デジタル時代こそ、強力なコミュニケーションの武器になる「一筆箋」使い方のコツ
プレジデントオンライン / 2020年6月14日 11時15分
※本稿は臼井由妃『心が通じるひと言添える作法』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■デジタル化が進む現代で、あえての一筆箋
メールやSNS、DM、ご案内状の類など、毎日たくさん届く情報をチェックし、対応するのはなかなか骨が折れますよね。
私のところにも、日々、たくさんの郵送物が届きます。大切なものを見落としてはいけないので、とりあえずは全部目を通すのですが、相当なストレスです。
そんななか、私のことを思いやるひと言や温かな言葉が綴られた一筆箋が添えられていると、とても心穏やかになり、相手の想いに応えたいと、その郵便物は自然と大事に拝見します。心に響いた一筆箋は、大事にとっているほどです。
そして、そんな気遣いができる人なら信頼できるし、一緒に仕事をしたい、お付き合いしたいなと、思います。
言い換えれば、一筆箋を使いこなすことで、相手にとって信頼にあたる存在になれるかもしれない、ということです。
■苦手な人の印象を変えた一筆箋
実際、一筆箋がきっかけでご縁ができたり、人間関係が深まった経験は少なくありません。
ビジネスパーソンとして実績があり、そのうえ美人。あまりにもパーフェクトなので、近寄りがたく、遠巻きに見ていた女性と仕事をすることになりました。
やりとりが始まり一週間くらいした頃、彼女から書類が届きました。開けてみると、クマさんが描かれた一筆箋が添えられています。
この度はご縁をいただいて、ありがとうございます。
一緒につくり上げていく姿を想像してウキウキしております。
引き続きよろしくお願いいたします。
P.S.目の下にクマをつくらないように体力温存でがんばりましょう。
「ウキウキ」だなんて彼女も言うんだ。目の下にクマをつくらないように……。だから「クマさんの絵柄」の一筆箋を選んだのか(笑)。
この一筆箋で、彼女のイメージは大きく変わりました。私が「近寄りがたい」と思い込んでいた彼女は、実は、思いやりにあふれ、ユーモアのセンスもある、かわいらしい女性だったのです。
親しみや信頼が増し、これから始まるお付き合いに胸が躍り、何かあれば力になろう、彼女とは末永く付き合いたいと強く感じたのでした。
■1枚の一筆箋から縁が深まる
自分のために手間を惜しまず一筆箋をしたためてくれた、その姿勢は、どんな人であってもうれしく感じますし、心が動きます。さらに、何度も読み直すことができるので、その都度、書いてくださった方の存在が大きくなっていきます。
一筆箋は、絶対に添えなければいけないものではありません。ですが、添えることで、生まれることはたくさんあります。いまや、口ベタな私にとって、一筆箋は人間関係をつくる強力なツールです。
素敵なご縁をみなさんも紡いでください。
■伝えたいことを一つに絞ることがコツ
文章の量が少なくても形になり、短い文章だからこそ伝えたいことが際立つ。
これが一筆箋の特徴であり、魅力です。この性質を最大限に活用するには、伝えたいことを一つに絞るといいでしょう。
一筆箋を使うときはできる限り1枚にまとめるのが理想です。3~5行しかないため、書くことができる文字数は必然的に限られますから、思い切りが大切です。
たとえば、知人の息子さんに就職祝いの品を贈るにあたって、言葉を添えるとしましょう。かしこまって書くと、次のように文字数が増えてしまいます。
春光麗らかな季節を迎え、○○様におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
おかげさまで私ども一同、何事もなく暮らしております。
さて、この度はご子息△△様のご就職、誠におめでとうございます。
△△様のお喜びもさることながら、○○様もさぞかしご安堵のことでしょう。
☆☆会社にご就職できましたのは、ご本人様のご努力の賜物であると感服しております。(以下略)
就職祝いの手紙だとはわかりますが、読み進めないと全貌(書き手の想い)が見えません。これでは読むほうも疲れてしまいます。
相手を思い、手間や時間、神経を使って一生懸命に書いたのに伝わらないとしたら、悲しいですよね。
では、次はいかがでしょうか。
訂正例1 知人へねぎらいの言葉を伝える
△△さん(様)の就職にあたり心からのお祝いを贈ります。
これでひと安心ですね。
訂正例2 息子さんご本人へお祝いを伝える
社会人としてのスタートのお祝いに、心ばかりのお祝いを贈ります。
身体に気をつけて、がんばってくださいね。
■相手に伝わることが大事
一つめは、知人へのねぎらいの言葉を伝えること、二つめは就職が決まった息子さんご本人へお祝いを伝えることに絞って書いています。
シンプルで読みやすいうえに、贈り主のお祝いの気持ちが伝わってきませんか。不快な気持ちになった方はいないでしょう。
また、書くほうとしても文章の流れや表現方法に気を使うこともないですから、難しくないですよね。
伝えたいことは一つに絞る。
そのほうが、インパクトが強くなり、相手の心にしっかりと届くのです。
■かっこつけずに、素直に書こう
一筆箋を書くのに、ノウハウは必要ありません。まず、相手の顔を思い浮かべます。
そして、頭の中に浮かんだ言葉を、そのまますなおに書く。それで十分です。
たとえば、親しい方に日ごろ抱いている「感謝の気持ち」を伝えたいと思ったならば、相手の顔を思い浮かべ、頭の中に浮かんできた感謝の言葉を思いつくまま一筆箋に書いてしまうのです。
「せっかく書くのだから、いいフレーズを」と考え、かっこつけた言い回しを使いたくなってしまうかもしれません。でもここは、すなおに、言葉遣いの良し悪しなどはいっさい考えず、ただそのまま書いてみましょう。
大事なのは、相手に伝わること。かっこいい言葉はいらないのです。
書き終えたら、一度、声に出して読みあげてください。ひと息で読むのがつらい、「ちょっと長いな」と思うところは、何カ所かに分けるか、削ります。
■シンプルでコンパクトにまとめよう
読みづらいですよね。
何が言いたいのか、だんだんわからなくなってしまいます。「~くて」「~って」「~のに」「~けれど」と、接続語を多用しているのが原因です。
これを、二つに分割してみましょう。
訂正例1
本当は感謝しているのにこれまで何も言えなかったけれど、「ありがとう」
だいぶ読みやすくなりましたが、まだ、息苦しい感じが残りますね。それぞれの文から、もっとも伝えたいことだけを絞り込みましょう。
訂正例2
感謝しています。「ありがとう」
訂正例3
「ありがとう」。
心から感謝しています。
どうでしょうか。
送り手の感謝の気持ちが真摯に伝わってくる、スッキリした文章になりましたよね。
文章はひと息で読める程度に短くすることで、わかりやすくなります。シンプルでコンパクトな文章であればあるほど、相手の心にストレートに届きます。
一筆箋にはあなたが伝えたいことを書いてください。
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エッセイスト、ビジネス作家、経営者、講演家
33歳で結婚後、病身の夫の後を継ぎ専業主婦から社長に転身。独自のビジネス手法で成功を収め、多額の負債を抱えていた会社を優良企業へと育てる。その手腕がさまざまなメディアで紹介され、日本テレビ系で放送された人気番組「マネーの虎」に出演するなど、好評を博す。著書も多く、『仕事・人生・人間関係がうまくいく「すなお」の法則』『デキる女は仕上げがうまい』(ともにあさ出版)『やりたいことを全部やる! 時間術』(日経ビジネス人文庫)等。
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(エッセイスト、ビジネス作家、経営者、講演家 臼井 由妃 写真=iStock.com)
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