「持続化給付金も課税される」税理士も悩むコロナ対策の大混乱
プレジデントオンライン / 2020年5月31日 11時15分
■「収束」か「終息」か…日本語は難しい
全世界を震撼させた新型コロナウイルス。日本では、5月中に全国で緊急事態宣言が解除された。道のりは長いかもしれないが、少しずつ、今までの生活を取り戻していくことになるのだろう。
新型コロナウイルスの報道がなされた当初、実家の母とこんなやりとりがあった。
【母】新型コロナウイルス関するニュースで、“収束”という漢字を使っている放送局と、“終息”という漢字が使っている放送局があるけれど、どっちが正しいの?
【筆者】そんな、チャンネルごとに違う漢字を使うことなんかあるのかなぁ? 見間違えたんじゃないの?
【母】そんな、私がボケてるみたいに言わんといてよ! 確かにこの目で見たんやから。NHKと民法で違う漢字を使ってた。やっぱり、NHKの方が正しいんやろかねぇ?
私も文字を使って文章を書くことを仕事にしているので、ちょっと気になり、調べてみた。
母が言ってきた通り、“しゅうそく”の音を表記する漢字は、“終息”と“収束”の二つあった。漢字それぞれの意味から考えられる通り、“終息”は息が絶えるように終わるので、完全にそのことが終わること。“収束”は、いったんは区切りとして束ねることができるような感じで、落ち着くといったニュアンスのようだった。
母が言っていた通り、新型コロナウイルスが報道されはじめた当初は、それほど長引くものではないだろうという感覚があり、すぐに“終息”を迎えるだろうという希望的観測の意味を込めて、“終息”の漢字を使っていた放送局もあったのだろう。
事態は日々深刻化し、緊急事態宣言が出される頃には、テレビの画面で“終息”という文字を見ることは少なくなっていたように思う。
とかく、日本語は難しい。筆者自身、記事の中で言葉足らずな部分をご指摘いただくことが多いのも、日本語が難しいゆえんだろう。今回の新型コロナウイルスは、全国民に関する問題だ。使う言葉については、一つひとつ吟味し、本来意図することが正しく伝わるような努力や配慮が必要だと思う。
■所得税法の原則は「たとえ盗んだお金でも課税する」
不要不急の外出を自粛するように要請され、その間に治療法などが研究され、抗体検査のキットが開発された。まだまだ、両手放しで安心できるという状態ではないと思うが、出口が見えつつある状況になってきたと思う。
医療現場の状況以外に、一般の国民として気になるのは、経済情勢についてだろう。どんな仕事をしていても、生活をするにはお金が必要だ。
まず、外国人も含め、日本で生活を送っている人に一人あたり10万円を支給するということが決まった。これは、本来、国から支給される給付金だ。一日でも早く、給付金を渡してあげたいということで、都道府県や市町村の中には、国からの支給よりも先に立て替え払いをするというところもあったようだ。
みんなが困っている時に、知恵を出しあって、それぞれの立場で今やれることをやろうという姿勢は大変よいことだと思う。この一人10万円の給付金は、生活するためのお金を補完するものなのだから、税金が課税さるはずはないと思っていた人が多かったのではないだろうか。
個人がお金をもらった時に税金がかかるかどうかは、所得税法にうたわれている。原則的には、「たとえ泥棒をして人から盗んだ場合であっても、お金を得ることができた人には税金をかけますよ」というのが所得税法の考え方だ。
■「一人一律10万円給付」は非課税
では、そもそも給付金とはどんなものなのだろうか。よく聞くのは、病院にかかった費用を保険で補填する入院給付金だ。
所得税法施行令第30条には、「損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で、身体の傷害に基因して支払いを受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払いを受ける慰謝料その他の損害賠償金」(一部要約)は、非課税になることが明記されている。通常、非課税になる給付金は、これに該当するものだと考えられている。
今回の場合、新型コロナウイルスに関する法律を根拠に給付金が支給されることになり、協議の結果、非課税とすることが決まった。
事業を救済するという目的で給付金を支払うことを決めたのは、経済産業省だ。
第1章 趣旨・目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴うインバウンドの急減や営業自粛等により特に大きな影響を受けている、中堅企業、中小企業その他の法人等及びフリーランスを含む個人事業者(以下「個人事業者等」という。)のうち、給付対象者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える持続化給付金(以下「給付金」という。)を給付するものとする。
第3章 給付対象者
給付金の給付対象者は、個人事業者のうち、次に掲げる全ての要件を満たす者とする。ただし、給付金の給付は同一の申請者に対して一度に限るものとする。
(1)2019年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思があること。
※本規程における事業収入は、証拠書類として提出する確定申告書(所得税法第二条第一項三十七号に規定する確定申告書を指す。以下同じ。)第一表における「収入金額等」の事業欄に記載される額と同様の算定方法によるものとし、2019年の年間事業収入は、当該欄に記載されるものを用いることとする。
第1章で気になる言葉があった。“フリーランス”だ。
■週末だけの副業でも「フリーランス」の仕事だ
最近よく耳にする言葉だが、その定義はあいまいだ。例えば、平日は会社員として働き給与所得を得て、土日はブライダル撮影の仕事をして、その副業収入(雑所得)を自宅のローンの支払いに充てているという人(Aさん)がいたとしよう。
Aさんに職業を尋ねると「平日はサラリーマンをしているんですけど、土日はフリーランスでブライダルの撮影の仕事をしています」と答えるのではないだろうか。
当初、Aさんのように雑所得として申告しているフリーランスは、持続化給付金の対象外とされていた。5月22日の政府の発表でようやく、そのようなフリーランスも持続化給付金を受け取れることになった。
だが、Aさんは、当初から支給対象になるべきだと考えられていたと思われる。前述の持続化給付金申請規程の第1章では、わざわざ「フリーランスを含む」と書いている。副業のフリーランスの人は、事業所得ではなく、雑所得で確定申告をしている場合が多い。規程ができた時点で、第1章と第3章の内容の整合性がとれていなかったのではないだろうか。
経済産業省は、持続化給付金の支給を発表し、5月1日から申請の受付を開始した。支給額は、中小企業は最大200万円、個人事業主は最大100万円。使い道は自由だ。
■わかりにくい経済産業省の回答文章
「国民一人一律10万円支給については非課税なんだから、持続化給付金も当然非課税だよね」と思われたかもしれないが、そうではない。
経済産業省のHPには、持続化給付金に関するお問い合わせのページが設けられている。
・持続化給付金は、極めて厳しい経営環境にある事業者の事業継続を支援するため、使途に制約のない資金を給付するものです。これは、税務上、益金(個人事業者の場合は、総収入金額)に算入されるものですが、損金(個人事業者の場合は必要経費)の方が多ければ、課税所得は生じず、結果的には課税対象となりません。
この回答文章。課税の対象になるのかどうかの回答に前段の文章は必要だろうか。もし、必要なのであれば、後半の文章は、“なので、今回は、非課税となりました。”の方がしっくりいくと思うのは筆者だけだろうか。
益金より損金が多ければ結果的に非課税となるという話なので、状況によっては課税対象になることもあるだろう。「収入金額に計上していないと、3年後、税務調査があった際、必ずチェックされますよ!」ときちんと申し添えるのが親切といえるかもしれない。
Q8.算出方法における売上とは何か。
・詳細は申請要領に記載していますが、確定申告書類において事業収入として計上するものです。収入の総額から経費等を差し引いた利益ではありません。また、不動産収入や給与収入、雑所得等は含みません。
と回答しているにもかかわらず、前述のとおり、梶山経済産業大臣は雑所得や給与所得の人も給付金の支給対象とすると発表した。
■はっきりしない文言は不正受給を招く
また、Q7には、こんな回答が書かれていた。
・確定申告において事業収入がある場合は、対象になります。
この、Q7の答えもなんだか、わかりにくい。副業は基本的には、雑所得で確定申告をしている人が多いと予想される。なのに、この回答では、そこのところに触れていない。
副業が事業所得なのか、雑所得なのかについては、かねて、国税当局がガイドラインを示すべきだと考えていた。詳しくは、2月13日配信の「副業の確定申告で「還付金」をゲットした人の落とし穴」を参照されたい。
困窮している国民に現金を渡すという施策の特性上、迅速な対応が大切だ。しかし、いろんなふうに受けとることができる言葉を使って発表し、後で微調整をすることは、不正な申請者を招きいれ、国民の信頼を損なうことになってしまうのではないだろうか。
■持続化給付金はしっかりと収入に計上を
現状、新型コロナウイルス対策として国税当局も在宅勤務を行っているようだった。国税の資料は外部に持ち出すことはできないはずなので、自宅でいったい、どんな仕事をしているのかわからないが、テレビやネットを使って資料収集にいそしんでいたのだろうと推測できる。新型コロナウイルス需要で好況を呈している業種は、必ずチェックされているはずだ。
国税の事業年度は、7月から12月。おそらく、2020年の6月末までは、税務調査はお休みだろう。
筆者は在職中、阪神淡路大震災があった。震災の被害にあった方の雑損控除の申告を受け付けるために、国税局の職員が被災地まで出向いて申告書の受け付け業務にあたったということもあった。調査官の間で、「いくらなんでもこの事務年度は税務調査はないだろう」と言い合っていたが、それは甘かった。財務省の傘下にある国税局や所轄の税務署は税金をとってきてなんぼの世界というわけなのだ。
そんなわけで、2020年も、7月に入れば、税務調査は再開されるだろう。そして、持続化給付金の支給を受けた中小企業や個人事業主については、数年後の税務調査で、きちんと収入金額として計上しているかを確認されるはずだ。
とにもかくにも、“税務署は3年泳がせる”ということは肝に銘じておきたい。
■支給対象者は柔軟に議論されるべきだ
所得税法は、古い法律を時代に応じて改正し続けてきた。
勤め先からもらう給料だけでは生計が成り立たないというサラリーマンが、副業にいそしむ昨今。納める税額を計算する際の所得の区分は、メインが給与所得であれば、副業は雑所得となるのは仕方ないだろう。
副業の収入金額が給与よりも下まわっていたとしても、フリーランスとしては立派に独立して事業として継続的に行っている人もいるだろう。持続化給付金の支給対象として、副業の収入が、0円になってしまった人が排除されてもよいのだろうか。
【持続化給付金に関するよくあるお問合せ】で“給与所得と雑所得は対象にしない”としていた経済産業省は、6月の中旬に詳細を発表するとしている。
持続化給付金の申請期間は2021年1月15日まで続くので、まだまだ、その支給対象者については議論されるべきだろう。
所得税の計算をする際に所得の区分に乗っかるのではなく、柔軟な判断で給付金の支給基準を明確にしてほしいと願っている。
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税理士
元国税調査官。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生で、26年間国税調査官として税務調査に従事。2008年に退職し、12年日本マインドヘルス協会を設立し代表理事を務める。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査』(清文社)、『「顧客目線」「嗅覚」がカギ!選ばれる税理士の”回答力”』(清文社)(近日発売)がある。
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(税理士 飯田 真弓)
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