しつけのためにお尻をたたくと、「約束を守れない子」になりやすい
プレジデントオンライン / 2020年6月2日 15時15分
※本稿は、高祖常子『男の子に「厳しいしつけ」は必要ありません! どならない、たたかない!で才能はぐんぐん伸びる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■虐待で亡くなるのは「男の子」が多い
男の子は強くたくましく、女の子はかわいらしく優しくなんて、ついつい思っていませんか。たとえばちょっと大きい子なら、友だちにいじめられたときに、「泣き寝入りなんかしないで、やっつけてこい」とか。
実は虐待で亡くなった子どもの数を見てみると、男子51.3%、女子45.6%(厚生労働省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」2019年8月第15次報告書。第1次~15次の総数)となっています。男の子の方が多くなっていますね。これはまさに、「男の子はたたかれて覚える」「男の子は強く育てなくてはならない」というジェンダーの思い込みによるものだと思います。さらに「女の子は顔に傷を付けてはいけない」などの考え方もあるでしょう。
男の子がなかなか言うことを聞かないと、手を振り上げ、それでも言うことを聞かないと、たたいても効かないのか、たたき方が弱いからわからないのか……とつい、たたく加減が強くなっていく。それがエスカレートして、虐待や虐待死につながってしまうこともあるのです。
■たたかれても「人の痛み」はわからない
男の子は特にやんちゃだし、「たたかれないと人の痛みがわからない」と思っている人もいるでしょう。実際にあった例です。幼稚園の先生から、友だちをたたくことがあると聞いたパパが、「友だちをたたいちゃダメだ」と子どもに伝えたそう。すると、子どもから「パパはたたくのに、なんで僕はたたいちゃいけないの?」と聞かれたそうです。しつけの一環としてたたいて育てていたパパは、返す言葉がなかったということです。
たとえば、熱いものに間違って触ったことがあるから、気を付けるようになった人もいるでしょう。でも、実際触ったことがない人だって、「これは熱い」とわかるものには触らないように気を付けることができていますよね。包丁で指を切った経験がないと、包丁を使うときにケガをしないように気を付けられないということではありません。
また、「たたかれたことは覚えているけれど、なぜたたかれたのか記憶がない」と子どものころの体験を話すパパやママにもよく遭遇します。親からたたかれて怖かった記憶は残りますが、人の痛みがわかるようになったということにはつながっていないのです。
■「ダメ!」と言わなくてもいいことは結構ある
男の子って、特にママから見ると、困ったことばかりしませんか。
わが家の息子たちもそうでしたが、突然走り出したり、見失って迷子になったり、気が付くと木に登っていたり、いろんなものを拾ったり、持って帰ってきたり、水たまりの中を歩いたり。そのたびに「ダメ!」「なんでそんなことするの!」なんてどなりつけてしまう。親から見るととても突拍子もないことだったりして、びっくりしたり、困ったり。でも、男の子は、自分が感じたままに動いているのです。
もちろん、危険なことや友だちを傷つけるとか、絶対にダメなことは「ダメ!」「やめなさい」と言う必要があります。でも、ちょっと広い心で見ると、「ダメ」と言わなくてもいいことがきっと見えてくるはず。
「ダメ」と言わなかったら、男の子の困った行動のもうちょっと先に、面白いことが起こっているかもしれません。
男の子のワクワクドキドキの体験を、親も一緒に楽しんでみませんか。
■「お尻を叩くのならいい」は大間違い
よかれと思って、困った行動を止めるために、困った行動を今後しなくなるようにお尻をたたく。頭をたたくのはよくないけれど、お尻なら柔らかいしダメージも少ないんじゃないかとか、いろいろな理由をつけて、お尻をたたいていませんか。
3歳半のときにお尻などをたたかれていた子が5歳半のときに「落ち着いて話を聞けない」「約束を守れない」などの問題行動を起こすリスクが高いという研究結果が報告されています(藤原武男・東京医科歯科大学教授らによる研究結果2017年)。
つまり、子どものお尻をたたくことは、子どもの行動をよい方向に導いていないばかりか、子どもの成長・発達によくないことが起こり、子どもの未来にまでも悪影響を与えてしまうことになるのです。
もし子どもをたたいていたとしたら、今このときから「たたかない」と決めましょう。
子どもの手をたたくのも同様です。「この手がいけないんだと、子ども自身を否定しているわけではない」というパパやママがいますが、手も子どもの大事な体の一部です。
■「たたく」「どなる」は脳に悪影響
たたいたり、どなったりすることが、子どもの成長・発達のために必要だと思っている人も少なくないでしょう。ですが脳の研究で、たたく、どなる子育てが脳の成長発達によくないことがわかりました。厳しい体罰により、前頭前野(社会生活に極めて重要な脳部位)の容積が19.1%減少、言葉の暴力により、聴覚野(声や音を知覚する脳部位)が変形してしまうのです(福井大学友田明美先生ほかの研究結果2011年)。
でも、脳は回復すると言われています。たたく、どなる子育てを今からやめましょう。
親による体罰を受けた子どもと、受けていない子どもの違いについて、約16万人分の子どものデータに基づく分析が行われています。その結果、親による体罰を受けた子どもは、親子関係の悪さ、周りの人を傷つける等の反社会的な行動、攻撃性の強さとの関連など「望ましくない影響」が大きいことが報告されています。その影響は幼児期だけにとどまらず、成人になってからも続く可能性があります(ガーショフ他「手でたたく体罰と子どもの結果:これまでの議論と新しいメタアナリシス」2016年)。
■「親からの体罰禁止」が定められた本当の理由
2019年6月に「親権者からの体罰禁止」を盛り込んだ「児童福祉法等改正」が国会で満場一致で可決、成立。改正法では、親は「児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」とされ、厚生労働省は、子どもの権利をベースとした「体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」というガイドラインを策定(筆者も委員として参加)。2020年4月からスタートしました。
この法律がスタートしたからといって、ちょっとたたいたからすぐに通報されて逮捕されるということではありません。これは理念法というものです。もちろん、たたいたことで子どもがけがを負ったりすれば傷害罪などになる可能性もあります。それは、今までと変わりないでしょう。
ガイドラインにも書かれているように「親を罰したり、追い込むことを意図したものではなく、子育てを社会全体で応援・サポートし、体罰によらない子育てを社会全体で推進することを目的」としたもの。親だけががんばって育てるのではなく、社会全体が同じ意識を持って子どもを育てていこうということです。
■「どんな大人になって欲しいか」を共有する
私が全国のパパママ向けにお伝えしている「感情的にならない子育て講座」で、受講者の皆さんに必ず聞くのが「どんな大人になって欲しいですか?」ということ。
回答でよく出てくるのが以下のような言葉です。「優しい人」「思いやりがある人」「人の気持ちがわかる人」「自分の意見が言える人」……いろいろ表現は違うと思いますが、自己肯定感を持ち、いろいろな人と協力しながら自分で考え行動できる、自立(自律)している人ということになるのではないでしょうか。
「人の言う通りに動く人」「自分の意見を言わない人」と答える人はいないと思います。
パートナーが「たたいて育てるべき」「親の威厳で子どもをコントロールすべき」などと思っていたら、ぜひ、「どんな大人になって欲しいか」を話し合ってみてください。
夫婦で多少違ってもいいと思います。でも、それぞれが大事にしていることが見えてくるはず。そして「子どもがいろいろな人の手を借りながら、自分で考え行動できるように親としてどのように関わっていったらいいのか」を、パートナーと共有しましょう。
■「4ステップ」で子どもと向き合う
心と時間の余裕がないと難しいのですが、子どもとの向き合い方の4ステップを心がけてみましょう。
親とは違うかもしれないけれど、子どもが持った気持ちを受け止めること。そこを押さえることで、子ども自身が大事にされたという気持ちを持つことができます。
もうひとつ大事なのが、「方法を考えさせる」ということ。指示型ではなく、子どもがどうしたいか、どんな風にするといいと思うかアイディアを聞いてみてください。そのプロセスが自己決定にもつながります。
「子どもをたたかない、どならないで育てる」と決めることによって、子どもは親を怖がって威圧されたり、行動をコントロールされることがなくなるでしょう。
親子でコミュニケーションを取りながら解決方法の探し方を学ぶので、友だちとの意見のずれにも暴力を使わなくなります。成長していくいろいろな段階で、暴力やいじめ、ハラスメントをしてしまうこともなくなるでしょう。家庭の中での暴力がなくなることによって、社会にも好影響を与え、好循環を生むきっかけになると思っています。
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認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事
子育てアドバイザー、キャリアコンサルタント。資格は保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級ほか。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事、ほか各NPOの理事や行政の委員、「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(2019年9月-2020年2月厚生労働省)構成員も務める。子育て支援を中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っている。著書は『こんなときどうしたらいいの?感情的にならない子育て』(かんき出版)ほか。3児の母。
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(認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事 高祖 常子)
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