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日本の介護施設のコロナ死者数が「世界最低水準」である奇跡

プレジデントオンライン / 2020年6月3日 15時15分

日本とはケタ違いの新型コロナ感染者数が出ている欧州各国では、全体の死者数の50%前後が介護施設にいる高齢者となっている。一方、日本は14%にとどまっている。介護の現場を取材している相沢光一氏は「日本の介護施設が以前から行っている感染防止策が功を奏したのではないか」という――。

■欧州ではコロナ死の50%前後が介護施設の高齢入所者だった

今も世界で感染拡大を続けている新型コロナウイルス。AFP通信が発表した統計では6月1日時点で約611万人が感染し、死亡者は37万人を超えました。

これといった自粛措置がとられていないブラジルなどは1日に2万人近くが感染し、600人以上が亡くなっており、正確な統計がとれていない国も少なくないため、これよりもはるかに多い感染者、死亡者がいるのは確実です。

各国の研究機関も新型コロナウイルス関連の統計調査を行っていますが、注目したいのは「国全体の死者数」に対する「高齢者施設の死者数」の割合です。

英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究グループが4月12日に発表した調査結果(※)によれば、スペインが57%、イタリアは53%と高齢者施設の死者が国全体の死者の半数を超えており、フランス、ベルギーも40%台と半数に迫る死亡率になっています。

※https://ltccovid.org/wp-content/uploads/2020/04/Mortality-associated-with-COVID-12-April-4.pdf

■日本国内のコロナ感染による死者の14%が介護施設入所者

この調査の対象に日本は含まれていないので、単純な比較はできませんが、日本の場合、国全体の死者数も他国よりも低く抑えられているだけでなく、高齢者施設での死亡率は約14%だったと、共同通信が5月13日に報じています(5月8日時点、新型コロナウイルスに感染した人の国内の死者は全体で557人。そのうち、介護施設入所者の死者数は79人で、全体の約14%=7人に1人)。

各国に比べ低い水準を保っている理由は何でしょうか。首都圏のある市でケアマネを務めているKさんは「それには介護職員の涙ぐましい努力があるんです」と語ります。

■日本の介護施設が以前から行っている感染防止策が功を奏した

緊急事態宣言が解除され、「マスク着用」や「ソーシャルディスタンス」などを守りながらも徐々に以前の日常を取り戻しつつありますが、介護現場では今も決して気を緩めることなく徹底した感染防止策が行われていると言います。

「世間ではソーシャルディスタンスという言葉が定着したように相手との距離をとることが求められましたが、介護現場ではそんなことをしたら仕事になりません。施設クラスター(集団感染)が確認では密閉回避のため換気に気を遣っていますが、密集と密接は避けられませんし、居宅介護では密閉と密接の2密状態です。常に感染の危険にさらされているんです」

5月21日現在、国内では約250件のクラスター(集団感染)が確認されており、そのうち高齢者施設での発生は約40件。サービスの形態や環境を考えれば、よく踏みとどまっているといえるでしょう。これにも介護職員の努力の成果が表れているとKさんは言います。

「もともと介護職員は感染症にはかなり注意を払っています。接するのは免疫力が落ちている高齢者ですから、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症を持ち込んではいけないという意識が強く、今、ほとんどの方がするようになったマスクの着用、手洗いの励行は以前からしていました。それに加え、新型コロナウイルスの感染が拡大してからはその何倍もの神経を使って感染防止に努めるようになりました。入所者の方は基本的に常に施設に居ますから、感染源になる可能性は低い。気をつけなければならないのは職員がウイルスを持ち込むことで、職員は自分を厳しく律する必要があるんです」

■「手を触ったりしたところはすぐに消毒する」

そう言ってKさんは特別養護老人ホームに勤務する親しい女性介護職員の日常を語ってくれました。

祖母
写真=iStock.com/Nayomiee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nayomiee

「朝は検温から始まります。その職員はクルマで通勤しているのですが、ハンドルをはじめ手が触れる部分は常に消毒するようにしているそうです。そして施設に着いたら入口のところで再度検温。平熱であることを確認すると手はもちろん服や靴にも消毒液を吹きかけます。なお、その施設では職員の導線を明確にするため出入りは自動ドアのある1カ所だけと決められているそうです。そして始業。ケアは密接せざるを得ませんし、よそよそしい態度をとるわけにもいきませんから以前同じように行いますが、換気に気を配ったり、手を触ったりしたところはすぐに消毒するそうです」

「多くの施設と同様、そこでも家族の面会は禁止になりました。入所者の方にとっては、これが精神的にきついそうです。毎週のように面会に来られるご家族もいて、入所者はそれを生きがいにしていたりする。それを禁じられるのはつらく元気がなくなる人も多い。そこで、その施設ではiPadでご家族とテレビ電話による通話ができるようにしたそうです。顔を見て話ができるだけで気持ちは全然違いますからね。家族と連絡をとって、いつ電話をしたらいいか調整する。そういう仕事も増えたのです」

「仕事が終われば自宅へ直帰。寄るところがあるとすれば食材を買うスーパーぐらいで、そこでも買い物客や店員とは距離をとるようにしている。そういう生活を今も続けているといいます」

■お願いしても高齢の介護利用者はマスクをしてくれない

こうした自らを律する生活以外でも、職員の負担になっていることがあるそうです。

「介護職は女性が多いのですが、そのなかには学齢期のお子さんを持っている方も少なくありません。コロナ禍では学校が休校になりました。在宅することになった子どもの面倒を見なければならないということで休まざるを得ない人も多く、残った職員はその分も働かなければならなくなったんです。そのため施設、居宅を問わずスタッフは疲弊しきっています」

加えて精神的な負担となる事態も起こっているといいます。

「医療関係者が偏見の目で見られるようになったという報道がありましたよね。感染のリスクが高いということで。介護職員も同様で“あの家の家族には近づくな”などと差別的な発言をされたこともあるそうです」

また、居宅介護ではサービス事業者を悩ませていることがあると言います。それは、利用者の感染リスクに対する意識の低さです。

「私が所属する居宅介護支援事業所には4月の上旬に“アベノマスク”を呼ばれる例の布マスクが届きました。これは高齢の利用者さん用です。私たちケアマネ、サービス事業者はもちろんマスクをしていますが、利用者の方にもマスクを着用してもらい感染リスクを軽減しようというものです。でも、自宅にいる時は誰だってマスクはしませんよね。私たちが行った時はマスクをしていただきたいのですが、してくれない方が多いんです。認知症の方はもちろんですし、そうでない方もマスクをすることを忘れている。こちらから『マスクをしてください』とは言いづらいですし、結局、マスクなしの利用者の方と接することになるんです。要介護の利用者さんはステイホームだから感染している可能性が低いと思われるかもしれませんが、家族から感染する可能性はあるわけです。家族は外出しますし、私たちほど感染に神経質でもないですから、利用者さんが感染者になる危険が排除できないんです」

■介護職員の頑張りが介護崩壊を食い止め、医療崩壊も防いでいる

一般の人とは比べものにならないほど感染防止に神経を使っている介護職員。人手不足から仕事の負担は増えて疲弊。周囲からは偏見の目で見られる。その状況を利用者の多くは理解してくれず、感染のリスクにおびえることもあるのです。

Kさんは最後にこう訴えます。

「こうした2重、3重のつらさを感じながら日々を送っているのが介護職員。その頑張りが介護崩壊を食い止め、ひいては医療崩壊も防ぐことにもなっている。そうした結果が(コロナ死亡者に占める)高齢者施設入所者の率が14%という低い数値に表れていると思います。話題になることはありませんが、現場では介護職員のそんな地道な努力があることを知っていただきたいですね」

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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