「アベノネクタイ」安倍首相の迷走ぶりは首元に表れている

プレジデントオンライン / 2020年6月1日 9時15分

左から4月7日、5月14日、5月4日、5月25日の記者会見で話す安倍首相。 - 写真=首相ホームぺージをもとにプレジデントオンライン編集部が作成

安倍首相はここぞというときに黄色のネクタイを締める。一方、アメリカのトランプ大統領は赤色だ。これにはどんな違いがあるのか。印象戦略コンサルタントの乳原佳代氏は「黄色には親近感を持たせ、コミュニケーションを円滑にする心理的な効果がある。しかし、コロナ対応の中でも重要な会見では赤色を選んだほうがよかった」という——。

■政治家の印象を左右するネクタイの底知れぬ力

皆さんは、毎朝ネクタイをどのような基準で選ぶのだろうか。今、ステイホームでネクタイを締めない生活を送っている方も多い中、政治家は連日、ネクタイを締めてテレビに映る。

われわれの生活を大きく左右する政治家の一語一句にクリティカルに耳を傾けると同時に、その政治家の表情や服装も視界に入り、ネクタイもその人の印象を左右する。今回は安倍晋三首相が、いかに戦略を立ててネクタイを締めているかを分析してみたい。

たかがネクタイごときが政権に影響を及ぼすのだろうか? 答えはYesである。

われわれは人の顔を見る時、必ず首元が視界に入る。ネクタイもまたしかり。ネクタイの色や形を情報としてインプットする視覚(目)は、非常に精巧な器官であり、瞬時に色や形といった膨大な情報を脳に伝達する。

色には、重さや軽さ、スピード、温度まで感じさせる力がある。また、他の色と組み合わせることで、より心地よく感じたり、不快感をも印象づけることができる。それだけ色には心理的に訴求するパワーがあるのだ。

アメリカではメッセージを効果的に伝えるため、ネクタイをも戦力としてうまく使いこなすのが、ケネディとニクソンが争った1960年の大統領選挙以来、常識となっている。

■「XLサイズ、プラス2センチ」赤を多用するトランプ大統領

トランプ大統領を例に見てみよう。彼のネクタイといえば、鮮やかな赤のイメージが強い。人は赤い色を見た時、そこから連想される炎や戦いのイメージが浮かび、視床下部からの命令でアドレナリンが出てくる。すると、血圧が上がり、瞳孔が開き、発汗が始まり、その度を超すと戦闘態勢となる。

2018年9月24日にインスタグラムに投稿された安倍首相とトランプ大統領の写真。(写真=首相官邸Instagram)
2018年9月24日にインスタグラムに投稿された安倍首相とトランプ大統領の写真。(写真=首相官邸Instagram)

しかも、トランプ大統領のネクタイの長さは、アメリカのエクストララージサイズより、さらに2インチ長い特別サイズである。演説中のオーバーアクションと相まって、その姿はまるで旗をはためかし、民衆を煽動するかのように見えてくる。白人労働者階級の支持を得るのに成功したのも、ネクタイ込みのパフォーマンスがあったからに他ならない。

その一方で、対照的な青いネクタイを着用したこともある。今年3月11日に欧州の入国禁止を発令した時、4月5日にニューヨークでの感染拡大のペースが落ちた時、15日にピークを過ぎたと述べた際には、珍しく青のネクタイを締めていた。

青は、澄んだ空や水を想起させ、人をリラックスした状態へと導く。赤とは逆に、体を休めるホルモンを分泌させ、安心感を与えるのだ。国民に安らぎや安心感を与えると同時に、暴動や買い占めを避けるため、国民を「鎮静化」させる狙いがあったと見られる。

大統領と青いネクタイといえば、オバマ大統領もその恩恵に預かっている。彼が青ネクタイを締めていたのは、リベラルな印象を与えて国民を鎮静化させるためと言われており、最後には見事、ノーベル平和賞を受賞するに至った。

■普段は安倍イエローで親しみやすさをアピール

話を安倍首相に戻そう。彼のネクタイといえば、黄色のイメージが強い。安倍首相のものまねをする芸人も黄色いネクタイを締めている。

実は、黄色には親近感を持たせ、人とのコミュニケーションを円滑にする心理的効果がある。私は安倍首相の長期政権に、この黄色ネクタイの効果は欠かせないと思うほどだ。

彼がよく用いる黄色は、色彩心理学的に明るく、気持ちを前向きにわくわくさせる効果がある。オリンピック招致出陣式もこの黄色ネクタイを締め、見事に東京開催を勝ち取った。ザギトワ選手に秋田犬のマサルを贈呈する時やG20大阪で関ジャニ∞と一緒のシーンでも、黄色ネクタイでカジュアル且つ親しみやすい雰囲気づくりに成功した。

また、黄色はゴールドを連想させて気品もあることから、各国首脳会談に選ばれることも多く、海外に広く発信されている。加えて、黄色はメラニン色素が多い日本人になじみやすい色のため、日本人に似合う色と言われている。

我々日本人は、「イエロー」と揶揄(やゆ)されてきた。そこで、かつて「黄禍」と恐れられたプライドとともに黄色ネクタイを締めることで、一定の年齢層や保守層に向けた一種の暗号のような絆を生じさせ、支持を得られているとも考えられる。

■最重要会見で裏目に出た「紺に黄色のストライプ」

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言発出後は、安倍首相が所有する数ある黄色ネクタイの中から、ソリッド(無地)のものと、紺地に黄色の斜めストライプのものがよく締められている。

黄色は進出色でもあるため、他の色より前に突出して見える。よって、この黄色から迫力を生み出し、より説得力を増そうとしているわけだ。同時に、信号にも使われる注意喚起の色でもあるため、人々の注目を集めるのにも効果的な色ともいえる。

4月7日に開かれた安倍首相の記者会見。
写真=首相官邸ホームページ
4月7日に開かれた安倍首相の記者会見。 - 写真=首相官邸ホームページ

しかしながら、4月7日の緊急事態宣言発出のような最重要級の会見では、この紺地に黄色のストライプでは、ビジネスマンのような印象や、2色の組み合わせから生じる人それぞれの感情など、視覚的に余計な情報が伴うと見受けた。

5月4日に開かれた安倍首相の記者会見。(写真=首相官邸ホームページ)
5月4日に開かれた安倍首相の記者会見。(写真=首相官邸ホームページ)

5月4日の緊急事態宣言延長に伴う会見では、薄い水色のソリッドなネクタイを着用していた。沈んだ寒色で、国民の苦悩を鎮静化させる狙いがあったのだろう。しかし、緊急事態を解除できないという深刻な状況を伝えるにはソフトな印象かつ落ち着き過ぎで、国民の逼迫(ひっぱく)した状況とは乖離(かいり)が見受けられた。

首相のお願いベースの外出自粛呼びかけに、国民はかえって憤りを感じたのではないだろうか? ネクタイの色は、両者の温度差を静かに、しかし確かに語っていたのだ。

国民は、アフターコロナ以降も共に戦う強いリーダーシップを求めている。首相の権威とパワーを最大限発揮するには、戦闘態勢を示す鮮やかな赤のソリッド、例えばトランプ大統領のようなネクタイがふさわしいのかもしれない。

■実はしたたかだったストライプの向き

安倍首相が、ここぞという時に巻いているネクタイ。紺地に黄色の斜めストライプが特徴のそれは、アメリカのブルックスブラザーズ社(BB社)の#3というものだ。

この斜めストライプのネクタイは、そもそもイギリスの軍隊の連隊旗が起源で、レジメンタル(連帯)と呼ばれ、カタカナの「ノ」の字の向きのレジメンタルは英国式とされており、日本人にもなじみの深いものだ。

ニューヨーク生活の長い服飾評論家・ケン青木氏によると、1902年に前述したBB社が、このストライプのネクタイを作る際に、ストライプの向きをあえて逆向きに作ったそうだ。この左上から右下に下がるストライプは「アメリカ式」と呼ばれており、実は安倍首相が主に締めているのはこちらなのだ。

安倍首相は、紺地に黄色の縞の他にも、紺地に白やピンク、黄地に紺、水色地に紺縞、赤地に紺の縞等の#3を多用し、他にも黄地に青と白の3色使いの#1等もよく締めている。

安倍首相がこのBB社のネクタイを愛用していることは、永田町でも知られる話だが、一目でメード・イン・アメリカのものであることが分かる、「アメリカ式」のストライプのネクタイを誇示することに深い意味があると考える。

それはアメリカに対して、友好、忠誠心を表し、親米派であるというノンバーバルのメッセージを世界に発信できたのではないか。目的を簡単に発信できるという点で、ネクタイほど有効なアイテムはない。

■発言の「あいまいさ」と比例するネクタイの違和感

この新型コロナ自粛期間に、安倍首相が、アメリカ式でないネクタイや、曖昧な色のネクタイを締めていることが幾日かあった。

筆者は、主義主張が分かりづらいネクタイから、それを選んでいる人の心情に不安を感じたり、主張に違和感を覚えることがある。

首相官邸のホームページを見ると、日本政府が2月12日に、浙江省発行の中国旅券を所持する外国人の入国拒否を発表している。この日の安倍首相のネクタイは紫のソリッドで、赤でも青でもない曖昧色の紫からは、中国への配慮が感じられた。

3月27日の参議院予算委員会では、見たことのない地味な印象の深緑のバスケット織りのネクタイを締めていた。この日、安倍首相は、野党から雑誌に掲載された昭恵夫人のタレントとの花見の記事について追及され、答弁をされた。昭恵夫人の奔放さが、安倍首相のネクタイに影響を及ぼしたか。

4月1日の政府対策本部の会合で、布マスクを全世帯に2枚配ると発言した時は、ストライプの向きがアメリカ式のものではなく、突如英国式の向きに変わった。国民の支持が得られるのか迷いがあったのではないか。

■迷いや苦しい場面で登場する「いつもと逆向きのストライプ」

このネクタイは、実は5月21日にも締められていた。この日は、黒川検事長が賭けマージャンをしていたと報道され、辞任の意向を明らかにした翌日にあたり、安倍首相はとても苦しい立場に追い込まれていたと言えよう。

5月21日、首相官邸でぶら下がり取材に応じる安倍首相。
写真=首相官邸ホームページ
5月21日、首相官邸でぶら下がり取材に応じる安倍首相。 - 写真=首相官邸ホームページ

このような日にあえていつもと逆向きのストライプのネクタイを選んだ真意はなんだったのか。無意識に手に取られているのか、それとも戦略あってのことなのか。

これまで挙げてきたことは全て筆者の主観にすぎない。しかし、ノンバーバルも含むコミュニケーションは総じて、発する側(ピッチャー)の思いが、受け取る側(キャッチャー)にそのまま伝わるかと言えば、そんな簡単なものではない。

キャッチャーそれぞれ、千差万別の取り様となる。なぜなら、受け取り方はその人個人の文化背景によるからだ。そして、違和感を覚えたものには共感は生まれない。なので、政治家や企業のトップは第三者のクリティカルな分析を基に、自身の発する印象に責任を持ち、戦略を立てる傾向にある。

■言葉より饒舌なネクタイと意思を象徴する結び目

ネクタイによって、結んでいる人の心情や過去、例えば、その時の夫婦関係や家族の営み、過去のトラウマやスピリチュアリティまで感じることがある。その人の首に結ばれるまでのドラマこそ深い意味を持つ。

安倍首相がBB社を好むのはアメリカ留学中に薫陶を受けたからか? 昭恵夫人のお見立てか? 行きつけの洋装店は? 同盟国への敬意か? 

ネクタイが発するメッセージで想像は掻き立てられ、やがてそのネクタイの主の印象や政治手腕にまでひも付けられる。言い換えれば、ネクタイは言葉より饒舌なのだ。そのネクタイの主の情報が漏洩するとも言える。われわれも服装はリスクマネジメントの一環として捉えるべきである。一国の首相ともなれば、国益を左右するのだから尚更だ。

また、結び方も印象に大きく影響する。安倍首相はよく、結び目が大きい「ウィンザーノット」という結び方を用いている。諸説あるが、本来、欧米の一定以上のクラスのデフォルトはシンプルな「プレーンノット」を用いる。

しかし、ウインザーノットは左右対称かつ奇麗に結びやすい。産霊(むすひ)の国に生きるわれわれ日本人は、大きく整然とまっすぐなものを好む傾向がある。そのため、あえてこの結び方にしているとも考えられる。

ここまで書くと、毎日美しくネクタイにディンプル(えくぼ)を作り、毅然と締めている安倍首相に安堵と希望を見いだす方もいるのではないだろうか。少なくとも危機的状況だからこそ、服装もおろそかにしないでほしい。それは国民をおろそかにしないという強い意志を静かに示すことに他ならないのだから。

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乳原 佳代(うはら・かよ)
印象戦略コンサルタント
大阪府出身。航空会社退職後、英国ロンドンシティーリットでコミュニケーションを学ぶ。帰国後、印象戦略コンサルティング会社キャステージを起業。危機管理の観点から、行政や大手企業で演説トレーニングや服装戦略を手掛ける。また、日本政策学校講師、上智大学グリーフケア研究所認定臨床傾聴師、麹町中学校「制服等検討委員会」アドバイザー、ラジオ日本「ラジオ時事対談」レギュラーも務める。

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(印象戦略コンサルタント 乳原 佳代)

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