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まったく見ていない有料放送に10年以上も入っていた老父の言い訳

プレジデントオンライン / 2020年5月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RapidEye

ひとり暮らしの老親は、どんなお金の使い方をしているか。ライターの田中亜紀子さんは、認知症になった父親がデイサービスに通う間に、家の中を探索した。そこで見つけたものとは——。

※本稿は、田中 亜紀子『お父さんは認知症』(中央公論新社)の一部を、再編集したものです。

■預貯金や保険に何か恐ろしいことが起こっているかも

「それはすでにお口座にはなく国庫に納められています」

なんですと? ほんのぽっちりの額だけど、なぜ私のお金が国庫に。頭にきて、「そんなのひどくないですか? いくら少なくても、こちらの口座に預金が残っているのは知らなかったんです」と、電話の向こうの銀行の方に言い返した。

父が家に戻り、看護師のいる小規模多機能に通所しながら生活し、日々が少しずつ新しい秩序をもって動き出した。それに合わせ、気になっていたジャングルと化している父の部屋を探索することにした。父はもともと物が捨てられない性分の上、定年後の仕事で理科の実験教室をやっていたせいで、材料となるがらくたをためこんでいる。

その上、ピック病(認知症の一種)の症状の一つは「ごみ屋敷を作ること」だ。そんな父の部屋はものすごいありさまだが、私は片付けが苦手。まだ気力も戻っていないので大々的に片付けることはできないが、預金や保険その他の状況をこの機会にチェックしなくてはならない。

母が亡くなって十数年、父が認知症になった数年の間に、預貯金や保険に何か恐ろしいことが起こっているかもと気が付いたのも最近だから、私もぬかりすぎだ。

■なぜか私の「大学時代の通帳」がしまわれていた

しかし、正直、父が怪我する前までは、そういうことの掌握は難しかった。今でさえ、父の部屋のひきだしを見ているのが見つかると、「人の物を見るなんてとんでもないことだ!」と激怒する。だから、父が通所している間で、私ができる日にちょっとずつ探索することにしたのだ。

まず貯金通帳類は、現在生きていると思われるものが入っている箱とすでに閉じられたものが入っている箱を発見。そこになぜか、存在すら忘れていた、私が大学時代にバイト先から指定され、振り込み用に作った通帳があるではないか。印字は5万円ほどの残高となっている。「やった! 過去の私からのプレゼントだ」と思い、喜んだが、あまりにも昔のもので、キャッシュカードの行方さえわからない。

■国庫から「1000円」を取り戻した

その地元の信金に電話してみると、その約5万円はすでに引き出され、残りはたった1000円だとか! 抜け目のない過去の自分が憎い。しかし気を取りなおし、1000円といえども自分のお金なのでおろそうと思ったら、冒頭のように、「すでに国庫に収納されている」と言われたのだ。そんなのありかと気色ばむ私に、「取り戻す手続きをしていただければ大丈夫ですよ。お届け印がなければ印鑑も替えられるので、身分証明書と印鑑を持ってお越しください」とのこと。

ほっとして地元の信金の窓口に出かけ、何枚もの書類にサインと押印という面倒な作業はあったものの、約1週間後に現金は戻った。こんなに手間をかけて戻した1000円。口座に入金するだけでは面白くない。有効に使おうと、1ホール1000円の薄いアップルパイにかえて、毎日ちまちまおいしく食べた。貯金ができないわけである。

もっと大きな金額が国庫に収納されているやも、と父の貯金通帳を見ながら銀行に電話し確認作業をしたが、気が付いた口座については大丈夫だった。もっとも、万が一国庫に収納されていても、多少面倒な手続きはあれど、戻ってくることがわかった。

問題は保険だ。こっちは支払いが滞ったら失効してしまうのだ。そういうことにも今の今まで頭が回っていなかったうえ、父に「なんの保険に入ってるの?」と聞いても「火災保険以外はまったくわからない」と言う。

■クレカ引き落としで定期預金がマイナス

とりあえず、可能性のある会社や郵便局や農協その他に電話し、父あての郵便物もさぐり、少しだけだがいくつかの保険を発見。引き落とし口座が空になり失効寸前のものもあったが、何とかセーフだった。保険はこれまでどんなに長く掛けていても、支払いの期日をすぎてしまえば何の意味もなくなるから、本当に恐い。

そして郵便物と口座を調べていた時に、思いもしなかった損害を見つけた。父はクレジットカードを所持していたものの、使うような買い物をする機会が近年なかったので、その明細は私はノーチェックだった。だが父の部屋にひいているケーブルテレビの引き落としがクレカになっていたのだ。そんなことも、父の郵便物を開けてクレカの明細を見て初めて知ったが、何と通帳を見ると、その引き落とし口座には何年も前からお金が入っていなかった。が、その銀行には定期預金があったため、そこから借入の形で、マイナスで引き落とされていたのだ。

定期預金の利息が消え入りそうな金額で時々入っているのに対し、その借入の利息ときたら。預金の利息の何倍もの金額が容赦なく落ちており、その状態が5年ほど続いていて、けっこうな損害になっていた。定期預金そのものの利息のお知らせはくるが、借入のマイナスについてはなんの連絡も手紙もない。「銀行さんってところはさ」と頭にきて、すぐにその定期預金を解約の上、引き落とし口座に入金し、そこからちゃんと落ちるようにした。しかもこのケーブルテレビの件、もう一つ脱力することがあった。

■なんと、有料チャンネルは何年も見ていなかった

十数年以上前から、父はケーブルテレビのジェイコムに加入し、今も自室でBSや有料放送を見ているようなので、高いなと思いながらも、その月数千円の支払いは放置していた。先日ちょうど契約が切れ、プランの見直しをする機会が来たので、安い基本パッケージに変えようかと聞いたら「そのままにしてくれ」というので継続する。

手慣れた動作なら今の父でもできると思っていた。が、今回はリモコンが替わるということで、家にサポートの方がきてくれた時、恐ろしいことが発覚した。なんと父はそれまでジェイコムのリモコンを使っておらず、もともとのテレビのリモコンを使っていたのだ。

それはどういうことかというと、地上波と、テレビリモコンで見られるレベルのBSしか見ておらず、せっかくジェイコムに入っているからこそ見られる有料チャンネル類を、何年もまったく見ていなかったのだ。なのに毎月けっこうな金額の支払いをしていたわけで。それを10年以上やっていたかと思うとめまいがする。何という無駄か。

■あえて嘘をついて、テレビの使い方を教える

どうしようかと思ったが、テレビは現在の父の何よりもの必需品で、解約は本人がいやがるし、契約中はプラン変更も違約金がかかる。こうなったら荒療治だと、今まで使っていたテレビのリモコンを隠してジェイコムのリモコンだけを渡し、「今回の工事でこれしか使えなくなった」と嘘をついて使い方を教えることに。認知症といっても、うちの父はピックが7割といわれており、日々の必須事項については比較的覚えている。これも必須事項としてできるのではないか、と思ったのだ。

慣れるまでとてもとても面倒だったが、本人もテレビが見られないのは死活問題。好きな巨人戦をはじめ、プロ野球が毎日見られるようになるからと、専用リモコンでの操作のみをその都度やってもらっていたら、1週間ほどでなんとか地上波とBS、そしてケーブルで自分の見たい野球放送ぐらいは見られるようになっていたので、よしとする。

■大量の「はずれ宝くじ」を発掘

ほかにも引き落とし口座の印字から、使っていないクレカや、車関連のカードの年会費も発見したので、すぐに退会を申し出た。が、これがとても面倒くさい。家族がかけているといっても「ご本人さまとお話をさせてください」と言われる。「電話口に出すのはいいですが、高齢なので細かい話は理解できないですよ?」というやりとりを何度もして、「規則なんです」と、向こうもしつこい。仕方なく、父親に「使っていないカードの年会費が無駄に落ちているので止めたい」と話をする。お金の損害に対しては敏感なので、理解をしめした父に、「今からかかってくる電話に出て、聞かれたことに答えてその後、私に代わって」といって対応してもらい、なんとか解約できた。

そのほか、父の部屋を探索して出てきたもので、当初不可思議だったのが、たくさんのはずれた宝くじだ。「そんなに宝くじが好きだったのか?」と思うほど、けっこうな量のはずれ券。父は病気になる前からごみを捨てられず、そういうものも全部ばらばらと棚に入れているので、本当に頭にくる。

田中 亜紀子『お父さんは認知症』中央公論新社
田中 亜紀子『お父さんは認知症』(中央公論新社)

「なんであんなに宝くじがあるの?」と聞くと、母が昔、地元の銀行の宝くじつき定期預金に入っていたからで、年に数回銀行から送られてくるという。一回の枚数は少なくとも、長年の積み重ねでの枚数なのか。「当たったことはあるの?」と聞くと、「ほとんどないね」と。もっとも定期預金の利息は普通にあって、そのほかに特典として宝くじが送られてくるということだ。事情がわかったので、こんなにはずれくじをためこんで! とかたっぱしから捨てた。

が、その直後、宝くじには「はずれくじの日」があり、9月2日のその日に過去1年のはずれくじに向けて抽選がおこなわれ、敗者復活戦があると知ったのである。

あぁ……。もしかしたら、昨年から今年にかけてのはずれくじの中に、大当たりがあったかもしれなかったのに。人知れず煩悶した。

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田中 亜紀子(たなか・あきこ)
ライター
1963年神奈川県鎌倉市生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業後、OLを経て、ライターに。体験エッセイや、女性のライフスタイル・仕事についての記事を執筆。芸能人・文化人のロングインタビューや、近年は介護体験の記事も手がける。著書に『満足できない女たち アラフォーは何を求めているのか』(PHP新書)、『39.9歳お気楽シングル終焉記』(WAVE出版)。

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(ライター 田中 亜紀子)

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