年収700万を超えると地獄…助成金の恩恵ほぼなし
プレジデントオンライン / 2020年6月4日 15時15分
■所得税の税額が大きく変化している
私たちが納める所得税の税額が20年ほどの間に大きく変化していることをご存じだろうか。1999年、07年、15年の3回の税制改正を見ると、高所得層の税率が高くなる一方、低所得層の税率は下がっている。99年の最高税率は37%だったが、07年に40%、15年には45%まで引き上げられた。半面、最低税率はこの20年で10%から5%に下がった。
「この3回の税制改正を振り返ると、所得税は最高税率の引き上げ以外にも、中・高所得層を細分化し、税率23%、33%という階層を新設しています。また控除額も減らすなど高所得層からより厚く税金を取り、低所得層の負担は軽減される流れになっています」
所得税制の変化についてAGS税理士法人の常務理事で税理士の和田博行さんはこのように解説したうえで、次のように続ける。
「税率アップのほかに給与所得控除額の改正もありました。控除額の上限をカットし、高所得層により税金をかけていこうという動きだと理解しています。具体的にいいますと、16年に給与収入1200万円超の人は230万円が上限に、段階を経て20年には給与収入850万円超の人は上限が195万円になることが決まっています」
事実、高所得層の税負担が増していることを裏付けるようなデータが「収入別に見た所得税額の比較」(表)だ。08年と18年の所得税額を比べると、年収700万円を境に収入の高い人は税負担が増え、収入の低い人は税負担が減っていることがわかる。年収700万円超では約1万~2万円の増額に対し、700万円以下では約1万~2万円減額となっている。なぜ年収700万円を境にこうした差が生まれるのか。和田さんはこう読み解く。
![収入別に見た所得税額の比較](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/c/670/img_fc3beefc16678b8541ff7d4f35ccb5c6524257.jpg)
■すまい給付金など公的支援でも不利に
「年収700万円は給与所得控除額や扶養控除額などから見て、課税総所得額が『税率10%の195万円超~330万円以下』と『同20%の330万円超~695万円以下』のボーダーラインになるからだと思われます。
夫婦と子ども2人の4人家族を想定してみましょう。年収700万円のステージというと、夫が40~50歳で教育費や住宅ローンなどで最もお金がかかる時期です。家計を支えるための共働きで配偶者控除が受けられなかったり、児童手当との関係もありますが、16歳未満の年少扶養控除の廃止や特定扶養控除の一部縮減などの諸条件が重なり、税率20%の適用を受ける人が増えているのではないかと推測されます。
一方、年収600万円台になると、給与所得控除や扶養控除などで、そもそも税率10%の枠に収まってくる人が多いのではないでしょうか。この10%の税率差は大きく、それが年収700万円をボーダーラインとして、所得税額の負担の分かれ目になっているのではないかと考えられます」
さらに悪いことが重なる。年収700万円台の世帯は、公的支援でも不利な面が多いのだ。たとえば、マイホームの購入者に助成される「すまい給付金」は、年収450万円以下だと最大給付額の50万円が受け取れるが、同700万円だと10万円しかもらえない。
また、教育費負担軽減のための「高等学校等就学支援金制度」も、公立学校は年収にかかわらず一律11万8800円(年額)だが、私立学校の場合は年収300万円だと23万7600円が助成されるのに対し、同700万円だと11万8800円と半分に減額されてしまう。
年収700万円台であるのなら、まずまずの生活水準かと思いきや、税負担が重いうえに公的支援が薄く、まさに“泣きっ面に蜂”の状態なのかもしれない。
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AGS税理士法人常務理事
1967年生まれ。法政大学法学部卒業後、91年4月にAGSグループに参加。税務会計業務を中心に、オーナー企業や資産家の相談相手として、経営財務に関する助言やタックスプランニングを行う。
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(ジャーナリスト 田之上 信)
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