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コロナ禍でも「集客6倍」になった酒屋のDMに書いてあったこと

プレジデントオンライン / 2020年6月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlenaPaulus

新型コロナウイルスの影響で多くの事業者が売り上げ減少に苦しんでいる。どうすればいいのか。会員数約1500社のビジネスコミュニティを主宰する小阪裕司氏は、「この状況下でも来店者数が6倍になった酒屋が岐阜にある。その酒屋はダイレクトメールの書き方を変えたことが奏功した。どんな業種にも参考になるはずだ」という——。

■普段なら「あいさつ文」や「雑学クイズ」を書くが…

3月からのコロナ情勢下で、多くの店・会社は売り上げを大きく落とした。業種や商品によっては特需もあったが、特に3月から4月にかけ、人々は未知のウイルスに恐怖感を抱き、先行きに大きな不安を感じ、それらは消費社会にも大きな影を落とした。しかし、そんな情勢下だからこそ、お客さんの心を大きく動かし、癒やし、結果として来店や購入などの行動を生んだ話がある。

ひとつは、岐阜県大垣市の「藤田屋酒店」でのこと。3月にお客さんに送ったダイレクトメール(以下、DM)が、通常の6倍の反応だったというものだ。とはいえ今回、時勢もあり、店主はことさらに集客を図ったわけではない。ではどんなことをやったのか。

同店では、普段からお客さんにDMを送っているが、今回、送付するにあたって店主は工夫した。例えば、宛名面の下のスペース。普段なら何気ないあいさつ文や「雑学クイズ」のようなネタを書くのだが、今回はこういう情勢下だ。お客さんも不安だったり気持ちがなんとなく暗くなったりしているだろう。ならば今回は、そういう気持ちに寄り添った文章を書こうと考えた。

そこで「新型コロナウイルスの騒動で世の中心配ばかりです……。どうかお互いお体に気をつけて頑張りましょうね」との書き出しから、いつもより一層柔らかな文章をつづった。また他では、いつもなら商品訴求がメインのレターの表にも、まず「こんなときだからこそ、心豊かに楽しく、あったかい時間を過ごしたいです。その一助になれば……」との文章から始め、商品の紹介につなげていった。

宛名面の空きスペースに、コロナ危機に寄り添う文章を書く
提供=藤田屋
同封のDMで、温かさや楽しみが得られることを動機づけする
提供=藤田屋

■DM片手に通常の6倍のお客さんが来店

すると、投函するやいなや、お客さんは反応した。来店客が増え、しかもそのDMを持って来るのだ。その数、通常の6倍。結果、家飲み需要が増えたとは言われるが、飲食店への卸もあるため、店全体としてはコロナの悪影響があった3月だった。しかし、このDMで提案した商品群に関しては、日本酒131%、ワイン122%、リキュール346%と大幅な伸びとなった。

これが意味するところは何だろうか? 今回のDMは、強力に集客を仕掛けたものでもなく、凝った文面でもない。今回の店主の“はからい”は、お客さんの不安な気持ちに寄り添うことだった。なぜこの“はからい”がこれほど人を動かすのだろうか?

その読み解きのために、異なる業種での、同様の2つの例を紹介しよう。

ひとつ目は、岡山でキャンプ場経営とキャンプ用品通信販売を行う「おおさネイチャークラブ」からの報告だ。同社では、「コロナ不安の今だからこそお伝えしたいコト」と題し、社長からのメッセージ文を、メルマガを通じキャンプ場と通販それぞれの顧客に配信。同時にブログにアップ、フェイスブックにも投稿した。

その内容は次のようなものだ。冒頭の社長のあいさつに続き、「連日コロナウイルスの報道で皆さんも不安な毎日を過ごされているかと思います」とコロナのことにしばらく触れ、お客さんの不安な気持ちを代弁しつつ、そこから「我々はアウトドアを愛する仲間である」「自然の中で過ごす術を知っている」こと、だからこそ、「自然というものは思い通りにいかないこともあるが、それでも我々は臨機応変に対応し、その場を『乗り切れる』ことを知っている」等々の、まさにキャンプをたしなんでいるという共通項を持ったお客さんらにぴったりのメッセージを発信したのである。

これには、多くのお客さんが反応した。この内容に共感したという声が多数だが、なかには「いつもはメルマガなど読まずにスルーしていたのですが、今回のものはとても元気が出る内容だった。お礼申し上げます」「3年以上も前の購入にもかかわらずメールをいただき、考えさせられたので返信させていただきました」などの声もあった。

■オンライン隆盛の中あえて「自家製ハガキ」を郵送した会社

2つ目は、サプリメントの製造・通信販売を行っている「株式会社ファインエイド」でのものだ。こちらは、オンラインでビジネスが完結する通販会社ではあるが、今回、長く利用いただいているお客さんに、あえてアナログな自家製ハガキを郵送した。

宛名面は、藤田屋酒店同様に、「新型コロナウイルスの影響で日々強まる自粛ムード」とコロナの話題から入り、「こんなときこそ楽しんでいただきたいと思い、昨年から薬剤師がたしなんでおります己書(おのれしょ)でカレンダーを作成してみました。(中略)ふとした瞬間にお地蔵様とともに“にこっ”としていただけると幸いです」とつづられたもの。裏面は、その己書によるほのぼのしたお地蔵さんの絵が描かれ、カレンダーにもなっているものだ。

提供=ファインエイド

これには、お客さんからの「お気遣いのハガキに感動!! 薬剤師さんからのカレンダー付ハガキ! お地蔵様の絵に癒やされました」という返信をはじめ、多くの方からの感謝の声があった。

同社ではこの期間、その他同様のさまざまなことを行った結果、5月、定期購入に切り替えるお客さんの数が過去最高となった。このような商品の通販では、定期購入客の割合を増やすことが重要だが、今回はそのための促進キャンペーンを行ったわけではない。それにもかかわらず、である。

■「利用客」でなく「顧客」にする活動が実を結んだ

なぜこのような“はからい”が人を動かすのか。それは、人がほかの人との“つながり”を求める生き物だからだ。

これらのお店・会社は、元々、顧客との“つながり”を強くし、関係性を深め、お客さんを単なる「利用客」でなく、「顧客」とするべく活動してきた。例えば、藤田屋酒店やファインエイドでは、普段からお客さんに“ニューズレター”と呼ばれるDMを送っている。それは、単に商品のセールスだけでなく、お客さんとの関係性を深める役割を果たしている。

おおさネイチャークラブでも、先の例にあるように、メルマガやブログ、フェイスブックなどでコミュニケーションを絶やさず行ってきた。また、そうしたコミュニケーション機会に関係性を深めるためには、商品の訴求やイベントの案内などビジネスに直結することだけでなく、彼らの日常の出来事など、人柄が感じられるものを発信することが重要だ。おおさネイチャークラブはそれも意識的に行ってきた。

こうしたこれまでの活動が実を結び、彼らの店・会社には単なる利用客ではなく、双方が“つながり”を感じている「顧客」がいる。それが今回の結果の基盤となっている。

■ビジネスにおける”つながり”は精神論ではない

そしてこの結果を生み出した決め手は、“メッセージ”だ。藤田屋酒店、おおさネイチャークラブ、ファインエイドが発信したメッセージに共通していることは、顧客らの不安感、気持ちが沈んでいる状況、その心情に寄り添うものであることだ。そこに「今、売ろう」という気持ちはなく、そのような言葉もない。しかしそういうメッセージが届いたとき、お客さんは「動いた」のである。

人は、他の人との“つながり”を求める生き物だ。今回、この事態の下、人はより強くそれを求め、大切さに気がついている。私は、ビジネスにおける“つながり”の重要性をもう30年近く説き、20年間科学的にも研究しているが、しばしば「精神論」と誤解され、実行する会社はいまだに少ない。しかしそれではいけない。これは、ビジネスが成り立つための重要なメカニズムに関わることだ。そしてこれからのウィズコロナ、アフターコロナの社会へ向け、強化すべきビジネス活動のひとつなのである。

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小阪 裕司(こさか・ゆうじ)
オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学)
山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から約1500社が参加。2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。著書は『価値創造の思考法』など計39冊。 公式サイト

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(オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学) 小阪 裕司)

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