家庭ゴミからペットボトルを作る「夢の微生物テック」の進捗
プレジデントオンライン / 2020年6月11日 9時15分
※本稿は、斉藤徹『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■排気ガスを微生物に食べさせて、エタノールを生成
本社 シカゴ
創業年 2005年
サービス 微生物のガス発酵技術
事業の着眼点 微生物のパワーでゴミから資源を生み出す
LanzaTechのテクノロジーを一言でいうと、排気ガスやゴミから新しいエネルギー資源を生み出すというもの。聞いただけで、革新性がきわだつ技術ですね。
排気ガスのなかには一酸化炭素、二酸化炭素、水素など有害なガスが多く含まれていますが、日々生活したり、工場などで何かを生産すれば、これらを大気中に放出するしかありません。世界中で盛んに環境保護が叫ばれていますが、「ガスの排出量を減らそう」というメッセージが中心です。
しかし、LanzaTechのテクノロジーはまったく異なるアプローチで、こうした排気ガスを微生物に食べさせることによって発酵させ、エタノールを生成してしまうというものです。生成されたエタノールは自動車の燃料はもちろん、航空機の燃料、いわゆる「バイオジェット」などのクリーンエネルギーへと活用されていきます。
まさに、地球環境問題とエネルギー問題を斜め上から一気に解決してしまうような驚異のテクノロジー。技術革新で世界を一変させるイノベーション企業です。
■分別していないゴミを丸ごとガスに転化
LanzaTechの事業フィールドはまさにグローバルで、中国の製鉄所では、工場から排出されるガスを利用して年間300トンのエタノールを製造するプラントが稼働しており、インドの石油会社やインドの政府機関との共同研究・開発も進んでいます。
また、積水化学との共同研究では、ゴミ処理場に集められた一般廃棄物を分別することなく丸ごとガスに転化し、エタノールを作り出すことを世界で初めて成功させています。
ちなみに、エタノールはエチレンに変換できるので、そのエチレンを使ってペットボトルなどの容器を作ることも可能です。
これまで世界中が化石燃料に依存しており、化石燃料を使用することでエネルギー資源が枯渇する、いわゆるエネルギー問題が起こり、同時に、地球環境を汚染する問題も起こっていました。しかし、LanzaTechのテクノロジーを使えば、一度取り出した資源、炭素は何度も再利用可能となり、本来であれば「地球の環境を汚染している物質」がさらなる燃料となり、持続可能性が実現されるのです。
■三井物産、全日空ら日本企業とも提携
これは地中燃料をほとんど持たない日本にとっても朗報で、事実LanzaTechのCEOジェニファー・ホームグレン氏は、「原料を常に輸入に頼らなくてもよくなるという点で、炭素の再利用技術は日本の将来にとっても重視すべきものだ」と語っています。
実際、LanzaTechは日本企業ともつながりが深く、2014年には三井物産が中心となって6000万ドル(約66億円)の増資を行っており、2019年には全日空が同社のテクノロジーによって製造されたエタノールを使ったバイオジェット燃料の購入を決めています。
今や世界のビッグビジネスにとってサステナビリティは重要なテーマであり、航空業界ももちろん例外ではありません。全日空も「サステナビリティで世界をリードする企業」「環境リーディングエアラインを目指す」と表明しており、彼らの目指す姿にLanzaTechのテクノロジーはぴったりとフィットしています。
■「ライセンスを売る」ビジネスモデル
これからますます活躍が期待されるLanzaTechですが、この会社が目指す姿は、世界中に自社の巨大プラントを作り、クリーンエネルギーをどんどん作ることではなさそうです。
むしろ、世界中の工場にLanzaTechのテクノロジーをライセンス販売するビジネスモデルを考えています。既存の工場がエタノールを作り始めた段階で、その売上げから一定の割合を得ていくというものです。
世界中には排気ガスを排出している工場が無数にある一方、産業排気量の規制がどんどん厳しくなっています。
規制を受ける工場が(たとえば、それぞれの国の支援を受けながら)LanzaTechのテクノロジーを使用していくというのは、持続可能性を感じさせる現実的なビジネスモデルといえるでしょう。自社の持ち物を多くするのではなく、テクノロジーを売っていく――。そんなビジネスができるのも、やはり革新的な技術を持っているからです。
■農作物の鮮度を保つコーティング剤を開発
本社 ゴリータ(カリフォルニア)
創業年 2012年
サービス 食品コーティング
事業の着眼点 農作物の鮮度が長持ちするようにパウダーでコーティングをする
次に紹介するApeel Sciencesも、非常にユニークなテクノロジーを武器にビジネスを展開している企業です。
パウダー状の薬剤を水に溶かし、その液剤を収穫された農作物にスプレーすることで、鮮度が保たれるという技術を開発したのです。
Apeel Sciencesのホームページには興味深い比較実験の結果が示されています。
あるレモンをApeel Sciencesのコーティング剤をスプレーしたものと、何もしないもので比較すると、50日もすると通常のレモンの方は変色し、どす黒く腐敗が進んでいくのですが、コーティング剤をスプレーした方はほとんど収穫したてと変わらない、鮮やかな黄色のままの状態を保つというのです。
レモンよりもさらに腐敗が進みやすいイチゴで試してみると、さらにはっきりわかります。コーティングされていない方は3日もするとカビが生え始めているのに対し、コーティングされたイチゴは5日経っても、ほとんど変化が見られません。
Apeel Sciencesは、それほど決定的な違いを見せるコーティング剤を開発したというわけです。
■原料は野菜や果物の「皮や種」
しかし、これだけ聞くと、「そんな危険なもの、人体に影響はないのか?」「その化学物質は大丈夫なのか?」とむしろ訝(いぶか)しんでしまいます。きっと多くの人がそう感じるのではないでしょうか。
この点もApeel Sciencesの技術の特筆すべきポイントです。彼らが開発したコーティング剤は完全に自然由来のもので、収穫された野菜や果物のなかでも、本来は人の口に入らない皮や種などからオイルを採取し、原料としているのです。
収穫された野菜や果物と同じ成分のものを吹きかけているので、安全性にまったく問題はないというわけです。事実、アメリカ食品医薬品局のガイドラインもきちんとパスしています。創業者のジェームズ・ロジャース氏がこのアイデアを思いついたきっかけは「鉄の錆(さび)」だったといいます。
鉄は酸化して錆びていきますが、これに薄いコーティングをして錆びにくくしたものが、いわゆるステンレススチールです。これを農作物に転用したのです。
食品をダメにする原因は水分の減少と酸化。それを防ぐために、安全な薄い膜をまとわせたという発想なのです。
■世界の食糧飢餓問題を解決したい
ロジャース氏がこのビジネスを立ち上げた出発点は、アメリカの食品業界の変革ではなく「世界の食糧飢餓問題を解決したい」という思いでした。とりわけ発展途上国では、保冷の設備やインフラが整っていないために、食料を保存したり、輸送することができず、食糧不足に苦しめられている人がまだまだ大勢います。
そんな問題を解決してくれるテクノロジーこそ、自然由来のフードコーティングだったのです。
実際にApeel Sciencesでは、収穫された作物を保冷することなく、鮮度を維持したまま消費者へと届ける物流システムを、ケニアやウガンダなどの国で構築しています。
また、鮮度を長く保つことができれば、それだけフードロスを減らせるという効果もあります。国連食糧農業機関によれば、毎年、食用として収穫された作物のうち3分の1にあたる13億トンが食べられることなく、腐敗してしまったり、廃棄されているといいます。
こうした世界的な数々の問題に対しても、Apeel Sciencesのテクノロジーが一役買うことは間違いありません。
今では、ビル・ゲイツ氏と妻のメリンダ氏が行っている「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」をはじめ、多くの財団やベンチャーキャピタルが支援をしており、Apeel Sciencesはすでに4000万ドル(約44億円)の資金を集めています。
■コーティングされたアボカドは「売上げ10%増」
Apeel Sciencesのフードコーティング技術を使用した作物は、現在レモン、梨、桃、アスパラガスなど30種類以上にわたり、コストコやアメリカの大手スーパーマーケットチェーンのハープス・フード・ストアーズでも取り扱われています。
Apeel Sciencesのフードコーティングを使った商品は、遺伝子組み換えのような技術とはまったく異なるので、特別な表示義務はありませんが、それでもあえて「表示」するようにしている点も注目を集めています。
「Apeel Sciencesのコーティングをされた商品」だと示すことで、むしろ商品を差別化、ブランド化しているのです。健康を害することなく、自然由来の商品でありながら、通常よりも鮮度が長持ちするのですから、付加価値がつくのも当然です。
実際、ハープス・フード・ストアーズでは、フードコーティングされたアボカドの売上げは10パーセント向上し、商品における利益は65パーセントもアップしたといいます。
さらに、農作物をコーティングするというユニークなテクノロジーにより、本来であれば輸送することが難しかった遠方にも新鮮な作物を届けることにもつながるでしょう。
また、輸送中の保冷が不要となれば、それだけコストやエネルギーの削減にもつながるかもしれません。「食」の問題を超えて、さまざまな社会課題を解決する可能性を秘めた技術といえるでしょう。
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ループス・コミュニケーションズ代表取締役
1961年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部を経て、85年、日本IBM株式会社入社。91年、株式会社フレックスファームを創業。2005年、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業。学習院大学経済学部特別客員教授を経て、20年、ビジネス・ブレークスルー大学教授に就任。専門分野はイノベーションと組織論。30年近い起業経験をいかし、Z世代の若者たちとともに、実践的な学びの場、幸せ視点の経営学を広めている。『再起動』(ダイヤモンド社)、『ソーシャルシフト』(日本経済新聞社)など著書多数
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(ループス・コミュニケーションズ代表取締役 斉藤 徹)
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