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コロナ禍の時代にぜひとも取り入れたい「のび太の居眠り術」

プレジデントオンライン / 2020年6月12日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/martin-dm

仕事や生活環境の変化により、イライラすることが増えていないだろうか。そういう時は、ひとまずゴロンと横になるといい。身体心理学が専門の菅村玄二・関西大学教授は「仰向けで横たわる姿勢には、怒りを抑制する効果がある。『果報は寝て待て』ということわざは、苦難の時代を生き抜く叡智かもしれない」という――。(後編/全2回)

■心を整える「マインドフルネス」のアプローチ

新型コロナウイルスの影響が長期化し、「新しい生活様式」が求められるなか、巷でもストレス対処や感情のコントロールへの関心が高まり、さまざまな情報が発信されている。ここでは身体心理学の観点から、わりと簡単に実践できる日常生活上のヒントを提供したい。身体心理学とは、早稲田大学名誉教授であった故・春木豊氏によって体系立てられた「体と心のありよう」だ。身体を基軸とした感情制御に関する実験心理学がベースだが、その背景には禅、ヨガ、太極拳、呼吸法などの東洋的行法や仏教や道教の哲学もある。便宜的に、禅のキーワードである「調身・調息・調心」という言葉に沿って解説する。前回取り上げた「調身・調息」に続いて、今回は「調心」を紹介する。

調心:精神からのアプローチ

「調身、調息、調心」と言ったとき、本来は身を整えて、息が整い、その結果として心が整うという順序の意味合いが含まれている。身体心理学でも、そうした順序を因果的に捉えて実験をしているが、理論上は体と心は一つ(身心一如)という立場をとる。その意味では、順序自体が重要というわけではなく、むしろ心を整えることで、息や身が整うと理解したほうがわかりやすい実践法もある。ここでは、「調心」を主眼とするワークとして、マインドフルネスを紹介する。

■「責める気持ち」や「イライラ」も否定しない

考え・気持ち・体の感じに気づき、受け流す

マインドフルネスとは、狭い意味では、仏教瞑想に由来する「あるがままの気づき」を重視する意識のありようを指す。現代流のマインドフルネスでは、坐禅や呼吸法、ヨガなどの要素も含まれ、体を重視したアプローチともいえるが、体のあり方よりも、意識のあり方、注意の向け方がこのワークの要となっている。

たとえば、いま考えていること(思考)、気持ち(感情)、体の感じ方(感覚)などに意識的に注意を向けてみる。頼まれた仕事なことをどこかで考えていたり(思考)、それによって焦った気持ち(感情)になっていたり、少しドキドキしたり、息が浅い感じ(感覚)に気づくかもしれない。「あるがまま」というのは、このような考えや気持ち、感じに対して「良くない」とか「ダメだ」といった判断をしないこと、つまり、「善し悪し」という尾ひれをつけない状態をいう。もし尾ひれに気づいたなら、それはそういう思考として気づければよい。

誰かを責めるような思考、イライラした感情、肩が強ばった感覚に気づいたとしても、すぐに打ち消そうとせず、それも自分の一部として見守る態度を心がける。小川に流れる木の葉をのんびり見つめるように、無理に押し流そうとしたり、せき止めたりもせず、意識の流れにあるさまざまな考えやイメージ、気持ち、感じを一つひとつ言葉にしていく。そうすることで、日々の煩わしさから離れて、頭もスッキリし、気持ちに振り回されることなく、心も整ってきやすい。

■ごはんを味わい、お茶をゆっくり飲んでみる

五感を使ってゆっくり食べ、飲む

ネガティブな心持ちに気づくだけでなく、ごはんを普段よりもじっくりと味わいながら食べる、お茶やコーヒーをゆっくり飲むのもマインドフルなありようだ。たとえば、白飯でも光の当たり具合によって色が違うし、箸で持ち上げて重さを感じることもできる。口に近づければ、匂いもするし、唾液がこみ上げてくることに気づくかもしれない。口に入れてからも複雑な舌触りや歯触りがあり、ゆっくり噛むごとに味の変化があるかもしれない。食べるということの感覚の豊かさを再認識し、食に対する感謝の念をもつことは、落ち着いた日常を取り戻す一助となるだろう。

■イライラしたら「ゴロンと横になる」

禅の調身・調息・調心という言葉に沿って解説したが、身心一如という言葉が示すように、これらは本質的には分けられない。また禅では自力が強調されるが、自力のみではどうしようもないこともある。時には、他力も大切だ。誰かに腕を揺らしてもらうというエクササイズもあるが、自分一人しかいなくても自力に頼らないアプローチも可能だ。

イライラして怒りっぽくなっているときや不安なときは、いっそゴロンと仰向けに寝ころぶとよい。脳波や脳画像の研究でも、仰臥姿勢は怒りを抑制することが示唆されている。ここにマインドフルネスの要素を加えることもできる。ボディスキャンというエクササイズは、実際、仰臥でやることが多く、つま先から頭のてっぺんまでの身体感覚について、10~30分ほど時間をかけて、ゆっくりとスキャンするように注意を移動させていく技法だ。ボディスキャンを何人かで行うと、誰かしら必ずといってよいほど寝てしまい、いびきが聞こえてくる。マインドフルネスは、ある意味、睡眠とは対極にある覚醒状態だが、身体心理学的には、この「寝てしまった人」から学ぶことも多々ある。

前編で呼吸を調整する方法をいくつか紹介したが、コントロールしないあるがままの呼吸を理想とする考え方もある。安心しきって眠っている赤ちゃんが呼吸法の最高師範だという専門家もいるくらいだ。周りに人がいても眠りにつけるほどリラックスできるということ自体、その心身のありように敬意が払われて然るべきだ。

■「果報は寝て待て」は苦難の時代を生き抜く叡智

『ドラえもん』(小学館)に「ねむりの天才のび太」という話がある。授業中に居眠りをしていて叱られたのび太が、ジャイアンに「そんなにねむってばかりじゃ、のうみそがとろけちゃうぞ」と馬鹿にされ、眠るのが悪いなんて誰が決めたんだと思ったのび太は、「もしもボックス」を使って、眠れば眠るほどエライという世の中にしてしまう。のび太のもとには、テレビ局から出演依頼が来て、0.93秒で寝るという世界新記録(?)を出す。解説者は「ねむりながら戦争はできません。平和のため、のび太先生をお手本にして、みんなねむりましょう」と説く。「つまらないうらみは水に流し、手をとりあってねむりの道をきわめよう」というのび太であったが、経済活動が停止してしまい、ごはんも食べられなくなり、また元の世界に戻すというオチだ。

新型コロナの感染拡大の速度を抑制して時間稼ぎをしているものの、どこまで長期化するかわからないコロナ禍の時代。経済活動をすべて止めるわけにはいかないが、ちょっとしたことでイライラしたり、人に八つ当たりしたり、あるいは不安を感じたり、落ち込んだりするくらいなら、ひとまずゴロンと横になり、重力に身を任せて、ねむりの道をきわめたいものだ。「果報は寝て待て」という諺は、心と体、そして自力と他力が一つに融合した、苦難の時代を生き抜く叡智ではないだろうか。

【著者註】
本記事で参照した研究の詳細は、下記の文献にあります。
仰臥姿勢
Harmon-Jones, E.,&Peterson, C.(2009). Supine body position reduces neural response to anger evocation. Psychological Science, 20(10), 1209-1210.
マインドフルネス
Hayes, S. C.&Smith, S.(2005). Get out of your mind and into your life. Oakland, CA:New Harbinger.
春木 豊・菅村 玄二(編訳)(2013).マインドフルネス瞑想ガイド 北大路書房.
越川房子(編)(2007).ココロが軽くなるエクササイズ 東京書籍.
越川房子(監訳)(2007).マインドフルネス認知療法:うつを予防する新しいアプローチ 北大路書房.
菅村玄二(2016).マインドフルネスの意味を超えて:言葉、概念、そして体験 貝谷 久宣・熊野 宏昭・越川 房子(編)マインドフルネスの基礎と実践(pp.129-149) 日本評論社.

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菅村 玄二 関西大学文学部・大学院心理学研究科教授
1975年,長崎県生まれ。早稲田大学人間科学部卒,同大学院人間科学研究科修士課程修了。University of North Texas,Saybrook Graduate School and Research Centerを経て,早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻で博士(文学)を取得。専門は身体心理学。現在は主に姿勢教育の研究に従事。

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(関西大学文学部・大学院心理学研究科教授 菅村 玄二)

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