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「コロナ発端の米中対立激化」が世界経済におよぼす最悪シナリオ

プレジデントオンライン / 2020年5月18日 18時15分

2020年5月14日、中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「対立激化しながら依存しあう」米中の複雑な関係

コロナウイルスをめぐって米国と中国の対立が激化している。今後の世界情勢を考える上で、両国の対立が深まることは最も重要なマイナス要因だ。

米国のドナルド・トランプ大統領は、新型コロナウイルス感染拡大の責任が中国にあると批判し、制裁関税の発動も辞さない構えだ。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大に関して、米世論が大きく対中批判に傾いていることがある。大統領再選を目指すトランプ氏にとって、対中強硬姿勢を示すことは大統領選を有利に進めるために必要不可欠のファクターになっている。

一方、中国の習近平主席も、米国に弱腰を見せるわけにはいかず後に引けない状況だ。また、中国は“マスク外交”と呼ばれる国際的な支援策を強化し、中国支持の声を高めることに注力している。自国第一の考えに傾注する米国との違いを誇示し、中国は国際社会における発言力を高めることを意図している。

当面、感染の責任などをめぐって米中の対立はさらに激化するだろう。ただ、表面的な対立とは裏腹に、両国が決定的に決裂することは考えにくい。それは、米中は相互に依存しあう関係にあるからだ。IT先端分野の技術、貿易取引、投資などの面で両国の関係は切り離せない。対立が激化したとしても米中ともに決別はできないはずだ。その意味で、米中対立はかつての米ソ冷戦と異なる。

今後、IT先端分野を中心に米国の自由資本主義体制と、中国の国家資本主義体制の覇権争いは熾烈(しれつ)化し世界は多極化に向かうだろう。その状況下、わが国はコロナウイルス感染対策を徹底しつつ、世界の大きな変化=メガチェンジに対応することを考えなければならない。

米国と中国は世界の覇権を競いつつ、経済面での相互依存度を深めてきた。これは1945年から1989年まで続いた米ソ冷戦と決定的に異なる。米ソは相互の関係を断った。

例えば、米アップルはiPhoneなどの生産を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の中国子会社(フォックスコン)に委託している。それにより、アップルは先端テクノロジーの開発やデザイン、ブランディングなどに注力し、付加価値の高い製品を実現した。

この相互作用が米中、さらには世界経済を支えた。米国企業はGAFAを中心に成長を実現し、中国の需要取り込みを重視した。自動車、航空機、IT機器、エネルギー、農産品など、米国にとって中国は重要な顧客だ。

■かつての米ソ冷戦とは決定的に異なる理由

中国は米国企業をはじめ外資を誘致して雇用を創出し、先進国の技術力も吸収してきた。米連邦捜査局(FBI)が中国がサイバー攻撃を仕掛けワクチン開発などの知的財産の窃取を試みていると警告したことは、中国にとって米国の生産要素が重要であることを示唆する。また、中国は米国の研究者らに多額の支援を提供し、IT、医療などの分野で最先端の研究成果を取り込もうとしてきた。

米国にとっても、国家主導でITなど先端分野の革新を進める中国の力は重要だ。中国では、土地の所有権が国に帰属し、国有企業などの土地利用にかかるコストは米国などに比べて圧倒的に低いといわれる。

さらに、中国政府は企業に補助金を支給している。中国企業は土地、建屋の取得、建設にかかるコストを抑え、先端分野の研究開発に莫大な資源を投じることができる。それが、BATHをはじめ中国のIT先端分野での覇権強化を支えている。

米国企業にとって、国家主導で急速かつ大規模に技術革新を遂げる中国企業は競争上の脅威であるとともに、成長のために欠かせない存在でもある。4月、5G通信の普及などを念頭に米クアルコムが中国のパネル大手BOE(京東方科技集団)と提携したのはそのよい例だ。

■米国人の3分の2が「中国に否定的」

政治面に目を移すと、米国の対中強硬姿勢が鮮明化している。米国では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世論が中国への批判を強めている。4月21日にピューリサーチセンターが発表した世論調査によると、回答者の66%が中国に否定的な考えを持っていると答えた。これは同センターが2005年に調査をはじめて以来最も高い水準となった。

トランプ大統領は、対中批判を強めて有権者の支持を増やしたい。それは、民主党の大統領候補者争いの中で「中国は競争相手ではない」と発言したジョー・バイデン前副大統領との違いを明確にするためにも重要だ。

また、コロナショックによって米国経済は大恐慌以来の危機到来の瀬戸際にある。新型コロナウイルスの感染拡大を受け世界的に貿易取引も減少している。トランプ氏や共和党が経済運営で成果を有権者に示すことは難しく、対中批判の重要性は増している。

一方、中国の習近平国家主席は、米国からの圧力や批判を黙ってみているわけにはいかない。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国国内では共産党指導部に対する不信感や批判が高まっている。

習氏が米国に対して弱腰と受け止められるようなことがあれば、同氏の求心力は一段と低下し、社会心理が追加的に不安定化するだろう。米国からの圧力に対し、中国はハードライン(強硬路線)をとらざるを得ない。同時に、中国はWHO(世界保健機関)をはじめとする国際機関への資金提供などを通して影響力を高め、国際社会における発言力を強めたい。

当面、米中の対立は一段と激化に向かうだろう。ただ、相互の経済依存度が高まってきたため、全面衝突は避けなければならない。2018年3月以降の米中通商摩擦を振り返ると、対立の激化を受けて両国は徐々に手打ちをめざし、部分的な合意を形成しようと動いた。

摩擦が激化し、その後しばらくすると米中が部分合意に至り“休戦協定”が結ばれる展開が繰り返される可能性は高まっている。

■米・中・欧と多極化に向かい世界経済の不安定感は高まる

米中の対立は、自由資本主義と国家資本主義の覇権争いだ。IT先端分野での成長や感染対策などを見る限り、中国の国家資本主義体制のほうが米国の自由資本主義体制よりも有利との見方は増えやすくなっている。

他方、中国を警戒する国も増えている。2017年、ドイツは安全保障などを理由に外資による買収を規制し、翌年には中国企業による精密機械メーカーの買収を阻止した。その上、中国を震源に新型コロナウイルスが世界に広がり、対中不信、批判を強める国は増えている。

欧州委員会は医療物資などの対中依存を問題視し、中国企業による買収を念頭に外資規制を強化している。欧州が米中とどのような関係を目指すかは見通しづらい。

今後、中国になびく国、中国への警戒を強める国は増えるだろう。EUでは英国の離脱が進み、感染対策を契機に加盟国間の政治連携は難しくなっている。そうした状況は、冷戦終結後、米国を基軸国家として進んだグローバル化が分水嶺を迎えたことを意味する。国際社会は多極化に向かい、利害調整は一筋縄にはいかなくなる。これまで以上に世界経済の不安定感が高まるだろう。

■日本は混迷の国際社会でどれだけ発言力を持てるか

わが国に求められることは、米国とは安全保障を中心に、中国とは経済を中心に等距離感覚の関係構築を目指すことだろう。同時にわが国はEUとの連携を進め、国際社会での発言力の向上にも取り組む必要がある。今後の成長が見込まれるアジア新興国などとの関係強化も欠かせない。

また、国内経済に関して、機械、自動車産業を重視してきたわが国は、産業構造を変換させデジタル化という大きな変化に対応しなければならない。そのために、政府の構造改革の重要性は増している。

口で言うほど容易なことではないが、そうした取り組みを政府が粛々と進めることが、米中の対立が激化し経済の不安定感が高まる状況に対応し、国力を引き上げるために必要だ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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