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身体心理学者が教える「コロナ疲れを軽くする姿勢・歩行・呼吸のコツ」

プレジデントオンライン / 2020年6月11日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jasmina007

新型コロナウイルスの影響が長期化するなかで、ストレスを感じる人が増えている。身体心理学が専門の菅村玄二・関西大学教授は「背筋を伸ばすだけでも、気分は回復しやすくなる。わりと簡単に実践できるので、ぜひ日常生活に取り入れてほしい」という――。(前編/全2回)

■「背筋を伸ばす」と、気分の回復が早くなる

新型コロナウイルスの影響が長期化し、「新しい生活様式」が求められるなか、巷でもストレス対処や感情のコントロールへの関心が高まり、さまざまな情報が発信されている。ここでは私が研究している身体心理学の観点から、わりと簡単に実践できる日常生活上のヒントを提供したい。身体心理学とは、早稲田大学名誉教授であった故・春木豊氏によって体系立てられた「体と心のありよう」だ。身体を基軸とした感情制御に関する実験心理学がベースだが、その背景には禅、ヨガ、太極拳、呼吸法などの東洋的行法や仏教や道教の哲学もある。便宜的に、禅のキーワードである「調身・調息・調心」という言葉に沿って解説する。今回は「調身」と「調息」を取り上げたい。

調身:姿勢、歩行、表情からのアプローチ

「調身」とは「身をととのえる」こと。仏教では坐禅のときの姿勢を指すことが多いが、身体心理学ではもう少し広く捉え、姿勢だけでなく、表情、手足の動き、歩行なども含まれる。

背筋を伸ばす

テレワークになり、通勤がなくなって楽になったという声も聞くが、その分、増えたのが座っている時間だ。子どもの頃なら「姿勢を正しなさい」と叱ってくれる人もいたかもしれないが、他人の目がない自宅で長時間よい姿勢を保つのは難しい。

だが、「姿勢を正す」ことは、背筋を伸ばすというフィジカル面だけでなく、気を引き締めるというメンタル面も同時に言い表している。気分が落ち込むと頭をうなだれ背中を丸めやすいが、実際に猫背をすることでうつ気分が生じることは筆者らの研究でも繰り返し実験で確認されている。逆に、軽いうつ気分のときには、背筋をまっすぐ伸ばすと、猫背になるよりも、気分の回復が早いこともわかっている。

猫背になると、直接的に肺活量が少なくなり、呼気流量も低下するし、感情もネガティブになる。姿勢を正すことで、呼吸も深くなり、気分もいくぶんスッキリするかもしれない。禅が教えるように、身を整えることで、息が整い、心も整うということだ。

■不安な時はゆっくり、憂鬱な時ははやく歩く

歩くペースを変える

座ってばかりいるのも健康には良くない。この10年ほどで、長時間の着座が心臓血管系の疾患などの罹患リスクを高めることも指摘されている。逆に、定期的な運動(例:週3回各30分の有酸素運動)は、身体面だけでなく、不安やうつといった心理面にもポジティブな効果が認められている。新しい生活様式では、スポーツジムの代わりに自宅での運動やジョギングも少人数が推奨されるなどの制約もあるが、歩くだけでも座る時間を減らすことができ、気分を変えることもできる。

歩行姿勢の観点からは、やはり背筋を伸ばした姿勢がよいということになるが、歩くペースを変えるによっても気分をコントロールすることが可能だ。不安を感じたり、浮き足立ったりしいるときは意識して普段よりもゆっくりと歩くことで気分が沈静化し、逆に気が滅入っていたりネガティブになっているときは早足にすることで気分は活性化する。なお、この実験では、一定のテンポを刻むことが気分に影響するのではなく、歩行という動作が重要なことを示す結果となっている。

■今この瞬間、肩に力が入っていないだろうか

余計な力を抜く

ストレス状況下では、筋緊張が生じやすい。これまでは職場と自宅が明確に分かれることで、気持ちの切り替えが自然となされやすかったが、テレワークになると、自宅が「会議室」になったり、教員や学生にとっては自室が「教室」になったりする。こうなると、これまでのプライベートな空間が職場や学校となり、ずっとスイッチオンとなったままで心身の緊張状態が続きやすい。

とくに、肩こりの訴えを耳にすることが増えた。いまこの記事を読みながら、肩に力が入っていないだろうか。慢性的な緊張状態が続くと、力が入っているかどうかも気づきにくくなるが、いまの肩の位置よりももう少し下げることで力が抜けるとしたら、肩に余計な緊張が入っていたということだ。緊張しているかどうかわかりにくい場合は、肩をぎゅっとすくめて力を入れて、肩をすとんと落とすと同時に力を抜けばよい。これを何度か繰り返すと、緊張と弛緩のコントラストが明確になることで、リラックスした感じを自覚しやすくなる。

■眉の間を指でほぐすだけでも、少しホッとできる

これでも緊張が抜けないというときは、誰かの手を借りるとよい。まず自分が仰向けになり、どちらか片方の腕を天井の方にまっすぐ上げる。そのあがった手を相手に両手で握ってもらい、あげた腕のほうの肩が少し浮くくらいまで軽く持ち上げてもらって、ゆらゆらと気持ちよく揺ってもらう。相手が揺すりやすいように、自分の腕の力を完全に抜くようにする。

「怒り肩」という言葉もあるが、動物行動学的にも、肩は怒りや権威を誇示する部位だ。怒りを和らげるために肩の力を抜くアプローチもある。ほかにも、愁眉筋が緊張すると、眉間にしわが寄るが、「愁眉を開く」という言葉もあるように、眉の間の力を抜いたり、指でほぐしたりすることで、いくぶんホッとした気持ちになることもある。肩や顔に余計な力が入っていないか確かめるとよい。

■不安を感じると、人の呼吸は早くなる

調息:呼吸からのアプローチ

「調息」とは「息をととのえる」こと。長期化するコロナ禍は、まさに「息が詰まる」状況だ。「一息つきたい」と感じている人も多いだろう。不安を感じると「息があがる」というが、実際、交感神経活性と迷走神経不活性が生じ、普段より早く浅い呼吸になり、換気亢進(呼気終末二酸化炭素濃度減少)が生じる。ここでは簡単に実践しやすい息の整え方をいくつか紹介する(呼吸器疾患のある人や不安症の人などは呼吸調整によってかえって悪化することもあるので、ご遠慮ください)。

長息のための呼吸法

多くの呼吸法で共通するのは、吸う息よりも吐く息の大切さで、長くゆっくり吐ききることが強調される。これは「長息」と呼ばれる。実験的にも、早く吸いゆっくり吐くと(吸気2秒・呼気8秒)、ゆっくり吸い早く吐いたり(吸気8秒・呼気2秒)、同じ早さで呼吸したりするよりも、心理的にも生理的にも沈静化させる効果があることが確認されている。呼吸法の頑張りすぎは禁物だが、苦しくない程度に呼気時間を長くするだけでも、副交感神経系は優位になりやすい。

■手軽にできる「休止呼吸法」と「解放呼吸法」

簡単にできる長息のやり方として、「休止呼吸法」がある。これは息を吐いて再び吸う前に息を止める技法だ。まず、ゆっくりと息を吐き、すべて出し切る。出しきったところで、今度は息を止め、心の中でゆっくり「ひと~つ」「ふた~つ」「み~っつ」「よ~っつ」と数える。少なくとも、「2つ」目か「3つ」目を数えてから息を吸うようにするが、最初はあまり長くは息を止めず、次第に長くしていくとよい(休止時間は、目安としては2~5秒)。ゆったりした一定のテンポで、自分にとって必要なだけ繰り返す。なお、息を吐き出すときには、口をすぼめて「ふーっ」と音を出すと、やりやすくなる。過呼吸やパニックになったときにも効果のある呼吸法で、臨床的にもリラックス法としても使われている。

息の吐き出し方に焦点を置いた呼吸法としては、「解放呼吸法」がある。まず、深く気持ちよく息を吸い、もう吸えないところまできたら、口とのどを広げて、息を吐き出す。ちょうどよい湯加減のお風呂で「あ~~」という声が自然に出る感じだ。息を無理に長く吐こうとはしたりせず、ただ解放するよう息を吐くのがポイントだ。2~3秒休んでから、また深く息を吸い込み、胸を空気で気持ちよく満たしたら、同じように息を吐く。息を吐き出すときに、肩をだらんと落としてリラックスするように心がけるとなおよい。これを2、3回くらい繰り返す。

■ため息には「一息つく」効果がある

ため息

「ため息をすると幸せが逃げる」という。実際に幸せが逃げるのか検討した研究はまだないが、多くの人は、この言葉のように、ため息とネガティブな感情を結びつけて考えている。これは半分だけ正しい。「安堵のため息」という言葉もあるように、ため息はポジティブな感情とも結びついている。

ある実験で、参加者に本当は解けない難問に取り組んでもらったところ、いったん解くのを諦めて、別の解き方をし始める間にため息が生じることが観察された。ネズミも、電気ショックというストレス状況によりため息が生じるが、それは電気ショックから解放されたときだった。つまり、ため息は、先だってネガティブな状況があるものの、その後には状況の好転や気分転換といった「一息入れる」効果があるといえる。ため息の前で区切るか後で区切るかで、そのイメージがネガティブにもポジティブになるということだ。

私の研究室で行った実験では、呼気成分を分析するという名目で、それとわからないようにビニール袋にため息をするグループと普通に息を吐き出すグループに分け、その後の作業を比較した。その結果、ため息のような吐息をさせたグループは、高難度のパズルへの取り組み時間が長くなり、退屈な作業の継続も高まることがわかった。コロナ禍のような「息が詰まる」状況でも、「一息つく」だけで、やる気を取り戻し、幸せも呼び寄せられるかもしれない。

【著者註】
本記事で参照した研究の詳細は、下記の文献にあります。
姿勢
菅村玄二(2016).姿勢 春木 豊・山口 創(編)新版 身体心理学:身体行動から心へのパラダイム(pp.121-153)川島書店.
歩行
佐々木康成(2016).動作と歩行 春木 豊・山口 創(編)新版 身体心理学:身体行動から心へのパラダイム(pp.175-197)川島書店.
呼吸
髙瀬弘樹(2016).呼吸 春木 豊・山口 創(編)新版 身体心理学:身体行動から心へのパラダイム(pp.59-74)川島書店.
井上佳奈・山本佑実・菅村玄二(2016).ため息がやる気を高める:随意的嘆息が安堵と動機づけに与える効果 心理学研究、86(2)、133-143.
菅村玄二(2007).センタリング呼吸法 越川房子(監修)ココロが軽くなるエクササイズ(pp.92-95)東京書籍.

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菅村 玄二 関西大学文学部・大学院心理学研究科教授
1975年,長崎県生まれ。早稲田大学人間科学部卒,同大学院人間科学研究科修士課程修了。University of North Texas,Saybrook Graduate School and Research Centerを経て,早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻で博士(文学)を取得。専門は身体心理学。現在は主に姿勢教育の研究に従事。

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(関西大学文学部・大学院心理学研究科教授 菅村 玄二)

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