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心を整えるキリストの教え「つらいときこそ、いつもどおり」

プレジデントオンライン / 2020年6月6日 11時15分

MACF牧師 関根一夫氏

王はたいそう喜んで、ダニエルを(ライオンの)洞窟から引き出すように命じた。
ダニエルは引き出されたが、その身に何の害も受けていなかった。神を信頼していたからである。
――ダニエル書6章23節

■スマホで片っ端から花や鳥の写真を撮る

今、新型コロナとそれに関する真偽不明の情報で、不安やストレスを感じている方は多いでしょう。不安は心の中に入り込むと拭い去るのが難しい。

こうした不安やストレスは、どうすれば取り除けるのでしょうか。私は牧師をやりながら埼玉県のクリニックでカウンセリングもしているのですが、そこではいつも「あなたの悩みはわかるけれど、悩みを人生の主役にしてはいけない」と伝えています。今、コロナを自分の人生の「主役」にしてはいけないんです。そのためには、他のものを主役にする。たとえば命を主役にし、生かすものを主役にし、笑いを主役にしていくという視点がすごく大事だと考えています。

私はまず「家の周りを歩き、花や木、鳥や昆虫などを、片っ端からスマホで撮影してください」とアドバイスしています。花や鳥を撮影すると、ぐっと集中してほかのことを忘れられて気分転換になる。鳥を見て可愛い、声が心地いいとか、花を見てきれいだなと感じることは、命と関わる作業です。鳥も花も精一杯生きているわけですから。

旧約聖書「創世記」にある、神から人間に与えられた最初の命令は「すべての生きるものを支配せよ」です。これは支配下に置けということではなく「命あるものを神の心でケアしなさい」ということだと思います。終わりの見えない隔離生活で孤独に苛まれやすい今だけに、内にこもって「俺はもうだめだ」などと考えずに、自分以外の命と関わる時間を大切にしてください。もっとも、外出の自粛が求められる今は、YouTubeで落語を聴くことを勧めています。笑いやユーモアは、つらいときに人間性を維持する助けとなってくれますよ。

コロナと相まって、かねて続いている日本の経済的な凋落の中で、「お金が足りない」という悩みは皆が避けて通れませんし、現在の格差社会の中では否応なく目の前にあるものです。

私が牧師になりたての頃に聞いたある人の苦しみが、今でも頭の片隅に残っています。その人は大きな山や広い土地を持っていたんですが「山と土地が全部取られたらどうしよう、そう思うと不安で心配で眠れない」という悩みを抱えていました。それだけ持っていても「なくす」という喪失体験に怯えて生きるというのは、一体どういうことなのかと思ったんです。

所有欲は際限がない。お金はあってもあっても足りなく感じるものです。ですから、「足るを知る」をどの辺に置くかが大事だと思います。今あるもので満足するということは不可能だけれども、今あるものを、状況を、まずは喜べているかどうかを、このコロナの出来事を通過した後でいいからチェックする。これからの状況を考えると、それは必要なことかなと思うんです。

どんな状況の下でも喜べるものを探す、価値のあるものを探すという作業が、きっと「生きる土台」になるはずです。今自分が持っているものの中で、本当に意味のあるものは何だろう、本当に価値のあるものは何だろう、今生かされている状況の中で何にお金を使ったらいいのだろうと考えていると見えてくるものがあるはずです。

■「これが良い」と積極的に思う生き方

ただ、困難な状況下で平常どおり振る舞うのは、簡単ではありません。旧約聖書の『ダニエル書』に登場するユダヤ人のダニエルは、死の脅威に対しても「心の軸」がぶれず、沈着さを保ち続けました。捕囚の身でメディア国(古代イランの王国)のダレイオス王に重用されたダニエルは、それを嫉妬した王宮の官僚たちの計略でライオンのいる洞窟に投げ込まれてしまいます。

MACF牧師 関根一夫氏

しかしダニエルは、ライオンに襲われることなく生き延びました。驚いた王が問うと、ダニエルは「神様が天使を送ってライオンの口を閉ざしてくださいましたので、なんの危害も受けませんでした」と答えます。

おそらくダニエルは自分の力で抗うことができない状況において、もしここで死んでも「それは神がそうさせたことなのだから悔いはない」と納得していたのだと思います。だからこそライオンの洞窟という極限状況でも、恐れることなく心の平穏を保つことができたのです。ライオンを、貧乏やコロナに置き換えてみても同じでしょう。

では、ダニエルのような信仰のない人はどうすればよいのでしょうか。これはあくまで私の考えですが、昔から人は、人らしく生きるために「心の軸」を必要としてきました。その軸に目を向けるのはどうでしょう。たとえば歴史の中で言い伝えられてきたことや、日本人が大事にしてきたことに目を向けるのは、大切だと思います。

原始の信仰は素朴だったと思います。日常そのものが過酷だったでしょうから、家族や仲間と寄り添いながら「今日も、生きていられてよかった」と思うだけで幸せだったはず。命がもたらす喜びを人生の主役にして、今ある状況の中で価値あるものを見つけて暮らしていたのだと思います。「足るを知る」ことを知っていた、と言い換えることも可能でしょう。仕方なく満足するのではなく、「これが良い」と積極的に思う生き方。生きることを喜ぶ「心の軸」があれば、心の平穏を保つことができるのではないでしょうか。

■一畳半の貧乏生活でふと気づいたこと

栃木から上京した私が日本大学の哲学科の学生だった頃は、住み込みで新聞配達をしながら学費を稼ぐ貧乏な生活。一畳半の部屋の3段ベッドの1つが生活の場で、毎日が重たい新聞の束との格闘です。生まれて初めてホームシックにかかりました。

全共闘の時代で、キャンパスは荒れ放題。授業を休んで石を投げたり催涙弾を食らったり。でも、クラスで討論会をやったり、「大事なストがあるからみんな参加しよう」と決議しても、「俺、ちょっと夕刊があるからごめん」と抜け出していました。「しょうがないだろ、お金がなきゃどうにもならない」などと言いながら……。

ある日、その部屋で聖書を読み、お祈りをしていたとき、ふと、「神が私たちとともにいるということは、この一畳半の部屋に俺と一緒にいるということなんだ」「この重たい新聞の束を、神は一緒に背負ってくれているんだ」と気づきました。その瞬間、怖いものがなくなったんです。結構タフになりましたよ。この命が生かされようとなくなろうと、永遠の手の中に置かれているような心境。不思議な安心感に包まれる感覚です。それは、気づきがもたらすリアルな体験なのだと思います。そういう「心のしずまり」が今こそ大切なのではと思うのです。

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関根 一夫(せきね・かずお)
MACF牧師
1949年生まれ。96年より独自の認知症リハビリ・プログラムを立ち上げ、介護家族向けカウンセラーに。著書に『いてくれてありがとう』。

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(MACF牧師 関根 一夫 構成=篠原克周 撮影=的野弘路)

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