病院の中でも「超男尊女卑だった」外科をあえて選んだ女性医師は、仕事と家庭をどう両立したか
プレジデントオンライン / 2020年5月29日 11時15分
■女性医師受難の時代、あえて超男社会の診療科を渡り歩く
かつて大学病院の勤務医は、フルタイムで働き、当直もこなして当たり前。女性医師は妊娠すると退職か、産休から戻っても非常勤になるのが常だった。そんな二十数年前、勤務していた病院で、育休も取らず、フルタイムで復帰した数少ない女性医師が岡崎史子さんだ。
「夜中に呼び出されて、ベビーカーを押しながら出勤したこともありました。病棟での診療を終えて医局に戻ったら、同僚の医師が息子をあやしてくれていました。周囲に理解があったのが幸いでしたね」
外科医の父に憧れて医大に進学し、研修医として当時、超がつく男社会だった外科に進んだ。
「休みの日でも呼び出されると病院に行き、患者さんに寄り添う父を尊敬していました。いざ外科の医局に入ってみると診療や手術のほか、ペーパーワークも忙しく、当直もあり、男性と同じように働くのは体力的に大変。先輩医師に『両乳房を切除して子宮を取ってから来い』と言われ『負けるもんか!』と気合を入れたのを覚えています。厳しい2年間でしたが、必死でやり抜きました」
外科で研修医として2年勤務し、脳神経外科に進んだ。こちらも24時間体制のハードな職場だが、わざわざ女性が敬遠するキツイ医局ばかりを渡り歩いたのには理由があった。
「外科で腹部、脳外科で脳を学び、いずれ循環器内科も経験して、全身を診る総合診療医をめざしていました。具合が悪いのに原因がわからない患者さんの話をじっくり聞き、必要に応じてさらに専門医につなぐゲートウェイになりたかったからです」
研修の後、内科、循環器内科を経て、現在は総合内科の専門医として大学病院に勤務している。男性でも難しい専門性を身につけたことで、岡崎さんは医師としてのポジションを築いただけではなく、女性医師のキャリアに実例を示しつつ、短時間勤務制度などの整備に尽力した。今はそんな実績を買われ、臨床だけでなく、母校の医大で医療倫理やキャリア教育で教壇に立ち、後進の育成にも努めている。
■女医の仕事は運次第。継続すれば活路は開ける
制度も助けになるが、働く女性にとって運の善しあしは影響が大きいという。岡崎さんが出産後すぐ仕事に復帰できたのも、教授や医局長に理解があったからだった。
「医局長の対応次第で、待遇が違ってくる傾向はありますね。今、女性医師のキャリア支援活動として、新任の医局長に時短などの制度について説明し、理解を求めているのですが、女性医師が入りたい医局は、男性医師にも人気がありますよ、とトップの意識改革に努めています」
キャリア支援室では若い医師や学生と関わり、ワーク・ライフ・バランスなどの指導も行う。女子学生のロールモデルとして大学OGとの交流を企画するなど、長く働けるよう支援をしているが、危機感を持つのは、彼女たちの生真面目さだそうだ。
「仕事と私生活を両立すると中途半端になるのは仕方がないんです。すべてに100点を求めず、合格点ギリギリでも細く長く続けていけばいい。その時その時で嘘がない判断をしていれば、完璧じゃなくてもいいんですよ。仕事は時短にしても後で増やすことはできますが、ゼロを1に戻すのは大変ですからやめないことが大事。
進路でも将来を考慮して『心臓外科はやめておこう』など無難な選択をしがちなのも気になります。後のことは後で考えればいい、後悔するよりはやりたいことをやるべきです。それから感謝を忘れないこと。やりたいことをやるときは周囲の協力があるはず。制度は使うべきだけれど、使って当然と思わず、上手に助け合うことが大事なんです」
制度は整いつつあるが、病院内の子育てインフラは十分とは言えず、診療体制そのものも、まだまだ改善の余地があるという。
「患者さんの命を守るために、確実な情報共有や引き継ぎ方法の改善など、主治医に依存しすぎないチーム医療を徹底することが、女性の活用はもちろん、医師の働き方そのものに活路を開くのだと思います。これからの女性たちには、変化を恐れず思い切って生きたい人生を選んでほしいですね」
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東京慈恵会医科大学 医師
医学博士、東京慈恵会医科大学教育センター講師。同大学を卒業後、聖路加国際病院外科・脳神経外科、慈恵医大青戸病院内科(現・葛飾医療センター)、慈恵医大病院循環器内科などで勤務後、現職。慈恵医大教育センターで医学生教育に携わり、女性医師キャリア支援室で就労支援に当たる。また総合診療部で総合内科専門医として勤務。
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(東京慈恵会医科大学 医師 岡崎 史子 構成=モトカワマリコ 撮影=荒井孝治)
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