コロナ禍で大会がなくなったプロゲーマーたちはなにをしているのか
プレジデントオンライン / 2020年6月4日 15時15分
■サッカー界ではeスポーツがトレンドに
世界のサッカー界は今、これまで訴求できていなかった層の人々までを広く取り込もうと、リアルな競技と並行してeスポーツ(コンピューターゲーム)に注力するのがトレンドとなっている。総元締めである国際サッカー連盟が旗振り役となり、欧州の強豪クラブも続々とeスポーツ部門を作ってプロ選手と契約。Jリーグでも、eスポーツ部門を抱えるクラブが増えてきた。
日本のeスポーツ・サッカーの第一人者と言えるのが、ナスリ選手だ。
大ファンである元マンチェスター・シティのサミル・ナスリ選手に由来するプレーヤーネームで活動する彼は、20歳の大学生であると同時に、国際サッカー連盟の公認ゲーム「FIFA」のプロ選手。18年に開催された同ゲームの世界一決定戦『FIFA eW杯(以下eW杯)』に日本人として唯一出場し、18‐19シーズン終了時の世界ランクはアジア最上位の24位を記録した。
彼は昨シーズン、横浜F・マリノスに所属していたが、今季からeスポーツチームを新設した鹿島アントラーズへ加入。Jリーグのeスポーツ部門間での選手移籍は、史上初のことである。
「鹿島が提示してくれた報酬やサポート内容が決め手になりました。もちろん契約書も交わしています」(ナスリ、以下同)
■コロナでeスポーツの大会が延期・中止に
FIFAを本格的に始めて5年目。大学生との二足のわらじのため、日々の練習にそう多くの時間は割けない。
「大会直前でなければ平日は1~2時間程度。さらに土日を使って30試合ほど集中的にプレーしています。実力の近い旧知の選手に前もって連絡を取ってから対戦したり、ゲーム内のマッチング機能を使ってネット経由で同レベルのプレーヤーを探し、初めての相手といきなり試合を行うことも」
![ナスリ選手はすでに世界のトップレベルに数えられる存在だ。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/9/300/img_29bb2fb44706c49051378e21fdd18c7f152553.jpg)
すでに世界のトップレベルに数えられる存在のナスリだが、鹿島に移籍して新たな環境を得た今季は、さらにもう一段上のステージに上がる勝負の年になるはずだった。実際、1月に出場した世界ツアー戦「グローバルシリーズ」のアトランタ大会ではベスト16入りし、上々のスタートを切っていた。
ところが、その直後から始まった新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、リアルなスポーツだけでなくeスポーツにも大きな影響を及ぼした。鹿島のホーム試合と組み合わせて行われる予定だったサポーターへのナスリのお披露目はおあずけとなり、国内外のFIFA公式戦も軒並み延期、もしくは中止になってしまった。
「世界ツアー戦はシーズンが8月初旬に終わるので、このまま中止になる確率が高いと思います。(昨年出場した)eW杯もたぶん……」
■「SAMURAI BLUE」で試合をするはずだったのに……
本来であれば4月、5月は海外や日本の各都市を股にかけ、毎週転戦しているはずだったのだが、すべて白紙に。
中でも彼が残念に思っているのが、二人一組となった代表チーム同士の国別対抗戦『FIFA eネーションズカップ2020』の、日本代表選考会の中止だ。国際サッカー連盟が主催するこの大会に、日本サッカー協会は今年初めて代表チームを送り込むことを決めていた。リアルなサッカーの男子代表「SAMURAI BLUE」や女子代表「なでしこジャパン」などと同格のカテゴリーとして「サッカーe日本代表」を新設し、選ばれた選手は国際大会でおなじみの代表シャツを着て戦うことになっていたのだ。
![サッカー界ではeスポーツがトレンドになっている。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/6/670/img_0668d0bd9cd573ff3a33cbc344e4cbbf217435.jpg)
「もちろん、選考会には出場するつもりでした。初代日本代表として、あの青いユニフォームにぜひ袖を通してみたかったんですが……」
そして5月にデンマークでの開催が予定されていたeネーションズカップ本大会も、開催のめどが立っていない。ナスリは鹿島の、また日本代表の所属選手として、世界の舞台で名を残す機会を失ってしまった。
■プロゲーマーも家にこもってトレーニング
「このところ正直、トレーニングに向かおうって気持ちをなかなか持てなくて……」
4月初旬の時点での彼の言葉だ。しかしプロとして、まったく練習をしないわけにもいかない。
「だから遊びの要素を入れてでもFIFAと向き合い続けて、なんとか日々のモチベーションを保つようにしています」
遊びの要素、とはこういうことだ。
「僕が好きなマンチェスター・シティの何年か前の試合映像を見て、当時所属していたランパードやボアテングなんて選手のことを『いたよなー』って思い出すんです。で、そうした懐かしい選手を、FIFAの自分のチームの中で使ってみる。だからといって決して戦力アップになるわけではないんですが、逆にそれがいとおしかったりするんですよ」
失意の中、そうやって細々と情熱の炎を灯し続けていた彼に突然、朗報がもたらされる。
日本サッカー協会はサッカーe日本代表選考会の中止を受け、2月27日時点でのFIFAの世界ランクにおける日本人最上位者を代表とするとし、その結果、ナスリが選出されたのだ。
■岡崎慎司とコンビを組み実戦へ
さらに延期が濃厚なeネーションズカップ本大会とは別に、アジア4つの国、地域による国際親善大会「StayAndPlay eFriendlies」の開催が発表され、日本代表で現在はスペインのウエスカでプレーする岡崎慎司選手とのコンビで、ナスリがe日本代表として初の実戦に臨むことになったのである。
この大会は、家の中でもサッカーを楽しんでもらおうという趣旨のもと、4月24日からの4日間にわたり、日本、マレーシア、チャイニーズ・タイペイ、シンガポールの総当たりで争われた。各国のeスポーツ・サッカー代表選手と現役サッカー選手が代表チームを結成し、完全リモート環境で相手国とそれぞれオンライン対戦を行い、2試合の合計得点で雌雄を決するというもので、大会当日、岡崎はスペインの自宅から参戦した。
そして日本の自宅から参加のナスリは、日本サッカー協会から支給された憧れの代表シャツを身にまとっていた。
「日本のユニフォームを着ての出場は、気が引き締まりましたね。しかも岡崎選手と同じチームでの出場ですから、これまでの大会とは全然違う緊張感がありました」
■eスポーツならではの強みを痛感した
3戦を通じてのナスリ自身の試合結果は、マレーシア戦が2‐0、チャイニーズ・タイペイ戦が2‐1、シンガポール戦が0‐0の2勝1分け。本来なら全試合ワンサイドゲームでの3連勝が妥当な成績なのだが、世界ツアー戦とは異なる不慣れな大会独自ルールと、国を隔てての通信による画面のタイムラグで、実力差が反映されにくい環境となってしまった。
「攻めも守りも、難しい戦いでした」
一方の岡崎が現役サッカー選手同士の戦いで1勝2敗だったため、日本の最終順位は3位。しかし4日間を通じ、これまでにない手ごたえを得られたとナスリは言う。
「大会中、僕のツイートへのリプライという形でいろいろな方に励ましていただきました。そして試合を中継した動画のコメント欄には、初めてFIFAの試合を見たんだろうなっていう人からのコメントがたくさんあったんです。リアルなサッカーだけを見てきた人が観戦してくれたのはすごくうれしいし、新しい層からの注目度は確実に上がってきています。オンライン対戦の大会は、出場選手も観客も自宅にいるままで参加できる。これはeスポーツだからこその強みで、今の日本のような状況でまさに必要とされる娯楽なんだと実感できました」
■家でゲームしているだけではなかった!
Jリーグや日本サッカー協会は、eスポーツ・サッカーの選手に今後より多い活躍の場を提供していく意向だ。さらに今季Jリーグの再開への具体的なめどがまだ立っておらず、サッカーファンが喪失感を抱えたままの現状を考えると、中断中にリーグ主催でeスポーツ・サッカーの大規模な国内大会が急遽(きゅうきょ)開催される可能性も十分ある。
「やはりプロは、プレーを披露できる場があってこその存在です。僕は鹿島に加入して以来、クラブの看板を背負って国際大会に出たのはまだ1回だけ。だから国際大会であろうと国内大会であろうと、鹿島のサポーターの皆さんにもっともっと自分を知っていただける、応援していただけるような活動をしたい。そうした場を与えてもらえたら、次は優勝一点狙いでクラブにタイトルをもたらすことができるよう、がんばるつもりです」
実現すれば、それは“鹿島のナスリ”としての初戴冠となる。
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ライター
高松市生まれ。フリーランスライターとして一般誌、ノンフィクション誌、経済誌、スポーツ誌、自動車誌などで執筆。『チュックダン!』(双葉社)で、第13回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。このほか、著書に『蹴る女 なでしこジャパンのリアル』(講談社)がある。
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(ライター 河崎 三行)
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