「50分500円」コロナ禍の風俗店が出血大サービスに走るワケ
プレジデントオンライン / 2020年5月20日 18時15分
2020年5月8日、閑散とした週末の歌舞伎町。民間の4月の景気動向調査によると、企業の景況感を示す景気動向指数は前月比63.7ポイント低下の25.8と10年3カ月ぶりの低水準となった。 - 写真=時事通信フォト
■オンライン接客は30分1500~5000円が相場
政府の緊急事態宣言による「営業自粛」のダメージで、多くの事業者は瀕死の状態に陥っている。とりわけ壊滅的なのが、水商売と風俗業界だ。ただ、当事者たちもただ手をこまねいていたわけではない。さまざまな新サービスを打ち出し、過酷な状況に順応しようと必死にもがいている。
まずは水商売から見ていこう。客足の減少が止まらぬ中、わりと早い段階で登場したのが“オンライン接客”だ。
LINE、Skype、Zoomなどのビデオ通話アプリを利用し、スマホやパソコンの画面越しに客と対面するというもので、料金は30分あたり1500~5000円が相場。支払いはLINE Payなどのスマホ決済やクレジットカードなどで行う。仕組みの関係上、原則として前払いだ。
客が飲む酒は自前で用意する。店によってはキャストにドリンクをおごるシステムがあることもある。
■すでに15以上のプラットフォーム業者がひしめいている
現状、オンライン接客の形態は3パターンだ。
②PF業者がキャバ嬢や素人女性を個別に採用
③店舗が独自に開発したシステムで運営
筆者が調べた限り、①に該当するのは「スマキャバ」だけだが、②には「おんきゃばJAPAN」「ポケパラオンライン」「ズムキャバ!」など実に15以上のPF業者がひしめいている。こちらが主流といっていいだろう。
このことから、オンライン接客は、キャバクラ店のコロナ打開策というよりは、キャバ嬢個人とPF業者のための新ビジネスとも見て取れる。
なおキャバクラだけでなく、ガールズバーもオンライン接客に乗り出している。具体的には、六本木の「RUTILE(ルチル)」、神楽坂の「N(エヌ)」など東京勢が多いが、地方でも仙台や札幌などでわずかに確認できる。
これらは③のパターンで、オンライン接客用のシステムを独自に開発し、運営している。それには相当の投資が必要だ。言い換えれば、ガールズバーの経営者たちが抱いた危機感もそれほどに大きかったのだろう。
■39歳男性「私服のキャバ嬢に違和感しかない」
では、オンライン接客の需要はどれほどあるのか。ヒントになりそうな数字は、ポケパラのHPで確認できる。
同サイトが運営するポケパラオンラインは4月27日からスタートしたのだが、そこから5月12日までに関東でオンライン接客が行われたのは「132回」と表示されている。平均して1日約10回のペースだ。ちなみに東海は「82回」、関西で「62回」、九州に至っては「8回」。とても盛況とは言いにくい数字だ。
オンライン接客を体験した男性(39歳)が見つかったので、率直なところを語ってもらった。
「僕に付いた嬢は自宅からZoomで接客してくれたんですけど、正直、微妙でしたね。キャバクラの楽しみって、嬢と会話するだけじゃないんです。キメた髪型だったり、華やかなドレス姿だったり、店の豪華な内装だったり、そういう要素をひっくるめて楽しむものなんです。だから自宅で普通の私服を着てる嬢と話しても違和感しかなくて。あとネットの通信状態が調子悪くて会話が途切れることが何回かあったんですけど、そういうのもストレスでしたね。二度目? いや、ないですね」
さらに男性からは、こんな指摘も。
「僕は独身だからいいけど、オンライン接客って既婚者にはハードル高そうですね。奥さんのいる自宅で嬢とトークなんかしてられませんよ」
キャバクラ客のメイン層は30~40代、つまり既婚世代と言われている。そこをごっそり取りこぼしているのであれば、無意味なのではないだろうか。
■「50分500円」コロナ禍でヘルスが出血大サービス
次は風俗業界だ。コロナ不況の対抗策として、各店がこぞって打って出たのは料金の値下げだ。
通常料金から5000円を割り引くなんてのはザラ。コロナの感染拡大が猛威をふるい始めた3月あたりには、プレイ代の半額キャンペーンを掲げる店までチラホラあったほどだ。
極め付きは名古屋の店舗型ヘルス「べっぴんコレクション」だろう。この店はなんと、普段は50分1万3000円するプレイ代を、ワンコイン、つまり500円に下げたのだ。なお、現在は営業自粛中となっている。経営が赤字になるのはもちろんだが、コロナで離れた客足を何が何でも取り戻したいという強い思いがなければまずできない決断だ。
値下げとは別のベクトルで集客を試みる店もある。語ってくれるのは、歌舞伎町ガイド人として定期的に「歌舞伎町ツアー」を開催する仙頭正教氏だ。
「歌舞伎町に老舗のハコ型(店舗型)ヘルス『プチドール』っていうのがあるんですけど、そこが10分1500円でオナクラみたいなサービスを始めたんです」
オナクラとは客と女性が互いの自慰行為を見せ合う店を指す。
「要は、普通のヘルスプレイは濃厚接触が怖いけど、見せ合いならまだ安心でしょってことです。私も試しに遊んできたんですけど、思ったより客が入っててビックリしました。なかなかいいアイデアですよね」
■休業要請に応じられない業界特有の理由
自らの企画力で危機を乗り越えようとする姿勢は立派だが、一方で見過ごせない現象もある。
緊急事態宣言が全国で解除される5月末まで、水商売や風俗店は休業要請の対象だ。しかしこうした要請を無視している店も多い。先ほどのプチドールもしかりだ。なぜか。
その背景には、営業しなければ店がつぶれるという経済的な理由のほかにもうひとつ、風俗業界特有の事情があるらしい。
「風俗経営で難しいのは、常に女の子の数を一定数保っておくことなんですけど、店が休業すると、彼女たちはドンドン辞めていきます。経営者たちはそこを恐れているんです」(仙頭氏)
その事情はキャバクラも同じだ。店の看板の電気を消し、休業を装ってはいるものの、実はちゃっかり接客を行ってる店は少なくない。そういった店ではキャストが営業メールを送り、なじみ客を呼びつけているのだ。
■ふるわないキャバクラと盛り返しを見せる風俗
ただ、そのやり方にも限界はあると仙頭氏は言う。
「知り合いのキャバ嬢が言ってたんですけど、営業メールを送ってもほとんど無視されてるそうです。やっぱりこの時期はよほど熱心な客じゃない限り、来たがりませんよ。水商売は厳しいです。たぶん廃業する店が続出しますよ」
しかし、風俗業界への見立ては違うようだ。
「あくまで歌舞伎町の話なんですけど、GWが明けたころから、どうもデリヘルを中心に客足が戻りつつあるみたいで。特に激安系の店が盛り返していると複数のキャッチ(客引き)から聞きました」
明暗が分かれつつある水商売と風俗業界。いったい、この差は何を意味するのだろう。
キャバクラ嬢との飲酒はまだ我慢もきくが、人間の本能=性欲を抑えることは不可能。まさか、そういうわけでもあるまいが。
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ライター
1975年生まれ。月刊誌の編集のかたわら、執筆活動にも従事。
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(ライター 富士 弥勒)
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