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コロナ不況のはずが、株価だけ急速に回復し続ける本当の理由

プレジデントオンライン / 2020年6月12日 11時15分

約3カ月半ぶりに終値で2万3000円台を回復した日経平均株価=2020年6月8日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

コロナ禍で多くの企業が大ダメージを受けた。しかし、株価は早くもコロナ前の水準を回復しつつある。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史氏は「各国の中央銀行が国債を引き受け、紙幣を刷りはじめ現金を市場に供給し始めた。まさに財政ファイナンス相場だ」という――。

■コロナ収束を待たず急浮上するマーケットと顕在化する危機

世界中のマーケットで、株価が上昇し、長期金利が底を打ってじわじわと上りはじめ、デジタルゴールドとも称されるビットコインの価格も上昇している。

そして、他国ぶっちぎりの財政ファイナンス(国の借金を中央銀行が紙幣を印刷して賄うこと)を行ってきた日本の通貨・円が弱含みはじめた。マーケットの動きを見ていると、いよいよ世界的な「財政ファイナンス相場」が始まったのではないか? と思ってしまう。

各国がコロナ禍対策の大型財政政策を打ち、その財源調達のために発行された国債を中央銀行が大量に買い取り始めた。これは平時から日本が激しく行ってきた財政ファイナンスそのものだ。財政ファイナンスは、今までは日本だけが過激に行っただけなので、その影響をマーケットは真剣に考えてこなかった。

しかし、世界中の国々がこうした政策を始めたがゆえに、世界中が「財政ファイナンス」を真剣に考え始め、その考察に基づいて投資活動を開始したのだと思っている。

「財政ファイナンス」が世界の市場のメイントピックになり、今後の市場動向を決めるキーワードとなるのなら、日本にとっては危機を迎える。日銀の債務超過による円の暴落、円の紙くず化のリスクが顕在化してくるからだ。

■「国民一人当たり10万円給付」の予算は12.8兆円

先日、私の中学時代のクラスメートで理系の大学教授をしている友人から久しぶりに「なあフジマキ、こんなに借金を重ねてこの国は大丈夫か? ハイパーインフレにならないのかね?」との電話があった。

専門が全く違うせいか、私が「ハイパーフジマキ」と揶揄されていることなど知らないうえでの質問だった。普段全く経済に興味のない人さえ、コロナ禍に対する政府の大型補正による借金増で、財政が心配になり始めたらしい。

第1次補正予算で「国民一人当たり10万円給付」が決まったときには、ただ喜んでいるだけの人が、私の周りにも多かった。しかし第2次補正の話が出て、1次補正予算と合わせて60.7兆円もの国債追加発行となると、さすがに能天気に喜んでいるわけにはいかなくなってきたようだ。

そもそも「国民一人当たり10万円配布」だけでも、そのコストは12.8兆円と巨額だ。今年度の法人税分予想額は12.0兆円だから、この配布だけで今年度法人税収分を全部使い切ってしまうことになる。

さらにいえば、東日本大震災の際の復興特別税11.6兆円ともほぼ同額なのだ。この特別復興税11.6兆円は25年間、個人所得税を2.1%増額することによって賄う。「国民一人10万円給付」に必要な12.8兆円にほぼ匹敵するのだから「国民一人10万円給付」には、今後、復興特別税並みの増税が待っているということだ。

麻生太郎財務相は5月29日の閣議後記者会見で「増税に頼るのではなく、景気回復によって税収が伸びることを目指す」と発言し、増税に否定的な考えを示した。しかし世の中、フリーランチなど存在しないはず。この一人10万円は政府からの恵み金ではない。将来の増税によって賄われることを覚悟する必要がある。

■第1次・第2次補正予算の国債追加発行合計は60.7兆円

「国民一人10万円配布」予算の12.8兆円だけでも巨額なのに、第1次・第2次の補正を合計すると、その規模は60.7兆円にもなる。これこそとんでもない額だ。今年度税収予想の63.5兆円とほぼ同額なのだ。すなわち、今年度は税収分のおおかたを補正予算に使ってしまうということ。

こうなると本来の、社会福祉、防衛、公共事業、文教などの費用は国債の発行(借金)で賄われるわけで、その結果、今年度の新規国債発行額は90.1兆円(他に財投債2.1兆円)にも膨れ上がる。だからこそ私の友人ように、財政を心配する人も出始めたのだ。

ちなみにこの90.1兆円とは新規の国債発行額で、このほかに国は今年度、借換債108兆円等を合わせて253兆円も国債が発行されることになる。今年度満期が来る国債は償還しなければならないが、赤字だから返済原資はない。だからその分も国債(借換債)を発行して調達せねばならない。そんな巨額な国債を買う余力は民間にはないから、日銀が紙幣を刷って大部分を買い取ることになる。

この出費や紙幣増刷もコロナ禍のような非常事態だからやむを得ないかとも思う。

ただ非常に大きな問題はこの借金をする前に、国はすでに1114兆5400億円もの借金をしていた点だ。今年の税収+税外収入は70兆円、歳出は160兆円、借金が90兆円だけなら今後どうにでもなっただろう。しかし、すでに巨額な借金があることが痛手なのだ。

■「今年はいつもの3年分の借金を積み増しただけ」

前述した私の友人の大学教授は、今年の借金の巨額さに驚き、心配になったわけだったが、実はこの90.1兆円の今年の赤字(借金)は例年の赤字のたった3年分弱にしかすぎない。日本はバブル崩壊以降、30年にわたって毎年30数兆円もの巨大赤字を垂れ流してきた。今年は例年と違い、いつもの3年分の借金を積み増しただけ、なのだ。

日本の通貨とストップウォッチ
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

大学教授が心配するようにコロナ禍対策の支出で日本の財政がおかしくなるのではない。この30年間の赤字垂れ流しの結果で日本は危機に直面するのだ。今後起こりうる悲劇は、長年「財政再建を怠ってきた」ツケ、人災なのだ。コロナ禍は、その悲劇の「引き金」にすぎない。

コロナ対策で新規国債発行額が例年の3倍になるだけなら、「Xデーの引き金を引く」などと心配する必要もなかったかもしれない。本稿の最初に書いたように、コロナ禍より前から大掛かりに財政ファイナンスをしていたのは日本だけであり、財政ファイナンスは世界の市場の主要トピックではなかったからだ。

しかも1970年代から80年代のように日本経済が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ、世界中の投資家の目が日本に向けられていた時代と今は違う。

日本経済が40年間断トツのビリ成長だったせいで、日本市場は世界の投資家の興味の対象から外されている。しかし、世界中が財政ファイナンスを始めたことで、日本が再度注目されてきたと思う。

■「財政ファイナンス」の先頭を走る日本に世界が注目している

前々回書いたが、日銀は世界の市場や中央銀行にとって、炭鉱のカナリアだ。日銀の対バランスシート規模対GDP比は、ほぼ110%に達しているのに対し、FRB(米連邦準備制度)は約20%、ECB(欧州中央銀行)は約40%にすぎない。このメタボ体質からも明らかだが、日銀は財政ファイナンスの最先端を走っている。

世界の中央銀行は、財政ファイナンスで断トツを走る日本がハイパーインフレになったら「すぐ方向転換をしよう」と、日銀や日本市場の動きを注視しているだろう。「どこで儲けようか?」と虎視眈々と狙っているマーケットは一層のことだ。

ちなみに2014年6月23日の日経新聞に金融史が専門のファーガソン・米ハーバード大教授が「1950年~80年は中銀の肥大化がインフレと深くかかわってきた」と講演で発言したとの記事が載っている。

ファーガソン教授の指摘によると「1900年以降、主な中銀の資産規模はGDPのほぼ10%~20%」だったそうだが、講演当時の2014年時点でさえ、FRBをはじめECBやBOEの資産規模はGDP比で約25%弱と、歴史的に高い水準にあるそうなのだ。教授が「現在の日銀は110%」と聞いたとき、どんなコメントをされるか聞いてみたいと思う。

■なぜ中央銀行のバランスシートがメタボだとまずいのか?

私は日銀のバランスシートを「メタボ体質」繰り返し指摘してきたが、なぜそれが悪いことかを述べておく。景気が回復した時、中央銀行はジャブジャブにばらまいた資金を回収せねばならない。異次元緩和と逆のオペレーションを行うわけだが、市場で売り払うと長期金利が急騰するのでそれは出来ない。

保有国債の満期を待ってその資金を国から回収するしかないわけだが、その資金は政府が税金で集めたお金だ。税収はGDPとほぼ比例する。GDPが2倍に増えれば税収も2倍になるということだ。つまり「中央銀行のバランスシートの対GDP比」とは、「中央銀行が市中にばらまいた資金をどの程度簡単に回収できるか?」の指標である。

しかも日銀の場合は、そもそも政府の財政赤字がひどくて政府が税金で日銀に満期国債元本金を償還してくれるとは到底思えないのだ。

すなわち、対GDP比で中央銀行のバランスシート規模が大きいと、その中央銀行は、金融調節機能を失ったと考えられ信用を失う。その結果その発行する通貨は信頼を失うということ。又、実際に中央銀行が金融調節機能を失えば、その通貨は暴落し、ハイパーインフレ一直線となる可能性が大なのだ。

■日銀は発行国債の50%をも購入してしまった

日銀が世界最大のメタボになった理由は長期国債を爆買いしたせいだが、その結果、2020年3月末現在で、国債発行額は987.5兆円。日銀の国債保有額は485.9兆円だから日銀は発行国債の49.2%をも購入したことになった。

麻生太郎大臣や黒田晴彦日銀総裁は、国会で、私が「日銀の国債爆買いは財政ファイナンスではないか?」と聞くたびに「デフレ対策のために行っているから財政ファイナンス」ではないとお答えになった。もし「そうだ」と認めれば、市場がその瞬間、「日本売り(=株、国債、円のトリプル安)」を起こすだろうから、そう答えざるを得なかったのだと思う。

しかし、中央銀行が、国債発行額の半分近くを保有しているなど「財政ファイナンス」と言わずになんというのでだろうか?

いまのところ、「日銀の保有国債は発行額の49.2%」という事実は、海外はもちろん、国内でもほとんど注目されていない。しかし、4月末時点でさらに増え、日銀の国債保有額は492.7兆円となった。

国債発行額985兆円以上で50%を越える。4月の国債発行額の数字が出ると、世界に衝撃が走る可能性もある。「中央銀行が保有国債の半分以上を保有! 日本の財政は実質破綻している」と。

■「財政ファイナンス相場」株高に目を奪われてはいけない

世界中の長期金利が財政ファイナンス相場で上昇するとしたら、日銀がゼロ近辺に長期金利を抑えきれるとは到底思えない。そもそも「長期金利は中央銀行がコントロール出来ない」が昔の金融界の常識。日銀のホームページにもそう書いてあった。

世界中の投資家が日本国債先物を使って売ってくる。最近、裁定取引で唯一、日銀以外に国債の買い増しをしていた外国人も、競って売りを出すだろう。日本人投資家も倒産は避けたいから他人より先に売ろうとする。市場はパニックになり日銀は大きく債務超過だ。

そうなると円の暴落、円の紙くず化のリスクが顕在化してくる。もしくは、円下落→長期金利上昇→さらなる円の暴落、という筋書きの可能性もある。たとえ、そのときに衝撃が走らなくても、日本の財政ファイナンスは今後、世界の注目トピックになっていくと思われる。

皆さんに是非、お伝えしておきたい。「シートベルトをお締めください」と。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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