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公立校の悲惨な実態…一番恐ろしいのはコロナじゃなくて学校教員

プレジデントオンライン / 2020年6月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ridvan_celik

■大混乱した教育現場、子どもは困惑

新型コロナウイルスによる突然の休校発表から、約3カ月が経過した5月末のある日、ようやく始まった小学校の“オンライン指導”2回目にして、一人の男子(小2)が発言した。

「教えてくれないと、勉強わかりません!」

コロナ禍が収まりきらない日本で、公立校に通う子どもたちの多くが教育の機会を逸している。たしかに2月末に政府から出された休校要請は、あまりに唐突すぎた。先生方にとっても寝耳に水で、現場は大混乱に陥っただろうとお察しする。

しかし、あれから3カ月も過ぎてなお、子どもたちの学びの質を保障できていないのは、どういうわけなのだろう。ほとんどの公立学校でオンライン授業は進まず、大量の紙のドリルを渡されるだけ。ピカピカの小学1年生は、いまだまともな授業を受けたことがないこもおり、受験生は不安な思いを抱えている。

一国の公的教育機関がこれほどの長期間、思考停止でまひしたままというのは、どう考えても異常事態だ。学校再開後も分散登校、短縮授業が続き、今後も第2波、第3波がくれば、いつでもまた休校を余儀なくされるはずだ。そのたびに学校は〈授業〉を停止し続けるのだろうか。

■日本は授業でのデジタル利用時間が最下位

国立教育政策研究所が昨年末に発表した「OECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査(PISA)~2018年調査補足資料~」により、日本の学校は授業でデジタル機器を利用する時間が(OECD)内で最下位であることがわかっている。その一方で、家庭で娯楽目的に使用する率は著しく高く、OECD内でトップ。

デジタル機器を使い「毎日、またはほぼ毎日1人用ゲームで遊ぶ」と答えた子どもは47.7%(OECD平均26.7%)で、「ほぼ毎日ネット上でチャットをする」と答えた子どもは87.4%(OECD平均67.3%)にも及ぶ。つまり日本の子どもたちは、デジタル技術を遊びには使うが、学びに活用する術はほとんど教わっていないのだ。そしてその状況は、このコロナ禍でもほとんど前進していない。

■長い長い春休み状態か、大量の紙の宿題に泣いているか

休校期間中の学校の取り組みは、以下のように大別される。

A、オンライン授業など新しい形態を模索し、在宅授業の可能性を探っている学校。
B、連絡も課題もほとんどなく、ほぼ放置状態の学校。
C、ひたすら紙の宿題を山盛り出すことで、自宅学習が進んでいるとみなす学校。
D、9月入学の可能性が出た途端、音信不通になった学校。

公立校のなかにも、もちろんAタイプは存在する。同時双方向のオンライン授業を使ったり、YouTubeなどで授業を試みたりする学校だ。だが、圧倒的大多数は「新しい授業様式」への移行ができず、いまだ昭和時代の感覚で大量の紙のドリルを配布している。

自粛期間中、私たちの「働き方」は大きく変容してきた。オフィスワーカーは在宅勤務の道を模索し、飲食業界はテイクアウト事業を工夫してきた。各種習い事やジムなどもオンラインで指導などの道を切り開き、民間塾も無料でオンライン授業を公開するなど、学びの種類も多様化している。そんななかで、公立学校だけがいまだ〈対面授業〉にこだわり、宿題だけを出し続けている様子は、自らの存在意義を放棄しているかのようにすら見えてしまう。

■生徒の兄姉に教師役をさせようとするのはどうなのか

ちなみにわが子が通う学校は、B→Cに変化したタイプだ。GW明けまでほとんど指導らしきものがなく、新教科書だけは渡されたものの、漢字や計算ドリルは「学校で教えてからでないと配布できない」という謎ルールでもらえなかった。

ところが緊急事態宣言解除が視野に入り始めた5月半ばから、大量の宿題の波が押し寄せるようになった。「授業しないと渡せない」はずのドリル類が配布され、学校のHP上には毎週細かい宿題リストがアップ。5月末には、唐突にZoom“オンライン指導”も始まるも、1回20分程度が週に2回(全3回で終了)なので、ほぼ出欠と宿題確認で終了する。

いずれにせよ確かなのは、ここ3カ月間〈授業〉は行われていない。そんななか、冒頭の爆弾発言が投下されたというわけだ。やりとりは以下の通り。

■さまざまな家庭環境に対応できず

担任:「みんな、何か宿題でわからないところあるかな?」
生徒:「宿題ができません」
担任:「なんで、できないのかな?」
生徒:「教えてもらわないと、勉強わかりません」
担任:「……お母さんや、お父さんはいないのかな?」
生徒:「お父さんはいるけど、家で仕事しているから」
担任:「お母さんは? お姉ちゃんもいたよね?」
生徒:「お母さんと、お姉ちゃんは、東京の家にいる。お父さんと僕は、お父さんの生まれた家にいる」
担任:「……、そうか、困ったね」

コロナ禍で、家族が二手に分かれて生活し、この男子は友達ともきょうだいとも別れてしまっている。お父さんは仕事していて勉強を見てもらえない。〈自宅学習〉のリストだけ渡され、困惑した結果、担任にその状況を説明したわけだが、具体的な解決策は示されないまま、会話は「次の質問」に移っていった。先生としても、個人ではいかんともしがたい状況なのだろう。

■「在宅勤務」は「勤務」であり、「育児休暇」ではない

このわずか1分足らずのやりとりに〈自宅学習〉の闇が潜んでいる。恐ろしいのは、学校側が全面的に「勉強は親が教えるもの」と決めつけている点だ。なんなら「お姉ちゃん、お兄ちゃんが教えるのでもいい」。もちろん丸つけも親、間違った箇所の解説も親の役割だ。

だが、先生方は誤解している。すべての家庭に家庭教師役をできる意欲と時間を持つ大人がいるわけではないということを。「在宅勤務」は「勤務」であり、「在宅休暇」でも「育児休暇」でもないのだ。在宅勤務の合間には、炊事、洗濯、掃除、育児が待っており、家庭内寺子屋を設けるだけの余裕まではない。

実際に私も試みたが、ライターとして仕事の締め切りを気にしつつ、子どもの横に座り、「行」「南」「雪」「書」「読」といった漢字を教え込み、国語の音読を聞き、書写を確認していく作業はなかなかに大変だった。算数では表やグラフの存在意義から、足し算・引き算のひっ算の便利さ、リットルやデシリットルの概念、さらには九九を一段ずつ暗唱させていく。ご丁寧に「生活」「道徳」「植物の観察日記」まであるのだ。

■高学年家庭は、内容的に親が教えられない家庭も

きょうだいがいれば、それぞれ相手もしてやらなくてはならない。高学年家庭からは、「親自身が教科書で勉強しながらでないと、もはや教えられない」という声も届いてくる。

中高校生なら、ある程度教科書を見ながら独学・自習も可能だろうが、漢字もまともに読めない小学校低学年に、学校教科の独学はほぼ不可能だ。

そもそも両親が家にいるとも限らない。夫婦ともに医療従事者で、子どもたちだけ祖父母宅に疎開させている家庭もある。ひとり親世帯だってあるのだ。

■親に教師代わりをさせる〈家庭学習〉が、根本的にNGなワケ

それでもまだ〈家庭学習〉が任意ならいい。「できないなら、それでも大丈夫。学校でやりますから」ならば。しかし今回、家庭学習の難しさを学校に伝えたところ、「宿題範囲は家庭で自宅学習が済んでいると見なし、学校再開後も十分には復習できません」と言われた家庭もある。「家庭の取り組み次第で学力差が出てしまうので、しっかりと勉強してきてくださいね」と、親切なんだか無責任なんだかわからないアドバイスをもらった人もある。

実際に文部科学省も、新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休校中の特別措置として、「学校が課した家庭学習の実施状況が一定の要件を満たす場合において、特例的に、学校の再開後等に、当該内容を再度学校における対面指導で取り扱わないこととすることができる」としている。もっとも、「学習の定着が不十分である一部の児童生徒」においては、「別途、個別に補習を実施すること」との文言が付け加えられているが、その場合でも「追加の家庭学習を適切に課すなどの必要な措置を講じること」も可能だとしている。またしても〈家庭学習〉という名の大量の追加宿題を子どもが持ち帰ってきかねない。

■学校が振りかざす全児童への平等は本当に平等か

そこまで〈対面授業〉を行う時間がないならば、なぜ長い休校期間に、学校側はあらゆる手段を講じて〈オンライン授業〉を進めようとしてこなかったのだろう。実は今回、私は「YouTubeなど使うして短時間授業を行ってほしい」ということも頼んでみた。だが、返答は「IT環境が整っていないご家庭もあるので、教育の不平等になる」というものだった。同様の嘆願を行ったほかのママさんには、「YouTubeを見せたがらないご家庭もあるので」「教師の顔を出すと悪用される恐れもあるので」「教師がIT機器を使うのが苦手なので」といった返答があったとの情報も集まってきた。いったいいつの時代の話なのか、理解に苦しむ。

そもそも〈不平等〉を気にするならば、家庭環境で学力差が生じることこそ一番の〈不平等〉である。必要ならば国や自治体からタブレットやWi-Fiルーターの貸与などの措置も講じられているのだから。

■何もやらないという罪を犯す日本の学校

今回の休校期間中の公立校の取り組みの遅さについては、業を煮やした文部科学省からも喝が食らっている。47都道府県の教育委員会と教育機関に向けて発せられた、「令和2年度ICT活用教育アドバイザー事業 学校の情報環境整備に関する説明会」(YouTubeで配信)では、お役所らしからぬ踏み込んだ表現が話題にもなった。

「えっ、この非常時にさえICTを使わないのはなぜ?」
「これからはICTを使わなかった自治体に説明責任が出てくる」
「紙を配るんではなく、双方向での授業に学校現場が取り組んで」
「5%の家庭にネット環境などが整っていないならば、95%の家庭からはじめ、残りの5%をどうするかを考えればいい」
「『一律でないからだめなんだ』というのは、やろうとする取り組みから残念ながら逃げているとしか見えません」
「やろうとしないということが一番子どもに対して罪です」

■「学校のICT化」実現への道のりは遠い

もともと文部科学省は、経済産業省や総務省、内閣官房IT総合戦略室と共に、国が掲げる「Society 5.0」の実現に向けて、子どもたちの学力向上のため「GIGAスクール構想」を打ち出している。2018年から22年にかけて、5カ年計画で学校のICT化を一気に進める計画だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、計画を前倒しし、遠隔授業も含めた公立校のデジタル化を急ぐよう全国に伝達している。

国からも、保護者からも、子どもたちからも、学校の学びの改革を求める声が上がっている。将来、子どもたちが「コロナ世代」と呼ばれるようになったとき、「だから学力もないし仕事もできない」と見なされるか、「さすが学びの質が高まった世代」と評されるかどうか、まさにいまのこの時期の取り組みにかかっている。

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三浦 愛美(みうら・まなみ)
フリーランスライター
1977年、埼玉県生まれ。武蔵大学大学院人文科学研究科欧米文化専攻修士課程修了。構成を手がけた本に『まっくらな中での対話』(茂木健一郎ほか著)などがある。

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(フリーランスライター 三浦 愛美)

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