「SSK」「愛愛名中」…なぜ愛知は地元大学への進学率が高いのか
プレジデントオンライン / 2020年5月29日 15時15分
※本稿は、日本経済新聞社編『名古屋のトリセツ』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。
■女子大生がかつての名古屋嬢ファッションをけん引
愛知県は高校卒業後、地元の学校に進学する人の割合が全国で最も高い。理由の1つが私立大の充実にある。女子大御三家「SSK」はかつての名古屋嬢ファッションをけん引し、「愛愛名中」に代表される中堅私大と共に中部圏の企業や自治体に多くの人材を送り出してきた。
全国的な知名度は東京や関西の難関大に劣るが、地元でのブランド力は大きな強みだ。
「NAGOYAのお嬢さんに注目 しゃちほこよりゴージャス」(「JJ」2001年3月号、光文社)。00年代の初め、女性ファッション誌が競って「名古屋嬢ファッション」の特集を組んだ。上品なワンピースに巻き髪、大きなロゴの高級ブランドバッグ――。当時読者モデルとして必ず登場したのが「SSK」と呼ばれる椙山女学園大学、愛知淑徳大学(1995年に共学化)、金城学院大学の女子大学生たちだった。
■椙山女学園には曽祖母から4代続けて通う学生も
松坂屋名古屋店の婦人服担当、城戸憲吾さんは「SSKの学生らが名古屋嬢ファッションの先頭を走っていた」。服装の独自色は薄まりつつあるが、ブランドバッグは今も学生に人気だという。
3校とも女子校としての歴史が長く、椙山女学園には曽祖母から4代続けて通う学生もいる。「お嬢様の学校」とのイメージを抱かれがちだが、金城学院の広報担当者は「学生はすごく真面目に勉強している」と強調。椙山女学園の広報担当者は「カフェで優雅にランチではなく、学食で本を読みながら定食を食べる学生が目立つ」と語る。
椙山女学園を受験した女子高校生(18)は「女性のキャリア教育がしっかりしていると思った」。愛知淑徳や金城学院も就職サポートに力を入れ、金融や航空などさまざまな業界に卒業生が進む。OGには著名人も多く、故前畑秀子さんは椙山のプールで練習を重ね、84年前のベルリン五輪の200メートル平泳ぎで日本人女性初の金メダルを獲得。引退後は母校で後進の指導にあたった。
■高卒後に地元へ進学する率は全国最多
16年度の文部科学省調査によると、高卒後に自県の大学や短大、専門学校に進学した割合は愛知が全国最多の71%。地元志向の背景について、名古屋に本校がある「河合塾」教育情報部の岩瀬香織チーフは「実家から通えるエリアに多数の大学があり、有力企業が多いため就職の不安が少ない」と説明。遠方の国公立大に合格しても愛知の私大に進む受験生が多いという。
とりわけ、「愛愛名中」(愛知大学、愛知学院大学、名城大学、中京大学)の中堅4私大が果たしている役割は大きい。県内で最も学生が多い名城大は19年春の卒業生のうち、65.3%が愛知、岐阜、三重の3県の企業や団体に進んだ。ほかの3大学も6~7割が中部で就職している。地元の公務員を志す学生も多く、中京大は県庁に29人、県警に56人が合格した。
また、愛知大が12年に名古屋駅近くに新キャンパスを設けるなど校舎の都市部への移転が進み、岐阜や三重からも学生を集めやすくなっている。
近年は定員厳格化の影響で首都圏の中堅私大の合格ラインが急上昇している。このため中部圏で抜群のネームバリューと就職実績を誇る愛知の私大は相対的にメリットが大きくなっているとされる。
その筆頭格が南山大学だ。1932年、ドイツ人宣教師が旧南山中学校を設立。カトリック系のミッションスクールで、キリスト教学科には司祭の養成課程もある。
■今後の課題はいかに中部以外から学生を呼び込むか
同じカトリック系の上智大学とは関係が深く、59年の伊勢湾台風の支援をきっかけに、さまざまなスポーツで対決する「上南戦」が始まった。1年ごとに東京と名古屋で開催され、通算成績は南山の17勝38敗5引き分け。南山には「勝てば学長をプールに投げ込む」との伝統があるが、19年まで3連敗中だ。南山大学長室によると、20年4月に就任する米国出身、ロバート・キサラ新学長も伝統を受け継ぐ考えだという。
18歳人口の急減で、学生の奪い合いはさらに激しくなる。地元で根強い人気を誇る愛知の私大も例外ではない。河合塾の岩瀬さんは「中部だけでなく、他の地域から学生を呼び込めるかが課題になる」と指摘する。
愛知に国立4大学愛知県にある国立大は、名古屋大学、師範学校が前身の愛知教育大学に加え、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学の工学系2校がある。名大は旧帝大で最後発ながら、天野浩教授ら学部や大学院出身の5人がノーベル賞を受賞。名工大と豊橋技科大は7~8割が大学院に進み、技術者や研究者として中部の製造業を支える。
名大は経営を効率化して国際競争力を高めるため、2020年4月に岐阜大学と運営法人を統合する。県境をまたぐ国立大の法人統合の先行例として注目されている。
(日本経済新聞社編)
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