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衝撃…全病床の1.8%しかコロナで使わなかった日本には、ベッドが余っていた

プレジデントオンライン / 2020年5月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KUxFOFO1

日本は人口あたりの病床数が世界一多い国だ。それにもかかわらず新型コロナ患者のベッド数が足りず、一部の患者はホテルや自宅で療養している。医師の森田洋之氏がその理由を解説する——。

■医療崩壊を避けるための緊急事態宣言発令だったが…

新型コロナウイルスが世間を騒がせて久しい。最近は「医療崩壊」や「オーバーシュート」と言う言葉もマスコミやネット上で多く使われるため、一般の方にもなじみのある言葉になっただろう。それらの言葉は多くの場合、

・医療機関の対応できる許容量を超えたら(=医療崩壊・オーバーシュート)救える命を救えなくなる。
・だから医療機関の許容範囲内に感染を抑える(ピークを抑える)ことが大事。
・そのために学校は一斉休校し、全国民に外出自粛を求める緊急事態宣言を発令せよ。

というような論調で使われる。その結果としてすべての国民の生活を一変させた「緊急事態宣言」が発出されたわけだ。

それなのに、もし医療崩壊・オーバーシュートが起こる前にもかかわらず、患者を受ける側の当の医療機関の側で十分な準備ができていないのだとしたら、それは大きな問題ではないだろうか。

■コロナ対策病床は全病床の1.8%

日本には165万床の病床がある(注1)。ちなみにこれは人口あたりで世界最大である(注2)

注1)厚生労働省HP/平成29年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況
注2)経済協力開発機構(OECD) Data, Hostpital beds

世間ではあまり知られていないが、実は日本は人口あたりの病床数が世界一多い国なのだ。この充実した医療体制はわれわれ日本人にとって非常に心強いものだろう。特に新型コロナウイルスのような新たな脅威が発生した現在のような状況で、病院・病床がたくさんあることの安心感はとても大きいのではないだろうか。

しかし、その一方で実は2020年5月20日現在、国内全病床の1.8%しかコロナ感染対策に回せていないという現実もある。

日本のコロナ感染対策病床は全国で3万1000床しかない。日本の全病床数165万のうちの3万1000床だから、わずか1.8%ということになる。

出典:COVID-19 Japan 新型コロナウイルス対策ダッシュボード

■経済活動の休止より病床確保が先ではないか

東京都は4800床をコロナ専門病床として確保しているが、その内訳は「病院・病床」が2000、「ホテルなどの宿泊施設」が2800である。病院ではないホテルなどの施設を勘定に入れても、都内全12万床のうちの4%にしかならない。

これは病床などのハード面だけでなく、医師や看護師などの人材・ソフト面でも当てはまる。筆者の周りの多くの医療関係者に聞いても実際に新型コロナ対策病床で勤務している医療従事者は本当にわずかである。通常人材は病院や病床にセットで雇用されているのだから、これも当然と言えるだろう。

当の医療側がたったの1.8%しか病床を確保できていない、人材も配備できていない。それなのに、そのキャパシティーを超えないように、日本社会全体が史上初めてとも言えるくらいの多大な犠牲を払って経済活動を停止しているのである。これは「圧倒的にバランスが悪い」と言えるのではないだろうか。

■ヨーロッパでは医療は公的な存在である

ではなぜ、世界一の病床数を持っている日本が病床を確保できずに、ホテルを確保しているのだろう。事実、先進諸外国ではホテルではなく病院の病床を使っていることが多いようだ。ドイツはコロナ感染専門病院を全国の地域に満遍なく配置し、コロナ対策の医療体制を数週間で急ピッチに整備した。そのおかげで現在はオーバーシュート/医療崩壊どころか病床にかなりの余裕があり、フランスやイタリアからも患者を受け入れているとのこと(事実、ドイツの死者数はヨーロッパ諸国の中でも圧倒的に少ない)。

日本ではあまり知られていないが、ドイツはもちろんヨーロッパの国々では医療といえば、一般的に警察や消防と同じような「公的」な存在である。ドイツの病院は公立・公的病院が8割で民間病院はわずか2割だ。

簡単に言えば、医療の多くの部分を民間に移譲していないのである。これは同時に、国や公的機関が医療機関に対する指揮命令系統を一定程度保持しているということでもあるだろう。

■指揮命令系統を保持していたからこそ「余裕の医療体制」だった

さすがに日本の300倍近い死者数のイタリアやフランスなどはオーバーシュートしているようだが、ドイツは日本の20倍の死者数にもかかわらず余裕の医療体制。これが可能だったのは、ドイツなどの欧州諸国が病院を「公」とみなし指揮命令系統を保持していたことで、国中の医療資源をコロナ対策用として迅速に配備しなおせたことが大きな要因と言っていいだろう。

一方、日本の医療機関は約8割が民営である。民間病院に対して国はその診療内容についての指示命令系統を持たない。「感染症病床を○○床作りなさい」というようなことは言えないのである。

もちろん、公的機関にもまして民間経営の方が一般的にコスト意識やマネジメント力が高く、民間で医療機関を経営することには多大なメリットがある。しかしその一方で、医療という国家の安全保障を民間に分割・移譲してしまうことのデメリットは計り知れない。民間に開放するということは、国からの指揮命令系統の多くの部分が失われるということなのだから。

今回のコロナ感染パニックのようなこの危機的状況で、世界最大の病床を抱える日本がその1.8%しか病床を機能させられていない(しかもそのわずかな病床をパンクさせないように国全体の経済をストップさせている)という事実は、そのデメリットを顕著に露呈していると言わざるを得ないだろう。

■医療市場失敗の理由

たしかに、市場原理・自由経済の考え方が根強い日本の中で、医療という業界を「公」として考えることには抵抗感があるかもしれない。

しかし、あまり知られていないことだが、医療経済学の世界では医療を民間市場に開放することは「市場の失敗」を招く可能性が高いことが知られている。コロナ以前に、そもそも民間に任せることは医療業界にとって最適解ではないということなのだ。

その理由は以下のとおり。

モラルハザード
健康保険があるので、自己負担(病院に直接払う額)は非常に安い。5000円のフランス料理も、自己負担1割なら500円で食べられる(あとの4500円は保険で払われるのだから)。それなら1日3食フランス料理(しかも宅配してくれたりして)を食べたい、という意識になりかねない。

情報の非対称性
パンの安い高い・うまい・まずいは判断できても、高度な専門知識を要する医療の世界で、その医療が「良い医療なのか、そうでないのか」は多くの国民には判断できない。

患者側で判断できるのは医師がやさしいか? とか、待ち時間が長くないか? とか、受付の愛想がいいか? そういう表面的なところ。食べたパンの味がわからない状態でどのパン屋がいいとか悪いとか言っても全く意味がない。

しかも、パンと違って「おなかいっぱい」がないので、医療は際限なく需要(提供)されてしまう。高齢になれば病気を探せば何か見つかる。しかしほとんどの加齢現象は治らない。高齢化社会では医療を提供しようと思えば、いくらでも提供できるのである。

つまり、医療業界は市場原理による最適化が望めないのだ。

■医療機関による競争は患者を増やすばかり

あなたは、

「病院にも民間による競争原理が必要」

などと思っていないだろうか。

医療機関による競争は患者を増やすばかりなのに。

しかも国の安全保障としての指揮命令系統が失われてしまうのに。

もう一度言う。

いま全国に緊急事態宣言が出され学校は休校・外出は自粛、すべての国民に多大な負担を強いているこの状況で、

「コロナ対策病床がたったの全病床の1.8%」

というのは本当におかしな話である。

大事なのは病床の数ではない。本当に機能する医療がどれだけあるのか、なのだ。

緊急事態に対しどれだけ迅速に戦闘態勢を整えられるか、なのだ。

私が財政破綻で医療崩壊した夕張市で医師として働いていたときもそうだった。病床の数は一気に約10分の1になってしまったが、当時の院長だった村上医師は、本当に市民の健康や幸福に貢献する部分(少しの病床と、市民の健康と生活を支えるプライマリ・ケア)は決して譲らなかった。村上医師はいつも、

「医療は『公』だ。公として存在しなければ意味がない」

といつも言っていた。

病院が多ければそれでいいのか?
緊急事態に対応できる真の医療体制は何なのか?

新型コロナウイルスで医療について考えることが多い今こそ、日本の医療を根本的に考え直すいい機会にしてほしい。

いま私は切にそう願っている。

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森田 洋之(もりた・ひろゆき)
医師
南日本ヘルスリサーチラボ代表。1971年横浜市生まれ。宮崎医科大学(現・宮崎大学)医学部卒業。2009年より夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て現職。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。著書に『破綻からの奇蹟~いま夕張市民から学ぶこと~』など。

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(医師 森田 洋之)

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