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ウイルス、デモ、略奪の三重苦に襲われるニューヨークで今、起きていること

プレジデントオンライン / 2020年6月9日 11時15分

板で覆われたサックスフィフスアベニュー(筆者撮影)

経済活動の再開が目前だったニューヨークでも人種差別への抗議デモが活発に行われ、略奪行為による被害も深刻な状況だ。現地に暮らす小西一禎さんが、デモの参加者を取材、リポートする。

■板で覆われたショーウインドー

米中西部ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に首を膝で押さえつけられて死亡した事件を受け、人種差別への抗議デモが全米各地に拡大している。暴徒化した一部による略奪行為も広がり、とりわけ、経済再開を間近に控えたニューヨーク市は、有名デパートやシャネルが襲撃されるなど深刻な被害に見舞われた。新型コロナウイルスの震源地と化した後、市民の自粛努力で状況は好転していたが、思わぬ形でデモが活発化し、作り出された密集空間での感染再拡大を懸念する声が上がる。日本人にもなじみ深いマンハッタンの風景はがらりと変わり、日本人観光客が戻ってくる日は、また遠のいてしまったかもしれない。

五番街で板を取り付けている最中(写真=筆者撮影)
五番街で板を取り付けている最中(写真=筆者撮影)

有名ブランドのショップが立ち並ぶマンハッタン五番街で、高級ブランドを軒並みそろえ存在感を発揮している老舗高級デパート、サックス・フィフス・アベニュー。道行く人を楽しませるショーウインドーはすべて板で覆われ、昼間から屈強な警備員が十数人立ち並んでいた。警備担当者によれば、板で囲っていたのにもかかわらず襲撃された有名デパート・メーシーズを教訓としており、店内にも警備員を配置、昼夜を問わず万全の態勢で臨んでいるという。

■経済再開後もウインドーショッピングもままならない可能性

クリスマスシーズンには、道の反対側・ロックフェラーセンターの大型クリスマスツリーと合わせて、辺り一帯はきらびやかになり、世界中から集まる観光客を含めた多くの人で溢れ返るが、今年はどうなるのだろうか。同じ五番街では、ティファニーやカルティエ、ハリー・ウィンストンなどの高級店のほか、アップルストア、ユニクロまでもが板張りで覆われている。バリケードばかりで、ウインドーショッピングすらできない状況は、何とも残念な限りだ。

タイムズスクエアのディズニーストアも自衛策(筆者撮影)
タイムズスクエアのディズニーストアも自衛策(筆者撮影)

NY州が定めた経済再開のガイドラインに従い、NY市は8日から4段階に分けて、経済活動を再開した。持ち帰り以外の小売りは2番目の段階で、第1段階スタートから2週間前後経過がメドとされており、順調にいけば6月下旬か7月上旬ごろとみられる。ただ、NY市は1日に各地で略奪が起きたのを受け、夜間の外出を禁止した。禁止令は7日に解除されたが、店舗が再開されたとしても、略奪映像の記憶があまりにも生々しく、小売店は戦々恐々としており、通り一面に板が張られた状態が続く可能性がある。

■抗議集会はいたって平和的

サックスから南に3キロほど下ったところにある、市民憩いの公園のひとつ・ユニオンスクエア。例年6月は、性的マイノリティーの権利啓発に向け、多くの人が街を練り歩く「プライドマーチ」がすぐ近くで大々的に開催されることもあり、マイノリティーの人々や観客でにぎわう。しかし、大規模集会にあたるとして、昨年約15万人が行進したパレードは既に中止が決定。そして、今年の6月は例年と比べ、雰囲気が異なっている。

公園前の道路で5月末、暴徒化した数人がNY市警パトカーの上に乗り、飛び跳ねて破壊する映像や写真はSNSで拡散された。その後は、抗議デモの中心地として、フロイドさんを偲び、人種差別などを唱える人たちが連日集っている。

私が実際に見た4日夕方の抗議集会には、ざっと500人以上が参加。NY市警の警察官が数カ所に配置され、横一列で並びながら遠巻きに見守っていた。その周辺こそ緊張感には包まれていたが、集会自体は暴力のにおいは感じられず、極めて平和的に行われていた。

NY市警の警察官が遠目に取り囲む中、開催された抗議デモ(筆者撮影)
NY市警の警察官が遠目に取り囲む中、開催された抗議デモ(筆者撮影)
筆者撮影
プラカードを掲げ抗議する参加者たち。写真=筆者撮影
プラカードを掲げ抗議する参加者たち(筆者撮影)

参加者は、手製のプラカードに「BLACK LIVES MATTER(黒人の命も大切だ)」と人種差別の撤廃や、フロイドさんが事件時に声を上げていた「I can’t breathe(息ができない)」、さらには「Take your knee off his neck(彼の首から膝をどかせ)」と事件時の警察対応を非難する内容を書き込み、それぞれ抗議の姿勢を示していた。数人に話を聞いたが「俺たちは、暴徒とは違う」「静かに抗議するためだけに、ここに来た」などと努めて冷静に話していた。そして、黒人だけではなく、多種多様な人種が参加していたのが印象的だった。

■感染リスクは一時的に度外視

一方、参加者の大半はマスクを着用していたが、米国政府が推奨する、相手との距離「ソーシャル・ディスタンス」の6フィート(約1.8メートル)はまったく守られていなかった。ひしめき合うというほどではなかったが、マイクを持った人の周りを何重にも人が取り囲んでいた。「抗議のためのデモなのだから致し方ない」(参加者)といい、抗議するという連帯を表すには、感染リスクは一時的にも度外視しているとのこと。行進する形式のデモでも6フィートの距離感は保たれていないという。第2波を引き起こすのではないかと心配するのは筆者だけではないだろう。正直、心配だ。

デモ会場近くの「SOHO」と呼ばれるエリアでは、高級ブランド店も含め大規模な略奪が行われた。州外から大挙してやって来た人間が「大規模に煽(あお)った」(米メディア)との見方が支配的ではあるが、多くの人が「まさか、NYでこんなことが起きるなんて」と思ったはずだ。ウイルス、デモ、略奪と「三重苦」に襲われ、在宅勤務や自宅学習を続けてきた日々が水の泡に終わり、再び自粛生活を強いられることになってしまうのか。失業者が続出し、自粛生活のストレスがたまっていたところに、フロイドさんの悲しい事件という新たな変数が加わり、事態がこの先どう展開していくのか、うかがい知れない。

■日本人も人種差別と無縁ではいられない

米国でのウイルス禍以来、アジア系住民が罵倒されたり、殴打されたりするケースが相次いだ。そして今度は、建国以来抱えていた奴隷制度に端を発する黒人差別が再び影を落としている。米国社会に深く根を下ろしたまま、幾度となく繰り返されてきた人種差別の歴史。そのひとつに、第2次世界大戦時、ともに敵国だったドイツ・イタリア系米国人と異なり、日系米国人だけが西海岸に集団で強制収容された過去がある。

日本国内で、ヘイトスピーチという言葉が使われるようになって久しい。コロナウイルスの感染者と家族、医療従事者らへの差別もあると聞く。片や、国外に踏み出せば、日本人も差別と無縁ではいられない現実が今もあることは、あらためて肝に銘じておきたい。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
米国在住・駐夫 元コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員 共同通信社政治部記者
1972年生まれ。7歳の長女、5歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月、妻の転勤に伴い、家族全員で米国・ニュージャージー州に転居。96年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。3カ所の地方勤務を経て、05年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。15年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。2019年1月~9月、米・コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員。研究テーマは「米国におけるキャリア形成の多様性」。ブログでは、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。世界中の日本人駐夫約60人でつくるフェイスブックグループを主宰。

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(米国在住・駐夫 元コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員 共同通信社政治部記者 小西 一禎)

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