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「コロナ収束は日本人のマジメさや清潔さの成果」というトンデモ勘違い

プレジデントオンライン / 2020年6月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

■なぜ欧米は日本を冷やかな目でみるのか

緊急事態宣言の解除の会見で、安倍首相は「日本モデルで感染拡大を抑え込んだ!」とうれしそうに述べました。また、小池都知事は「自粛要請で感染拡大を抑え込んだら、日本モデルとして歴史に名を残すだろう」と誇らしげに語るようすをメディアが報道しました。それに呼応するように、SNSでは「これが日本人の民度だ!」と自国を誇る声も見られます。

歓喜の声に湧く国内に比べて、海外メディアは冷ややかな反応を見せています。拙記事でも述べたとおり、海外は日本の成功を手放しで褒めていないのです。被害者を抑え込んだことは認めつつ、「何もかもが間違った対応にもかかわらず、奇妙な成功を収めた」とむしろ疑わしいものを見るまなざしが向けられているのです。

そもそも、「日本と欧米を比較」が正しいのでしょうか? 日本はGDP規模が世界3位の先進国であり、G7メンバーです。「先進国における新型コロナの被害状況」ということで、米国や欧州などとの水平比較がなされます。米国メディアなども「先進国の中で唯一感染を抑え込んだ」と報道していることからもわかります。

■本当に欧米と比較することが正しいのか

確かに欧米比較においては、日本は大きな死者数などは出ていません。しかし、同じ先進国といっても、米国や欧州と日本は地理的にも距離があり、人種も人口密度も全く異なる国家です。「経済規模や文化、教育が先進国たる水準にある」という条件でくくって比較することは正しいと言えるのでしょうか?

欧米との被害状況の比較。確かに日本の被害は突出して少ないが……(2020年5月30日 08:20取得)。
欧米との被害状況の比較。確かに日本の被害は突出して少ないが……(2020年5月30日 08:20取得)。

■アジア太平洋地域では優等生ではない

このウイルスは人種、地域によっても大きな差異がみられます。冷静に戦果を分析するなら、同一地域、同一民族間でなされる必要があるのではないでしょうか? 実際、欧米ではなく、人種・地域・文化がより近い国家との比較をすると、まったく違った事実が見えてきます。

アジア太平洋地域における比較。日本は決して優等生ではないことが分かる。(2020年5月30日 08:20取得)。
アジア太平洋地域における比較。日本は決して優等生ではないことが分かる(2020年5月30日 08:20取得)。

■しばしば曲解された論理展開が見られた

英語には「apple to apple」というフレーズがあります。りんごの優劣はりんご同士での比較がなされる必要があるという意味です。異なる条件下で比較をすることを「apple to oragnge」といいます。りんごとオレンジのどちらが優れているか? に対して答えを出すことはできないのです。まさに、欧米と日本を比較するのは、りんごとオレンジを比べているようなものでしょう。

このウイルスとの戦いにおいては、しばしば曲解された論理展開が見られると感じます。

新型コロナがはやり始めた初期の頃、「このウイルスはしょせん、感染力の強い風邪にすぎない。湿気や気温が高くなれば自然に消える」という論者と、「赤道に近い高温多湿のシンガポールでも感染者が増えている。ということは夏でも猛威を振るうということだ」という論者がいました。

■シンガポールの感染拡大の原因は

しかし、冷静に見てみると「高温多湿のシンガポールでも感染者が多い!」という後者の論拠は曲解されています。シンガポールでの感染者は、貧しい外国人労働者に集中していることが明らかになっています。換気が悪いワンルームに、20人もの人が詰め込まれて働かされる、劣悪な環境下で働く外国人労働者たちが感染者数の母数を増やしていたのです。極端な環境下で起こった事象を「シンガポールという国がウイルスにやられている」とするのは、拡大解釈が過ぎるのです。

換気が悪く、人が密集し、栄養状態も良くない人たちが母数を増やしてる状況で「シンガポールでも感染拡大しているのだから、このウイルスは従来のように夏に収まるものではない」と主張は冷静さを欠いた主張に聞こえます。その後、アメリカ政府は研究データを用いて「ウイルスは紫外線と湿度に弱い」と発表しました。この発表が正しいとするなら、少なくとも夏は冬ほどの猛威を振るう前述の主張は否定されることになります。

■精神論で取り組み、問題の本質を追求しない日本人

また、日本人の感染者数、死者数が少ない理由に、「中国人観光客が毒性の弱いS型を持ち込み、毒性の強いL型と拮抗したことが原因か?」とする専門家もいます。確かに昨年まで日本にやってくる中国人観光客は非常に多く、過去12年で10倍に増えて959万人という驚異的な数となっています。しかし、アジア太平洋地域で中国人観光客が少ないのにもかかわらず、日本より被害が少ない地域はどう説明したらよいのでしょうか?

何事も精神論で取り組み、問題の本質を追求しなくなるのは日本人の悪い癖でしょう。第2次世界大戦においては、日本は米国に玉砕しました。B29から雨のように爆弾を降らせる相手に、「竹槍で爆撃機は落とせない」と言えない空気の中で戦争は進行し、原爆が投下されるまで「欲しがりません勝つまでは」の精神で挑んでいます。もはや、この時の玉砕精神で挑む相手と時代ではないのです。

■「日本は神の国だ」と思考停止した残念な人々

現時点では、わが国は深刻な医療崩壊も多数の死者も出てはいません。しかし、第2波・第3波の可能性もあり、このウイルスはすぐには終わりません。今回感染拡大を抑えても、その次に備える必要があります。そのためにも、「日本は神の国だ」と思考停止するのではなく、「なぜ、アジア太平洋地域で感染者数が欧米に比べて少ないのか?」と冷静に事実ベースで取り組む必要があるのです。ウイルスには和解が通用しません。抽象的、精神論で対応できる相手ではないように思えます。

それでは真実とはどこにあるのでしょうか?

その答えは「データ」です。厄介なことにこのウイルスはPCR検査を経ても偽陰性・偽陽性が出てしまい、また潜伏期間もインフルエンザウイルスなどに比べて長いために、感染者を正確に把握することも難しい状況にあります。しかし、「正確なデータが把握しづらい」という厄介な事実さえも、データによって導き出された「解」なのです。それ故に「どうすればこのウイルスの感染拡大を防ぎ、経済を立て直すのか」ということを今後もデータベースで答えを模索していく必要があるのです。

■次の感染症アタックの被害を抑えるためには

データはたった1つの真実ですが、解釈は無限です。今は「欧米と比べて日本は感染者の被害が少ない」というデータを前に精神的勝利を宣言している状況です。しかし、われわれが目指すべき答えとは「データを正しく解釈すること」にこそあるのではないでしょうか。データによってこの真相を明らかにすることが、次の感染症のアタックの被害を抑えることにつながると信じています。

(ビジネスジャーナリスト 黒坂 岳央)

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