこのように意見が割れる中国人同士だが、その一方、彼らが互いに共感できたり、理解し合えたりする瞬間がある。それは、アメリカやアメリカ人に対する憎悪ともいえる感情を確かめ合ったときだ。

北京在住の友人は激しい口調でこういう。

「アメリカはずっと中国をバカにし続けてきたんですよ。コロナだけでなく、貿易問題にせよ、人権問題にせよ、何でもそう。アメリカは武漢で起きた新型コロナが自分たちの国には影響を及ぼさないだろうと、最初のうちは高をくくっていたんでしょう。だからマスクもつけなかった。油断していたから感染が拡大したんです。正直なところ、アメリカの感染がここまで拡大したのは、中国のせいというより、トランプ大統領が無能なせい。今は自分の人気取りのために中国を槍玉にあげ、国民の怒りの矛先を中国に向けさせ、自分の選挙を有利にしようとしているだけだと思います」

■自分たちが苦しいから中国のせいにしたいのでは

前述の友人も同じような意見を持っている。

「アメリカで自分(トランプ大統領)の人気が落ちているから、必死で中国を非難し続けている。大統領だけでなく、一般のアメリカ人も同じ。はっきりいって、白人はこれまでアジア人に対して優越感を持っていたと思います。今は自分たちが苦しいから、誰かのせいにしたい。そして、その対象は常に見下してきた中国と中国人。もしコロナが欧米で最初に発生していたら、ここまでその国を批判しなかったのではないか、と思います」

中国に住む人々にアメリカに対する意見を聞いてみると、ほぼ同様の口調で、このように怒りの声が沸き上がってきた。まるで「共通の敵」を見いだしたかのようであり、SNS上ではアメリカについて厳しい意見を書く人が多い。

その憎悪の感情があまりに激しいことに私はビックリしたが、それはネット上などで世界中から中国が非難されているところを彼らが見て、そのストレスを一個人の立場として受け止めていることと関係しているように感じた。

日本など海外では、中国の共産党政府と一人ひとりの中国人は別ものだと捉え「政府は悪いけど、中国人にもいい人は大勢いるから」という人もいる。それはもちろんその通りなのだが、当の中国人にしてみれば、そうした意見にも素直に喜べず、ジレンマを感じている。中国政府が非難されること=まるで自分自身が非難されているように受け止め、苦しさを感じ、不満を募らせているのだ。

■「将来アメリカの大学になんて絶対通わせたくない」

そうしたストレスがコロナ禍によってたまりにたまってきているせいか、そのストレスのはけ口として、彼らの反米意識はどんどん高まっており、今、それはささいなところにまで及んでいる。

子どもをインターナショナルスクールに通わせている中国人の友人夫婦は、ともに有名企業に勤務するエリート一家だ。日本や欧米にも友人がいるが、その夫婦でさえ「アメリカ」という言葉には敏感に反応し、敵意の感情をあらわにした。

この夫婦は以前、子どもを高校からアメリカに留学させたいと話していたが、SNSで連絡を取ってみると「子どもは小学生ですが、このままインターに通わせることに躊躇しています。将来アメリカの大学になんて絶対通わせたくないから。英語は必須科目ですから今後も学ばせますけど、中国の中学に進学させようかと思っているんです」とすっかり心変わりしていたので驚いた。

その夫婦によると、以前はアメリカに移民したり、子どもを留学させたりする人が多く、ビジネスチャンスの多いアメリカの人気は高かったし、なんだかんだいっても憧れの国だった。

アメリカの小学校に子どもを通わせるために母親と子どもだけアメリカに渡った知り合いも多かったというが、新型コロナが発生して以降、彼らの多くは中国に戻ってきてしまったという。アメリカに対する感情の悪化もあるが、実際にアメリカで生活していて、アジア人差別を受け、スーパーでひどい目に遭ったことがあるからだそうだ。

■中国人と他国の人との間に大きなズレがある

具体的な差別の内容については聞けなかったが、コロナ禍でのアジア人差別という点では、日本人も同じように欧米で被害に遭ったり、嫌な思いをしたりしている人が多い。特に中国人の場合、日本人よりも欧米に住んでいる人数が多く、また、豪邸に住んでいたりするなど、何かとその存在が目立つため、中国人の被害者意識は、同じく海外に住む日本人よりも高まっているように見える。

欧米や日本のSNSなどを見ていると、「コロナを世界中に拡散させ、これだけ世界中の人々を不幸のどん底に突き落としておきながら、自分たち(中国人)が被害者づらするなんて図々しい」という意見が多いが、中国人に話を聞いてみると「自分たちだってこんなことが起こるとは夢にも思わなかった。自分たちもコロナの被害者なのに、中国人は、中国人であるというだけで、世界中の誰からも同情してもらえない」という意識が強く、双方の感覚にはかなりのズレがあるように感じる。

一方、アメリカ人の対中感情はどうなのだろうか?

■世論調査では「好意的でない」が過去最高の66%に

アメリカに住む人々に聞くと、アメリカ人にとっても中国人(アメリカに住む中国系も含めて)の印象は日に日に悪化しており、その感情は中国人の対米感情と同様、激しいものになっているという。アメリカでも「コロナ禍の責任を追及せよ」「武漢が発生源であることは明白であり、中国は賠償するべきだ」という意見がSNS上に大量に載っており、中国、そしてそこに暮らす中国人への悪感情もヒートアップしているのだ。

日本人の友人が住むロサンゼルス近郊のスーパーでは、自分(日本人)も含め、東アジア系の顔立ちをした人を避けて通る人が多く、列に並んでいても、英語で中国の悪口をいっているのが聞こえてくることもあると聞いた。

4月下旬、アメリカの世論調査機関が公表した調査結果によると、中国に対し「好意的でない」と答えたアメリカ国民の割合は前年調査比で6ポイント増加し、2005年の調査開始後で最高の66%に上ったことが分かった。トランプ政権が発足した2017年から3年間で「好意的でない」が20ポイント近くも増加している。

アメリカ人の対中感情の悪化はコロナで突然始まったことではなく、ここ数年の中国経済の台頭と比例している。特に米中貿易戦争や中国の軍事力拡大、ファーウェイ問題がクローズアップされて以降、高まっているように感じるが、コロナ禍によってそれがより鮮明になっているといえる。アメリカ人にとっては「世界ナンバーワン」の座を中国に脅かされるという不安があり、それも個人の感情に影響を及ぼしているだろう。

■後戻りできないほど深い亀裂を生んでいる

トランプ大統領をこれまで特に支持していなかったホワイトカラー層でさえ、論理的ではなく感情的に「中国に対していい印象はない」という人が増えていると聞く。アメリカの失業率は14.7%と、1930年代の大恐慌以来の高い数値になっており、死活問題になってきているだけあって「こうなったのは、一体誰のせいだ」という中国への憎しみが膨れ上がっているということなのだろう。

今後、新型コロナ問題は第2波への懸念とともに、感染源の特定、そしてアメリカVS中国という対立軸がより鮮明になっていくだろう。中国への批判を行うのはアメリカに限らず、ドイツやオーストラリアなど増えているが、中国にとって、アメリカは唯一無二のライバルであり、一目置く存在だ。それは中国人にとっても同様である。

四面楚歌の中国人が抱えるストレスはたまる一方だが、それはアメリカ人、そして世界各国の人々にとっても同様であり、国家を背負った各国の国民にとって、当分の間、心が晴れ晴れとする日は来そうもない。

新型コロナウイルスを撲滅するためには、国境を超えてワクチンや特効薬の開発、そして情報の共有をしていくことが不可欠だと思うが、国家間の対立は国民間、民族間の対立へと広がり、もはや後戻りできないほど深い亀裂を生んでしまっているといえそうだ。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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