学歴詐称疑惑…なぜ、東京都民は2度も「女帝・小池百合子」に踊らされたのか
プレジデントオンライン / 2020年6月12日 11時15分
■小池百合子「私はAI」の謎発言
小池百合子・東京都知事の「私はAI」発言を覚えておられるだろうか。2017年8月の定例記者会見で豊洲移転問題の最終判断について「検討経緯の記録もなく、知事と顧問団の密室で下されたものではないか」と指摘された小池知事が、「文書が不存在なのは、AIだからです」「(各種の案の中からの)最後の決めは、人工知能」「人工知能とは、つまり最終決定者である私」と述べた一連のくだりである。
要するに決定経緯の記録が残っていないこと、明確な理由なく複数の案から一つを選んだことをはぐらかす発言だったのだが、「AIが人間を超える日が来る」と信じるシンギュラリティ論者でなくとも、この発言には呆れたはずだ。
AIはデータ学習を重ねることによって最適解を導き出していく。だが小池百合子という政治家のこれまでの手法を考えると、AIというよりもむしろ、良くも悪くも「政界ハッキング」「政界ハッカー」というべき手法が目立つ。
■なぜメディアは小池百合子に群がるのか
ハッカーとは、既存のOSやシステムのバグや脆弱(ぜいじゃく)性を突いていたずらを仕掛けたり、情報の奪取やシステムの破壊を行ったりする人を指す。ハッカーは「システムのどこを攻めれば自分の目的が達成できるか」という脆弱性を見つけることに長けているわけだが、機を見るに敏と言われる小池氏も社会や政治、さらには世間や民心のどこに弱点があり、どう突けば自分にとって有利な状況を作り出せるかを見極めることに長けているのだ。
小池氏が政界に登場した当時、女性議員は少なく、その「希少性」は今の比では無かった。小池氏はミニスカートに今でこそ忌避されるハイヒールを履いて、政界に新風を巻き起こした。小池氏が「政界におじさん的な男性(と硬派な少数の女性)しかいない」という政界の脆弱性を突いたのだ。小池氏の学歴詐称疑惑などを再熱させた話題の書『女帝 小池百合子』に詳しいが、画面映えやメディアへの話題提供を第一に考えた小池氏の手法は大成功し、メディアはこぞって小池氏に群がることになり、新党ブームを後押しした。
■民主主義の脆弱性を利用した「小池劇場」
かつて小沢一郎をして「ゲッペルスになれる」と言わしめた小池氏である。メディアハックはお手の物だった。聞こえのいい言葉に飛びつき報道する、派手な立ち回りをカメラが追いかける、というテレビ、新聞を含むメディア業界、ひいては民主主義の脆弱性を利用したのだ。これは「小池劇場」とも呼ばれた豊洲移転問題でも再演されることとなったが、その内幕は澤章『築地と豊洲』で細かに語られている。
さらに小池氏は「おじさん」たちの「若い女性だから育ててやろう」「女性だから裏切らない」「女性だから、まさか自分を取って食うことはないだろう」という思い込み(認識のバグ)をも利用した。
もちろんメディアの問題も「おじさん」たちの問題も、その脆弱性にパッチ(問題を修正するプログラム)を当てることができなかった日本社会そのもの、そして小池氏に何度でもハッキングを許す日本の有権者に第一の責任はある。
■元側近を口封じのために都関連会社の社長に天下り
しかし、都知事という職はハッカー的な発想では務まらない。一議員であれば脆弱性を指摘することで既得権や体制と戦う姿勢を見せ、政治生命を永らえることもあるかもしれないが、都知事は都政という既存のシステムを守る側。行政とは、ひたすら保守・点検業務の繰り返しだ。一部システムを刷新、新設することはあり得るし、今回の新型コロナのような突発的事態への対応も求められるが、その際も動き続けている既存のシステムとの整合性・互換性が重要視される。
まったく新しい政治を、というのであればOSそのものから開発する必要がある。新しい概念に基づく都知事自身のビジョンやプリンシプルなくして、正常に機能するOSを新規に構築することは難しい。
だが、そもそも小池氏が「新しい政治」を志向していたのかさえ疑わしい。市場問題をめぐって古い都政を「頭の黒いネズミ」などと揶揄(やゆ)したにもかかわらず、自身は元側近を口封じのために都関連会社の社長に天下りさせるという、当のネズミもびっくりのことを平気でやってのけるなど、小池氏の手法は露骨に「古い政治」を体現している。
■防衛行政「ちんぷんかんぷん」の防衛相
過去に小池氏は防衛大臣という組織のトップの座に就いたことがあるが、「前大臣が責任を取らなかったイージス艦問題の責任を取る」と宣言して、就任後わずか55日で辞任に至った。防衛関係者OBは「女性初、という冠が欲しかっただけで、実際にその座についてみたら防衛行政はちんぷんかんぷん。国防の何たるかもわからなかったのだろう。外遊で派手に立ちまわって、その後はすぐに乗り捨てた。『アイシャルリターン』と言い残した去り際の演出はいかにも小池らしいが」と辛辣(しんらつ)だった。
もちろん、小池氏がそのハッカー的素質を保守・点検業務に生かす道もあっただろう。行政というシステムを脅かす脆弱性をコツコツと、多くの場合はボトムアップ型で、しかし敵よりも早く見つけ、どうパッチを当て、システムのよりよい運営につなげるかを考え実行する。
ハッカーもその能力を善意で使えばホワイトハッカーになる。選挙や権力闘争で相手の脆弱性を突く、あるいはそこを見抜いてのメディア戦略の上手さは、小池氏の突出した能力のたまものだ。だが息長く地道に運営されるべき行政とは相性が悪い。そして何より、メディアも有権者も興味を持たない。そうしたことに小池氏も興味がない――となれば、都政でめぼしい実績が上がらない状況は、小池氏と都民とメディアの合作である、ともいえる。
■ゼロコロナの台湾、ウィズコロナの東京
小池氏を、いわゆる「利権や既得権益まみれ、世襲政治家やおじさんによる古い政治」と比べているうちは、彼女の手のひらの上で踊らされることになる。そうした舞台設定を用意される限り、女性である彼女は常に脆弱性を突くハッカー的な立場を取り続けることができるからだ。
小池氏を誰かとの比較で評定するのであれば、世襲でもなく、男でもない政界のリーダー、例えば台湾の蔡英文総統と比べるべきだろう。
東京の約2倍の人口規模である台湾の、蔡英文総統の新型コロナ対応は世界のお手本となるべき手際の良さだった。初期の段階からヒト・ヒト感染の可能性を除外せず、感染症が蔓延する前に封じ込め、現在は50日以上連続の「感染者ゼロ」を実現している。東京五輪を意識しすぎて対策で出遅れた小池氏は「ウィズコロナ」を掲げるが、台湾は「ゼロコロナ」を達成しつつある。
■小池百合子は早々にマスクと防護服数十万枚を中国へ贈った
対照的なのはマスクの扱いだ。こちらも蔡英文総統は早くも1月下旬の時点でマスクの輸出を制限したうえ、増産を急いで国民に十分いきわたる量のマスクを確保した。収束を迎えて初めて、諸外国へのマスク貢献を行っている。
一方、小池氏は早々にマスクと防護服数十万枚を中国へ贈った。これによって都民の生命健康安全を売り渡したが、動機と言えば人道支援に名を借りた、単なる「都知事選に向けた自民党・二階幹事長との連携強調」だっただけのことというほかない。
1兆円を投じたという小池氏のコロナ対策は都民から支持を得ているようだが、自身が出演した啓発CMの総費用は8億円とも9億円とも言われる。当初小池氏が連呼していたワイズ・スペンディング(賢い支出)だったのか疑問だ。これ自体が「政治の不作為によって事態が悪化したにもかかわらず、そこから少しでもリカバリーできれば『よくやった』と思ってしまう」人間心理の脆弱性を突いた小池流ハッキング術の完成形ではないかとすら思えてくる。
■「女性初の総理」の座はあきらめていない
小池氏が都知事になったのは東京五輪という晴れ舞台をわがものとすること、そしてあわよくば国政に再度返り咲くこと。まだ「女性初の総理」の座に就くこともあきらめてはいないだろう。東京都は踏み台にすぎないことを、都民は2016年に知ったはずだ。
まもなく小池氏は7月5日投開票の都知事選への出馬を表明するだろう。小池氏が再選された暁には、「一度は延期となった東京五輪を、コロナを抑え込み、時には国と衝突しながら自らの手腕で見事にやり遂げた」という演出のために、この先の一年を費やすことは目に見えている。
小池氏に突かれないよう、今度こそ都民は自らの脆弱性を知ってパッチを当てる必要がある。要するに都政を監視する目を持ち続けるほかないのだ。
(長篠 つかさ)
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