安倍政権は「もう持たない」…ツイッター発の政治不信で国民の信頼ゼロに
プレジデントオンライン / 2020年6月4日 11時15分
■「政治と検察の力関係」から「マスコミと検察の癒着関係」へ
ちょっと気味が悪くなるようなボリュームだった。5月8日以降、検事総長・検事長らの定年延長を可能にする検察庁法改正案に抗議するハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」をつけたツイート数。安倍政権と関係良好とされる黒川検事長の定年延長を可能とすることから、同法改正案を「検察への政治介入」と受け取った抗議のツイートが、多くの芸能人らのバックアップで爆発的に拡散。総計は実に500万を超えた。
複数のメディアの検証では、スパム(同じツイートを繰り返すなど1人格1ツイートとは推計できないもの)もごくわずかだったという(毎日新聞、ねとらぼ調査隊ほか)。アニメ映画『天空の城ラピュタ』地上波放送で、本編中の呪文“バルス!”をツイートするイベントでは、ピーク時の2017年でもツイート数は1日で200万足らず。地味で面倒な法律ベースの話題が、国民的エンタメイベントを上回ったわけで、この改正案が安倍政権に対する国民感情にマイナスに働いたことは確実だ。各社の世論調査、特に左派の朝日新聞・毎日新聞のリサーチでの支持率低下が目立った。
同20日発売の『週刊文春』が、その黒川検事長と朝日・産経記者が賭け麻雀を行っていたことを暴露。世間の関心は政治と検察の力関係から、マスコミと検察の癒着関係に移った。少なくとも一般の目には、大手メディア記者と検察幹部とが接待麻雀にふける姿は、まさに「癒着」そのものと映っている。
■特捜部長宅の近くで、新聞記者を待ち伏せ
しかし、いくら新聞記者が「知る権利」を振りかざそうと、そもそも情報を“くれてやる”側と“いただく”側との人間関係がイーブンであり続けることは難しかろう。まして、むき出しの国家権力そのものである検察は、新聞記者にとっても正直、「怖い」存在。かつてはほぼタブーだった旧大蔵省(現財務省)が「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」で袋叩きに遭った際、「大蔵はたたけるが、法務省はなあ……」という新聞記者のボヤきを覚えている。今回の件を見る限り、この関係は数十年来変わっていないのではないか。
約20年前、週刊誌記者だった筆者は都内にある当時の東京地検特捜部長の自宅に赴いたことがある。夜の閑静な住宅街。最寄りの駅から街灯が並ぶ道をとぼとぼ歩き、薄明るい電柱のあたりでじっと待ち伏せ。年明け間もない肌寒さが身に染みた。
前年末にはじけたある政治家にまつわる事件についての夜回り取材、というか、こちらの用件は事件そのものとは直接関係はなかった。その事件に関する全国紙の記事が、鬼の特捜部長に「フライング」とみなされて怒りを買い、同紙はいわゆる「出入り禁止」を食らった。そこで、その記事を書いた記者本人が、年始に特捜部長の自宅にお詫びのあいさつに訪れ、玄関先でなんと「シシ舞」を披露したという。その真偽を確かめるべく、特捜部長宅を夜回りに来る記者を待ち伏せしていたのだった。
■新聞・TV記者たちに取り囲まれた
待つことしばし、わりとにぎやかな談笑の声とともに6、7人の集団が歩いてきた。1人ずつハイヤーで来るのかと思っていたのでちょっと意外だったが、司法クラブの記者たちだと踏んで接近した。
と、住宅のブロック塀を背に三方を記者たちに囲まれてしまった。不意打ちとなったせいか、完全に警戒されたようだ。とりあえず名乗ったうえで会話の糸口を探し、しょうもない雑談を交わしながら、目当ての記者を探そうとしたが、こちらが名刺を差し出しても、皆ポケットに手を入れたり、よそ見するフリをしたりと誰一人受け取ろうとしない。シシ舞の話には皆うんともすんとも応えない。
その後、いったんバラバラに。特捜部長を囲む取材の場に、筆者のような「異物」が混じると都合が悪いようだった。こちらも帰宅するフリをして、時間をかけて周囲をぐるっと回り、もう一度出向いてみたが結果は同じ。その日はあきらめた。後日、問い合わせた全国紙の広報担当から、記者はシシ舞を踊ったのではなくシシ舞の指人形だったのだとの回答があった。
記者はそんなにみっともないことをするのか? というか、そんなことが記事になるのか? 等々、疑問は尽きないが、公権力の監視役と称して肩肘張っている職業ではあっても、常日頃情報をいただく取材先、特に極秘の捜査情報を扱う検事と司法クラブの新聞・テレビ記者との力関係を考えると、まあうなずけるエピソードなのだ。記者諸氏は後で特捜部長に、「誰かオレの自宅の場所を洩らしただろう」ときつく怒られたという。
■公権力とともにタッグを組む記者たち
対人の情報収集は心理戦である。相手に食い込んで心をゆるませ、口を開かせるためには、根気よく通ったりいっしょに遊んだり酒を飲んだりし、笑顔や紳士面や強面を使い分ける。何せ公務員の守秘義務違反をうながすわけだから。ただ、そのための努力は、はたから見ても努力だとはわかりづらい。
得るべき情報も、そのまま文字や映像となるものばかりではない。例えば、「今月中の捜査は“ない”」とわかることは、読者・視聴者が関知せずとも、その取材チームにとっては大事な情報だ。相手も口に出すとは限らないから、こちらが言葉を投げかけた際の態度や表情で読み取らざるをえないことも。当然、蓄積するストレスも尋常ではない。
出来上がった「シシ舞記者」の記事に、新聞記者も含めた筆者の周囲の同業者たちはそろって爆笑。皆、少なからずこういう哀愁をかみしめているのである。しかしその一方で、公権力の周囲で「タッグ」を組んで他者を排斥する記者諸氏を目の当たりにすると、検事も記者もお互いを守り合う利権集団と化している感がある。だから、麻雀賭博にもさしたる違和感はない。同じ社内の検察担当記者どうしは結束が固く、メモの取り方ひとつ取っても極めて厳しい情報管理を行うので、他部署への情報漏れは皆無ときく。それゆえ、文春記事中に登場する匿名の人物の「産経新聞関係者」という肩書は煙幕では? と勝手に疑っている。そもそもこれだけの案件で情報源を徹底して隠すならともかく、におわすなどまずありえない。
■検察幹部に「出てけ!」と追い出された
さらに数年前の話だが、ある大がかりな政治疑獄事件に際して、検察幹部の自宅に疑惑の大物政商が果物を送り付け、幹部はどうもそれを受け取っていたらしい。それを察知した先輩記者とともに筆者は奔走。幹部宅に押しかけると、肯定も否定もせず「出てけ!」と追い出され、直後に某氏から「人を通じてあんたのことを調べてるようだから、気を付けろ」との“警告”をいただいた。
“人”が司法クラブの記者諸氏ということは、某氏の人脈からも容易に想像がついた。筆者の不在中に、検察幹部から編集部にじかに電話も入った。結局、裏を取り切れずに記事化は断念したが、記者諸氏がどちらを向いて仕事をしているのかが垣間見える一件だった。
司法クラブに属する記者諸氏は、検察といっしょに「悪をたたく」気満々だ。それはそれで結構だが、ともすれば検察と一体化し、検察の思惑のままにリークされた情報をそのまま垂れ流すことにつながる。検察はそうやって世間に「こいつは悪い奴だ」と印象づけ、しかる後に逮捕するわけだ。だから、逮捕前の報道内容と起訴された容疑がまるで異なることがままある。そもそも冤罪(えんざい)を後押しして、被疑者を社会的に抹殺しかねないのが怖い。
「国策捜査」「官報複合体」と呼ばれるようになったこの構造が今も変わっていないとすると、多大なリソースを使って日々こうした涙ぐましい努力をしている新聞・テレビは、果たしてその努力に見合った報道を社会に還元しているのだろうか。「こんなしんどいことをやってて意味あるのかな」と疑念を抱きつつ、スクラム内の空気に圧されたまま日々を送っているとしたら、多くの優秀な記者諸氏にとって不幸ではないか。
■コロナが次々とあぶり出す国家の“不具合”
2018年の日産のカルロス・ゴーン元会長逮捕に際し、日本の司法制度の前近代性に驚愕する海外メディアの報道が目についた。その指摘に、新鮮な気づきを多々得た人も少なくないと思われる。本文冒頭のツイッターの異常な膨張ぶりや、弊社オンラインで台湾の閣僚制度について報じた際のネット上の反応を見るに、現在の日本の国家システムの老朽化・機能不全があまりにひどいことを、新型コロナへの対応を通じて誰もがうすうす気づいてしまっているのではないか。
自粛のストレスも相まってか、どこにぶつければよいのかわからないそのストレスのはけ口として、“アベ政権”というわかりやすいターゲットが選ばれたことは必然だが、ことはいち政権のみの問題ではないだろう。コロナ禍が次々とあぶり出してくれる国家の各所の“不具合”を、しばらくはしっかりとウオッチしていくことが必要のようだ。天から降ってきたピンチは、同時にチャンスも与えてくれているはずである。
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プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。
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(プレジデント編集部 西川 修一)
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