山梨の女子校が「わざわざ制服」でオンライン登校しているワケ
プレジデントオンライン / 2020年5月22日 15時15分
■自習で生活リズムを保つのは難しい
山梨県・甲府市の山梨英和中学校・高等学校は4月13日から、オンライン授業を実施している。休校ではなく、授業日という扱いだ。中学2~3年生は4月13日、高校生は4月14日、中学1年生は4月27日に開始した。
授業はビデオ会議システムの「グーグルミート」、課題提出やフィードバックは課題管理システムの「グーグルクラスルーム」を使っている。生徒たちは自宅から、制服を着て時間割通りに授業を受けている。いずれも、今回のオンライン授業にあたり導入した。
同校がオンライン授業の実施を決定したのは、4月1日だった。目的は「生徒の健康の維持」だ。
「本校には遠方から公共交通機関を使って通学する生徒が大勢います。そのため、まずは学校に来ないことで健康を守ろうという方針になりました。加えて、感染防止の点では、睡眠や食事などの生活リズムを保ち、免疫力を高めることも大切です。課題を紙で渡して自習をすることはできますが、生活リズムを一人で保つのは大変です。そのため、通常の時間割通りにオンライン授業を実施して、規則正しい生活ができるようにしました」
■制服着用は「学校と同じように集中するため」
時間割通りの授業について、保護者からの反応は良いという。生徒にアンケートをとったところ、「時間割通りがいい」「どちらかというと時間割通りがいい」と回答した生徒は、9割にのぼった。
制服着用は、登校時と同じように学習に集中できるようにするためだ。
「最初の段階では、身だしなみを整えて授業に臨めばいいという程度で、制服のことまでは考えていませんでした。しかし会議を重ねる中で、家庭でもなるべく学習に集中できる環境を作り、ビデオ会議でも登校時と同じような学習環境を保つために、制服で授業に臨ませることになりました。保護者からはけじめがついて良いという意見が聞こえています」
■「1時間ずっと」ビデオ会議ではない
各授業でビデオ会議が開かれ、生徒はそこに参加する形で授業を受ける。ただし、すべての教科でビデオ会議を繋ぎっぱなしにしているわけではない。監視が目的ではないからだ。また、長時間にわたるオンライン授業による、眼精疲労への懸念もある。
授業の進め方は各教科で異なる。糟谷教頭の英語の授業の場合を聞いた。
最初は全員でビデオ会議に集まり、今日の学習内容を確認。そこでビデオ会議を終了して、各自課題をこなし、授業の終わりに提出するという流れをとっている。質問がある生徒は、ビデオ会議に残って話をするという形だ。発音の指導は、生徒が音読教材を使って録音し、音源を提出する方法をとっている。全員同時に説明をする時には、通信が途切れた場合を想定して、後から録音を聞けるようにしている。
現在は全教科で授業を行っているが、実技を伴う教科を中心に、制限が伴うものもある。そのため、必要に応じて単元の入れ替えなどを行いながら授業をしている。家で大きな声で歌える環境がないといった、「家庭の環境が限られていること」には配慮が必要だと考えているという。たとえば体育では、地元のプロサッカーチーム「ヴァンフォーレ甲府」のコーチにストレッチを習う授業を行った。
■「学校の一員として大切な存在」と伝えたい
時間割通りに行うのは、授業だけではない。生徒たちは「オンライン朝の会」と「礼拝」で1日を始めているのだ。
「朝の会は連絡事項を伝えるとともに、自分はクラスの一員、学校の一員として大切な存在なのだという気持ちを持たせる目的があります。また、オンライン朝の会の前には礼拝をしています。本校は130年の歴史のなかで、プロテスタントのミッションスクールとして礼拝を大切にしてきました。生徒の精神の大きな支えにもなっておりますので、そのメッセージを家庭でも聞けるようにするのは、当然の配慮だと考えています」
礼拝は双方向ではない配信の形をとり、オンライン朝の会はクラスごとにビデオ会議を開く。礼拝と朝の会の間には「健康観察」の時間があり、生徒は配布済みのシートに体温、頭痛、倦怠感、関節痛、喉の痛み、咳、鼻水・鼻づまり、味覚異常の有無を記録している。
中学生からは「『廊下』のビデオ会議も開いてほしい」という要望もあった。学校の廊下でクラスメイトと雑談をするような会話の時間を、教師も出席する形のビデオ会議でお昼休みに作ってほしいというリクエストだった。現在のところ、昼休みは昼食の準備や片付けを考慮し、1時間を設定している。
■2012年より全生徒がiPadを所有
なぜ、4月1日にオンライン授業を決定し、4月13日から始めるというスケジュールが可能だったのか。同校では全生徒がiPadを所有している。2012年からiPadを活用した授業を行っており、全生徒が中学1年の9月にiPadを購入する。生徒個人のアカウントもあり、これがオンライン授業を迅速に始めるアドバンテージとなったという。
「デバイス以上に力になったのは、保護者の方々の理解と教職員の働きです。中学1年生に至っては、本来なら9月に購入するはずだったiPadを保護者に前倒しで購入していただき、家庭で設定をしてもらいました。教職員はこれまでオンライン授業をしたことがありませんので、学習会を行い、登校授業とオンライン授業は違うことを伝え、準備を進めました。非常勤講師の先生方にも、全面的にご協力いただいております」
■実際に会って学び合うことの効果は大きい
それでも課題は多い。まず、自宅の通信環境は家庭によって異なる。接続のトラブルは多々あり、電話で対応することもある。また、時間になっても授業に現れない生徒がいれば、接続に問題がないか、個別にメッセージを送って対応している。加えて、先述した眼精疲労の問題もある。長時間画面を見なくて済む授業の設計が急務だ。教員側の授業準備にかかる時間も課題になっている。授業案の変更や、オンライン向けの資料を新しく作る必要があり、負担が増えているという。
オンライン授業は、登校できる状況になるまで続ける予定だ。「あくまでも登校学習の代替措置」だと、糟谷教頭は語る。
「オンライン授業と登校学習は異なるものです。学習内容を一方的に伝えるのが授業ではありません。オンラインでグループ学習をしている授業はありますが、生徒同士が実際に会って学び合う効果は大きく、登校できるようになって、初めて実現する学習がたくさんあると思います」
(プレジデントオンライン編集部)
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