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「亡くなったのはかわいそうだけど」"有名税"を肯定する大学生の言い分

プレジデントオンライン / 2020年6月11日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

SNS上での誹謗中傷が社会問題になっている。ITジャーナリストの高橋暁子氏は「匿名性が人の攻撃性を高めるだけでなく、有名人だから誹謗中傷も許されるという誤った認識が問題の背景にある」という——。

■後を絶たないSNS上の誹謗中傷

恋愛リアリティー番組「テラスハウス2019-2020」(Netflixおよびフジテレビ系)に出演中だったプロレスラーの木村花さん(22)が亡くなった。木村さんは番組出演を契機にしたSNS上の中傷に悩んでいたと指摘されていた。報道によれば、多い日で一日100件もの誹謗(ひぼう)中傷があったという。

フジテレビは5月27日、番組の打ち切りを発表した。しかし、SNSでの誹謗中傷という問題は残されたままだ。木村さんに限らず、SNSでは個人を標的とした誹謗中傷が後を絶たない。残念ながら、とりわけ著名人が誹謗中傷のターゲットとされることは多い。

この事件で著名人たちも声を上げた。例えば、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんは「誹謗中傷を気にするななんて難しいよ。芸能人だって1人の人間だよ忘れないで」とツイッターに投稿。同じく誹謗中傷を受けたことがある多くの著名人が反応した。

SNSに日常的に触れている若者世代は、この事件についてどのように感じているのか。ひとごとではない誹謗中傷の実態とリスクについて解説したい。

■「アンチがいるのは注目の証し」「気にしなければよかったのに」

歌手やタレントといった著名人への誹謗中傷は「有名税だから仕方ない」という人がいる。注目されるほど仕事にいい影響があるのだから、ファンや芸能記者に追いかけまわされたり、恋愛や不祥事が報じられてプライバシーが制約されたりしても、それは税金と同じで納める義務があるということらしい。

こうした「有名税」という考え方は大きな間違いだ。SNS上であっても相手の尊厳を傷つけていいはずがない。

この事件について、若者世代はどのように感じているのか。今回の事件について取材をしていたところ、驚くような言葉を聞いた。「ほとんどのシリーズを見ていて同番組のファン」という大学生の話だ。

「亡くなったのはかわいそうだけど、アンチがいるのは注目されている証しと考えてほしかった。ネットの言葉なんて無視すべきだと思う」

彼の認識では、テレビに出る仕事をしていたら、ネットでたたかれるのは有名税の一部だから仕方ない、というわけだ。

「正直、なぜ番組が責められて中止になるのかわからない。続きが気になってるのに見られないなんて残念すぎる。地上波は無理でも、ネトフリ(Netflix)で配信できないんですかね」

別の女子大生にも話を聞いた。

「知らない人にきついこと書くのはよくあることですよね。ネットの書き込みは気にしすぎるとキリがないと思う。若いし、かわいそうだったけど、気にしなかったらよかったのにとは思いました」

彼女自身も、中学生の頃に悪口をTwitterに書き込まれたことはあるそうだ。見つけたときは落ち込んだけど、気にしないふりして無視していたら、ターゲットが変わり、それ以上書き込まれなかった。

「みんな一度くらい書かれたことあると思う。きついけど、気にしないことで乗り切れる」

■匿名で牙を向ける若者たちの存在

匿名では、攻撃性が高くなることが知られている。鬱憤(うっぷん)を晴らすために代替行為として他人の誹謗中傷を繰り返すことも多く、正義感で少しでも悪いところがある相手を容赦なく攻撃することもある。他の人が書き込んでいれば、さらにその傾向は強くなり、行動に拍車がかかってしまう。

SNS上での誹謗中傷は、若者、特に未成年が投稿している例も少なくない。俳優・演出家の土屋シオンさんが今年に入ってから誹謗中傷がひどかった数人を特定したところ、ほとんどが未成年だったという。

土屋さんは、彼らの今後の人生も考えて、訴えるのではなく電話で保護者も交えて話をした。ところが、そのうち数名には「芸能人は皆(誹謗中傷されても)我慢している。無視をしてくれ。イメージが悪くなりますよ」などと言われてしまったそうだ。

未成年の誹謗中傷による事件は、過去にも何度も起きている。2017年には、滋賀県内の高校3年男子生徒(18)をSNS内で誹謗中傷したとして、東京都内の無職少年(19)が名誉毀損(きそん)で逮捕されている。「さまざまな女ユーザーに迷惑行為を行い、最終的にはそんなことをやっていないと逃げ惑っている」などと書き込まれ、警察署に相談した後、男子生徒は自殺していた。

未成年による匿名での荒らし行為もある。ある中学3年は、ニコニコ生放送で荒らしコメントを100以上書き込んだ。その一週間後くらいに、プロバイダから通知が来たそうだ。そこには、覚えがあるコメントと書き込んだ日時、運営会社から訴えがあった旨、明記されていた。

「連絡が来たときには慌てた。親バレして切れられたし、さすがにまずいと思って会社(運営会社のドワンゴ)に謝った」。その配信に荒らしコメントをした理由は、「配信者の困っているリアクションが面白かったから」という。それくらいの理由で簡単に誹謗中傷したり、荒らし行為をする若者もいるのだ。

■匿名であっても個人は特定され得る

匿名であってもネット上で誹謗中傷や悪ふざけをした人は、条件を満たせば特定されうる。ネット上の書き込みや投稿は「IPアドレス」が残るため、被害者が発信者情報開示請求をすれば携帯電話会社やプロバイダを通して、発信者を特定できる仕組みだ。

木村さんの死によって、中傷の投稿やアカウントを削除する動きがある。しかし削除しても、アクセスログが残っていれば同様の理由で発信者を特定できるため、責任の追及は免れない。

このまま逃げられると思ったら大きな間違いだ。匿名なら何を言っても構わない、そんな考えを持っているなら今すぐ捨て去るべきだろう。

■後を絶たない誹謗中傷、法的措置には高いハードルも

法務省の「平成30年における『人権侵犯事件』の状況において」によると、インターネット上の人権侵犯情報に関する事件数は1910件で、前年に次いで過去2番目に多い件数を記録している。インターネット上の人権侵犯事件の内訳を見ると、「プライバシー侵害」と「名誉毀損」、つまり誹謗中傷が多くなっており、両事案が全体の79.4%を占めている。

誹謗中傷が木村花さんの死を招いた可能性が指摘された頃から、弁護士のもとにくる相談内容にある変化があったという。「このような書き込みは誹謗中傷として訴えられる可能性があるか」「書き込みからかなり時間がたったが、特定されるか」など、誹謗中傷加害者からの相談が増えたという。

インターネット上での誹謗中傷事例は非常に多い。筆者も「Twitterに悪口を書かれた。明らかに私のこととわかるように悪口を言っている」「匿名掲示板に根拠のない嘘を書き込まれた。なんとか削除したい」などと相談されたことがある。

一方で、意外にも、実際に訴えられた事例はそれほど聞かない。その原因は「お金」と「時間」という、被害者には酷なほど高いハードルがあるからだ。

■高額な費用と長期にわたる訴訟

理由の一つは、訴えるためにかかるお金が高額だからだ。訴えるためには、弁護士に依頼して「発信者情報開示請求」という手続きを取る。そこから損害賠償請求訴訟をするまでには、100万~150万円が必要となる。

裁判で加害者の罪が認められて慰謝料が支払われても、賠償額の相場は100万円程度。もちろん、罪が認められない場合はすべて自腹となる。つまり、せっかく訴えても赤字になるリスクが高いのだ。

もう一つは、時間がかかりすぎるためだ。投稿者の身元の特定にはおよそ半年から1年もかかる。それから損害賠償訴訟となるため、かかる期間はさらに長くなってしまう。そこで、訴訟となる前に誓約書を書かせた上で示談金を受け取り、和解となることも多いそうだ。

ただし、これに関しては総務省が手続きの簡略化や開示情報の拡充などを検討しており、早期に改善される見込みとなっている。つまり、今のように被害者は泣き寝入りしなくてもよくなり、加害者は特定される可能性が高くなる。

■「他人を傷つけず、SNSを活用してほしい」

誹謗中傷行為は罪に問われる。具体的には、名誉毀損罪や侮辱罪、信用毀損罪などだ。名誉毀損罪が認められるためには、不特定多数が見る場で具体的な事実を挙げ、社会的評価を下げる内容を投稿している場合だ。事実ではない場合は侮辱罪にも当たる可能性がある。

「A店の牛丼はまずい」ならただの感想だが、「A店の牛丼には虫が入っている」は事実をあげて社会的評価を下げているので、名誉毀損罪に当たる可能性があるというわけだ。「A店の店主の嫁はブサイク」などは主観に基づくものなので、侮辱罪に当たる可能性があるかもしれない。

6月8日、ジャーナリストの伊藤詩織さんは記者会見を開き、SNS上で事実に基づかない誹謗中傷の投稿により精神的苦痛を受けたとして、女性漫画家ら3人に対し、損害賠償などを求める民事訴訟を起こしたことを明らかにした。

うち2人は、投稿を「リツイート」したとして、今回の訴訟の被告人になっている。過去の裁判例でも「リツイート」でも名誉棄損による損害賠償を認める判決が下されている。この点はしっかり認識しておくべきだろう。

批判や意見、感想と、誹謗中傷は異なる。誹謗中傷は相手への尊厳に欠けるものがほとんどだ。誹謗中傷は言葉の暴力となり相手を深く傷つけるので、絶対に書き込まないことだ。既に述べてきたとおり、内容によっては罪に問われたり、損害賠償を請求されたりすることもある。SNSコミュニケーションを楽しむ際には、他人を傷つけることがないようにしてほしい。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
ITジャーナリスト
情報リテラシーアドバイザー、元小学校教員。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、コンサルタント、講演などを手がける。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。

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(ITジャーナリスト 高橋 暁子)

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