「カイロ大学卒業は本当」小池百合子東京都知事の学歴詐称疑惑
プレジデントオンライン / 2020年5月27日 19時15分
■多くのメディアは「小池圧勝」を予測
4年前の夏、東京・池袋は興奮と歓喜に包まれていた。20年を超える国会議員のキャリアを投げ捨て、東京都知事選に飛び込んだ小池百合子知事の姿は「ジャンヌ・ダルク」と重なり、その支援の輪が広がりを見せていったのだ。対立候補を応援する石原慎太郎元都知事が浴びせた「大年増の厚化粧」発言などは女性を凍り付かせ、小池氏の圧勝に結びついた。
元東京都副知事の青山佾氏は著書『東京都知事列伝」(時事通信社)で、小池氏の人気が続いた理由をこのように分析している。「いかにそれまでの都政に対する都民の批判が強かったかということでもある」。最近の都知事を見ると、4選を果たした石原氏が国政転出を理由に突如辞任し、後継の猪瀬直樹氏は医療法人からの資金提供問題により1年余りで失脚。2014年2月に当選した舛添要一氏も「政治とカネ」や公用車の公私混同問題で世論の批判が高まり、任期途中の辞職を余儀なくされている。3年で3人の知事が交代する異常事態で、都政は混乱と停滞ばかりが目立った。
■ジェラシー渦巻く政界は粘着攻撃も
7月5日投開票の都知事選は、このままいけば11年以来9年ぶりの任期満了に伴う選挙となる。小池氏は出馬するのか明言していないが、都知事選に過去2回出馬し、いずれも約90万票を獲得した元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏や、大麻解禁や「低用量ピルで女性の働き方改革」など大胆な提言が波紋を広げる実業家の堀江貴文氏らの名が浮かぶ。ただ、多くのメディアでは、再選を目指す現職は強い傾向にある上、新型コロナウイルス感染症への対応で国民の評価も高い小池氏の圧勝は動かないと見ている。
とはいえ、小池氏にも全く隙がないわけではないだろう。嫉妬が渦巻く政界で「アンチ小池派」は攻撃の手を緩めてはいない。その筆頭が「大学卒業問題」だ。小池氏は、これまで9回の国政選挙や16年の都知事選で経歴に「カイロ大学卒業」と掲げてきた。だが、この経歴が虚偽ではないかとの攻撃を執拗(しつよう)に繰り返している。小池氏の支援で17年夏の都議選で当選し、その後離縁して小池氏批判の急先鋒になった上田令子都議もその1人だ。上田氏は18年9月の都議会で「メディア等の学歴報道が正しくないのであれば、法的な措置も含め、毅然(きぜん)とした態度をとられるのが政治家の本懐だ」と指摘し、大学卒業の有無をただしてきた。
■カイロ大学はいずれも「卒業」と回答
上田氏が触れた「メディア等」とは、ノンフィクション作家の石井妙子氏が18年7月に著した『小池百合子 「虚飾の履歴書」』(文藝春秋社)や、それに連なる週刊文春の記事などを指す。上田氏は、石井氏の大学学部の先輩にあたり、取材協力もしてきたと本人が明かしている。都知事選を直前に控え、今回は、それらの記事とカイロ大学関係者を含む多くの関係者への取材で得た証言を比較、検証してみたい。告示まで1カ月を切ったとはいえ、「カイロ大学卒業」が万が一にも虚偽であれば重大である一方、選挙公報に記載されている通り卒業しているならば、それ以上の追及は意味がなく、むしろ選挙妨害に抵触しかねないと判断したからだ。
まず、石井氏の著書では、小池氏の元同居人の話として「彼女は実際にはカイロ大学を卒業していません」と掲載している。この元同居人を根拠にした記述が目立ち、卒業関係書類のロゴやスタンプが異なる点なども指摘している。ただ、著書の中では、大学に照会したところ、カイロ大文学部日本語学科の教授から「確かに小池氏は1976年に卒業している。72年、1年生の時にアラビア語を落としているが、4年生の時に同科目をパスしている。これは大学に残されている記録であり、私たちは何度も日本のメディアに、同じ回答をしている」との回答を得たと記している点は興味深い。
■当時のカイロ大学生や現在の大学関係者らを取材した
相反するかのように見える記述を検証するため、当時のカイロ大学生や現在の大学関係者らを取材した。まず応じてくれたのは、小池氏と同じ時期にカイロ大文学部に通ったエジプト人男性だ。当時、カメラを持っている人は少なかったが、この男性は小池氏が同級生とよく撮影していたことを覚えており、「時々、日本語の歌を歌ってくれた」と目を細める。この男性によると、カイロ大には入学式や卒業式はなく、その点は小池氏が著書などで明らかにしてきた点とも符合する。
ここで細部に入る前に日本とエジプトの大学制度の違いについても触れておきたい。カイロ大は現在、9月の第3土曜日にスタートしているが、かつては「10月入学―7月卒業」だった。小池氏は76年10月に卒業しているが、この卒業時期の違いは「1年生の時から落としていた科目は4年生になってパスすれば良いことになっており、そのための追試が行われる時期。通常は9月までに試験を行い結果が出る」(カイロ大関係者)という。小池氏は18年6月の都議会で「最終的には追試を経て、卒業に必要な条件を満たした」と答弁し、卒業までに必要な科目を追試でクリアしたと説明している。同大関係者によると、卒業はまず学部で追試後速やかに決定し、その後に一定期間を経て大学としての正式決定をする流れという。
■大学の記録にも「76年10月卒業」
では、卒業関係書類のスタンプやロゴが他の卒業生のものと違う点はどうなのか。一部からは、割り印としてのスタンプが不鮮明であることや卒業証明書が「男性形」で書かれていることなどが不自然との指摘もある。この疑問に答えたのはカイロ大の幹部も務めた男性だ。「昔、小池氏が国会議員になる時や閣僚になった時など日本のメディアから問い合わせがあった。念のため大学の記録を調べたが、間違いなく小池氏は76年10月に卒業していた。そのことを回答してきたから、もう日本の大手メディアは小池氏の大学卒業について報じていない」と説明する。その上で、卒業関係書類については「実際に記録を見た人間が言えるのは、学部や時代によってスタンプやスタイル、サインが違うということだ。数年ごとにそれらを変えていることを知らない人間が勝手に間違えていることを言っているのだろう」と指摘する。
スタンプは盗難対策などのため定期的に変更しているといい、別の同大関係者は「卒業関係書類は昔は男性形の1つのフォーマットを使い、手書きやタイプライター。ピンで留め、大学職員が何人かで手作業でスタンプを押していた。今はさすがに男女の違いはあるが、多くの学生に書類を作成するのは大変な作業で、多少異なる点があるのも当たり前」と解説する。
■カイロ大は入学式・卒業式も卒論制度はない
日本の「マンモス大学」としては日大が有名だが、それでも在学生は7万人程度。しかし、カイロ大は在学生が約30万人、文学部だけで約2万4000人で、毎年約5000人が卒業する「超マンモス大学」だ。日本の大学では卒業論文を必要とするところも少なくないが、小池氏は自身の著書などで「卒論制度」はなかったとしている。この点について、同大の元幹部は「先生や助手になりたい人がさらに加点するためにリポートを書くことはあるが、それは必須ではない。卒論という制度は当時も今もない」と証言した上で、こう語る。
「大学の卒業を決められるのは大学だけだ。それは都議でも、作家やジャーナリストでも、元同居人でもない。どこの世界にも成功した人への嫉妬はあるものだが、小池氏の卒業を認めることができるのはカイロ大だけであり、大学の卒業生でも関係者でもない元同居人の話ではない」
■カイロ大教授「カイロ大の地位を報道で傷つけられた」
小池氏は自民党衆院議員時代、カイロ大学学長の招きで学生らを前にスピーチし、学長が「卒業生」として紹介したことがある。当時、出席していた大学関係者は「小池氏はカイロ大の誇りだ」と感じたという。カイロ大学文学部社会学科のアリ・メッカウイ名誉教授もその1人だ。メッカウイ氏は「小池氏は若くして親元を離れ、異なる文化社会のエジプトで暮らし、熱心に授業に出席していた。その社会に溶け込み、大学を立派に卒業できた小池氏のことを誇りに思う」と語り、こうも続けた。
「なぜ日本では小池氏の卒業だけが不正と考えられるのか理解できない。カイロ大学の歴史と権威、国際的な地位を傷つけられた。エジプトの社会や教育制度のことを何も分からない、分かろうともしない人が批判するのは信じられない」
■都知事選直前に「疑惑」報道する意図は
小池氏のカイロ大学卒業を「疑惑」と表現する報道に共通しているのは、カイロ大学やその関係者がいずれも小池氏の卒業を認めていることだ。ネット上には「エジプトは卒業証書の不正発行が横行している」「虚偽の経歴を記載していたならば、公職選挙法違反に抵触する」などの書き込みも見られるが、卒業を認めることのできる唯一の機関であるカイロ大が一貫して「卒業」と回答していることは重い事実でもある。
今月28日発売の週刊文春は、文藝春秋社が翌29日に発売する石井氏の新著に合わせるような形で、小池氏の大学卒業問題について報じている。ただ、その内容は2年前の石井氏の著書や「文春オンライン」に記述されていたものが大半で新味に欠け、今回の取材で得られた関係者の証言を覆すものもない。遠く離れた日本で、都知事選直前に「疑惑」と再び報じる意図を同大関係者は「何らかの政治的な意味があるのかわからないが、抗議したい」。メッカウイ氏も「成功者である小池氏の足を引っ張って、失敗させたい政治的ライバルは多いと推測するが、エジプトで最高位の大学とその卒業生に対して『疑惑』とするのは一体なぜなのか」と疑問に感じている。
(新宿コンフィデンシャル)
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