1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

米外交誌が「日本のコロナ対策は奇妙に成功」と大困惑する理由

プレジデントオンライン / 2020年6月3日 11時15分

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の記者会見に、マスク着用で出席する海外の報道関係者=2020年3月19日、厚生労働省 - 写真=時事通信フォト

新型コロナへの対応における政府への批判と裏腹なのが、感染による死者の圧倒的な少なさだ。大量の死者に嘆く欧米のメディアが首をかしげている。

■日本人が感染症に「強い」のか?

新型コロナ対策に対する日本政府の悪手は国内に留まらず、海外にまでその悪名を轟かせているようです。米国の外交誌フォーリン・ポリシー(電子版)は5月14日付の記事で、「日本の新型コロナへの感染拡大防止策はことごとく間違っているように思える」と指摘しています。

しかし、この記事はそのあと、こう続けます。「それなのに、死者数が欧米に比べて圧倒的に少ない“奇妙な成功(“weirdly right”)を収めた”」――。

同記事のタイトルは“Japan’s Halfhearted Coronavirus Measures Are Working Anyway”。日本の中途半端な新型コロナ対策が、なぜか機能している…というわけです。実は、歴史的なパンデミックの一つ、1918年に発生したスペインかぜでも同様で、実に約45万人が亡くなっていますが、死亡率は他国に比べて各段に低かったとされています。

その後は「大惨事の一歩手前から成功物語へ」という5月22日付英ガーディアン紙を始め、米ウォールストリート・ジャーナルやワシントンポストなど欧米主要メディアが、原因不明ながら成功を賞賛する記事がくつも流され、WHOも「日本は成功している」と称賛。その中で政権が支持率を下げている不可解さも併せて報じられています。そんな日本の「奇妙な成功」について、フォーリン・ポリシー誌の論旨に絞ってここで考察していきます。

■米国から見た日本におけるコロナ対策の問題点

同誌では、日本の対応の問題点として次の2つをあげています。

・人口比わずか0.185%しか実施されていないテスト
・強制力がない中途半端な外出自粛

日本で実施されたPCR検査は、全国で23万3千件(5月14日時点)となっています。この数字は米国全体で行われた件数のわずか2.2%にすぎません。そもそも、なぜ日本では検査数が少ないのでしょうか?

まず第1に「検査できるインフラが整っていなかったから」というのが理由に挙げられます。検査するスキルが要求され、対応可能な医療機関が限られているために検査を増やすことが物理的に難しい事情があります。

そして第2に感染拡大リスクの問題です。テストを行うには検査者の鼻の穴から綿棒を入れ、鼻や喉の奥の粘膜を摂取します。その結果、くしゃみを誘発して検査者にウイルスが感染してしまう恐れがあるのです。

さらに第3に偽陰性の問題があげられます。検査をしても精度は100%ではなく、感染していていないのに、「感染している」と診断されたり、その逆もあるのです。結果、検査を増やすことで非感染者が医療機関に押し寄せ、貴重な医療リソースを消費してしまう懸念があります。特に医療崩壊の回避は初動の対応が重要ですから、この点については特に慎重さが求められたわけです。

一時はテスト数を抑えることで、感染者数を少なく見せ「日本はオリンピック開催を確実なものにしたい意図がある」などと海外からの批判もありました。しかし、結果的にはテスト数を抑えたことが医療崩壊を阻止し、感染者への十分な医療ケアができたことで死者数を相当抑制出来たといえるのではないでしょうか。

■日本が強い都市封鎖を敢行できないワケ

すでにご存知の通り、新型コロナは濃厚接触を通じて感染拡大をしていきます。

そのため、人と人とが物理的な距離を取る「ソーシャルディスタンス」が推奨され、アメリカでは「6フィート」が標語になったものです。ニューヨークでは、公園を歩くニューヨーカーに対して、空中を飛ぶドローンを通じて「ソーシャルディスタンスを保つように」と呼びかけられる事態が話題を呼びました。

米国では不要不急の外出をするものには、罰金を課すなど極めて厳しい対応をしています。その一方で、日本の外出自粛は強制力のない「お願い」ベースでしかありませんでした。また、自粛を呼びかけるレスポンスも極めて遅く、海外の報道から「対応が遅すぎる」と批判を浴びることになってしまいました。未曾有の歴史的パンデミックの佳境であることを考えると、日本の対応はあまりにも牧歌的で、ゆるい自粛の程度に海外は驚きを通り越して呆れているようです。

同誌によると、「日本では国家緊急事態の宣言があっても、政府は人々に家にとどまるよう強制したり、企業に閉鎖を命じたりすることはできない。これは、第二次世界大戦後にアメリカが起草した憲法の遺産である」と、日本の都市封鎖の緩さの理由を解説しています。

■日本の死者数が少ないのは数字のマジック?

日本政府の対応のお粗末さを嘆く一方、「死者数が少ない」という不思議な現実はどう解釈するべきなのでしょうか?

5月28日の時点で、日本では新型コロナに直接起因する死者数は867人、これは100万人あたり6.78人に相当します。米国では合計10万442人がなくなっており、100万人あたり303.45人という数値です。「パンデミックへの対応の成功例」と見なされているドイツでさえ、8411人。100万人あたり100.39人が亡くなっているのです。

国別100万人あたりの死者数

被害の大きい米国、欧州と比較すると日本の被害は抑えられていることがデータで明らかになっています。しかし、手放しに喜びの声を上げるのは早いかもしれません。この数字をアジア太平洋地域で比較すると、日本の数値は決して「断トツ優秀」とは言えないからです。

インドネシア 5.39人
韓国 5.25人
オーストラリア 4.04人
シンガポール 3.93人
マレーシア 3.55人
インド 3.28人
中国 3.22人
台湾 0.29人

このようにアジア圏内での比較となると、「日本の1人勝ち」という構図とは違った事実が見えてきます。このウイルスの戦果の分析をする上では、米国・欧州に限定せず、アジア太平洋地域まで含めて冷静に俯瞰する必要があるのではないでしょうか。

■最大の醜態は「日本のIT後進国」

なお、同誌では日本の「ウイルス対応で露見したITの後進性」についても取り上げられています。

医師は手作業で専用フォームへ感染報告の情報を記入し、地元の保健部門にFAXで送信。情報の編集がなされた後、政府へ送信されます。これにより、「新型コロナと最前線で戦う医師が、詳細な情報を記入するのに貴重な時間をムダにしていた」と辛口コメントを受けることになりました。

また、これは同誌では取り上げられていないことですが、筆者が個人的に問題だと思うのが、ビジネス現場での対応の問題です。感染拡大防止のためにリモートワークをしているはずなのに、「ハンコをもらうために出社」という笑えない話も出ています。ハンコ文化はウイルスより強かったということで、変化への対応力の低さと、日本のITにおける後進性が露呈してしまったと言えるのではないでしょうか。

さらに我が国はIT活用の面で、諸外国の対応に学ぶべき点は少なくないと感じます。まだまだ不明な点も多い新型コロナとの戦いにおいては、「データと情報」は勝敗の鍵を握ります。我が国では「このウイルスとの戦いでは3密を避けろ」という情報伝達がうまく機能したことで、うまくいっている点もあるでしょう。米国は携帯電話のGPSの移動記録から得られるビッグデータを活用することで、ウイルスとの戦いに挑戦しています。実際にGoogleは移動データを公開したことで、人の動きを見える化することに貢献しています。また、中国はAIを用いた画像データ解析技術を活用するなど、感染診断に対抗するためにITを駆使しています。

テクノロジーを駆使する他国とは、この点において特に日本のIT後進国ぶりを露呈する結果となったのではないでしょうか。平時の際にも日本のITオンチぶりは問題視されていますが、コロナ禍という有事の際にも、うまく立ち回れていないことが国内外で認識される結果となりました。

■日本独自の「自粛警察」が湧いて出る理由

また、同誌では外出自粛に際しての日本人の行動についても興味深く取り上げています。

緊急事態宣言の発令と、外出自粛に伴い、多くの施設が自発的に閉鎖しました。しかし、一部のパチンコ店は閉鎖を拒否、政府は自粛に応じない店舗名を公開していますが、これが逆効果に。「営業しているパチンコ店がある」という広告宣伝になったことで、お店に並ぶ行列が出来たという皮肉な結果を呼んだ、と言及されています。

また、日本では政府が強制力を持って、日本国民の自粛をさせられない代わりに、国民一人ひとりの健康意識と自粛要請への受容力が高かったことが勝利した側面も大きいと思います。しかし、同時に負の側面として「自粛警察」の発生を誘いました。他県ナンバーの車を傷つけたり、営業を自粛しない店舗へ脅迫の電話を入れる等々歪んだ正義感をほうぼうで発揮、逮捕者が出たりしているのです。

諸外国から見ると、「強制されなくても素直に政府の要請に従う」日本人の生真面目さと受け取っているでしょう。しかし、我々日本人同士だと、それが「(みんな我慢しているという)空気を読みなさい」という同調圧力に後押しされているという側面もあると感じます。海外の記者にはなかなか理解しづらいところでしょうが、日本人特有の「ムラ社会意識」の中で、「きちんと振る舞え」という同調圧力がはたらき、同調しない者には「けしからん」と問答無用のペナルティを与える自粛警察を生み出しているようです。

■本当に難しいのはここから

同誌が報じたように我が国は「奇妙な勝利」を収めたのかもしれません。しかし、本当に難しいのはここからです。一度、解放された中国の武漢が再び閉鎖する憂き目にあったことからもわかる通り、自粛を解除するタイミングこそがもっとも難しいのです。日本は感染者を抑えましたが、自粛を解除すると再び大きな感染拡大につながることが予想されます。

強いブレーキにより、勝利を収めた日本。ブレーキペダルに置いている足をアクセスに乗せ変えるのは感染者を抑えることに成功するよりも、難しいのです。

(ビジネスジャーナリスト 黒坂 岳央)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください