日本初のロシア人弁護士「バイト4つかけもちでも一発合格」の勉強法
プレジデントオンライン / 2020年6月4日 11時15分
■ロシア人初の新司法試験合格者
「金髪のロシア人女性弁護士」
私のことをよく知らない方は、このように私を形容します。
確かに私はロシアのシベリア生まれですが、2歳半頃に父親の仕事の関係で日本に移住し、人生の大半を日本で過ごしてきました。日本の義務教育を経て、仙台第二高等学校に入学。卒業後は、慶應義塾大学法学部法律学科に進学し、東京大学法科大学院に在学中に予備試験(※)および司法試験に合格し、今に至ります。ちなみに、新司法試験で合格した初めてのロシア国籍者とのことです。
※予備試験:法科大学院を卒業せずに司法試験の受験資格を得るための試験。司法制度改革の一貫で法科大学院を設置したことに伴い2011年から開始された。毎年1万人程度受験するが、最終合格率は4%台と司法試験よりも厳しい。
そのため私の内面は皆さまとあまり変わらないものと自分では認識しているのですが、ロシア出身の両親の下で育てられたこともあり、次のように、必ずしも順風満帆ではありませんでした。
両親がロシア出身であることから、家庭内での会話は全てロシア語。そのため、日本語の語彙力を習得するのに苦戦したのはもちろん、何よりも一番大きかったのが、現在の日本の教育方針からは想像できないほどの、両親のロシア式・スパルタ教育方針です。
■ロシアでは勉強するときに鉛筆を使ってはいけない
今は少し変わったかもしれませんが、両親が学生だった頃のロシアでは、勉強といえば、「塾ではなく学校でするもの」という意識が強くあり、学校で良い成績をとることが各家庭で特に重視されていました。そのため、私自身、両親の教育方針により、大学受験のために塾や予備校に通わせてもらえないなかで、学業で優秀な成績を修めることが求められていました。
また、当時のロシアでは学校に入学すると、各生徒には「宿題ノート」というものが渡され、生徒の授業時間外の学習時間は全て宿題ノートにより学校、さらには両親によって管理されます。そのため、私自身、勉強しなさいとは直接は言われないものの、何をその日勉強したのかといった点は両親に毎日聞かれたものです。
そのうえボールペンを用いた学習が義務付けられています。生徒は宿題を提出するときも、学校でノートを取るときも、試験を受けるときも、ボールペンを使うのが当たり前です。そのうえ、一字でも間違えると、一からそのページ全体を書き直さなければならず、間違っても消しゴムで一字消すということができない緊張感の下、ロシアの学生は勉強しています。
そのため、音楽を聴きながら勉強をすることはわが家では御法度。むしろ、倹約家で真面目な両親であったこともあり、複数のアルバイトを掛け持ちしながら、学業に対しても情熱を注ぐことが求められました。
勉強を始めた頃は、このような教育方針がつらかったこともありますが、毎日コツコツと同じ学習ルーティーンをこなしていくことで、いつしか勉強がだんだん楽しく思え、今ではこのような厳格な教育方針で私を育ててくれた両親には大変感謝をしています。
■仕事と勉強はどうすれば両立できるのか
さて、前置きが長くなりましたが、これから数回にわたり、私が実践してきた次のような工夫を紹介させていただきます。
・楽しく飽きない自学自習のコツ
・実は似ている、資格試験と外国語の効率的学習法
第1回目の今回は、仕事と勉強との両立という観点から、忙しい中で確実に結果を出すための工夫についてです。
以下は司法試験を具体例に説明を進めますが、私自身、TOEFLや簿記といった他の勉強にもそのまま用いている勉強法です。仕事をしながら、資格試験やスキルアップのため勉強をされている方々のお役に立つことができましたら幸いです。
■司法試験目前の時期も数々の仕事をこなしていた
私は予定帳がいつもパンパンです。例えば、司法試験に向けた勉強をしていた頃は次図のような毎日を送っていました。
当時の状況を冷静に見返してみると、自分でも少し驚きです。でも、どういうわけか、私は人生の時間が限られているという意識が強く、ついつい予定をギシギシに詰めてしまうのです。
司法試験を目前に控えていた頃も、法科大学院や自宅で司法試験に向けた勉強をしながら、大学受験予備校で高校生に英語を教え、司法試験予備校において出版編集・チューターの仕事をし、さらには、弁護士会からの依頼を受け外国人被疑者と弁護士との接見通訳をするという毎日を送っていました。また、大学院が休みの時期は、法律事務所でリサーチのお手伝いをする仕事もしたりしていました。
■「どうしてそんなに生き急いでるの?」と言われるほどの密度
修習生時代や弁護士になってからも「詰め込みスケジュール」は変わらず、現在も、法律事務所の仕事を軸に、弁護士個人の仕事、司法試験予備校での指導・出版物の編集をし、東京大学大学院に通いながら毎日を過ごしているため、同期や同僚からは、「どうしてそんなに生き急いでるの?」と尋ねられたりもします。
昨今の社会状況で現在は練習等を自粛しているのですが、少し前までは、合間を縫って社交ダンスの練習をしながら、プロ登録して大会に出場し、さまざまな賞を受賞したりもしていました。現在は、警察署等を訪れる必要のある国選弁護の仕事以外は基本的にリモートになって効率化されたこともあり、もう少し予定を入れたいなと思ったりすることもあります。
ここからは、私が複数の仕事と掛け持ちしながら、どのように勉強して予備試験・司法試験に受かることができたのか、特に重要なスケジューリングの観点からご紹介していきたいと思います。
■当初はその日の気分で勉強することを決めていた
勉強は毎日コツコツやっていれば、合格に近づいていけるのであるから、ゴールから逆算した学習計画なんていらない。あるいは、学習計画を作ったところで、どうせ計画通りに学習が進むとは限らないから、途中で計画が狂うような学習計画を作る時間があるのなら、むしろどんどん勉強を進めた方がいい。と思う方もいるのではないでしょうか。
私自身も学習を始めた当初はまさにこのような考え方で学習計画を作成せずに勉強をしていた一人でした。しかし、当初は学習計画作成に反対であった私も、限界を感じたことをきっかけに逆算して学習計画を練るようになりました。
学習計画を作成せずに勉強を日々コツコツこなしていた際には、その日の気分で学習する科目・分野を選択していました。このような学習方法でも机に向かっているから、合格に近づいているということにはなりますが、欠点があります。それは、この近づいている「合格」が10年後あるいはもっと先の合格である、という可能性です。
それに気づいた私は「早く試験に合格したい」旨を強調しながら、周りの合格者に質問をしてみました。その際に口を酸っぱくして言われたのが「過去問や演習問題等の問題演習を、答えをそらんじられる程度まで解きまくれ!」というものでした。
そこで、私はまず次の4つにタイムラインを分けました。①本番1カ月前まで、②本番1カ月前から1週間前まで、③本番直前の1週間、④本番当日の4つです。そのうえで、それぞれの期間で行うべきことをリストアップしていきました。
■ポイントは「予定を3等分しないこと」
①本番1カ月前まで ~3:2:1の法則~
本番までのゆとりがあるので、余裕をもって学習できます。そのため、過去問や演習問題をたくさんこなすのに適している期間です。
私はこの時期、「本番1カ月前までに、1つの演習書を少なくとも3周する」という目標を立て、次のような手順でスケジュールを組みました。
まず、使用する演習書(問題集)を決めます。その後、本番までの日数を演習書の数で割り、1つの演習書に使える日数を把握します。例えば、1冊の演習書に使えるのが3週間であれば、3週間で3周できるように計画を立てます。
このときのポイントは、均等に3等分しないということです。すべて均等に3等分してしまうと、1周目がアップアップになってしまい、パンクしてしまう可能性が高いからです。私のオススメは、「3:2:1」です。1周目に1週間半、2周目は1週間、3周目は3~4日で終わらせるというスケジュールを組むと、予定通りに学習を進めやすくなります。
最後に、演習書のページ数をそれぞれの期間で割り、一日に進むべきページ数を具体的に導き出します。
あとは、自分が立てたスケジュールに従って演習を進めていくだけです。②・③期間の学習に向けて、この時期から間違えた問題のページに付箋を貼るとともに、自分が苦手なところなど直前期に見直したい事項を1冊のノートにまとめていくといいと思います。
■昼と夜とで場所を変えることで飽きずに勉強できる
②本番1カ月前から1週間前まで ~苦手問題の克服 at ベランダ~
試験が近づき、緊張してくる時期ですが、暗記事項のみに焦点を絞った学習をするには早すぎます。この期間には、演習書の間違えやすい問題(①期間に付箋を貼った問題)を中心に知識確認を行うことが重要です。
よく間違える問題は3周だけでは足りず、何度も繰り返すことで少しずつ正解できるようになります。自分の中に定着したと感じたら、付箋をはがしていきます。私自身、定着するまでに10回の確認を必要としたものもありました。忘れてしまっても、落ち込まず前向きにもう一度インプットしなおす。これに尽きます。
もっとも、苦手な問題ばかりやっていると気分が鬱々としてきます。必ずしもこの期間に限ったことではないのですが、私の場合、自宅で昼間に勉強する際は、リフレッシュを兼ねてベランダで数時間、一問一答形式の演習本などを活用した、簡単な知識確認ができる勉強をするようにしていました。空気が悪いと集中力が低下してしまいますし、昼と夜とで勉強場所が違う方が、飽きずに勉強を続けることができます。晴れている日は、ぜひ試してみてください。
■タイマーを活用してテンポよく復習を進める
③本番直前の1週間 ~まとめノート見直し with タイマー~
それまで学習して定着させてきた記憶を再確認する期間です。新しい問題に触れることはしません。むしろ、今まで行ってきた学習の中で作成したまとめノートを中心に、補充的に②の期間でも定着しなかった、間違いやすい問題を中心に学習します。1日に1科目ではなく、1日に3~4科目は確認をするような計画を立てました。記憶の確認は集中力が続かないことが多いので、科目を変えることによる気分転換を図ることを重視していました。
ポイントは、睡眠時間を削らないことです。試験が近づくにつれ、不安な気持ち・焦りから、どうしても夜遅くまで無理して勉強しようという気持ちになるのは分かります。しかし、記憶が睡眠中に定着するということはよく言われますし、何より睡眠不足で試験当日のパフォーマンスが低下してしまっては、全てが水の泡になってしまいます。
ここでも計画に基づいた効率的学習が重要になります。具体的には、まとめノート1ページを見直す時間を限定するのです。1日のうち、自分が学習にあてられる時間を割り出した上で、その時間を、作成したまとめノートのページ数で割ります。あとは、その計算結果に基づいてテンポよく復習していけば、間延びせず効率的に勉強していくことができます。
ポイントとしては、字面をそのまま全て読むのではなく、ページに記載されている重要部分が何かを意識して、頭の中でキーワードを復唱しながら、サクサクと次のページへ、次のページへと進んでいくことです。
今は、「30秒ごとに音を鳴らす」というような設定ができるインターバルタイマーのスマートフォンアプリがたくさんありますから、それを活用するのがオススメです。
■計画を立てると本番、心に余裕ができる
④本番当日 ~これまでの集大成~
「もうやるべきことはやった!」という気持ちで受験会場に向かうのみです。その際、持ち物としてまとめノートを持っていき、最後の復習をするのが理想です。実際に予備試験や司法試験に合格した際、私はまとめノートを受験会場に持っていき、それを見直していました。
「逆算して学習計画を練ること」これにより、自分がどのようにゴールに近づいているのかということがより具体的に手ごたえとしてつかめるので、得られる安心感が大きいです。特に、試験当日、自分がやれることはすべてやった、後は力を出し切るだけという自信が生まれてきます。
このような逆算学習計画法を取り入れる前は、試験前に不安で押しつぶされそうになり、おなかがいたくなったりしたこともありましたが、計画を立てるようになってからは不安に駆られることはなくなりました。余裕が出たからか、試験会場では、試験開始直前に入り口で笑顔の写真を撮っていました。周りの受験生からは冷ややかな目で見られていましたが、今思えば良い思い出です。
■計画を立てればスキマ時間を有効活用できる
逆算して学習計画を立てることで、1日に終えるべき学習量が明確化され、スキマ時間に効率的に勉強できるようになりました。アルバイトや学業と並行しながら、予備試験や司法試験の他、TOEICや簿記、国際会計検定などの各種試験においても安定して結果を出すことができるようになったのは、このおかげだと考えています。
現状、各種試験が延期されているため、逆算して計画を立てることが難しいと感じる方も多いと思いますが、現在私は1カ月先に試験があるとの想定で、留学に向けたTOEFLの勉強をしています。
時間術として大切なのは、1日のうちに進めるべき学習量を定め、スキマ時間を効率的に使うことです。「期限を定めず延期されていた試験が、突如1週間後に実施される」といったことがない限り、今回ご紹介した手法で立ち向かうことができます。
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ロシア生まれ。2017年3月、慶應義塾大学法学部卒業。同年4月、東京大学法学政治学研究科入学。学業とアルバイトを両立させ、同年11月、ロシア出身者としては史上初の司法試験予備試験合格。2018年9月、新司法試験合格(ロシア出身者初)。司法修習を経て2019年12月、弁護士登録。ポールヘイスティングス法律事務所で法律業務にあたる。
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(弁護士 ベロスルドヴァ・オリガ)
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