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三浦瑠麗『タッチ・ミー・ノット』不思議な癒やしの力を持つ映画

プレジデントオンライン / 2020年6月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PORNCHAI SODA

■ベルリン国際映画祭で最高賞を受けた話題作

先日ようやく、映画『タッチ・ミー・ノット~ローラと秘密のカウンセリング』を観た。2018年の第68回ベルリン国際映画祭で金熊賞(最高賞)を受賞した話題作。アディナ・ピンティリエ監督はルーマニア出身で、本作品は彼女の長編作品デビュー作である。数々の有名監督の話題作をおさえてほぼ無名の監督が金熊賞を取ったことは、賛否両論を巻き起こしたという。作品は当初、この20年6月6日に公開される予定だった。しかし、新型コロナウイルスの影響で通常通りの公開が難しくなり、オンライン上の「仮設の映画館」での先行公開とミニシアター公開を両立させるとしてクラウドファンディングを行っている。

不思議な癒やしの力を持つ映画だ。監督と俳優、作品と観客のあいだに双方向の対等な働きかけが生まれる。主人公はローラ。入院している高齢の父親を抱えている。監督は、女優ローラ・ベンソンに、この実験的映画に参加するように依頼。俳優と役柄の名前が一緒であるがゆえに生じる混乱と、そして俳優たち自身がカウンセリングを受けるようにして解放されていく過程とが、現実と創作の境界線を壊していく。

■「解放されたい」という欲望に触れつづける

ローラ・ベンソンが演じる「ローラ」は、強迫性障害を持ち人から自然に触れられることができない。男娼を買いながら彼に触れることもできず、ただ見ている。父親の入院する病院に通うが、通りがかりに障がい者をはじめさまざまな人が集うカウンセリングの光景を目にし、思わず立ち止まる。

脊髄性筋萎縮症(SMA)を持つクリスチャンの顔に触れることに嫌悪感を抱いた無毛症のトーマスは、自分の感想を正直に述べることで、次第に内にある感情を解放していく。ローラはトーマスから目を離せなくなり、たびたびあとをつけてしまう。トーマスはガールフレンドに連絡を絶たれ、彼女を探しに倒錯した性のナイトクラブを訪れる。クリスチャンと妻はそこの常連だった……。

ローラは、セラピーで男性の欲望に反発し反抗する自分と、それを求めている自分の両面性に気がつく。自らの勁(つよ)さを発見して、そのうえで欲望を解放すべくたどるプロセスは、本作品を観る女性にとってもヒーリングセラピーのようだ。ローラの部屋に入り込んで容赦なく私的な行為を観察するカメラと監督は、俳優の演技にも、ストーリー展開にも、安易なオルガスムのような盛り上がりの機会を与えない。だからこそ、観客も手探りでローラと自分を見つめることができるのかもしれない。

「解放されたい」という欲望は、深く人びとの裡に眠っていて、ちょっとやそっとでは揺り動かされず、びくともしないだろうけれども、映画はやさしくその深奥に触れつづける。タッチ・ミー、タッチ・ミー・ノット。解放されたローラの姿を見るとき、観客は心の底から癒やされるだろう。

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三浦 瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者
1980年、神奈川県生まれ。神奈川県立湘南高校、東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)、『日本の分断』(文春新書)など。

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(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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